EVENT COVERAGE
- Photo Essay Round 18 : 津村 健志(広島) vs. Hannes Kerem(エストニア)
by Keita Mori
- Feature Article : 八十岡×川崎のエクステンデッドウォッチング
by Daisuke Kawasaki
- Feature Article : 重原「SGGK」聡紀インタビュー
by Daisuke Kawasaki
- Round 18 : 浅原 晃(神奈川) vs. Luiz Guilherme De Michielli(ブラジル)
by Daisuke Kawasaki
- Photo Essay Round 17 : 大礒 正嗣(広島) vs. 津村 健志(広島)
by Keita Mori
- Round 17 : 浅原 晃(神奈川) vs. Olivier Ruel(フランス)
by Daisuke Kawasaki
- Round 16 : 藤田 修(京都) vs. Ben Rubin(アメリカ)
by Daisuke Kawasaki
- Round 15 : 池田 剛(福岡) vs. 津村 健志(広島)
by Daisuke Kawasaki
- Round 14: 「タマネギ」の皮むき - オグニエン・シビディニ(クロアチア) vs. 浅原 晃(神奈川)
by Nate Price / Translated by YONEMURA “Pao” Kaoru
- Round 14 : 大礒 正嗣(広島) vs. Olivier Ruel(フランス)
by Keita Mori
- Round 13: 「不充分」 - ハンス・ケレム(エストニア) vs. 大礒正嗣(広島)
by Josh Bennett / Translated by YONEMURA “Pao” Kaoru
- Round 13: 浅原 晃(神奈川) vs. Pedro de Diego(アルゼンチン)
by Daisuke Kawasaki
- Feature Article: 日本勢のエクステンデッドデック選択
by Daisuke Kawasaki
- Team Round 4: 日本代表 vs. アメリカ代表
by Keita Mori
- Team Round 3: 日本代表 vs. イギリス代表
by Daisuke Kawasaki
- Day2 Coverage
by Event Coverage Staff
- Day1 Coverage
by Event Coverage Staff
Team Round 3 : 日本代表 vs. イギリス代表

渡辺 「僕が勝たないといけないと思うんですよ」
渡辺 雄也(神奈川)は、二日目終了後の国別スタンディングを見て、筆者にこう語った。
個人成績の合計では各国でダントツの成績である。一見、成績がよくないように見える高桑 祥広(神奈川)だが、実際のところ大礒 正嗣(広島)と渡辺の成績がむしろよいのであって、「Paul Cheon(アメリカ)と同じ点だと思えば...」と渡辺も語る。
しかし、日本の総合順位は5位。そう、チーム戦での1ラウンドごとの「9点」というビハインドが大きすぎるのだ。
ここまでの日本チームの成績は、1敗1分けの3点。個人成績では2勝中の渡辺であるが、チームが、特に高桑の成績がやはりふるわない。
渡辺 「正直、チーム戦でポイントとれなければ、プレーオフはないですよ」
その気持ちは、チーム全員が共通して持っているだろう。だから、大礒も高桑も、きっとどちらかは勝利してくれるだろう。渡辺はそう信じている。
渡辺 「だから、僕も勝たないといけないんですよ」
対戦するのは、イギリス代表チーム。
スタンダード:Jonathan Randle:赤黒ビートダウン
エクステンデッド:Ioannis Kyriazis:エルフ
レガシー:Stephen Murray:チームアメリカ(Tomb Stompy)
■渡辺 雄也(神奈川) vs. Jonathan Randle(イギリス)

渡辺は《苦花/Bitterblossom》のある初手をキープするが、先手のRandleに、1ターン目《運命の大立者/Figure of Destiny》からの2ターン目《モグの狂信者/Mogg Fanatic》という《苦花》を2ターン目にだしにくい展開を強要されてしまう。
手札には《苦悶のねじれ/Agony Warp》もあるため、渡辺は小考するが、しかし、手札の色マナのでる土地がすべて《地底の大河/Underground River》というさらにダメージに厳しい展開。
結果、渡辺は《苦花》をキャストする。対するRandleは《運命の大立者》を4/4にまで出世させる。
そして、続くターンも《苦花》のトークンを《モグの狂信者》で除去し、《運命の大立者》によるアタックを強行する。
これを《変わり谷/Mutavault》でブロックし、ライフを守る渡辺。
《復讐の亜神/Demigod of Revenge》も《砕けた野望/Broken Ambitions》でカウンターし、ライブラリートップの《謎めいた命令/Cryptic Command》をボトムに送る。
そう、今渡辺がほしいのは、何よりもダメージを受けないで色マナがでる土地なのだ。場には3枚の《地底の大河》。
しかし、渡辺の願い届かず、色マナはダメージを伴わずに生み出すことができない。渡辺は2点のダメージを受けながら《誘惑蒔き/Sower of Temptation》をキャストし、《運命の大立者》を奪いにいく。
Randleは2枚目の《復讐の亜神》をキャストした。
Randle 1-0 渡辺
この時点で、大礒は《滅び/Damnation》でKyriazisのエルフ軍団を一度一掃した上で、《虚空の杯/Chalice of the Void》をX=1で設置している。まだゲーム自体は長引きそうなものの、大礒は勝利してくれるだろうと、隣の席をみて渡辺は考えた。
一方の、高桑。
2発の《Hymn to Tourach》で手札をぼろぼろにされつつ、《タルモゴイフ/Tarmogoyf》と《墓忍び/Tombstalker》にビートダウンされ、すでにサイドボーディング中だ。
やはり、自分が勝たなければ。
渡辺は意志を新たにデックをシャッフルする。
Game 2
またも2ターン目には《苦花》を設置できる手札。
しかも、今回は痛くない色マナも、《呪文づまりのスプライト/Spellstutter Sprite》も《霧縛りの徒党/Mistbind Clique》もあるし《謎めいた命令》もある。
むしろ、フェアリーとしては最上級に位置する初手だろう。
渡辺は力強くキープを宣言する。
Randleはマリガン。
Randleのマリガン後の手札は1ターン目からは動けないものの、決して悪いものではなく、双方が2ターン目に《苦花》をキャストする展開となる。
お互いにトークンが並ぶが、やはり積極的に攻撃に出るのはRandleの側。フェアリートークンをアタックに向ける。これをトークンでブロックしつつ、渡辺はダメージスタック後に《霧縛りの徒党》をキャストする。
これでダメージレースでは大きく優位に立った渡辺。この劣勢をひっくり返すべく、Randleは《ボガートの突撃隊/Boggart Ram-Gang》をキャストする。
高桑 「2本目勝ちました」
高桑は、1ターン目の《三なる宝球/Trinisphere》こそ《Force of Will》でカウンターされるものの、土地が止まり気味な対戦相手に、X=1の《虚空の杯》からの《世界のるつぼ/Crucible of Worlds》《不毛の大地/Wasteland》コンボで完全に動きを封じ込め、《賛美されし天使/Exalted Angel》でのビートダウンを決めていた。
大きく頷きながら、渡辺は特有の力強くたたきつけるような仕草で《呪文づまりのスプライト》をキャストする。
ふたりに挟まれた大礒は、サイドボーディングを終え、目をつむり、ゆっくりとライブラリーをシャッフルしている。
《霧縛りの徒党》こそトークンのチャンプブロックと《マグマのしぶき/Magma Spray》、そして《モグの狂信者》の合わせ技で除去されてしまったものの、《ジェイス・ベレレン/Jace Beleren》が渡辺に次々と新しいカードを供給していく。
《ジェイス・ベレレン》が《ジェイス・ベレレン》を呼ぶ形で、手札が充実しきった渡辺に対して、Randleはゲーム3を最終決戦に選ぶしか選択肢はないのだった。
Randle 1-1 渡辺
Game 3
三度、渡辺は2ターン目に《苦花》。
一方のRandleは2体の《モグの狂信者》。
この《モグの狂信者》軍団とフェアリートークンが大乱戦を繰り広げているころ、高桑は、《世界のるつぼ》と《黄塵地帯/Dust Bowl》で完全にコントロールを掌握したものの、《賛美されし天使》を《殺し/Snuff Out》で除去されてしまい《墓忍び》に殴りきられていた。
一方で、大礒は、《トリスケリオン/Triskelion》を《その場しのぎの人形/Makeshift Mannequin》で使い回す形で、完全にエルフに対する優位を築き上げていた。
やはり、勝負の行方は、この渡辺とRandleのマッチアップにかかっているようだ。
土地が3枚で止まってしまい、頭を抱えるRandleだが、しかし《霧縛りの徒党》を《マグマのしぶき》と《タール火/Tarfire》で除去されてしまい、決して渡辺も楽ではない。
というのも、2枚の《火葬/Incinerate》でライフを攻められてしまっており《苦花》による死が見えつつあるのだ。
渡辺は《ボガートの突撃隊》を《謎めいた命令》で打ち消す際に、苦肉の策として、《苦花》を手札に戻す。
2体のトークンで地道にRandleのライフを削っていく渡辺だが、決め手に欠ける。Randleの土地が4枚だからいいものの、渡辺のライフは6で即死圏内なのだ。
何かしらの決め手を。
力強くライブラリーに手をかけると、そこには《くぐつ師の徒党/Puppeteer Clique》が。マナはほぼフルタップしてしまうものの、Randleの墓地の《ボガートの突撃隊》でライフを削りに行き、ターンを返す。Randleはカードをドローする。
ここで整理しよう。
Randleの土地は4枚。手札は2枚。
渡辺のライフは6。
Randleの手札のうちの一枚《炎の投げ槍/Flame Javelin》をキャストする。
渡辺にとって、ここでRandleの手札が《タール火》の場合だけが唯一の負けパターンなのだ。
渡辺 「あのタイミングは本当に心臓に悪かったですね」
渡辺 2-0 Randle
すでにエルフとの対決を制していた大礒が渡辺に拍手を送る。
渡辺の、そして日本代表の、本当に価値ある勝利がついに成就したのだ。
高桑が、渡辺にハイタッチ。
高桑 「あ、ごめん」
ハイタッチ成就せず!
Team Round 4 : 日本代表 vs. アメリカ代表
フィーチャーマッチの組み合わせがアナウンスされた瞬間に歓声があがり、ギャラリーが集まりはじめた。
“... United States of Americaaaaa versus Japaaan!! “
その第二の黄金期を迎えることができるのではないかという機運が高まる中、ホームタウンで戦うアメリカ代表が・・・団体戦予選最終ラウンドで2008年度最強の代表チームのひとつである日本との対戦が決まったのだ。
「もしもふたたびアメリカの時代が来るとすれば、それは日本を倒してからのことだ」
プロツアー歴史家として尊敬を集める”BDM” ブライアン・デイヴィド=マーシャルもこう断言する。
もちろん、この代表チームの陣容がかたまって以来、一貫して団体戦優勝という高い目標を公言している「世界のISO」大礒 正嗣が率いる日本代表も、ここで最大の強敵を倒して、個人戦最終種目のエクステンデッドにつなげたいところだった。
エクステンデッドを担当する主将の大礒は、愛機の青黒ウルザトロンを駆ってサミュエル・ブラックと対峙。
プロツアー・ベルリンを席巻した「エルフ!」デッキをそのまま持ち込んでいるのがブラックだった。ブラックはその爆発的な展開力で大礒のライフを削りにかかるが、大礒も《ディミーアの印鑑/Dimir Signet》で色マナを加速・安定させてからの《滅び/Damnation》で緑色の敵陣を一掃した!
