準々決勝: 浅原 晃(神奈川) vs. Marcio Carvalho(ポルトガル)

Posted in Event Coverage on December 3, 2005

By Daisuke Kawasaki

英雄マーク・ジャスティス

「マジックはビジネスだから」

浅原は、微笑とも失笑とも苦笑ともつかない表情をしてこう答えた。

世界選手権最終日。

決勝ラウンドが行なわれるテレビマッチエリアに、何故かスーツ姿で現れた浅原。対戦相手のカルバルホも興味深げに浅原のスーツ姿を眺めている。

冒頭の浅原のセリフ、これはかつての世界選手権にスーツ姿で会場に現れたアメリカの英雄Mark Justiceのセリフの引用である。

一流のプレイヤーであり、一流のデックビルダーである浅原は、また、一流のマジックファンでもある。

例えば、ゴブリンデックをチョイスした時には「David Priceの後をついでKing of Beatdown目指してますから」と理由を説明するなど、海外プレイヤーのエピソードを引用する事が多い。

そんな浅原が常々公言していた言葉がある。

「世界選手権の決勝ラウンドに出られた場合は、Mark Justiceを見習ってスーツで登場しますよ。」

当然、浅原も本気ではない。俗に言う「茶番」として、いわば浅原の持ちネタだ。

トップ8進出が決定した時に、津村健志に「浅原さん当然タキシードですよね?」と言われ「持ってきてるわけないよ」と答えている。それぐらいに浅原にとって世界選手権トップ8は夢のまた夢、雲の上の世界の出来事だったのだ。

そう、それは、浅原にとってファンとして楽しむ対象でしかなかったのだから。

そして、浅原はスーツを新調して決勝ラウンドの席に現れた。

誰よりもマジックの「歴史と伝統」を愛した男が、新しい「歴史と伝統」となるべく「歴伝」デックで世界に挑む。

Game 1

ダイスロールで先攻はCarvalho。

対戦相手のデックはトップ8で最も相性が悪いとまで言われている青黒の《呪師の弟子/Jushi Apprentice》コントロール。重くて強いソーサリーである《不朽の理想/Enduring Ideal》を軸とした浅原のデックにとっては天敵といってもよい相手だ。勝負は浅原のデックにたったの1枚投入された《すべてを護るもの、母聖樹/Boseiju, Who Shelters All》をひけるか否かにかかっている。

そして浅原は7枚のカードをライブラリーのトップから手札に入れる。

順々にカードをめくっていく浅原。

そこには《すべてを護るもの、母聖樹/Boseiju, Who Shelters All》が。
他にも十分な土地のある初手を浅原は文句なくキープ。Carvalhoも初手をキープしてデュエルがスタートする。

序盤はお互いマナベースを構築していく。

《不朽の理想/Enduring Ideal》は7マナと非常に重い。そのスペルをできるだけ早くキャストする為に浅原のデックにはマナ加速として2種類のマナアーティファクトを投入している。

だが、十分な土地をひいてはいるものの、マナアーティファクトは《友なる石/Fellwar Stone》を1枚しかひけず思うように加速が出来ない。

そして浅原が《すべてを護るもの、母聖樹/Boseiju, Who Shelters All》を置いた次のターン。《すべてを護るもの、母聖樹/Boseiju, Who Shelters All》がでた事でキーカードをカウンターできなくなった事を悟ったCalvalhoは、対抗手段をひいて手札を充実させる為にフルタップで《巻物の君、あざみ/Azami, Lady of Scrolls》。そこには速攻で浅原は《信仰の足枷/Faith's Fetters》。

浅原も《時間の把握/Telling Time》で手札の充実を図る。一方でCarvalhoの《呪師の弟子/Jushi Apprentice》には《神の怒り/Wrath of God》を撃ち、手札を充実させることを許さない。

そして、《すべてを護るもの、母聖樹/Boseiju, Who Shelters All》とならんで、このマッチの勝利を予言していたかのように初手に並んでいた《不朽の理想/Enduring Ideal》を満を持してキャスト。持ってくるエンチャントメントは《ズアーの運命支配/Zur's Weirding》。

一度はコピーを《邪魔/Hinder》で打ち消したCarvalhoだったが、再度キャストした《巻物の君、あざみ/Azami, Lady of Scrolls》へと浅原がサーチしてきた《信仰の足枷/Faith's Fetters》がエンチャントされると、この先自分へのドローの可能性がなくなったことを理解し投了を宣言した。

