ラウンド 3: 浅原 晃 vs. 安藤 玲二

Posted in Event Coverage on September 2, 2005

By Daisuke Kawasaki

伝説のPanzer Hunterメンバー、安藤 玲二

メタゲームというのは生き物だ。

セットの入れ替えに影響を受けるのはもちろんの事、直前の大会の結果や、支配的なデックの有無、支配的なデックに対して有効なデック、さらにそれに有効なデック…そう考えていくと、考慮するべき要素は無限にある。構築の大会の前にデュエリスト達がもっとも頭を悩ませるのはそこではないか。

この日本選手権前に行われた、カナダ選手権の結果は記憶に新しいのではないか。第九版でウルザ地形が残った事により、その後も支配的な地位を確立し続けると思われていた青単コントロールが、それまでローグデックでしかなかったネズミデックに駆逐されたのだ。トップ8のうち、6名がネズミデックを使用、青単はトロンを使用した別タイプが2名でしかなかった。

第九版で《惑乱の死霊/Hypnotic Specter》という強力な援軍を迎えた、というのも大きいかもしれないが、なにより大きいのは、《霊気の薬瓶/AEther Vial》によるカウンターされない手札破壊と、同じく《霊気の薬瓶/AEther Vial》によって色事故を緩和されて登場する《ヴィリジアンのシャーマン/Viridian Shaman》である。カウンターを構えながら、《ヴィダルケンの枷/Vedalken Shackles》をはじめとする強力アーティファクトで場を支配する青単コントロールというデックにとって、これらの要素がその支配を崩すのには十分すぎたのである。これをメタゲームと呼ばずして何と呼ぼう。

そして、これだけ強烈な結果を残した以上は、ネズミ-Viridian Ratsというデックもまた対策される側に回ってしまうのである。

今回フィーチャーマッチに選ばれた二名が使用するデックは、二人とも奇しくも話題のネズミデック。まぁ、前述の理由で、会場は何処をみてもネズミがチューチュー鳴いている状況なので、対して珍しい状況でもないが。といっても、二人のデックの構成は大分違っている。

黒いデックを使い続け、黒いデックで結果を残してきた安藤が、息を吹き返した黒デックであるViridian Ratsに飛びついたのは至極当然な流れであるように思われる。

メタゲームとして、オーソドックスなViridian Ratsは目立ちすぎている為、そのまま使用するとすれば、目の敵にされ手も足も出せなくなってしまう可能性がある。たとえばポンザに投入された《ヴァルショクの魔術師/Vulshok Sorcerer》等はカナダ選手権の結果を見て投入されたカードだ。そんな針のむしろにもなりうる状況であえてネズミを使用した意図を安藤はこう語る。

「キャラ的に黒しか使えないですからね。あと、ヒッピーで殴りたいでしょ、黒使いなら。ネズミも好きだしね。」

メタゲームなんてくだらない事は必要ない。必要なのは愛だ。黒に対する愛だ。その愛の深さを安藤はこの対戦で証明してくれるだろう。

一方の浅原は、毎度の恒例行事とばかりに会場に入ってからデックを構築していた。最終的にデッキができ上がったのはなんとデック登録用紙提出前5分だというのだから驚かされる。

「48時間不眠不休でデックの事を考えていたら、神通理気でソリューションをメタ的に知る事ができましたよ。この環境のソリューションはMさんです。」

G.O.D.(God Of the Deck)と名づけられたデックについて浅原はこう語る。Mさんとは松尾芭蕉の事ではなく、投入された二枚の青のカード…《粗石の魔道士/Trinket Mage》と《曇り鏡のメロク/Meloku the Clouded Mirror》の事だろう。

そう、浅原のデックは黒緑だけに飽き足らず、青まで散らした3色のViridian Ratsなのである。

「中島さんの家でチャンピオンデックで遊び倒していた時の事を思い出して、5CB(5色黒単・多色地形を多用して黒ウィニーに各色のユーティリティを散らしたデック)をヒントにしました。《ネクラタル/Nekrataal》は重いから抜いちゃいましたけど。今思えばあそこにチャンピオンデックがあったのも神の啓示だったのかも…」