その後も機械のように精確なプレイを披露し、観衆を静まり返らせたオオイソ・トロン。多くのファンが固唾をのんで見守る中、緻密に敵軍の脅威と自らのライフとをコントロールし、ウルザ地形三種を揃え、《隔離するタイタン/Sundering Titan》を見舞い、「バイバック」で《呪文の噴出/Spell Burst》を使用し、《けちな贈り物/Gifts Ungiven》経由で《トリスケリオン/Triskelion》を《その場しのぎの人形/Makeshift Mannequin》によってリアニメイトした。
何度踏みしめられても天を目指して立ち上がる雑草のように、「エルフ!」デッキのサム・ブラックも、何度も何度もクリーチャーを展開しなおして日本王者のライフを少しずつ減らしにかかる。
しかし、再構築されつつあった敵陣をふたたび《滅び/Damnation》でなぎ払い、《虚空の杯/Chalice of the Void》をX=1で設置する大礒。そして、長期戦にもつれこませることに成功した彼は、とうとう《アカデミーの廃墟/Academy Ruins》で墓地の機械兵たちを回収しはじめるシステムを完成させた。
《トリスケリオン/Triskelion》がオオイソ・トロンのライブラリーの上に戻っていくのを見届けながら、ブラックは第1ゲームを投了した。
大礒 1-0 ブラック
一方そのころ、ここまでの三回戦を三連敗と苦戦しているレガシー担当の高桑 祥広は、アメリカ代表の中核選手であるポール・チョンの圧倒的なパフォーマンスに圧倒されていた。
フェッチランドをうまく絡めて《渦まく知識/Brainstorm》を3連発して手札を整えたチョンは、《目くらまし/Daze》や《Force of Will》で《煙突/Smokestack》と《忘却の輪/Oblivion Ring》を打ち消した。
その上で、《ファイレクシアン・ドレッドノート/Phyrexian Dreadnought》のデメリットを自らの《もみ消し/Stifle》によって帳消しにする”Stifle-Nought”コンボをチョンが決めたのだ!
《亡霊の牢獄/Ghostly Prison》を設置しての《ハルマゲドン/Armageddon》によって敵陣の圧倒的な攻撃を一時的にスローダウンさせた高桑だったが、間もなくマナを捻出できるようになったチョンに一蹴されてしまうのだった。
高桑の「白単スタックス」は悪夢の四連敗という結末をむかえることになってしまう。
高桑 0-2 チョン
しかし、日本王者、大礒 正嗣は対「エルフ!」必殺の《魂の裏切りの夜/Night of Souls’ Betrayal》をサイドボードから炸裂させ、サム・ブラックをまもなく投了に追い込んだ!
ここまでの日本代表の団体戦スコアは1勝1敗1分で、まさしく、主将である大礒の個人戦績と完全にシンクロしている。
つまり、ジンクスとしてはオオイソ・トロンが勝てば日本代表は勝てるはずなのだ。
「・・・ジンクスとしては大礒さえ勝てば日本代表は勝てる?」
先ほどの一文は実に意味深なものでる。
なぜなら、日本代表はスタンダードを託した「2007年度新人王」渡辺 雄也の必勝を確信しているのだ。実際、ここまで渡辺は団体戦でのスタンダードを三戦三勝という完璧なパフォーマンスで牽引しており、誰もが日本代表における屋台骨として最年少の渡辺とそのフェアリーデッキを信頼しているのだ。
祈るような仲間たちの、ギャラリーの日本勢の視線を受け止めながら、渡辺 雄也は淡々と彼のマジックを完遂した。
「白黒トークン」の全米王者を堂々の二連勝でくだし、渡辺は日本代表に貴重な白星をもたらした。
渡辺 2-0 ジェイコブ
日本代表 2-1 アメリカ代表
ポール・チョン 「・・・決着は日曜日にね」
Feature Article - 日本勢のエクステンデッドデック選択
世界選手権の予選ラウンドも最終日の3日目に突入した。
この3日目に、個人戦に先んじておこなわれた国別対抗のチーム戦では、日本代表チームが2連勝するという幸先のよいスタートとなった。
ぜひとも、この勢いに乗って、個人戦でも快進撃をしていただきたい。
そんな日本勢の快進撃の鍵を握るのが、本日のレギュレーションであるエクステンデッドのデック選択である。
あるものはトップ8入賞の為、あるものは代表チームプレイオフのため、そして、あるものは自身の来年のプロレベルの為。
負けられない戦いに彼らはどのようなデックを持ち込んだのだろうか。まずはこちらの表を見ていただきたい。
Name | Prefecture | Day 1 | First Result | Second Result | Extended Deck | Deck Designer |
---|---|---|---|---|---|---|
大礒 正嗣 | 広島 | 18 | 6 | 6 | 青黒フェアリー | 高橋 優太 |
池田 剛 | 福岡 | 15 | 9 | 6 | 親和 | 藤田 剛史 |
浅原 晃 | 神奈川 | 18 | 6 | 3 | エルフ | 佐々木 将人 |
彌永 淳也 | 東京 | 15 | 6 | 6 | 青黒トロン | 八十岡 翔太 |
大塚 高太郎 | 神奈川 | 15 | 3 | 9 | 青黒フェアリー | 高橋 優太 |
中野 圭貴 | 大阪 | 12 | 6 | 9 | エルフ | - |
藤田 修 | 大阪 | 12 | 6 | 9 | Suiside Zoo | 藤田 剛史 |
津村 健志 | 広島 | 12 | 6 | 9 | 青黒フェアリー | 高橋 優太 |
重原 聡紀 | 山口 | 12 | 6 | 6 | Zoo | 平林 和哉 |
渡辺 雄也 | 神奈川 | 12 | 6 | 6 | 青黒フェアリー | 高橋 優太 |
小室 修 | 東京 | 9 | 6 | 6 | 青黒フェアリー | 高橋 優太 |
栗原 伸豪 | 東京 | 12 | 3 | 6 | 青黒フェアリー | 高橋 優太 |
森 勝洋 | 大阪 | 12 | 3 | 6 | 発掘 | 小池 貴之 |
中島 主税 | 神奈川 | 11 | 3 | 6 | Zoo | 佐々木 将人 |
高橋 優太 | 東京 | 9 | 6 | 3 | 青黒トロン | 八十岡 翔太 |
高桑 祥広 | 神奈川 | 12 | 0 | 6 | 青黒フェアリー | 高橋 優太 |
三原 槙仁 | 千葉 | 6 | 9 | 3 | エルフ | 三原 槙仁 |
北山 雅也 | 神奈川 | 12 | 0 | 3 | 青黒フェアリー | 有留 知広 |
八十岡 翔太 | 神奈川 | 9 | 3 | 3 | 青黒トロン | 八十岡 翔太 |
中村 修平 | 大阪 | 9 | 0 | 6 | 青黒フェアリー | 渡辺 雄也 |
金子 真実 | 埼玉 | 9 | 3 | 0 | 青黒フェアリー | 有留 知広 |
三田村 和弥 | 千葉 | 12 | 3 | - | Drop | |
小池 貴之 | 栃木 | 3 | 9 | 3 | Drop | |
齋藤 友晴 | 東京 | 6 | 3 | 0 | Drop | |
平林 和哉 | 神奈川 | 3 | 3 | 0 | Drop |
さて、構築戦と言えば、デックの内容の前にお伝えしないといけない内容があるだろう。
そう、初日にお伝えした、「カード届いてないんですけど...」事件の顛末だ。
結論から言えば、初日のチーム戦をおこなっている最中に、プレイヤーたちが空港へと向かい、無事荷物は回収されたのだった。
無事?
渡辺 「雨ざらしで荷物びしょびしょでしたよ...《金属モックス/Chrome Mox》が金属じゃなくてただの紙のカードだって思い出しました...」
さて、そんな渡辺 雄也(神奈川)をはじめとしたプレイヤーが使用するのが、日本人最大勢力となる青黒フェアリー。
なんだ、スタンダードとまったく同じじゃん、と思うなかれ。こちらのフェアリーは、青黒といっても、メインはほとんど青単なのだ。
フェアリーの代名詞と言える《苦花/Bitterblossom》すらサイドボードだというのだから驚きだ。
中村 「《呪文づまりのスプライト/Spellstutter Sprite》は半端ないです」
プロツアー・ベルリンではトップメタとして君臨するエルフのキーパーツのほとんどをアドバンテージを取りながらカウンターできる《呪文づまりのスプライト》。これを《激浪の研究室/Riptide Laboratory》で使い回すこのデックは、エルフに対抗する為のメタデックとしても、単体のカードパワーとしても、十分なデックだ。
ちなみに、中村のデックデザイナー欄が渡辺なのは、「渡辺と同じデックを使う」という強い意志のあらわれであり、実際は同じデックビルダーとのこと。
渡辺のデックデザイナーは...高橋 優太(東京)?
栗原 「デッキビルダーは「高橋 優太(笑)」としておいてください。実際はみんなで相談して作ったデッキです」
フェアリー2連覇の高橋の名にあやかったものか、もしくは中島 主税(神奈川)や浅原 晃(神奈川)の「佐々木 将人」同様の伝統ある「Go Anan」ストラテジーか。
なんにしろ、ともに作成したというメンバーの名前を見るだけでも、完成度には疑いがないだろう。
高橋 「最初自分で作っていたんですけど、調整していった結果、どんどん元々のヤソ(八十岡)のレシピに近づいていきました。やっぱヤソはすごい」
その高橋自身は、なんとまさかの「降りてきた」青黒トロン。フェアリーではない!
八十岡 「そこにトロンがあるから」
と、使用する理由を語る八十岡 翔太(神奈川)。
八十岡 「青黒が好きで、トロンが好きで、なぜ青黒トロンを使わないか」
という八十岡思想に感化されてか、高橋と彌永 淳也(東京)のふたりが使用している。
八十岡 「マジレスすると、エクテンはブン回りがないデッキはきついからね。そういう理由でフェアリーはきついよ」
中村 「青黒トロンも、まぁいいですよね。エルフメタのデッキには勝てますし」
さて、トップメタであるいわゆる「親和エルフ」を使用する日本人は、中野 圭貴(大阪)と浅原 晃(神奈川)の2名。
とはいえ、浅原はプロツアー・ベルリン前に世界でも屈指の回数このデックをまわし、「ベルリンのメタゲームを陰から操作した」とまで言われるほどのエルフ巧者である。
そして、池田 剛(福岡)は、「エルフではない」親和である。
たしかに、親和対策が薄くなっているだろうと予想される今大会では、よい選択しかもしれない。
池田と同じく、ひとりだけのデック選択なのが森 勝洋(大阪)。
こちらも、エルフの隆盛により対策がうすくなった隙を狙ったデックか。
最後にそれぞれビルダーは違えども、Zooを使用するプレイヤーが3名。
中島 「来期のプロレベルのためには後2勝でいいので、確実に2勝はできるデッキを選びました!」
様々な思惑渦巻く世界選手権。
さぁ、華麗な美技に酔いしれよう!