浅原 1-0 Carvalho

2000年度世界選手権で個人・団体「二冠」を果たしたフィンケルの晴れ姿

Game 2

2人のプレイヤーがサイドボードをしていると、カメラマンのCraig Gibsonが英語版カバレッジライターに浅原を指差しながらそっと耳打ちする。

Craig "Jon"

彼は、多くのプレミアイベントにおいてカメラマンを務めている。そんな彼がとった数多くの写真の中でも、本人お気に入り写真のうちの1つが2000年世界選手権でJon Finkel(アメリカ)が優勝した時の写真である。

この時Finkelはテレビマッチである事を念頭に

「テレビに映るならきちんとした格好をしなきゃまずいだろ?」

とばかりにブルーを基調としたクールなスーツ姿で登場し、会場のファンたちを喜ばせた。

これもまた、浅原の大好きなエピソードの1つである。

そして、今日浅原が着てきたスーツは、その時のFinkelのコーディネートをオマージュしたものとなっており、Craigはその事を言っているのである。

「歴史と伝統」の記録者の1人であるCraigが、浅原に向かってシャッターをきる。

続いて先攻はCarvalho。手札を見てキープを宣言。

浅原のサイドボードにはカウンター対策として《防御の光網/Defense Grid》が用意されているものの、やはり勝利の鍵を握るのは《すべてを護るもの、母聖樹/Boseiju, Who Shelters All》である。

しかし、浅原のサイドボードには《すべてを護るもの、母聖樹/Boseiju, Who Shelters All》は用意されておらず、サイドボード後でも、浅原のデックには《すべてを護るもの、母聖樹/Boseiju, Who Shelters All》は1枚しかない。もちろんそうやすやすとひけるわけがないし、初手でそれを持ってくるなんて運命にでも選ばれていなければ不可能とすら思える。

だが、浅原は運命に選ばれた。

Game1に続き、浅原の初手には《すべてを護るもの、母聖樹/Boseiju, Who Shelters All》が。

1ターン目《島/Island》セットからの《手練/Sleight of Hand》、2ターン目に《友なる石/Fellwar Stone》キャストからの《手練/Sleight of Hand》と浅原は順調にマナと手札を整理していく。

そして《防御の光網/Defense Grid》。これには当然《マナ漏出/Mana Leak》が飛んでくるが、手札・マナ・気力ともに充実している浅原はしっかりと《マナ漏出/Mana Leak》を返し、これをキャストする事に成功する。

こうしてカウンターに対する備えを用意した浅原は駄目押しに《すべてを護るもの、母聖樹/Boseiju, Who Shelters All》をセット。あとはマナをそろえて《不朽の理想/Enduring Ideal》をひくだけである。

Boseiju, Who Shelters All

一方のCarvalhoは土地を引き続けることができず、セットランドができない。仕方なく《呪師の弟子/Jushi Apprentice》をキャスト。

そんなCarvalhoに追い討ちをかけるように《沼/Swamp》に対して《押収/Confiscate》をとなえ、同時に十分なマナをそろえた浅原の次のターンにライブラリーのトップから出現したカードは。

当然《不朽の理想/Enduring Ideal》。

浅原 2-0 Carvalho

Game 3

いつも飄々とした姿で、のらりくらりと本気かネタかすらもわからないコメントを残してばかりいる浅原ではあるが、さすがにこの大舞台で、しかも圧倒的不利とまでいわれたマッチアップでの2連勝で勝ちを意識したのか、手が震えてシャッフルができない。

だが、勝ちを意識した瞬間に負けが決まる。

これはPT名古屋で、チームメイトである小室 修が決勝戦で2連勝した時に浅原自身が小室に向けてコメントした言葉である。

この言葉を思い出してか否か、浅原は気を取り直し、ゆっくりと気持ちを落ち着けるようにシャッフルを繰り返す。

1度ならず2度までも運命に選ばれた浅原だったが、さすがに「偶然」は何度も続かないのか今度の初手には《すべてを護るもの、母聖樹/Boseiju, Who Shelters All》はない。いや、むしろないのが当然なのである。確率が神の法則だとすればそれは残酷なほど素直で実直である。

