オランダ vs. ウルグアイ(チーム・シールド)
今日プレイしている96人すべての中で、経歴にチーム・シールドのプロツアー優勝があるのはただ一人――イェルガー・ヴィガーズマ/Jelger Wiegersmaだけだ。このゲームにおいて、長年にわたって安定した結果を残してきた古参であり、対面したくないプレイヤーのひとりである。この殿堂顕彰者に、初めてのプロ・レベルのイベントで対峙するのはもっとゾッとする話だ。しかし実際には、ウルグアイ・チームはみなスーツと青いネクタイでビシッと決め、明るく振舞っていた。彼らはこの場でこれ以上なく興奮していたし、ほとんどのマジック・プレイヤーが対戦を避けたいであろうひとりのプレイヤーと対面できていることをこれ以上なく喜んでいた。それはゴリアテに対峙するダビデのようで…もしダビデがゴリアテと戦う前にサインを求めていたら、だが。これは見ものだ。
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国旗が掲げられ、ウルグアイとオランダが2日目で対戦する。 |
ゲーム1
ヴィガーズマとリゲッティ/Righettiはテーブル中央での戦いを、《平地》と《島》の鏡打ちで始めた。ヴィガーズマはまず《時間人形》を先に戦線に送り込んだが、リゲッティは《風のドレイク》で優勢を築く。
ヴィガーズマは空中戦に関してはリゲッティに白旗を上げることにして、《時間人形》と成長させ《原初の土》を3/3にして地上を支配することを選んだ。リゲッティはヴィガーズマの地上戦力を飛び越えて1ターン2点の攻撃を開始し、《従者つきの騎士》で身を守る。ヴィガーズマはそれと《原初の土》を交換することにして、攻撃に送って暗に交換を示した。リゲッティはそのようにしたが、ヴィガーズマは戦闘後に《ロウクスの信仰癒し人》を加え、ライフレースで潜在的な優位を得た。
大きな戦力が残されたが、リゲッティは5枚の土地をタップすると《セラの天使》を戦場に送り、空の支配権をより強固なものにした。《セラの天使》は盤面に現れると戦闘を支配できる一つの手段であり、真に実利のある攻撃をヴィガーズマにさせないようにした。ともかくも、ヴィガーズマは今まさに4/4に成長させた《時間人形》を攻撃に向かわせたが、リゲッティは単にブロックしないことを選び、空から殴り返してレースで先んじ勝利に近づいている現状に満足しているようだった。
《セラの天使》が状況を変えてしまったのと同じくらい速やかに、ヴィガーズマから放たれた《睡眠》が戦局を一変させた。彼はそれまでに《巻物泥棒》《天空のアジサシ》といった小型クリーチャーを戦線に加えていたが、リゲッティの戦力がタップして今や自由になった場で総攻撃した。リゲッティは《神聖なる評決》を使って、最大のアタッカーである4/4の《時間人形》を破壊し、《巻物泥棒》は《送還》したが、残るクリーチャーからのダメージでライフは8に落ちた。
だが、リゲッティはまだあきらめてはいなかった。彼は(クリーチャーは起こせないが)土地をアンタップするとカードを引き、すぐに《警備隊長》を送り出した。オランダのコーチがテーブルに身を乗り出してそのカードを見ると、リゲッティは笑って、「こいつは6マナさ、そして良いカードだよ!」と言った。この時点で都合のいいことに、リゲッティの戦線の穴を速やかに埋め、《睡眠》状態を生き残るための守りを与えてくれるものだ。
地上の経路が塞がれるにあたり、ヴィガーズマはゲームを決める手段を回避能力に求めることにした。彼は《ロウクスの信仰癒し人》に《商売の秘訣》を教えると、それと《天空のアジサシ》で攻撃してリゲッティをライフ3に追い詰めつつ、6点のライフを得た。これでもう1回攻撃が通ればこのゲームの勝利だ。その30秒後、双方のプレイヤーは自らのサイドボードに手を伸ばした。
ヴィガーズマ 1-0 リゲッティ
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ヴィガーズマとリゲッティは、テーブルの中央でチーム・キャプテン同士の戦いに臨む |