Round 13 : 浅原 晃(神奈川) vs. Pedro de Diego(アルゼンチン)

さて、エクステンデッドラウンドが開始するにあたり、最初は、やはりプロツアー・ベルリントップ8に6人を送り込んだトップメタ、親和エルフをチェックしようと、浅原の席までやってきた、というわけなのだが。
どうも、会場を見回してみた印象では、相当にエルフは少ない様子で、なおかつ、全体ダメージや《虚空の杯/Chalice of the Void》《三なる宝球/Trinisphere》といった対策カードもほとんどのデックに入っているという状況だ。
さきほどは、中野 圭貴(大阪)もエルフとお伝えしたが、レジスト直前になって、中野がデックをエルフからZooに変更した為、孤軍奮闘することとなった浅原 晃。
果たして、この完全エルフ包囲網を、浅原は渡りきることができるのだろうか。
対するはPedro de Diago(アルゼンチン)。
使用するデックは、会場でもトップクラスの地雷デック、デミゴッドストンピーだ。
《復讐の亜神/Demigod of Revenge》《災難の大神/Deus of Calamity》といった強力クリーチャーを、赤のマナ加速と《金属モックス/Chrome Mox》で早いターンにだし、一気に勝負を決めるデックである。
ベルリン前は早いターンの《血染めの月/Blood Moon》という勝ちパターンがあり、注目されたデックだが、今大会ではどうか。
Game 1

《山》をセットするのみでターンを終了するDiegoに対して、浅原は《樹木茂る山麓/Wooded Foothills》を起動。ライフを大事にする為に《森》をサーチしての《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves》をキャストする。
対するDiegoは、2ターン目にビッグアクション。
《巣穴からの総出/Empty the Warrens》を刻印しての《金属モックス/Chrome Mox》キャストで3マナを確保すると《煮えたぎる歌/Seething Song》で5マナに加速し《災難の大神》をキャストしたのだ。
浅原は、2体目の《ラノワールのエルフ》《樺の知識のレインジャー/Birchlore Rangers》《ワイアウッドの共生虫/Wirewood Symbiote》と展開するが、Diegoは《猿人の指導霊/Simian Spirit Guide》によって5マナをひねり出し、手札をゼロにしての《復讐の亜神》キャストで一気に浅原のライフを削りにかかる。
ここで土地を破壊されてはゲームにならない浅原は《樺の知識のレインジャー》で《災難の大神》をブロックし、ダメージスタック後に《ワイアウッドの共生虫》で手札に戻す。
しかし、浅原のライフは《草むした墓/Overgrown Tomb》も使用しているため7。
次のターンには勝負が決まってしまう。
浅原の手札は
《エルフの幻想家/Elvish Visionary》
《召喚の調べ/Chord of Calling》
《召喚士の契約/Summoner's Pact》
《樺の知識のレインジャー/Birchlore Rangers》
《ヴィリジアンのシャーマン/Viridian Shaman》
土地が2枚に《ラノワールのエルフ》が2体で4マナに《ワイアウッドの共生虫》つき、という状態だ。
浅原 「うーん...難しすぎる...」
このちょっとしたマジック:ザ・パズリング。
浅原は、まず《召喚士の契約》で《本質の管理人/Essence Warden》をサーチし、キャストする。
そして、4体のクリーチャーを招集のコストにし、土地からのマナとあわせてX=2で《召喚の調べ》をキャスト、《ワイアウッドの養虫人/Wirewood Hivemaster》を呼び寄せる。
続いて《ワイアウッドの共生虫》で《ラノワールのエルフ》を手札に戻しつつ、他方をアンタップさせ、1マナを確保し、《樺の知識のレインジャー》をキャスト。《樺の知識のレインジャー》の能力で《ワイアウッドの養虫人》をタップして《ラノワールのエルフ》を呼び出す。
この一連の流れでライフを5点獲得した浅原は、ライフを12としてターンを残す。
続くDiegoの2体アタックを、虫トークンで軽減しつつ、ライフは3。
まずはアップキープに《召喚士の契約》の4マナを支払う浅原。
そして、《樺の知識のレインジャー》の能力で1マナを生み出し、さらに《ワイアウッドの共生虫》で《樺の知識のレインジャー》を手札に戻して《ラノワールのエルフ》をアンタップさせる。
この《ラノワールのエルフ》からのマナとあわせた2マナで《エルフの幻想家/Elvish Visionary》をキャストし、1枚ドロー。
《エルフの幻想家》と《本質の管理人》を《樺の知識のレインジャー》の能力でタップしてマナをだして...
《樺の知識のレインジャー》!?
そして《樺の知識のレインジャー》の能力で1マナを生み出し、さらに《ワイアウッドの共生虫》で《樺の知識のレインジャー》を手札に戻して《ラノワールのエルフ》をアンタップさせる。
この複雑なパズルは、完成を見ずして、終了してしまったのだった。
Diego 1-0 浅原
Game 2

1ターン目に《本質の管理人》をキャストする浅原だったが、Diegoは、マリガン後の手札から《猿人の指導霊》と《捨て身の儀式/Desperate Ritual》で、1ターン目に《三なる宝球》を着地させる。
やはり、サイドボード後は一気に対策カードが増えてしまうのか。
エルフ殺しのこのアーティファクト。
浅原は《森》を3枚並べて、3マナから《エルフの幻想家》を2ターン続けてキャストし、《イラクサの歩哨/Nettle Sentinel》を追加する。
この間、Diegoは3枚目の土地をひけず、自身の《三なる宝球》のせいで、何ひとつ、たとえば手札の《灰の殉教者/Martyr of Ashes》がプレイできない。
手札はマナ加速に溢れているのに、だ。
浅原は《灰の殉教者》をケアする形で《召喚の調べ》から《ブレンタンの炉の世話人/Burrenton Forge-Tender》をサーチする。
このエルフの群れと1体のキスキンに殴りきられてしまうまでのうちに、ついぞDiegoは3枚目の土地に出会えなかったのだった。
Diego 1-1 浅原
Game 3
先手のDiegoは長考する。3枚の土地と《金属モックス》《灰の殉教者》《復讐の亜神》《災難の大神》という手札をみて長考する。
そして、マリガン。
続く手札は、土地が3枚に《復讐の亜神》《災難の大神》そして《煮えたぎる歌》。
今度は即決気味にマリガン。
《虚空の杯》《炎の儀式》《三なる宝球》《灰の殉教者》。
最後にひいた手札は、《山》。
Diegoは1ターン目に《虚空の杯/Chalice of the Void》をキャストし、3ターン目には《三なる宝球》をキャストする。
こうして、Diegoはエルフの対策カードを次々と並べて見せたのだ!
一方の浅原は、2ターン目に《虚空の杯》にひっかからない《ワイアウッドの養虫人》をキャスト。3ターン目には2体目を追加する。
そして、地道に1/1でビートダウン。《樺の知識のレインジャー》を変異でキャストし追加して、さらにビートダウン。
その間に、Diegoは《三なる宝球》をさらに2枚追加する。
そう、Diegoはエルフの対策カードをまだまだまだまだ追加してみせるのだ!
一方そのころ浅原は《鏡の精体/Mirror Entity》を場に追加したのだった。
Diego 1-2 浅原
さて、このマッチについて、メンフィスの名前にちなんだ方が浅原にコメントを。
金子 「わたしだ」
浅原 「お前だったのか、かねぴー」
「略して神」こと金子 真実(埼玉)だ。
金子 「対戦相手の投入してた対策カード...実は自分への対策カードでもありませんかね?」
メタゲーム対策は計画的に。
Round 13 :「不充分」 ハンス・ケレム(エストニア) vs. 大礒正嗣(広島)
スコアボードが騒がしくなってきた。今朝行なわれたチーム戦2回戦の結果、同点1位が発生したのだ。日本とデンマークが93点でトップ、3位がアメリカと韓国で90点、以下マレーシア88点、南アフリカ87点。ハンス・ケレムの率いるエストニアチームはその下で集団を形成しているグループの中、80点をキープしている。その集団から抜け出すには、これまでの10-2という個人戦成績をキープし、さらに伸ばさなければならない。
彼の前に立ちはだかるのは日本チームのキャプテンにしてプロツアーの象徴とも言える大礒正嗣。サンデー進出の経験もある大礒は、すでに成し遂げている様々な偉業に世界選手権トップ8の成績を、否、(ジョン・フィンケル以来の)世界選手権2度優勝を書き加えようと狙っていた。
Game 1
プレイヤーはシャッフルを済ませ、最初の手札を見る。大礒はマリガンし、新しい6枚を矯めつ眇めつしてからキープを宣言した。《涙の川/River of Tears》と《変わり谷/Mutavault》を並べ、《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves》を出した後で相手の《ワイアウッドの養虫人/Wirewood Hivemaster》を《マナ漏出/Mana Leak》で止める。さらに大礒は《祖先の幻視/Ancestral Vision》を待機させ、ケレムが第3ターンに《地平線の梢/Horizon Canopy》を生け贄にしてカードを引いたしたのを見て一息ついた。
次に動いたのはケレムだった。《召喚の調べ/Chord of Calling》をX=1でプレイ。大礒は再び《マナ漏出/Mana Leak》で打ち消す。大礒の《祖先の幻視/Ancestral Vision》の上のカウンターは2つになった。
ケレムはアンタップし、《垣間見る自然/Glimpse of Nature》をプレイ。通すしかなかった大礒に、ケレムの2枚目の《垣間見る自然/Glimpse of Nature》がプレイされる。これでケレムは準備完了、デッキがぐるぐると回り始める。《遺産のドルイド/Heritage Druid》《樺の知識のレインジャー/Birchlore Rangers》《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves》《ワイアウッドの共生虫/Wirewood Symbiote》、さらに《ワイアウッドの共生虫/Wirewood Symbiote》。《ワイアウッドの共生虫/Wirewood Symbiote》を使って《樺の知識のレインジャー/Birchlore Rangers》をアンタップしようとするところに、大礒は《もみ消し/Stifle》で止める。もう1体の《ワイアウッドの共生虫/Wirewood Symbiote》を使って《遺産のドルイド/Heritage Druid》を起こし、《本質の管理人/Essence Warden》を出すマナを手に入れた。《イラクサの歩哨/Nettle Sentinel》がなかったので、このターンはようやく場と手札をそろえただけ。手札から土地を5枚捨て、ターン終了だ。
大礒は《誘惑蒔き/Sower of Temptation》をプレイし、《ワイアウッドの共生虫/Wirewood Symbiote》の1体を奪ったが、ケレムの手札には3枚目の《垣間見る自然/Glimpse of Nature》が。《垣間見る自然/Glimpse of Nature》に続いて《イラクサの歩哨/Nettle Sentinel》と《ワイアウッドの養虫人/Wirewood Hivemaster》2体が出てきたところで、大礒は投了を告げた。
ケレム 1 - 大礒 0
大礒は《不忠の糸/Threads of Disloyalty》と《否認/Negate》をサイドインし、《もみ消し/Stifle》と重い呪文を抜く。ケレムの方は《垣間見る自然/Glimpse of Nature》、《契約》2枚、ドラゴン1枚を抜いて《ヴィリジアンのシャーマン/Viridian Shaman》、《マイコロス/Mycoloth》、《梅澤の十手/Umezawa's Jitte》を投入。
結果を受け入れる大礒正嗣Game 2
今回は大礒もマリガンなし。手札を見てすぐにキープを決めると、《祖先の幻視/Ancestral Vision》を待機させる。ケレムは《本質の管理人/Essence Warden》と《ワイアウッドの養虫人/Wirewood Hivemaster》でお出迎えだ。大礒の第3ターンにフェッチランドを出して起動し、《島》を出してシャッフル、対戦相手にデッキを渡す。
ここでテーブル・ジャッジから声がかかった。対戦相手に渡す前に一度だけしかシャッフルしていない。しかもカードを見ていた。これは〔不充分な無作為化〕という反則行為であり、大礒に懲罰が与えられる。大礒は眉をしかめて頷いた。
罰則が【ゲームの敗北】だと聞き、大礒は目を見開いて凍り付いた。彼も、また彼の対戦相手も信じられず、ジャッジに聞き返した。あまりに厳しい罰じゃないか、と。
このような最高級のイベントに関するフロアルールは非常に明白だった。大礒はゆっくりと首を振り、カードを片付けたのだった。
ケレム 2 - 大礒 0
マッチ終了後、大礒に慰めの言葉をかけるケレム。繊細さで知られる大礒は言い訳もせず、静かに頷いた。
大礒は次のラウンドまでに何とか頭を切り換え、そして再びフィーチャーマッチ・エリアに向かった。そこにはオリヴィエ・ルーエルが待ち構えていた。
後に【ゲームの敗北】について聞いたところ、大礒は吹っ切れたようにこう語った。
「最高レベルのイベントなんだから、ルールはしっかり守られなきゃダメですよ。イカサマ防止のためにもね。わざとじゃなくてもルール違反をしたんだから、その罰を受けるのは当然です」
Round 14 : 大礒 正嗣(広島) vs. Olivier Ruel(フランス)
Player of the Yearを日本勢が独占すること三年。いまや日本は屈指の強国のひとつとしてマジック・コミュニティからつねに注目を集める存在になった。
そんな今、アメリカで、世界で、もっとも人気を集める日本人マジック・プロプレイヤーは誰だろうか?
“KENJI, Kenji Tsumura!!”
多くのファンが、津村 健志(広島)の名前を真っ先にあげるだろう。
この週末、驚くほど多くのアメリカのファンが彼のもとに記念撮影やサインをもとめて声をかけている。
ならば、もっとも尊敬されている日本人マジック・プロプレイヤーも、やはり津村 健志なのだろうか?