2ターン目には《防御の光網/Defense Grid》をキャストし、《友なる石/Fellwar Stone》を連続キャストと一応は順当な滑り出しを見せた浅原だったが、Carvalhoの《呪師の弟子/Jushi Apprentice》へと打ち込んだ《押収/Confiscate》がまさかの《撹乱する群れ/Disrupting Shoal》(《潮の星、京河/Keiga, the Tide Star》をピッチコスト)によってカウンターされてしまう。

そして、2体目の《呪師の弟子/Jushi Apprentice》、《巻物の君、あざみ/Azami, Lady of Scrolls》と畳み掛けるようにドローエンジンを構築していくCarvalho。《巻物の君、あざみ/Azami, Lady of Scrolls》を《押収/Confiscate》で奪い取った浅原ではあったが、《ブーメラン/Boomerang》で手札に戻される。

なんとか《すべてを護るもの、母聖樹/Boseiju, Who Shelters All》はひいて場に出した浅原だったが、アタックしてきた《呪師の弟子/Jushi Apprentice》が忍術で《鬼の下僕、墨目/Ink-Eyes, Servant of Oni》となり、ビートダウンが開始される。

《不朽の理想/Enduring Ideal》がどうしても遠い。

そんな浅原に対して駄目押しとばかりにCalvalhoがキャストするのは、日本選手権の浅原のG.o.D.の元ネタを知ってかしらずか《曇り鏡のメロク/Meloku the Clouded Mirror》。

SさんとMさんが並んでしまっては、やはり浅原は投了するしかない。

浅原 2-1 Carvalho

ジャスティスを敬愛し、フィンケルのスタイルに倣った浅原

Game 4

この試合、初めての先攻となる浅原。

運命の手札。そこに《すべてを護るもの、母聖樹/Boseiju, Who Shelters All》が来る確率はいったいどれくらいだろうか。1回なら、2回なら偶然としても、3回目があった時、それを偶然と笑う事を人はできるだろうか。

浅原の手札には《すべてを護るもの、母聖樹/Boseiju, Who Shelters All》。

確率が神の法則だとしたら、デックの神、G.o.D.はその法則すら操る。運命なんて陳腐な言葉では片付けられない。

浅原はマナベースを構築しつつ、勝利へのカウントダウンをスタートする。

そして、浅原がついに《すべてを護るもの、母聖樹/Boseiju, Who Shelters All》をセットしてカウントダウンの「1」をコールしたターン。Carvalhoは最後の抵抗を試みる。

渾身の《迫害/Persecute

浅原の手札には2枚の《不朽の理想/Enduring Ideal》の理想。

そしてその横には1枚の《マナ漏出/Mana Leak》。

その瞬間、テレビマッチの観客席から歓声が、日本人・外国人の声の入り混じった歓声が聞こえてくる。それは浅原勝利の前夜祭。

そして、次のターンに浅原は祭のスタートを宣言した。

浅原 3-1 Carvalho

先程引用したPT名古屋での小室の試合では、2連勝した小室はその後のデュエルを落としている。落としているがその後の4戦目で勝利しPTチャンピオンとなっている。

思い起こせば、日本人ではじめてPTチャンピオンとなった黒田 正城の決勝もまた、2連勝から1回負けをはさんだ3-1で決まっている。

日本人のプロイベントでの「歴史と伝統」である2連勝からの敗北。そしてそこからの勝利。

カルバルホ

「アメリカの英雄」という称号は、Mark JusticeからJon Finkelへと継承された。マジックの「歴史と伝統」のなかでアメリカは常に「スター」だった。たとえ、成績が振るわない時期があったとしても、それでも世界のマジックはアメリカを中心に回っていた。そんな「アメリカの英雄」は、まさに「マジックの英雄」としてマジックの「歴史と伝統」をその肩に担ってきた。

この世界選手権で津村がPlayer of the Yearの座をいとめ、日本代表チームがはじめてチーム戦でのプレーオフ出場を果たした。マジックの「スター」の座が、アメリカから日本へと継承される日が来たのかもしれない。

そして、Justice、Finkelからの「マジックの英雄」の座を継承するのは…スーツで見を固めたこの男なのかもしれない。

《すべてを護るもの、母聖樹/Boseiju, Who Shelters All》よ、今日は、今日だけは、デックの神だけを護ってくれ。

Marcio Carvalho

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Akira Asahara

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