Deck Tech: プラチナメソッド
〜横浜に向けた強者の思考〜

Posted in Event Coverage on June 22, 2012

By Wizards of the Coast

 グランプリ・広島2011から半年、久しぶりの日本で構築戦であるグランプリ・横浜2012。日本最大のグランプリとなった会場は、1500人を超えたプレイヤーたちの熱気に包まれている。  単純な倍率でいうと、優勝するには1/1500の幸運を引き寄せなければならないが、その確率を現実的な数値にまで引き上げてくれるのがデッキ構築とプレイングという技術だ。当日の幸運に見放されても勝てないが、それまでのデッキ構築とプレイングに関する準備がなくても勝機はないだろう。勝利するためにはトーナメントの中での努力や駆け引きも必要だが、その駆け引きや戦略を「事前に」用意しておくことも重要なのだ。

 そこで、注目のプレイヤーたちが、どのような工夫を凝らし、どのような思考を元に、今回のグランプリに挑んだのかを尋ねてみた。

■八十岡 翔太(東京)の場合

 まずは『構築といえばこの人』と注目を浴びる割には、未だに謎のヴェールに隠されたミステリアスな魅力をもつ八十岡。
 …にインタビューを試みたが、マネージャーだと自称する浅原 晃(東京)に「うちの八十岡のテクニックは機密なんでね、相応の条件やメリットを提示してもらわなければ無理無理」と断られてしまった。

 なんとか喰い下がって粘り強く交渉を続けてみたところ、ちょうど八十岡の携帯電話の充電が切れかけたことが幸いし、『携帯の充電をすること』を条件になんとかインタビューまで漕ぎ着けた。マネージャー浅原によって発言は制限されているものの、八十岡が何を考えて今回のグランプリに挑んだのかを、できる限り掘り下げて聞いていきたい。

八十岡 「特別に何をしたってわけじゃないね。今の環境には極端に強いデッキやカードがないから、好きなカードを使って構築しようかと思って《けちな贈り物》が入ったデッキを作った」

けちな贈り物

 そう言って八十岡がカバンから取り出したのは青黒トロンだった。いかにも彼らしさを感じるアーキタイプだが、好きなカードだという《けちな贈り物》を使うためだけに制作したのだろうか?

八十岡 「高速のコンボデッキがいなくなって、ジャンドやメリーラ、青白トラフトのような中速のデッキが増えたからさ、最初は正統派のコントロールを組もうと思ったんだよ。でも、モダンっていう環境はカードプールが広いから、対応しなければならないシチュエーションや速度の条件も相応に厳しくなってる。そこで正統派のコントロールを組むことは諦める羽目になった。要するに、何かしらのコンボを内蔵して受けきることを目的としない、コンボ系のコントロールじゃないと成立しないんだ」

 カードプールが広ければ、を全て対処することは難しい。そこで対処すべき状況やカードに優先順位をつけ、その優先順位が低い見逃すことをすればコントロールは構築できる。しかし、八十岡はその取捨選択を嫌い、よりよい手段を探しにいった。それがコンボを内蔵したコントロールというアイデアだ。

八十岡 「で、トロンランド(《ウルザの塔》など)を使おうと思ったわけ。3種類が揃うまでの猶予をくれる中速系のデッキにはトロンランドが入っているというだけで有利だから。え、コンボじゃない?いやいや立派なコンボだよ。トロンランド揃ったら勝ちでしょ」

83316

 現状のメタゲームを構成するアーキタイプの一つには、トロンランドを最大限に活用したものが存在する。無色トロンと呼ばれるそれは、最速でトロンランド3種を揃えることを主戦略にしており、3ターン目に《解放された者、カーン》をプレイできることも珍しくない。トロンランドを揃える=勝ちなのであれば、この無色トロンでもいいのではないだろうか?