 本気か茶番か判らないが、過去の実績から、浅原の朝のひらめきとそれまでの行動がかみ合った時は大きな成果を上げてきている。そのジンクスから行けば今回も神の啓示に大人しく従ったともいえる。もっとも、だれがどうみても5CBに見えない、とは本人には言えなかったが…今の浅原ならば、それは神への冒涜だと怒り出しかねない。

メタゲームが煮詰まった大会において、このテーブルの上で黒への愛とデックの神の代理戦争がはじまろうとしている。

Game 1

序盤はお互い土地を並べては《霊気の薬瓶/AEther Vial》を置いていく展開。

《霊気の薬瓶/AEther Vial》を出せるか否かで展開力が大きく変わってくるデックなだけに、両者とも順調な滑り出しといえよう。浅原が《鼠の短牙/Nezumi Shortfang》をキャストする間に安藤は二枚目の《霊気の薬瓶/AEther Vial》をおきつつ《惑乱の死霊/Hypnotic Specter》をキャスト。

返しのターンに二枚目の《ちらつき蛾の生息地/Blinkmoth Nexus》を置くだけでエンドした浅原は、安藤の《惑乱の死霊/Hypnotic Specter》の攻撃を《ちらつき蛾の生息地/Blinkmoth Nexus》でブロックする目算なのだろう。

だが、浅原の《ちらつき蛾の生息地/Blinkmoth Nexus》がクリーチャー化したところに、《肉体の奪取/Rend Flesh》が突き刺さる。そして、ダメージを与えた《惑乱の死霊/Hypnotic Specter》によるランダムディスカード。除去と手札破壊のコラボレーション、黒使いに生まれてよかったと心から思う瞬間だ。心なしか安藤の顔もほころんでいるように見える。

 だが、その捨てられたカードを見た瞬間に、今度はその顔が驚愕に歪む。

「メ、メロクゥ?」

確かに、浅原の場には青マナが出る土地は無い。同系対決だとばっかり思い込んでいた安藤にとって、《曇り鏡のメロク/Meloku the Clouded Mirror》の登場は青天の霹靂だっただろう。今度は何故か浅原の顔がほころぶ。

次のターン、《霊気の薬瓶/AEther Vial》のカウンターを3つにした浅原は青マナが出ないまま《粗石の魔道士/Trinket Mage》を場に出して、《レオニンのボーラ/Leonin Bola》を持ってきて即キャスト。ボーラは《鼠の短牙/Nezumi Shortfang》に装備され、とりあえず目の前の脅威である《惑乱の死霊/Hypnotic Specter》は対処された。むしろ、《粗石の魔道士/Trinket Mage》のダメージクロック分浅原有利、といったところか。

だが、安藤の黒への愛は次なる《惑乱の死霊/Hypnotic Specter》を呼び出した。今度は優位の天秤が安藤へと傾く。お互いに使用しているクリーチャーもコンセプトもほとんど同じ。相手の優位にこちらがギャーと悲鳴をあげれば、今度はこちらの対処策に相手が悲鳴をあげる、まさに移りゆくスクリーム、アドバンテージを奪い合うスパイラルだ。

安藤の《惑乱の死霊/Hypnotic Specter》が殴れるタイミングには、浅原にも《鼠の短牙/Nezumi Shortfang》を起動する余裕がある。浅原の《鼠の短牙/Nezumi Shortfang》が除去されれば、負けずと浅原は《霊気の薬瓶/AEther Vial(DST)》からの《粗石の魔道士/Trinket Mage》で《憎まれ者の傷弄り/Stabwhisker the Odious》を奇襲ブロックと一進一退の攻防が続く。

その天秤が急速に傾いた。

除去・手札破壊に続く黒の能力といったらなんだろうか?そう、リアニメイトである。

手札がない浅原がスルーした《惑乱の死霊/Hypnotic Specter》が忍術で《鬼の下僕、墨目/Ink-Eyes, Servant of Oni》へと変化し、浅原の墓地から《曇り鏡のメロク/Meloku the Clouded Mirror》を吊り上げたのだ。