英語版カバレージを手がけているライターや編集者たちに意見をもとめたところ、以下のような答えが帰ってきた。
「より愛されているキャラクターという意味ではケンジかもしれないが、プレイヤーとしての尊敬という意味では・・・やはりマサシだろうね」
将来の殿堂入りも確実と目されている現日本王者、大礒 正嗣。代表チームを主将として率いる重責を負いながら、彼はキャリア通算七度目となるプロツアーサンデーを目指して奮戦している。
そして、そんな大礒がこの第14回戦で対峙する相手は・・・こちらも大記録なるか注目されるオリヴィエ・ルーエル(Olivier Ruel)である。まさに殿堂入りを果たした世界選手権での決勝ラウンド進出という快挙、それにともなって可能性が生じるPOYレースでの大逆転。いずれにせよ、実現すれば前人未到の金字塔となることは間違いない。
かくて、現役最強殿堂者と将来の殿堂者が火花を散らす一戦には、数多くのギャラリーがつめかけた。
青黒フェアリーデッキの大礒と青黒緑《壌土からの生命/Life from the Loam》デッキのオリヴィエの対決する第1ゲームは、先手のオリヴィエが《金属モックス/Chrome Mox》によるマナ加速から《タルモゴイフ/Tarmogoyf》を召喚、対する大礒も負けずに第1ターンに《祖先の幻視/Ancestral Vision》を「待機」するという立ち上がりを迎えた。
オリヴィエは最初の《けちな贈り物/Gifts Ungiven》を大礒の《マナ漏出/Mana Leak》で打ち消され、それならば、と次の大礒のターンのアップキープに《けちな贈り物/Gifts Ungiven》に再挑戦し、これを成就させた。
大礒の判断により、オリヴィエはここで手札に《蟲の収穫/Worm Harvest》と《平穏な茂み/Tranquil Thicket》を、墓地に《汚染された三角州/Polluted Delta》と《壌土からの生命/Life from the Loam》をそれぞれ送り込むことになった。
オリヴィエのゲームプランがうまくいけば、最終的には墓地に土地があふれるようになり、《蟲の収穫/Worm Harvest》から大量のトークンを生み出し、「回顧」でそれを繰り返すという勝ちパターンに突入できるだろう。
しかし、まもなく《祖先の幻視/Ancestral Vision》によるドロー加速を果たした大礒は、盤上にひとつの解決策を提示する。
《エレンドラ谷の大魔導師/Glen Elendra Archmage》。このカードの持つ打消し能力は、スペルに大きく依存したオリヴィエのデッキには大きな脅威だった。
ただ、この《エンドラ谷の大魔導師/Glen Elendra Archmage》をプレイするために大礒はタップアウトを余儀なくされており、オリヴィエはそこを狙い済ませた《迫害/Persecute》を詠唱し、ニヤリと笑いながら「もちろん、青でね」とささやいた。
驚くべきことに、ここで大礒が公開した5枚の手札には・・・ただの一枚も青いカードが含まれていなかった! 2枚の《激浪の研究室/Riptide Laboratory》を含む4枚の土地と、「悪名高き」伝説の装備品が1枚だった。
ここまでの応酬で3/4というサイズにまで育った《タルモゴイフ/Tarmogoyf》でアタックを試みるオリヴィエだったが、大礒が先ほど公開されたばかりの《梅澤の十手/Umezawa's Jitte》を装備した《大魔導師》で攻撃を開始。大礒がさらに、2体目となる《大魔導師》を盤上に追加すると、オリヴィエの投了となった。
大礒 1-0 オリヴィエ
第2ゲームでも《金属モックス/Chrome Mox》経由の《タルモゴイフ/Tarmogoyf》からゲームを開始し、《けちな贈り物/Gifts Ungiven》で確実にアドバンテージを獲得していったオリヴィエ。一方の大礒はなかなか土地が4枚から伸びず、オリヴィエが第7ターン目に《蟲の収穫/Worm Harvest》から8体のトークンを呼び出すにおよんで投了となってしまった。
大礒 1-1 オリヴィエ
第3ゲームは両者マリガンから、ともに何度か土地のセットが出来ないという「もたついた」ゲーム展開となってしまう。そんな中で《タルモゴイフ/Tarmogoyf》による毎ターンの攻撃宣言を行うようになったオリヴィエがゲームの主導権を握ったかに見えた。
しかし、逆転劇こそが「世界のISO」の真骨頂。
「頑強」をもつ《エレンドラ谷の大魔導師/Glen Elendra Archmage》を次々にブロック要員として展開して時間を稼ぎ出し、巧みな駆け引きによってなんとかゲームを長引かせながら・・・第11ターン目に《巻物の君、あざみ/Azami, Lady of Scrolls》の召喚へとこぎつけたのだ!
そう、《あざみ》自身のみならず、「頑強」後のかよわい《大魔道師》も種族はウィザード。立派なドロー手段として機能するのである。
大礒は恐るべき勢いでカードを引きはじめ、これにより、毎ターン手札と盤面とに確実な戦力を供給しながら、ターン終了時に不要牌をディスカードするというまでにいたった。
かくもおそるべきハンドアドバンテージを獲得するにいたった大礒を前に、まもなくオリヴィエは白旗をあげることになった。
大礒 2-1 オリヴィエ
フェアリーを相棒にスタンダード6戦全勝という戦績で飾った「もっとも尊敬を集める日本人プレイヤー」は、はたしてこのエクステンデッドのフェアリーでどれほどの勝ち星を得ることになるだろうか。
Round 14: 「タマネギ」の皮むき - オグニエン・シビディニ(クロアチア) vs. 浅原 晃(神奈川)
「オグニエンのあだ名は「タマネギ」だって知ってるかい? 相手を泣かせるからさ」
知らなかったよ、リッチー。
いつ最初に聞いたのかは忘れたけれど、ダイス・ロールを見ただけで判った。浅原の出目が6だったのに対し、「タマネギ」オグニエンはクリティカル、(ああ、d20じゃなかった)いやさ20を振ってのけたんだ。それで流れが始まった。エルフデッキの浅原の手札は最悪で、2回もマリガンしなきゃならなかった。初手5枚で始めるなんて、まさに涙目。
Game 1
浅原晃のエルフと対峙するオグニエン・シビディニ]"/> 両プレイヤーとも出だしは悪くない。浅原は《イラクサの歩哨/Nettle Sentinel》から《エルフの幻想家/Elvish Visionary》とつなぐ滑り出し。
シビディニは《バザールの大魔術師/Magus of the Bazaar》で墓地を肥やし始める。次のターンに発掘持ちのカード2枚を墓地に送り、次のターンに戻す準備を整え、必要に応じて《黄泉からの橋/Bridge from Below》も戻せる体勢に。浅原はダブルマリガンの不利を跳ね返そうと突き進み、《ワイアウッドの共生虫/Wirewood Symbiote》を使って《エルフの幻想家》を戻して再びプレイ。これで2枚分の差は取り戻したことになる。
シビディニは自分のドロー・ステップに発掘カードの1枚目、《ゴルガリの墓トロール/Golgari Grave-Troll》を手札に入れる。これと《バザールの大魔術師》の能力で、墓地にはさらに2枚の発掘カードが追加され、しかも《ナルコメーバ/Narcomoeba》2体が登場だ。墓地が一段落したところで《戦慄の復活/Dread Return》を使って《熟考漂い/Mulldrifter》を戻し、《ゴルガリの墓トロール》2体を戻す。これで《黄泉からの橋》2枚から合計6体のゾンビ・トークンが生み出された。充分に増えた墓地を見て、このターンで浅原を倒せるかどうかリソースと照らし合わせる。《戦慄の復活》を使い、《炎の血族の盲信者/Flame-Kin Zealot》を場に出すと、6体の3/3ゾンビとともにアタックだ。浅原はそのゾンビのうち2体を《エルフの幻想家》と《イラクサの歩哨》でブロック、その後その《イラクサの歩哨》を手札に戻して難を逃れる。
15点のダメージを受けてライフは残り2点。
場にも《ワイアウッドの共生虫》しかなく、何か奇跡でも起きない限り生き残ることはできない。ここで浅原が出したのは《ワイアウッドの養虫人/Wirewood Hivemaster》と《本質の管理人/Essence Warden》。昆を出して1点ゲイン、さっき戻した《イラクサの歩哨》を出して昆虫が1体、これでさらに2点ゲイン。クリーチャー6体とライフ5点になって、何とか次のターンをしのぎ切れそうな局面になった。
シビディニはドロー・ステップに入り、カードを引くのではなく《暗黒破/Darkblast》を発掘(!!)。しばしの長考の後「いいこと考えた」と言わんばかりの顔を見せ、クリーチャーをタップ。浅原がブロック・クリーチャーを指定しようとするのを制して、2発の《暗黒破》を《ワイアウッドの共生虫》と《本質の管理人》に。こうなるとシビディニのクリーチャーを防ぎきる手段もはや浅原にはなく、浅原はざっとカードを片付けた。
わずか5枚の手札でゲームを始めて、絶好調に飛ばしていたシビディニとこれだけの試合を見せたのだ。ゆめゆめエルフをあなどるなかれ。
シビディニ 1 - 浅原 0
Game 2
浅原は慎重に考えてから初手キープ。後攻のシビディニは大きくため息をつき、頭をかかえる。数秒虚空を見つめてから、キープを宣言した。
浅原は《イラクサの歩哨》から。エルフデッキでは初手に何か出せれば快調なのだ。シビディニもまた好調に飛ばしていくが、浅原とは別のゲームをしていた。《金属モックス/Chrome Mox》からマナを出して《不可思の一瞥/Glimpse the Unthinkable》を自分を対象にプレイ。
発掘デッキを使っていると知らなければ、《不可思の一瞥》で自殺しようとしているのかと思えるプレイだ。デッキの上から削れた10枚の中には、《ナルコメーバ》と《黄泉からの橋》、それに《臭い草のインプ/Stinkweed Imp》が顔を見せていた。
浅原は《イラクサの歩哨》《ワイアウッドの共生虫》と、着々と陣営をそろえていく。シビディニは彼の第2ターン、ドロー・ステップに《臭い草のインプ》を手札に戻して即座にプレイした。浅原は3枚目の土地を引けず、《ワイアウッドの養虫人》を場に出したものの活用することはできなかった。
シビディニはアンタップして、《ゴルガリの凶漢/Golgari Thug》を発掘(したら《ナルコメーバ》が場に出てきた)し、プレイしてターン終了。そして浅原の番だ。
《本質の管理人》を出すと、最後の《森》を使って《遺産のドルイド/Heritage Druid》をプレイ。これでマナが出るようになった浅原は《イラクサの歩哨》2枚を続けてプレイし、ここからは彼のターンだ。
《遺産のドルイド》の能力で《イラクサの歩哨》2体をタップしてマナを出すと、《ワイアウッドの共生虫》をプレイ。《遺産のドルイド》を手札に戻し、起きたばかりの《イラクサの歩哨》2体を使って再びプレイ、また戻してプレイ。これでライフとクリーチャーが増えていくことに。ターン終了時には大量の昆虫とエルフ、それにライフが彼の手の中にあった。
シビディニは返しのターン、《ゴルガリの墓トロール》を発掘し《戦慄の復活》から《魅力的な執政官》を、《ナルコメーバ》2体と《ゴルガリの凶漢》を生け贄に捧げて場に出す。
《黄泉からの橋》2枚のおかげで、シビディニは6体のゾンビを手にしていた。さらに8/8の《ゴルガリの墓トロール》を呼び出す。浅原は次のターン、再び同じことを繰り返した。マナを出し、クリーチャーをプレイし、昆虫を出し、ライフを得る。
シビディニの墓地にあった2枚目の《ゴルガリの墓トロール》が次のドロー・ステップに手札へ向かい、またも《ナルコメーバ》が出て、浅原のライフが1点増える。シビディニの指揮の下、大量のゾンビ軍団が浅原のエルフ・昆虫同盟軍に突っ込んでいく。
死闘の末、立っていたのはゾンビ1体と昆虫1体だけとなったが、エルフ・エンジンは傷つくことなく残っていた。次の《ゴルガリの墓トロール》が場に出たとき、8/8ではなく10/10になっていた。