八十岡 「いや、だからさ。コンボじゃなくて、コンボコントロールの話だからね。コントロールがトロンランドを揃えることが勝ちなの。無色トロンは悪くないデッキだとは思うけど、コンボデッキならではの《紅蓮地獄》以外はノーガードっていう点がかなり不安かな。相手に干渉する要素が限られすぎてるから。あくまでも、対戦相手を妨害できるデッキがトロンランドで速度を補えること、に意味があるわけ。あ、あと無色トロンだと《けちな贈り物》が入らないじゃん」

 妨害すること、すなわちコントロールを目指すことが根本にあるのだが、ただ妨害しているだけでは、いずれは受けきれなくなって潰れたり、そもそも対戦相手の攻撃手段が対処できる内容でない可能性がある。そこで、妨害し続けているうちにいつの間にか有利になれる手段、対処できない対戦相手と速度勝負をできる方法が必要となる。そこで注目したものがトロンランドだとのことだ。

 なるほどわかりやすい。

 だが、そうなると誰もが脳裏に浮かんでくるのが、コンボコントロールで《けちな贈り物》が入ったトロンである、青白トロンだろう。

八十岡 「え、青白トロン?いや、トロンとか青黒しかないし」

 ここまでロジカルに語っておいての、まさかのわがままプレイに絶句したが、その後の文言を聞くに、どうやら青白トロンがトロンランド3種が揃っても即座に勝ちに繋がらないことが気に入らないらしい。たしかに一般的な青白トロンの特徴として、トロンランドが揃うことによる貢献はドロー呪文が打ちやすくなることが主で、ゲームを終わらせるだけの決定力には乏しいという点がある。マナ差の優位だけで押し切るゲームも少なくないが、揃っても決定力不足で対戦相手に押し切られてしまうこともあるのだ。

 その点、八十岡の構築した青黒トロンは揃った後の決定力を最大限にする工夫が施してある。その一つが大量に投入された《解放された者、カーン》だ。

解放された者、カーン

八十岡 「せっかく無色しかでない土地を採用しているんだから、揃ったら勝てるくらいじゃないと釣り合わないからね」

 たしかにトロンランドが揃ったことで保証される無色7マナからプレイできる呪文のなかで最高峰の1枚だろう。また、単なるフィニッシャーというわけでもなく、対戦相手を阻害できることが何よりも魅力的だ。それを八十岡のようにコントロールというコンセプトの上で使えるのであれば、その威力は一層増すだろう。こちらの妨害で疲弊しきった対戦相手のパーマネントを、じっくりと育てていたトロンランドから繰り出される《解放された者、カーン》で完全に蓋をする。

 一見すると八十岡らしく禍々しい呪文選択や構成ながら、コンセプトを重視し、論理的に組み上げられたデッキであることが伺える。特にトロンランドが揃った後のマナの使い道やゲーム展開に気を回し、モダン環境の速度や特徴に合わせることを重視している点は非常に参考になった。

 トロンランド揃ったら勝ちでしょ?

 誰もが簡単に口を衝きそうな言葉だが、八十岡 翔太のそれはピリリと一味違う。

■行弘 賢(和歌山)の場合

 二人目のインタビューとして、プロプレイヤークラブ・プラチナレベルという八十岡と比肩する肩書きをもつプレイヤーである行弘 賢(和歌山)に構築グランプリに向けた調整や考え方のコツを伺うことにした。  彼は最高レベルであるプラチナに座するプレイングと、人気Web配信のMCをつとめるエンターテイメント性を持ち合わせる新進気鋭の若手であり、特に今シーズンの好調ぶりは両方面において目覚ましい。

行弘 「今回の調整はオンラインで2〜3日、実際に友達と2〜3日って感じで、そこまで多くの時間は割けなかったんですが、以前の環境のメタゲームと大きな差はなかったので調整に苦労することはあまりなかったですね」

 以前の環境とは、『アヴァシンの帰還(以下AVR)』が導入される前のことだ。その以前の環境と現在のメタゲームに大きな変化がないということは、AVRがモダン環境にもたらした要素は少なかったのだろうか?

行弘 「いや、そんなことはないです。特に《修復の天使》と《苛立たしい小悪魔》と《グリセルブランド》は、青白トラフトやグリセルシュートを生み出しましたし、赤系バーンやメリーラ殻を強化しています」

修復の天使
苛立たしい小悪魔

 新しいアーキタイプを生み出し、既存のアーキタイプは強化された。それでもなお、環境に大きな変化がないというのはどういうことなのだろう?