Mさん(メロク)だけでなくSさん(墨目)まで登場したら、浅原も投了するしかない。

浅原 晃 vs. 安藤 玲二

安藤 1-0 浅原

Game 2

この時点で試合時間は30分たっている。隣の席でフィーチャリングされていた森田 雅彦(大阪)と射場本 正巳(東京)の対戦などとっくに終了していたのだ。

だが、お互い守るべきものの為に戦っている二人は勝負に妥協をしない。残り時間が少なかろうと、勝てないと判断した手札はしっかりとマリガンする。両者マリガンの後に満足できる手札を手に入れたようだ。

1ターン目、《師範の占い独楽/Sensei's Divining Top》を設置する浅原に対して、セオリー通り《霊気の薬瓶/AEther Vial》をキャストする安藤。神的には一歩リード、なのだろうか。

そんな浅原の謎のアドバンテージがきいたのか、盤面は常に浅原優位に進んでいく。

途中、2枚で止まりそうな土地を引くためにドロー前にコマを起動するという危うい場面もあったが、無事マナを伸ばし始めた浅原は、安藤が展開していく《霊気の薬瓶/AEther Vial》や《光と影の剣/Sword of Light and Shadow》を、《粗石の魔道士/Trinket Mage》からの《真髄の針/Pithing Needle》や《ヴィリジアンのシャーマン/Viridian Shaman》で丁寧に対処していく。

そして、対処した後に浅原の場には常に2/2のクリーチャーが残っているのだ。

浅原も《光と影の剣/Sword of Light and Shadow》を設置した以上、多くのクリーチャーを展開している方が勝利を手に入れるのは当然の流れだろう。もはや展開が見えてしまった安藤は残り時間を大切にする為に投了した。

各色の187クリーチャーによってアドバンテージをとりつつも、場の優位を維持していく。この事こそが浅原が5CBから得た神の啓示だったのだろうか。

安藤 1-1 浅原

Game 3

神の力を借りた浅原の前に、一度は屈した安藤だったが、安藤の黒への愛はへこたれない。そして、デックというものは愛を持って接すれば応えてくれるものなのだ。

1-1で迎えた3戦目、序盤はお互い《霊気の薬瓶/AEther Vial》スタート。そして、3ターン後にはお互いが《ヴィリジアンのシャーマン/Viridian Shaman》でお互いの《霊気の薬瓶/AEther Vial》を割るという全くおんなじ展開。

違うのは、安藤の場には《騒がしいネズミ/Chittering Rats》と《鼠の短牙/Nezumi Shortfang》がいる事だろうか。場は圧倒的に安藤優位である。

《鼠の短牙/Nezumi Shortfang》を起動されて、この優位を手札にまで広められてはたまらないと《肉体の奪取/Rend Flesh》を撃つ浅原だが、おされ気味のムードは止まらない。クリーチャー同士の殴り合いだが、僅かに安藤が優位。

浅原 晃

その状況を打破するべく、《粗石の魔道士/Trinket Mage》からクリーチャーの泥仕合にめっぽう強い《レオニンのボーラ/Leonin Bola》を持ってくる浅原だったが、安藤の攻めは止まらない。何せ引いてくるカードが端から端まで有効牌なのだ。《レオニンのボーラ/Leonin Bola》をキャストする暇など与えられずに渋々ディスカードする浅原。

そして、浅原が「重い・弱い」と切り捨てた《ネクラタル/Nekrataal》が決定的な場のアドバンテージを稼ぎだし、《鼠の短牙/Nezumi Shortfang》が反転して《憎まれ者の傷弄り/Stabwhisker the Odious》となって、その能力によるダメージでゲームが終了することを悟った浅原は静かにテーブルの上を片付けた。

黒という色を愛した男は、黒という色に愛されて勝利を手に入れた。

安藤 2-1 浅原

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