この戦いが行われている間に、ヴィガーズマのオランダ・チームの仲間の両方が最初のゲームをなんとかものにしていた。A席ではバート・ファン・エッテン/Bart van Etten が、マルティン・カスティーヨ/Martin Castillo の擁する、《スラーグ牙》を含む緑の大群を《真紅の汚水這い》の壁で耐え抜いていた。この守りにより、彼は戦線の摩耗を遅らせ、信じがたいほど除去呪文の詰まったライブラリからカードを引く猶予を得て勝ちに向かえた。反対側では、フローリス・デ・ハーン/Floris De Haan が《捕食者の暴力》によって速やかにフェデリコ・ビガリ/Federico Bigalli の青黒コントロールデッキを圧倒して1ゲームを先取していた。
チームの全員がプレイしている間、ウルグアイ・チームのひとりが、ヴィガーズマとプレイしているリゲッティをちょっとからかって、つつき始めた。
「ああ、彼は大丈夫、だと思うよ」 リゲッティはその「つつき」にきまり悪そうに返事した。
「負けたっていいさ」 ビガリはうなずいた。「俺たちはすでに勝っている!」
「ああ、なんせキラキラのメダルを持って帰らせてくれるんだからね」 リゲッティは顔を輝かせた。
オランダ・チームはこの愉快なやりとりを見て、気持よく笑っていた。彼らはウルグアイ・チームのこうしたチーム精神による昨日の勝利を祝福すると、ゲームへと気持ちを切り替えた。
ゲーム2
第2ゲームは、奇妙な鏡打ちで始まった。ヴィガーズマの《軍用隼》がリゲッティの《風のドレイク》をマッチアップし、それぞれのプレイヤーが《栄光の騎士》で攻撃をサポートした。ヴィガーズマは《アクラサの守護者》でわずかな優位を得たが、それほど差がついたわけではない。
しかし、その後の数ターンで、大きな隔たりが起きた。ヴィガーズマは土地3枚で詰まってしまったのだ。それでも残りのクリーチャーをプレイすることはできていた。リゲッティにはそのような問題はなく、《セラの天使》のマナまでストレートにたどり着くことができた。ヴィガーズマはマナの不利がありながらも、賛美クリーチャーの積み重ねにより完全には息切れせずに戦っていた。《軍用隼》と《セラの天使》との交換を強いることはなんとかできたのだが、リゲッティは無人の空に対して《風のドレイク》で削り続けることに満足しているようだった。続く数ターンも空はクリアなままで、リゲッティの《風のドレイク》が1度に3点ずつ削り、ゲームを決めるには十分だった。
ヴィガーズマ 1-1 リゲッティ
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ヴィガーズマが、カスティーヨと対するファン・エッテンを見やる。 |
そうこうしているうちに、ファン・エッテンが第1ゲームのパフォーマンスの繰り返しを演じていた。彼の《真紅の汚水這い》と《巨大蠍》による防壁はカスティーヨの赤緑のモンスターたちへの十分な守りであることを示し、このラウンドの最初のマッチをオランダにもたらした。反対側では、ビガリが《呪文ねじり》で《殺害》と《居すくみ》をコピーしてデ・ハーンの戦線を一掃し、マッチの早期決着をなんとか逃れていた。リゲッティはゲームを取り返したものの、眼前にはいまだ乗り越えるべき困難がある、背水の陣にいるのだ。
ゲーム3
最終ゲーム、リゲッティは《エイヴンの従者》から《従者つきの騎士》という好スタートを切った。一方のヴィガーズマは、2体の《巻物泥棒》から、《時間人形》とこちらも《従者つきの騎士》を続けた。リゲッティの2体の地上クリーチャーに対し、ヴィガーズマは2体の《巻物泥棒》両方で攻撃し、片方が兵士・トークンと交換になり、もう片方の攻撃が通ってカードを1枚引けるという結果に満足した。リゲッティが《群れの癒し手》を戦線に加えると、ゲームはスローダウンしていった。この時点で有効なアタッカーはリゲッティの《エイヴンの従者》のみで、彼はヴィガーズマのライフを削り始めた。
ヴィガーズマは《時間人形》の針を刻み続けていたが、この時点でゲームの焦点は空中戦になっていた。リゲッティは《天空のアジサシ》を追加し、これにはヴィガーズマも同じもので対応したが、リゲッティは今ひとたびの切り札として《フェアリーの侵略者》を出した。3体の飛行クリーチャーに対してヴィガーズマは1体、リゲッティは航空戦力すべてを攻撃に送り、《エイヴンの従者》が《天空のアジサシ》と相打ちになった。