行弘 「いや、アーキタイプがひとつやふたつ増えたところで、もとから数多くのアーキタイプが存在しているから、全体像を見ると、環境に与えた影響は大きくはないんですよね。しかも前環境のメタゲームの時から、多くのデッキがまばらにいる、という状態で特に何かが突出して存在していたわけではないので、メタゲームについて考えるべき点は変わってないんです。むしろ、AVRで今まで数の少なかったアーキタイプが強化された節もあるので、以前よりも『なんでもいる平坦な環境』っていう特徴が強まっているかもしれないです」

 八十岡の話の中でも登場した、カードプールの広さ故の現象なのだろう。モダンという幅広い環境ではどうしても沢山のアーキタイプが混在するフラットなメタゲームとなってしまう。そして、AVRの参入によって可能性が追加された結果、今まで以上に多くのアーキタイプがフィールドにひしめき合っているというのだ。

行弘 「そんなわけで今までと特に大きな変化は意識しないで構築しました。それぞれのアーキタイプは強化されてるんですけど、皆一様に強くなっているので。ただ、《タルモゴイフ》を使用しているデッキは、どうしても高価になってしまいがちなので少ないかなーという予想はありました。カード資産の都合なのであくまでも想像でしかないのですが、スタンダードのカードをそのまま流用しやすい青白トラフトや、特別高価なカードが少ない無色トロンはそれなりに数がいそうだなって感じで、少しだけ意識したデッキを選択してみました」

 そんな行弘の分析の結論は、ボロスという一路ずらしたデッキ選択だった。

ステップのオオヤマネコ
稲妻

行弘 「青白トラフトと無色トロンに強く、幅広いアーキタイプとも戦えるデッキとしてボロスで参加しています。軽量パーマネントのお陰で展開の速度で負けることが少なく、《稲妻》《火柱》《流刑への道》と、強力で軽い呪文のみに絞っているため多くのデッキに無駄ないゲームを期待できるのが魅力ですね」

 《ゴブリンの先達》や《ステップのオオヤマネコ》といった軽量クリーチャーによる速攻を優秀な呪文でバックアップする、一昔前を思い出すアーキタイプだ。AVRからは行弘自身も注目株だと取り上げた《苛立たしい小悪魔》が投入されている。序盤から積極的にプレッシャーをかけられるカードが増えたことは確かに収穫だろう。

行弘 「当初は《修復の天使》も入っていたんですけどね、《イーオスのレインジャー》のほうが試したら強かったので最終的には抜けちゃいました。《イーオスのレインジャー》は《ゴブリンの奇襲隊》や《運命の大立者》をサーチすることで戦略に幅をもたせられるのが、愚直なビートダウンに彩りができるので強かったです」

イーオスのレインジャー

 《再誕の宣言》で《苛立たしい小悪魔》を再利用したり、《イーオスのレインジャー》からの《ゴブリンの奇襲隊》による奇襲プランなど、曲者の印象が強い行弘らしいデッキ構築だ。単純なコンセプトの中にさり気なく搭載したワンポイントが輝いている。

■『平坦な環境』の中で

 二人のインタビューをして興味深かったことは、高い実力をもつ者同士が、同じ状況だと分析した上で違う方法論をとったことだった。  八十岡は中速のアーキタイプを倒すべくコントロールという可能性を追求し、行弘は中速というグループをより細分化することでフォーカスを絞ったデッキ構築をしていた。

 結果を見れば青黒トロンとボロスという、対照的でなんの関連性も見られない2つのデッキだが、彼らの思考のロジックとスタートポイントは同地点なのだ。

 八十岡と同じように『なんでもいる平坦環境』と分析しながらも、行弘はその中でも偏りが生じる可能性を吟味し、デッキを選択するファクターの中からカード資産に焦点を当てることで、ほんの僅かであろうとも勝率を高める工夫をしていた。

 それに対する八十岡は、確固たる自信の持てない情報はできるかぎり排除し、自身のデッキの可能性や整合性を追求し続けるというスタンスをとった。

 今回のモダン環境が、実力者であろうとも判断を左右される難しい状況や環境であったとも考えられるが、MTGというゲームが実力者であろうとも方法論が統一されしえないほどの可能性に満ちている、と考えるほうが自然だろう。

 同じ出発点であっても歩む道は人それぞれだ。八十岡だったら、行弘だったらどうするだろう?と、他人の思考を参考にしてみることも面白い。停滞した環境や答えがひとつしか見えないような状況に直面しても、どうかデッキ構築に希望と可能性を持って欲しい。

 モダン環境には、MTGには、まだまだ未知なる可能性が残されているのだから。

 

By Jun'ya Takahashi

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