次のターン、浅原はとんでもないことをし始めた。20枚のモンテという異常に複雑なゲームに挑んだのだ。彼のターンを完全に再現しようと思うとインターネット全部を使う羽目になりかねないので、ひとことで説明しよう。彼は100万点のマナを出し、100万体のクリーチャーをプレイし、100万点のライフを得て、100万体の昆虫を並べたのだ。(編注:ちょっと言い過ぎ。)
シビディニは3体目の《ゴルガリの墓トロール》を並べたが、浅原の繁殖速度には比ぶべくもなく、ただ膨大なライフの前に立ち尽くすだけだった。浅原は次のターン《鏡の精体》を使ってゲームを決める。この変わり身がクリーチャーをすべてエルフに変えたのだ。そして、《ワイアウッドの共生虫》を自身の能力で手札に戻すと、《イラクサの歩哨》と《遺産のドルイド》をタップしてマナを出し、再び《ワイアウッドの共生虫》を出し、その能力を使ってアンタップする。マナがある限りこれを繰り返すことが出来、終わったときには今度こそ本当に100万点のライフを手にしていた。このどうにもしようがない状況を見て、シビディニはゲームを投了、第3ゲームに賭けることにした。
シビディニ 1 - 浅原 1
Game 3
シビディニは第3ゲームを《金属モックス》から《留まらぬ発想/Ideas Unbound》でスタートさせる。
墓地に送ったのは《暗黒破》だけだが、これがスタートだ。発掘デッキは足場こそすべて。発掘カードが墓地にあるので、《留まらぬ発想》を使って《暗黒破》を手札に。続いて《臭い草のインプ》、《ゴルガリの墓トロール》を引いてくる。次のターン、彼の墓地はすでに20枚、《ナルコメーバ》が場にあった。相手がエルフでなければ、イカサマだと言っていい回りだった。
浅原は《イラクサの歩哨》を初手に出し、土地が《ペンデルヘイヴン/Pendelhaven》しかない状況で、《樺の知識のレインジャー》と《イラクサの歩哨》を使って《ワイアウッドの共生虫》を出す。
シビディニは手札に持っている《暗黒破》を使って昆虫を撃破。そして自分のターンにはそれを発掘して即座に使って《樺の知識のレインジャー》をも除去する。やることがなくなって、手札も空になったが、発掘デッキはそんなことは気にしない。彼はこの時点では役に立たない《ゴルガリの凶漢》を発掘し、プレイして《ナルコメーバ》で攻撃をしかけた。
毎ターン《イラクサの歩哨》で攻撃していた浅原だが、次の行動は文字通り爆発的なものだった。彼は土地1枚で《召喚士の契約》を放ち、《樺の知識のレインジャー》を呼び出す。それによって《イラクサの歩哨》と《遺産のドルイド》が場に並び、《自然との融和》をプレイしてデッキの流れが活発になった。カードを引き、マナを出し、クリーチャーを並べ、ライフを得るという一連の流れである。
2枚目の《自然との融和》をプレイすると、状況はさらに意味不明なものになる。ある時点では、彼は《イラクサの歩哨》4枚と《樺の知識のレインジャー》1枚、《ワイアウッドの養虫人》2枚に《ワイアウッドの共生虫》1枚、《遺産のドルイド》1枚、《本質の管理人》1枚、《ラノワールのエルフ》1枚、《エルフの幻想家》1枚、それに昆虫トークン7つという陣営をそろえていた。そして《鏡の精体》。
前のゲームと同じように、彼は無尽蔵のライフとマナを手にし、デッキをすべて引くことさえ可能になった。このターンの開始時には《ペンデルヘイヴン》1枚と《イラクサの歩哨》1体しかなかったのにである。私は言葉を失った。不幸なことに、その大軍団は召喚酔いだった。彼は残されたマナをすべて《鏡の精体》に流し込み、ターン開始時からそこにいた《イラクサの歩哨》1体で攻撃することしかできなかった。そしてシビディニにターンを渡す。
激しく天秤を揺るがせながら進んできたこのゲーム、どちらにも敗北の目はあった。《ゴルガリの凶漢》が墓地に送られると、シビディニは想起で使い捨てた《熟考漂い》を戻してくる。《ゴルガリの墓トロール》2体を発掘し、《戦慄の復活》を使って《ナルコメーバ》2体を場に出し、《熟考漂い》が墓地に行ったらゾンビが出るように《黄泉からの橋》を用意した。これで《魅力的な執政官》の準備は十分だ。
しかし、このターン、彼は浅原を倒せず、また浅原も彼を倒すことはできなかった。時間はとっくに過ぎており、これが追加の最終ターンだったのである。
シビディニ 1 - 浅原 1(最終)
Round 15 : 池田 剛(福岡) vs. 津村 健志(広島)
今シーズンの日本のトピックと言えば、高橋 優太(東京)の国内グランプリ2連覇や、グランプリ・岡山での三原 槙仁(千葉)の優勝を頂点とした千葉勢の活躍、そして、中村 修平(大阪)の活躍と、枚挙にいとまがない。
しかし、実は夏以降の池田 剛(福岡)のパフォーマンスも特筆に値するものだ。
グランプリ・神戸、グランプリ・岡山と初日全勝からトップ8入賞、そして、今回のこの世界選手権だ。
池田 「いやいや、ほんと、みなさんのおかげですよ。ほんと、ついてるだけです」
と、謙遜する池田。だが、言葉を続ける。
池田 「オレも10年やってるんだから、たまにはついてくれないと、ね」
対するは、津村 健志(広島)。
使用するデックは津村が日本勢最大勢力の青黒フェアリー。
池田のデックは、会場で「フェアリー殺し」と恐れられる親和だ。
池田 「今年、散々フェアリー殺してきたからね」
Game 1
先手の池田が1ターン目に《思考囲い/Thoughtseize》をキャスト。
津村は、土地4枚に《マナ漏出/Mana Leak》《祖先の幻視/Ancestral Vision》と《もみ消し/Stifle》という手札。
ここから池田は当然《祖先の幻視》をディスカードさせる。
池田 「これは、お前、すごい手札になったね。」
しかし、ドローした津村のファーストアクションは《祖先の幻視》。
池田は、頭を抱えつつも《電結の荒廃者/Arcbound Ravager》をキャストする。
池田 「ゆるせんね、それは...(待機が)明ける前に終わらせてやる」
続くターン。池田は《ちらつき蛾の生息地/Blinkmoth Nexus》をセットし《バネ葉の太鼓/Springleaf Drum》場をキャストする。これはカウンターされず、その後の《電結の働き手》もカウンター無し。
手札の《マナ漏出/Mana Leak》を使わせたい池田は《物読み/Thoughtcast》をキャストし、津村はこれに《マナ漏出》。
続くターンに、池田は《頭蓋囲い/Cranial Plating》をキャストする。津村は2枚目の《マナ漏出》。
池田は、とりあえず攻撃した後に《電結の荒廃者》の2体目をキャストする。
そして、2体の《電結の荒廃者》に《電結の働き手》、そして《ちらつき蛾の生息地》でアタックする。
津村は《電結の働き手》を《変わり谷/Mutavault》でブロック。ダメージスタック前に池田は《電結の荒廃者》の能力で《電結の働き手》をサクリファイス。そして《電結の働き手》自体の能力は《ちらつき蛾の生息地》に使用する。
さらに《バネ葉の太鼓》もサクリファイスして《電結の荒廃者》を両方とも2/2として6点のダメージを与える。
ここで、津村のライフは12。
なんとか《祖先の幻視》のとけた津村は《誘惑蒔き/Sower of Temptation》をキャスト。この能力の対象となった《電結の荒廃者》をサクリファイスし、そのすべてのカウンターを他方の《電結の荒廃者》に乗せようとする。
池田 「いい?」
津村の手札に《もみ消し》があることを池田は知っているのだ。
結果《電結の荒廃者》の能力は解決し、津村は温存した1マナで《呪文嵌め/Spell Snare》を《頭蓋囲い》に。
しかし、5/5の《電結の荒廃者》が止まらない。
津村は《変わり谷》のチャンプブロックで時間を稼ぐが、《マイアの処罰者/Myr Enforcer》も出てきてしまい、耐えきることができなかった。
池田 1-0 津村
Game 2
1ターン目からまたも《祖先の幻視》。そして、2ターン目は《苦花/Bitterblossom》という、なんだか懐かしいフェアリーA定食の津村。
対する池田も、1ターン目に《彩色の星/Chromatic Star》から、2ターン目に《頭蓋囲い》をキャストする。
3ターン目、津村は《苦花》からトークンを出し、カードをドローして...ターンを終了する。
池田 「土地が止まりましたね」
池田は《バネ葉の太鼓》をキャスト。これは《呪文づまりのスプライト》でカウンターされるが、続く《電結の荒廃者》を通すことには成功する。
一方の津村は、なおも土地2枚のまま。だが、池田も《羽ばたき飛行機械/Ornithopter》のキャストだけでターンを返す。
《祖先の幻視》の待機が明け、やっとこさ土地を手に入れた津村。対して、池田は《頭蓋囲い》の2枚目を装備させる。
このターンエンドに津村が《ヴェンディリオン三人衆/Vendilion Clique》をキャストすると、池田の手札が...《魂の火/Soul's Fire》。
危うく難を逃れた形となる。
池田は《頭蓋囲い》のひとつを《電結の荒廃者》に移し替え、2体で攻撃。津村は《羽ばたき飛行機械》は2体のトークンでのブロックで討ち取り《電結の荒廃者》はチャンプブロックをする。
そして、ついに《激浪の研究室/Riptide Laboratory》含めた5マナがそろった津村。
《電結の荒廃者》を《呪文づまりのスプライト》でブロックし、手札に戻す。続いて、勝負を決するべく、2枚目の《苦花》をキャスト。
池田は《思考囲い》をうつが、これは《呪文づまりのスプライト》。そして2枚目の《電結の荒廃者》は《呪文嵌め》されてしまう。
津村の《ヴェンディリオン三人衆》を《ちらつき蛾の生息地》でブロックし《電結の荒廃者》の能力で強化した池田だったが《呪文づまりのスプライト》と《激浪の研究室》の実質的なロック状態では、増え続けるフェアリートークンに対処する術はなかった。
池田 1-1 津村
Game 3
先手の池田は小考の後に《電結の働き手》をキャスト。続くターンに《バネ葉の太鼓》の餌とし黒マナを調達して《思考囲い》。
津村の手札は土地が1枚と《ヴェンディリオン三人衆》と《苦花》が2枚ずつに《呪文嵌め》《梅澤の十手》というもの。
池田はここから《梅澤の十手》をディスカードさせ、津村は《苦花》をキャストする。
池田は、さらに《電結の荒廃者》をキャストし、続くターンには《物読み》をキャストという、土地が1枚とは思えない展開。
この《物読み》で念願の土地を引き込んだ池田。
一方の津村は《彩色の星》を《呪文づまりのスプライト》でカウンターするものの、土地が見事に2枚のままだ。
ここで津村は、池田の《電結の荒廃者》を《呪文づまりのスプライト》を含む、3体のフェアリーでブロックする。池田は《電結の荒廃者》を守る為に、すべてのアーティファクト土地を失うこととなる。
この隙に短期決戦のダメージレースに持ち込むべく津村は2枚目の《苦花》をキャストする。
池田は《大焼炉/Great Furnace》をドローし《頭蓋囲い》をキャスト。一方の津村はまだ土地が引けない。
だが、池田も《頭蓋囲い》では、フェアリートークンのチャンプブロックを突破出来ない。
次第にだが、相当タイトなダメージレースが展開されはじめる。
手札が2枚の津村は《苦花》で2点ずつのダメージを受け続け、一方の池田は、フェアリートークンが行く手を阻み、津村のライフに干渉できない。津村はじわじわと攻撃していくトークンを増やしていきたい。
池田は土地が相変わらず2枚のままの津村の隙に乗じるべく《金属ガエル/Frogmite》を0マナでキャスト。津村は後のアクションへの警戒の為に、これをカウンターできない。
クリーチャーが3体になったことにより、津村のフェアリートークンは一時攻撃を停止する。
そして、土地を引けない津村のフェアリーが攻勢に転じることはなかった。
池田 2-1 津村
津村 「池田さん、絶対抜けてくださいよ!」
池田 「津村、お前も抜けろよ。もう一回やろ」
Round 16: 藤田 修(京都) vs. Ben Rubin(アメリカ)
本大会で殿堂入りしたプレイヤーの中で、Olivier Ruelをおさえ、一位の得票数を獲得したのがBen Rubin(アメリカ)だ。
プロツアー準優勝4回や、マスターズ2回制覇といった、華々しい成績を持つRubinだが、最近のプレイヤーには「プロツアー・ジュネーブで、数百キロタクシーで飛ばして会場に来た人」といった方が通りがいいかもしれない。