ヴィガーズマは土地を引き続けており、4枚を手札に抱え、自身のライフがこぼれ落ちていくのを見ていた。次の2ターンが過ぎていく間に、リゲッティは攻撃して5点、10点とライフを削っていく。殿堂顕彰者、イェルガー・ヴィガーズマに1ゲームを先取されたところから取り返す逆転劇を演じ、チームに勝ち残りのチャンスを与えるまであとたった1ターンだ! そして勝利を決めると、リゲッティは非常に興奮していたため、チームを助けるのも忘れて、席を立つとしばらくプレイエリアを離れてしまった。
「ああ。見てられないよ。ごめんよ。ちょっと興奮しちゃってさ!」
リゲッティ 2-1 ヴィガーズマ
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チーム・ウルグアイは、デ・ハーンに対するビガリに注目を集める。 |
マッチの行方がこのゲームに懸かっているとあって、ビガリとデ・ハーンの両者は緩みのないプレイを求められた。この対戦では、デ・ハーンがまず1ゲームをリードしていた。このゲームでは、ビガリは《ザスリッドの指輪》をつけた《リリアナの影》と《フェアリーの侵略者》で、デ・ハーンの《東屋のエルフ》と3/4《命取りの出家蜘蛛》に対して有利な場を築いているように見えた。デ・ハーンは《捕食》で《フェアリーの侵略者》を除去するが、《ザスリッドの指輪》が接死効果で《リリアナの影》を除去するのを阻んでいた。ビガリが残るブロッカーを押しのけるのに2ターン、デ・ハーンは最終ゲームに十分な時間を残すため、すぐさま投了した。
ビガリは第1ターンの《時間人形》から入ったが、これはすぐにデ・ハーンに《帰化》された。デ・ハーンは《東屋のエルフ》と《カロニアの指輪》を並べたが、《東屋のエルフ》がカウンターを得ることはなかった。ビガリが《居すくみ》で除去したからだ・デ・ハーンは《とげのベイロス》へと戦力をアップグレードし、4点で攻撃した後《カロニアの指輪》を装備した。ターン終了時にビガリは《とげのベイロス》を除去するために《殺害》を使った。ビガリはそのまま何もせずにターンを返し、それはヴィガーズマには何かがあると感じさせるものだったが、実際にデ・ハーンが《ガラクの群れ率い》を出しそれに《本質の散乱》を合わせるまでは、打ち消し呪文を匂わせているということを完全には明かしはしなかった。さらにデ・ハーンは2枚目の《ガラクの群れ率い》を持っていたが、ビガリは《呪文ねじり》で《殺害》と《帰化》をキャストして、《ガラクの群れ率い》と《カロニアの指輪》の双方を除去した。
この交換の後、ビガリは戦線を構築していった。まず《血狩りコウモリ》、《リリアナの影》、そして《濃霧の層》が彼の軍勢に加わった。特に《濃霧の層》はデ・ハーンにとって悩みの種となり、彼の《巨森を喰らうもの》をずっと窓際に追いやってしまうのだった。この壁を焼き払う《灼熱の槍》をデ・ハーンが見つけたときには、ビガリは《巨大蠍》でおかわり。デ・ハーンはさらなる除去呪文を見つけたが、その《金屑化》をどのクリーチャーに撃つべきかをヴィガーズマと1分ほど話し合った結果、最終的に出てきたばかりの2/2飛行である《原初の土》に矛先を向けることとなった。
この勝負の弔鐘が鳴らされたのは次のターンのことだった。《公開処刑》により最大の戦力を失ったデ・ハーンの戦線はすでに枯渇しており、1体の《東屋のエルフ》を残すのみだった。ライフは9対13で不利、さらにビガリは《リリアナの影》と大量の《沼》を含めた大量のアドバンテージを得ていた。《巨大蠍》を回避する方法として、デ・ハーンは《刃牙の猪》を見つけたが、これが仕事をするには文字通り、十分な時間がないようだった。ビガリにターンを渡したところで制限時間終了が告げられたのだ。ビガリの最初の延長ターンに、デ・ハーンの《東屋のエルフ》がチャンプブロックを強いられた。そしてデ・ハーンの最後のブロッカーを除去する《本質の吸収》が放たれると、彼のチームはお祭り騒ぎになった。ひとり残ったビガリが十分な土地をタップし、彼の《リリアナの影》を致死量までパンプアップすると、このグループのみならず参加チーム全体でみても最も倒しにくい難敵、それに対するウルグアイの勝利を確かなものとしたのだった。
ウルグアイ 2-1 オランダ
(Tr.Yusuke Yoshikawa)