そんなRuibinだが、さすが「殿堂に入れてくれ」というアピールを散々にしてきただけあって、今もマジックへの情熱は厚く、今大会でも、4敗1分というぎりぎりのラインで奮戦している。
使用しているデックは、青単に主に《仕組まれた爆薬/Engineered Explosives》の為に色をちらしたデックだ。
対するのは、藤田 修(京都)
藤田 「上とあたったよ...5敗だからトップ8の目はないよ...」
という藤田。今大会ではトップ8入賞でレベルアップを狙え、なおかつここまでトップ8を十分に狙える位置にいただけに、かなり疲労した様子を見せている。
とはいえ、「殿堂プレイヤー」藤田 剛史(大阪)をのぞけば、中野 圭貴(大阪)とならび、数少ないグレイビーを守っている関西プレイヤー。
ここではぜひそのプレイの至高を味あわせていただこう。
Game 1
先手の藤田がダブルマリガンだが、Rubinもつきあうかのようにマリガン。
アンラッキーズの名前に嘘偽りのないスタートの藤田の初動は2ターン目の《潮の虚ろの漕ぎ手/Tidehollow Sculler》。《島》《激浪の研究室/Riptide Laboratory》《呪文づまりのスプライト/Spellstutter Sprite》《梅澤の十手/Umezawa's Jitte》に《不忠の糸/Threads of Disloyalty》2枚という手札から、藤田は《不忠の糸》をキャッチ。
そして、2枚目の《潮の虚ろの漕ぎ手》を続いてキャストし、さらに《不忠の糸》をキャッチする。手札に増えていたのは、もう一枚の《呪文づまりのスプライト》。Rubinはフェアリーの数を稼ぐ為に、藤田のターンエンドに《呪文づまりのスプライト》をキャストする。
藤田は《野生のナカティル/Wild Nacatl》をおとりに《梅澤の十手》を通すことに成功する。
完全に場を掌握した形の藤田。
Rubinは、X=2で《仕組まれた爆薬/Engineered Explosives》。
藤田 「ええぇぇぇ」
たしかに持っていなかった《仕組まれた爆薬》で大きくアドバンテージを取られ、なおかつ《不忠の糸》を2枚とも取り替えされてしまう藤田。
そして、Ruibinは《梅澤の十手》をキャストする。
藤田は《部族の炎/Tribal Flames》を本体にキャストし、ダメージで勝つプランを構築しつつ、《炎の印章/Seal of Fire》で《変わり谷/Mutavault》に《梅澤の十手》を装備するのを牽制する。
そんな藤田のプランを崩壊させたのは、Rubinのライブラリートップからふってきた、2枚目の《仕組まれた爆薬》。
Rubin 1-0 藤田
Game 2
今度は1ターン目に《野生のナカティル》という好調なスタートを決める藤田。
そして、2ターン目には《思考囲い/Thoughtseize》で《呪文嵌め/Spell Snare》《造物の学者、ヴェンセール/Venser, Shaper Savant》《呪文づまりのスプライト》《仕組まれた爆薬》《エレンドラ谷の大魔導師/Glen Elendra Archmage》《知識の渇望/Thirst for Knowledge》に土地が1枚という手札から、もちろん《仕組まれた爆薬》を捨てさせる。
そして、3/3の《野生のナカティル》でアタックし《密林の猿人/Kird Ape》を追加する。
Ruibinは、藤田にすでに見られているように、土地が2枚しかなく、追加の土地を引けない。
藤田はRubinのターンエンドに《稲妻のらせん/Lightning Helix》をキャストし、《呪文嵌め》を使わせた上で《潮の虚ろの漕ぎ手》をキャスト...とこれは色マナが足りずにキャスト出来ない。
いったんジャッジによる巻き戻しの裁定が入った上で《闇の腹心/Dark Confidant》をキャストする。
しかし《潮の虚ろの漕ぎ手》が場に出ていようが出ていなかろうが、追加の土地を引けないままのRubinには藤田のアニマルたちに対抗できないのだった。
Rubin 1-1 藤田
Game 3
1ターン目に《金属モックス/Chrome Mox》を使い、2マナを揃えるRubin。
対する藤田は、1ターン目に《血染めのぬかるみ/Bloodstained Mire》をセットし、小考する。
結果《血の墓所/Blood Crypt》をタップインで。そして、続くターンに《潮の虚ろの漕ぎ手》をキャストする。
Rubinは対応して《知識の渇望》をキャスト、《不忠の糸》《梅澤の十手》《呪文づまりのスプライト》《瞬間凍結/Flashfreeze》に土地という手札から、またも《不忠の糸》をキャッチする。
Ruibinは《呪文づまりのスプライト》と《瞬間凍結》を構える為に、2マナを残して《梅澤の十手》をキャストする。
このままではターン終了時にキャストされる《呪文づまりのスプライト》に《梅澤の十手》が装備され無双されてしまうのが明らかな藤田。しかし、手札には《古えの遺恨/Ancient Grudge》が握られており、これを《梅澤の十手》に打ち込み《瞬間凍結》を使わせつつ、フラッシュバックで《梅澤の十手》を打ち壊すことに成功する。
続くターンにキャストされる《モグの狂信者/Mogg Fanatic》。これを通してしまっては、結局《呪文づまりのスプライト》では何もカウンターできなくなってしまうのでRuibinは《呪文づまりのスプライト》をキャストする。
藤田は、能力解決前に《稲妻のらせん》を《呪文づまりのスプライト》に。場のフェアリーが0体になったので、無事《モグの狂信者》を通すことに成功する。
藤田はさらに《闇の腹心》《ブレンタンの炉の世話人/Burrenton Forge-Tender》と場に追加するのだが、ここでRuibinはお得意のX=2の《仕組まれた爆薬》を。
《不忠の糸》を取り戻すべく藤田は《潮の虚ろの漕ぎ手》をキャストするのだが、Ruibinの手札には2枚目の《仕組まれた爆薬》が。とりあえず《不忠の糸》をキャッチする藤田。
ここでドローして手札が2枚になったRubinがキャストしたのは、《仕組まれた爆薬》...ではなくて《エレンドラ谷の大魔導師》。
この《エレンドラ谷の大魔導師》は藤田の《モグの狂信者》と相打ちになるが、藤田は2枚目の《モグの狂信者》をキャストしRubinを牽制する。
ライフが9のRuibinは《潮の虚ろの漕ぎ手》に《仕組まれた爆薬》を使用。続く藤田の《ブレンタンの炉の世話人》のダメージを通して、残りが8。
Ruibinは《不忠の糸》を《闇の腹心》に使用するが、藤田も《モグの狂信者》で《エレンドラ谷の大魔導師》を除去しての《忘却の輪》で《闇の腹心》を取り戻す。
ここで藤田がほとんど盤面を掌握したのだが...Rubinは自分のターンに《変わり谷》を起動する。そして《梅澤の十手》をキャストして装備。当然アタック。
藤田は長考するが《変わり谷》と《闇の腹心》を相打つことを選択する。カウンターを取り除き、《ブレンタンの炉の世話人》を除去するRubinだが、十手を装備するべきクリーチャーがいない。
藤田は《密林の猿人》をキャストし、Rubinのライフを攻める。
Rubinは4枚の土地をタップする。
《撤廃/Repeal》。
《忘却の輪》が手札に戻され《不忠の糸》が場に戻る。Rubinは《密林の猿人》を奪い取り、これに《梅澤の十手》を装備する。
藤田は、手札に戻った《忘却の輪》を再キャスト。対象は《梅澤の十手》。これをRubinは《もみ消し》。あまりに強すぎるRubinのライブラリートップに、土地が伸びずに苦しんでいる藤田は、深く、そして大きくため息をつく。
そして、Rubinはカードをドローして《密林の猿人》で攻撃する。
藤田はライフを守るべく《台所の嫌がらせ屋》をキャスト。
《瞬間凍結》
Rubin 2-1 藤田
Round 17: 浅原 晃(神奈川) vs. Olivier Ruel(フランス)
世界選手権というのは、ひとつの壮大な物語である。
いや、世界選手権自体も、マジック:ザ・ギャザリングという壮大な物語の一部でしかないだろう。
そのどちらから見ても、この男の今大会での活躍はひとつの大きなメインプロットであると言えるだろう。
「最新殿堂プレイヤー」Olivier Ruel(フランス)。
2005年のPlayer of the Yearレースで、津村 健志(広島)に歴史に残る逆転をされてしまい、そのタイトルを逃したOlivier。
そのOlivierが、自身が殿堂入りしたメモリアルなこの世界選手権で、圧倒的な大差から、メモリアルな逆転劇を見せようとしている。
本年のPoYレースは、プロツアー・ハリウッドまでの中村 修平(大阪)のスタートダッシュで独走態勢にはいり、そして、サマーグランプリシーズンで一気にその点差は開いた。
ほぼ、中村で確定だろう。それが大方の意見であった。
しかし、Olivierは終盤一気に中村の点差を詰めていった。
中村 「この3ヶ月は、人生でもっとも生きた気がしない3ヶ月でしたよ」
中村にこう語らせるまで語らせるOlivierの快進撃。
そして、ついに、この世界選手権で、中村の成績次第ではあるものの、トップ4条件でPoYを獲得できるところまで点差を詰めることに成功したのだ。
現在Olivierは、4敗1分。ちょうどトップ8のラインピッタリであり、負けも引き分けも許されない。
対するは「歴史と伝統の男」浅原 晃(神奈川)。
Olivierが津村にまくられた、2005年の世界選手権でトップ4に入賞し、歴史と伝統となった男である。
果たして、Olivierは、新しい歴史と伝統の物語を紡ぎ出すことができるのか。
Game 1
先手の浅原が1ターン目に《ワイアウッドの共生虫/Wirewood Symbiote》をキャスト。一方のOlivierは《金属モックス/Chrome Mox》を置いて、2マナを確保する。
浅原の2ターン目のアクションは《エルフの幻想家/Elvish Visionary》。これと《ワイアウッドの共生虫》のドローエンジンが完成してしまうとゲームにならないので、Olivierは《燻し/Smother》で《ワイアウッドの共生虫》を除去する。そして、Olivierは《思考囲い/Thoughtseize》で《召喚の調べ/Chord of Calling》をディスカードさせる。
浅原は《ワイアウッドの養虫人/Wirewood Hivemaster》をキャストしたあとに《樺の知識のレインジャー/Birchlore Rangers》をキャストし、戦線を構築する。だが、それを許してもやっぱりゲームにならないので、Olivierは《ワイアウッドの養虫人》を《不忠の糸/Threads of Disloyalty》で奪い取る。
ここでOlivierがマナをフルタップしたことで、浅原は長考する。
《ワイアウッドの養虫人》をキャストし《召喚士の契約/Summoner's Pact》から《ワイアウッドの共生虫》をキャストする。
そして《ワイアウッドの共生虫》で手札に戻した《エルフの幻想家》でのドローが、2体目の《ワイアウッドの共生虫》。これにはOlivierは苦い顔をする。
といっても回答策がないわけではない。
OlivierのX=1《仕組まれた爆薬/Engineered Explosives》をキャストに対応して、浅原は《ワイアウッドの共生虫》の能力を起動し、《樺の知識のレインジャー》と《エルフの幻想家》を手札に戻す。
その間に、Olivierは《タルモゴイフ/Tarmogoyf》を追加。そして、浅原の《エルフの幻想家》キャストに対応して、《恐怖/Terror》を浅原の《ワイアウッドの養虫人》にキャストする。
これで、エルフによって一方的にクリーチャーを増やすことが可能になったOlivierは一気に攻撃に転じる。
浅原は、手札の《垣間見る自然/Glimpse of Nature》をキャストし、《イラクサの歩哨/Nettle Sentinel》をキャストすることで、手札を増やす。
そのドローが、またも《垣間見る自然》。
これをキャストし、ドローしてきたのが《遺産のドルイド/Heritage Druid》!
この《遺産のドルイド》キャストにはOlivierは一瞬敗北を覚悟した表情になるのだが、なんとここで浅原は土地と《威厳の魔力/Regal Force》しかドローできず、コンボがストップしてしまう。
Olivierのアタックで浅原のライフは5。
ここで《威厳の魔力》で一気に手札を増やし、浅原は《本質の管理人/Essence Warden》でライフを安全域まで回復させる。そして、Olivierの攻撃をブロックしたのちに《召喚の調べ》で《ワイアウッドの共生虫》をサーチし《エルフの幻想家》を手札に戻す。
この《エルフの幻想家》でドローしたカードが、なんと《垣間見る自然》。
これもやっぱりゲームにならない。
浅原 1-0 Olivier
Game 2
先手はOlivier。
1ターン目の《思考囲い》は《召喚の調べ》が2枚に《垣間見る自然》《エルフの幻想家》というもの。
これは当然の《垣間見る自然》ディスカード。
しかし、浅原の1ターン目のアクションがトップデックの《ワイアウッドの共生虫》。《死の印/Deathmark》で対応し、浅原の手札の《エルフの幻想家》を決して活用させない。
そして《壌土からの生命/Life from the Loam》とフェッチランドのエンジンを完成させる。
浅原も《召喚の調べ/Chord of Calling》で《ワイアウッドの共生虫》をサーチしてみたりはするものの、Olivierはここでもきっちり《燻し/Smother》を握りしめており、今度は《エルフの幻想家》を除去する。
このいたちごっこはまだ続く。
浅原はまたも《エルフの幻想家》。そして、今度はOlivierは《不忠の糸》で《ワイアウッドの共生虫》を。
この《不忠の糸》に対応して手札に《エルフの幻想家》を戻した浅原。そして、続く自身のターンのドローが《垣間見る自然》。
《エルフの幻想家》《イラクサの歩哨》《ワイアウッドの共生虫》を場に並べると、Olivierは《不忠の糸》を再び《ワイアウッドの共生虫》へ。
戦闘によって一度場が平らになった後、浅原は《垣間見る自然》からのコンボを始動する。
《イラクサの歩哨》《遺産のドルイド》と続々とコンボパーツがそろいだし、マナとクリーチャーがどんどんとふくらみ続ける。
その手順の中で、浅原は《樺の知識のレインジャー》の能力で赤マナを生み出す。
Olivier “Red?”
続いて白マナも。
《領土を滅ぼすもの/Realm Razer》。
殿堂プレイヤーは、歴史と伝統の男に笑顔で手をさしのべた。
浅原 2-0 Olivier
中村 「浅原さんには食事をおごらないといけないですね」
この時点で、Olivierにはトップ8の可能性が完全になくなり、一応は暫定であるものの、中村はPlayer of the Yearの座をほぼ確定のものとした。
Olivierの、そして中村の物語での浅原の役割はこれで終わりである。
今度は浅原自身の物語の為に、トップ8のかかった最終戦に臨む。
Photo Essay Round 17 : 大礒 正嗣(広島) vs. 津村 健志(広島)
さきほどの第14回戦の記事にて、「もっとも尊敬を集めている日本人プレイヤー」「もっとも人気のあるプレイヤー」というトピックをご紹介した。
そして、その当事者二人、大礒 正嗣と津村 健志が、世界選手権決勝ラウンドを賭けた戦いをマッチメイクされ、フィーチャーマッチへと招待された。当然、数多くの観衆とレポーター、さらにビデオカメラまでもが試合の行方を追うことになった。
もはや様々なフォーマットで「おなかいっぱい」と言われているフェアリーのミラーマッチとなるが、飽き飽きした料理でも達人級のシェフの手による作品ならば話がちがう!
・・・はずだったのだが。
どちらの試合も肝心のマナベースの構築で大礒が遅れをとってしまい、「呪文を打ち消す」《エレンドラ谷の大魔導師/Glen Elendra Archmage》を《激浪の研究室/Riptide Laboratory》とともに展開できた津村がそのままフィニッシュというゲームが続いてしまうのだった。
大礒 0-2 津村
津村 健志、勝てばベストエイト確定(引き分けてタイブレイカーの見込み)というポジションで最終戦へ。
Round 18 : 浅原 晃(神奈川) vs. Luiz Guilherme De Michielli(ブラジル)
3年前も、浅原 晃(神奈川)はこの席に座っていた。
世界選手権トップ8をかけたこの席に。
今年の相手は、Craig Krempels(アメリカ)ではなく、Luiz Guilherme De Michielli(ブラジル)。
Game 1
浅原はマリガン。
Michielliは《カラスの罪/Raven's Crime》。これで浅原は《森》を捨てる。
続くターンに浅原は《垣間見る自然/Glimpse of Nature》から《本質の管理人/Essence Warden》《エルフの幻想家/Elvish Visionary》とキャストし、手札を大幅に増やす。
この返しでMichielliはX=1で《死の雲/Death Cloud》。
浅原は《本質の管理人》をサクリファイスし《ワイアウッドの養虫人/Wirewood Hivemaster》をディスカードする。
浅原は手札に残していたもう一枚の《ワイアウッドの養虫人》をキャストし《イラクサの歩哨/Nettle Sentinel》《樺の知識のレインジャー/Birchlore Rangers》と続ける事で、一気にパーマネントを増大させる。
これに対して、Michielliは《ワイアウッドの養虫人》に《燻し/Smother》を打ち込むことしかできない。
追加の土地を引けず、アクションのとれないMichielliを、浅原のエルフと虫軍団が蹂躙する。
浅原 1-0 Michielli
Game 2
先手はMichielli。
1ターン目は《沼》を置くのみのMichielliに対して、浅原は《イラクサの歩哨》をキャストする。続けて、《エルフの幻想家》をキャスト。
この時点で浅原の手札には《垣間見る自然》と《召喚士の契約/Summoner's Pact》があり、このまま何もなければコンボスタートできる手札の状況だ。
しかし、浅原の《エルフの幻想家》に《暗黒破》が打ち込まれることで、話が変わる。MichielliがX=1で《仕組まれた爆薬》をキャストしたことで、もっと話が変わる。
浅原は手札にあふれる《垣間見る自然》を1枚使用し《遺産のドルイド》をキャストすることで、ドローを進め、状況変化を求めるが、しかし、何もひかない。
そのうちに、Michielliは《壌土からの生命》とサイクリングランドによるエンジンを完成させる。Olivierの時のフェッチランドといい、本当に色々な土地とエンジンを形成する呪文だ。
浅原は淡々と《イラクサの歩哨》でダメージを積み重ねる。
そして、《垣間見る自然》を2発うち《ワイアウッドの養虫人》《ラノワールのエルフ》と並べることで、一気に手札を充実させる。
Michielliは《暗黒破》と《仕組まれた爆薬》で一度浅原の場をリセットし《壌土からの生命》で回収した土地をつかって《カラスの罪》を連打する。
これで手札が完全になくなった浅原は、《野生語りのガラク/Garruk Wildspeaker》をみて投了する。
浅原 1-1 Michielli
Game 3
先手の浅原は、1ターン目に《樺の知識のレインジャー》。
たいして、Michielliは、1ターン目からX=1で《仕組まれた爆薬》を設置する。
浅原の2ターン目のアクションは、《ワイアウッドの養虫人》。そして《樺の知識のレインジャー/Birchlore Rangers》からマナをだして、《ワイアウッドの共生虫/Wirewood Symbiote》をキャストする。
これでMichielliが《仕組まれた爆薬》の為にマナを使ってくれれば《樺の知識のレインジャー/Birchlore Rangers》は手札に戻せるので、悪くない取引だ。
Michielliはマナを残してターンを終了する。
浅原は2体目の《ワイアウッドの養虫人》。そして《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves》で一気に虫トークンを3枚並べる。
ここ、《仕組まれた爆薬/Engineered Explosives》を使用し、《思考囲い/Thoughtseize》で手札を確認するMichielli。浅原の手札は2枚の《樺の知識のレインジャー》と《垣間見る自然》。ここからは当然《垣間見る自然》をディスカードさせる。
浅原は、ドローしてきた《遺産のドルイド》も含めて3体のエルフを並べ、一気にトークンを9体にまで増やし、次のターンのアタックで勝利できる体勢を整える浅原。
しかし、MichielliもここでX=0の《仕組まれた爆薬》キャスト。そして起動。
浅原の続くターンのドローが《召喚の調べ/Chord of Calling》。
これの招集用に4体のクリーチャーを残して、Michielliのライフを削る。
そして、浅原が《召喚の調べ》によって《鏡の精体》をサーチすると、浅原は、自身2度目のプロツアー、そして世界選手権の日曜日進出を決定したのだ。
浅原 2-1 Michielli
浅原 晃は、歴史と伝統を愛す。
そして、浅原 晃は歴史と伝統を、自身の手で紡いでいく。
3年前と同じように。
Saturday 20:15 : Feature Article - 重原「SGGK」聡紀インタビュー
「SGGK」という文字列に見覚えはないだろうか?
じゃあ「tori3」は?
このふたつの文字列に共通する事項をご存じだろうか?
それはMagic Onlineで開催された「世界選手権予選」の優勝者のアカウントだと言うことだ。
恐ろしいほどの人数でおこなわれるオンライン上の世界選手権予選。しかも、予選通過者はたったの1名。
たとえば、今年のMagic Online世界選手権予選では浅原 晃(神奈川)が参加したものの、トップ8で敗退したという、この最高に狭い門をくぐり抜けたプレイヤーのアカウントだ。
是非とも、記憶の片隅にとどめておいていただきたい。
そうそう、もうひとつ共通点があった。
それは、どちらも重原 聡紀(山口)のアカウントだということだ。
-- 「お名前と年齢、ご職業を教えていただけますか」
重原 「重原 聡紀。22才。会社員です」
-- 「tori3で予選を突破されたのは、2004年でしたよね。あのころはまあ学生だった
と記憶しておりますが」
重原 「そうですね」
-- 「やはり、当時とは状況が違いますか?」
重原 「そりゃ、もう。一番大変だったのは、休みを取ることですね、やっぱ。最初、私用で休みくださいっていったら、私用じゃ駄目だよ...って話になりまして」
-- 「大変じゃないですか!どうしたんですか?」
重原 「正直に話したんです。マジックっていうゲームの世界選手権に招待されたんだって。そうしたら、「じゃあ、がんばってきなよ」って」
-- 「ずいぶん協力的な会社ですね」
重原 「助かりましたよ。その分、12月はいってからの仕事が大変でしたが...2004年の時は9月くらいにおこなわれてたんですけど、その時期だったらまだ楽だったかもですね。会社員に12月は厳しいですよ...」
■MO予選を抜けるコツ
-- 「さて、重原さんは激戦区のMO予選を2度も抜けられてるわけなんですが、なにかコツみたいなものはありますか?」
重原 「コツですか...一番重要なのは、直前にMOの構築8人トーナメントに出まくることですね。予選に参加する人たちもみんなそこで調整しているので、メタゲームが肌で実感できます」
-- 「なるほど」
重原 「今回は、8人構築が何回やってもフェアリーばっかりに当たったので、相性のいい赤単でいったって感じですね」
-- 「ちなみに、MO予選は相当長時間にわたっておこなわれますが...」
重原 「はい。正直言ってきついですよ。14時間も連続でクリックミスすら許されないんですから...真夜中ですしね」
-- 「一番必要なのは、その戦いを勝ち抜く精神力ですね」
■世界選手権に向けて
-- 「世界選手権への調整はどうでしたか」
重原 「先ほども言ったように、休みを取る為に忙しかったので、練習に時間があまりとれなかったんですよね...スタンダードはもっぱらMOでの練習でしたね」
-- 「リミテッドもやはりMOで?」
重原 「いや、ドラフトは、やっぱり、実物のカードによる感覚を身につけたかったので、実際のカードを使って練習しましたよ、福岡まで行って」
-- 「福岡ですか?」
重原 「はい。近所にカードショップないんですよ。だから、たとえばFNMとかに参加しようと思っても、往復で3000円交通費かけないと行けないんですよ...」
-- 「それでは普段は基本的にMOでマジック、って感じですか」
重原 「プレミアイベントだけ遠征する感じですね」
-- 「エクステンデッドはどうでしたか?」
重原 「いや、本当にまったく時間をとれませんでした。今回は平林(和哉)さんの力をかなり借りましたね」
-- 「平林さんですか?」
重原 「はい。前回世界選手権に出たときに、色々な人と交流できて。そのときに知り合ったひとりが平林さんなんですよ。平林さんは非常に理論的にアドバイスをしてくださるので参考になります」
■世界選手権の感想
-- 「世界選手権に2回参加しての感想はいかがですか?」
重原 「正直、アメリカは遠いです。社会人になって実感しましたけど、もっと近くでやってほしいですよ」
-- 「休みを取れるか取れないかが重要だと」
重原 「はい。とにかく、どこででもいいので、マジックがやりたいんです。実際の人間とのマジックはやっぱり楽しいです」
-- 「世界選手権だと、いろいろな国の人と交流できますしね」
重原 「はい。人によってはピリピリしてたりしますけど、それも含めて結構楽しくやってます。本当は一度プロツアーでてみたいんですけど...その前に2回目の世界選手権に参加することになっちゃいましたね」
-- 「非常に特殊なプロフィールですよね」
重原 「ですよね。でも、今後もやれる限りはマジックを続けていきたいと思ってます。来年は、MO予選じゃなくて世界選手権に招待されるようなプレイヤー目指したいですよ」
-- 「まずは「近い」プロツアーである、京都がありますね」
重原 「今日の成績次第では権利を獲得できたんですけどね...まぁ、エクステンデッドはやっていなかったので仕方ないです」
インタビューの後、最後に「SGGK」はこう付け加えた。
重原 「でも、PTQぬけてでも、京都には行きますよ!」
Saturday 22:22 :Feature Article - 八十岡×川崎のエクステンデッドウォッチング
八十岡 「なんか変なタイトルの記事になってるけど、エクテンの話までなんできかれるの?」
川崎 「そういうと思ってましたよ。というわけで、ゲストとして、日本人で6-0の成績を残した方を呼んでいます」
Name | Prefecture | Day 1 | First Result | Second Result | Extended Deck | Deck Designer | Result | Total |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
津村 健志 | 広島 | 12 | 6 | 9 | 青黒フェアリー | 高橋 優太 | 15 | 42 |
池田 剛 | 福岡 | 15 | 9 | 6 | 親和 | 藤田 剛史 | 10 | 40 |
浅原 晃 | 神奈川 | 18 | 6 | 3 | エルフ | 佐々木 将人 | 15 | 40 |
大塚 高太郎 | 神奈川 | 15 | 3 | 9 | 青黒フェアリー | 高橋 優太 | 10 | 37 |
大礒 正嗣 | 広島 | 18 | 6 | 6 | 青黒フェアリー | 高橋 優太 | 6 | 36 |
中野 圭貴 | 大阪 | 12 | 6 | 9 | Suicide Zoo | 藤田 剛史 | 9 | 36 |
藤田 修 | 大阪 | 12 | 6 | 9 | Suiside Zoo | 藤田 剛史 | 9 | 36 |
渡辺 雄也 | 神奈川 | 12 | 6 | 6 | 青黒フェアリー | 高橋 優太 | 10 | 34 |
栗原 伸豪 | 東京 | 12 | 3 | 6 | 青黒フェアリー | 高橋 優太 | 13 | 34 |
重原 聡紀 | 山口 | 12 | 6 | 6 | Zoo | 平林 和哉 | 9 | 33 |
北山 雅也 | 神奈川 | 12 | 0 | 3 | 青黒フェアリー | 有留 知広 | 18 | 33 |
彌永 淳也 | 東京 | 15 | 6 | 6 | 青黒トロン | 八十岡 翔太 | 7 | 31 |
高桑 祥広 | 神奈川 | 12 | 0 | 6 | 青黒フェアリー | 高橋 優太 | 12 | 30 |
三原 槙仁 | 千葉 | 6 | 9 | 3 | エルフ | 三原 槙仁 | 12 | 30 |
中村 修平 | 大阪 | 9 | 0 | 6 | 青黒フェアリー | 渡辺 雄也 | 15 | 30 |
小室 修 | 東京 | 9 | 6 | 6 | 青黒フェアリー | 高橋 優太 | 7 | 28 |
高橋 優太 | 東京 | 9 | 6 | 3 | 青黒トロン | 八十岡 翔太 | 9 | 27 |
中島 主税 | 神奈川 | 11 | 3 | 6 | Zoo | 佐々木 将人 | 5 | 25 |
八十岡 翔太 | 神奈川 | 9 | 3 | 3 | 青黒トロン | 八十岡 翔太 | 6 | 21 |
森 勝洋 | 大阪 | 12 | 3 | 6 | 発掘 | 小池 貴之 | 0 | 21 |
金子 真実 | 埼玉 | 9 | 3 | 0 | 青黒フェアリー | 有留 知広 | 6 | 15 |
三田村 和弥 | 千葉 | 12 | 3 | - | Drop | |||
小池 貴之 | 栃木 | 3 | 9 | 3 | Drop | |||
齋藤 友晴 | 東京 | 6 | 3 | 0 | Drop | |||
平林 和哉 | 神奈川 | 3 | 3 | 0 | Drop |
川崎 「昨年の日本チャンピオン、北山 雅也(神奈川)さんです」
八十岡 「あ、雅也、全勝なんだ?」
川崎 「というわけで、北山さん、よろしくお願いいたします」
北山 「どうでもいいですけど、なんで外なんですか」
川崎 「トップ8写真を撮るついでにとってもらってるからです。いつもネタ写真につきあってるほど、Craig(プロツアーの写真でおなじみの天才カメラマン)もヒマじゃないんですよ」
八十岡 「さむい...」
■青黒フェアリー
川崎 「北山さんは青黒フェアリーだったわけですけど、青黒フェアリーはどうでしたか?」
北山 「ルー君(有留 知広(神奈川))は神!」
川崎 「あぁ、有留さんのデックにインスパイアされたデックでしたっけ、そういえば。ちなみに、どんなデックに当たりましたか?」
北山 「Zooが2回に、エルフ・スワンプラズマ・ストームの3つのコンボ、あと赤単バーンでした」
八十岡 「スワン・プラズマっていうのは、《ブリン・アーゴルの白鳥/Swans of Bryn Argoll》と《プラズマの連鎖/Chain of Plasma》のコンボで一気に手札をふやして《燃焼/Conflagrate》のフラッシュバックなんかでとどめをさすデッキだね」
北山 「結構色々なデッキにあたりましたね...Zooは先手後手が重要だったりしますけど、結構楽に戦える相手なのでよかったです。体感的には相当多くいた気がしますし」
川崎 「藤田さんと、中野さんは「エクテン難しい!でも楽しい!」って軽いトランス状態になってましたね」
八十岡 「中島さんは、1-3-2っていう成績だけど、これはプロポイント確保の為に、2回IDしてるからあまり参考にならないかもしれないね」
川崎 「メインボードは青単で、サイドボードから《苦花/Bitterblossom》が入ってくる、っていうのが今回の日本勢の使用したフェアリーの特徴だったわけですけど、どうでしたか、この戦略は?」
北山 「いや、うーん...《苦花/Bitterblossom》いるのかなぁ、ってちょっと思いましたけどね。青単でもよかったかも」
川崎 「そのへん、どうですか「青黒の化身」としては」
八十岡 「青黒の土地は強いから、置くだけで相手が黒いカードを警戒してくれる。だから青黒は強い!」
北山 「あぁ、でも土地が強いって言うのは一理ありますね。《窒息/Choke》にも耐性があがりますし」
八十岡 「でもやり過ぎると《月の大魔術師/Magus of the Moon》が...」
北山 「そう...《窒息/Choke》対策に《島/Island》減らしたばかりなのに、今日やられましたよ...」
川崎 「ちなみに、実際のブレイクダウンではそこまで多くはありませんでしたが、一応のトップメタであるエルフには、さすが対策デックだけあって楽勝でしたか」
北山 「スイスラウンドでは楽勝だったんですけどね...」
八十岡 「まっきー(三原)の?」
北山 「うん...三原さんのエルフにはサイド後何回やってもかてんかった...」
川崎 「なんか特別なカード入ってるんですか?」
北山 「《炎の鞭/Fire Whip》が...」
川崎 「《炎の鞭》?!」
北山 「あれはかなり厳しかったです」
八十岡 「日本はフェアリーがさらに増える可能性が高いから、エルフのサイドには必須になるかもね」
■青黒トロン
川崎 「八十岡・高橋・彌永と、関東の誇る技巧派3巨頭が持ち込んだ八十岡さんの青黒トロンですが、どうでしたか?」
八十岡 「予想通り、フルバーンがきつかった...なんかこの辺のラインにフルバーンが多くて、4回踏んだんだよね」
北山 「ヤソ、Finkelとあたってたでしょ」
八十岡 「うんうん。1本目勝ったところで、デッキチェックが入って。待ってる間Finkelのもってたエアホッケーみたいな電子ゲームでFinkelと対戦しまくって、ほとんど勝ったんだけど、その分、残り2本ブン回りされた...」
川崎 「まぁ、それくらいしかエピソードのないデックってことですね...」
北山 「うっかりバーンさえ踏まなければちゃんと強いデッキですよ!」
■親和
川崎 「次に、親和ですけど...直接池田さんにきいてみましょう。池田さん、親和はどうでしたか?」
池田 「予想通り、フェアリーを最高においしく食べれたね!」
川崎 「さすが、静岡からフェアリーメタデックを使い続けている池田さんですね」
池田 「対策も相当されてなかったしね。まぁ、でも、なんというか、負けるときは負けるし、今日はプレイングミスしたりしてたね。もう、思い出すのも恥ずかしい」
川崎 「そこを思い出してもらっていいですか」
池田 「まぁ、いいよ。たしかPaulo Vitor Da Rosaとの対戦で、PauloがZooだったんだけど、地上にクリーチャーが並びまくって、もう、攻撃通らなくなっちゃったんだよね」
北山 「あー、それは厳しいですよね」
池田 「で、手札に《羽ばたき飛行機械/Ornithopter》があって、これに《頭蓋囲い/Cranial Plating》つけて殴るプランくらいしかないなっておもって...そのままエンドしちゃったんだ」
八十岡 「まさか...」
池田 「まさかの《潮の虚ろの漕ぎ手/Tidehollow Sculler》!」
川崎 「《羽ばたき飛行機械》キャッチされましたか」
池田 「されたね。で、まぁ、でもどうせ《頭蓋囲い/Cranial Plating》ひかなきゃ関係ないし、どうせ負けてただろって、殴られて最後のターンのドローが...《頭蓋囲い》!で、アーティファクトの数を数えてみると...」
八十岡 「足りてたー」
池田 「なんてミスもあったけど、最近はミスをひきずったり、流したりしない用にしようと思ってるんだよね」
川崎 「是非、明日もがんばってください」
■で、エルフは?
八十岡 「池田さんの親和なんかがいい例なんだけど、エルフがメインのメタになって対策されることで、対策カードを割ききれなくて、親和とか、あとモリカツの発掘みたいなデッキに可能性が出てくるっていうのはむしろ健全なメタゲームだと思うよ」
北山 「今回で、対策さえすれば、エルフもそんなに恐くないってわかったしね」
川崎 「プロツアー・ベルリンでのエルフの躍進は、やはり、知られていなかったアドバンテージが大きかったと」
八十岡 「うん。それがアレだけ目立って、みんなに知られたことで、バランスがとれた、って感じだね」
北山 「プロツアーであんだけ勝ったけど、今回の世界選手権の結果を見る限りでは、エルフ関係の禁止カードは結局でないんじゃないかって予想しますけどね」
川崎 「親和エルフを使う人には正直別のデッキを使ってほしいって感じですか、八十岡さん?」
八十岡 「いや、エルフが減ってエルフをメタったデッキが減ると青黒トロン勝てなくなるんで困るんで!」
川崎 「そういや、そんなエルフでトップ8に入賞した人がそこをぷらぷら歩いてますよ」
浅原 「でぃーす」
川崎 「エルフはどうでしたか?」
浅原 「エルフは神!」
川崎 「なんかよかったカードはありますか?」
浅原 「まぁ 《鏡の精体/Mirror Entity》 とか 超 神 だし うける」
川崎 「そんな携帯小説みたいじゃなくて、普通に喋ってくださいよ」
八十岡 「《鏡の精体/Mirror Entity》は本当によかったんだと思うよ、相当勝ってるし」
北山 「たぶん、原型は平林さんと大塚くんの調整してた「殴るエルフ」かな...コンボよりもクリーチャー並べてビートするのに重視したタイプの」
八十岡 「そのタイプだと《鏡の精体》強いんだよね。一応、《ワイアウッドの共生虫》との無限っぽいコンボもあるし」
川崎 「なるほど。一見ジャージなエルフでも、心はタキシードだったというわけですね。」
北山 「そういえば...このメンツってもしかして...」
川崎 「あ、たしかに、グランプリ・浜松を準優勝したときの、スターダストクルセーダーズのメンツですね。せっかくですし、浅原さんのトップ8祝いもかねて記念写真でもとっておきますか?」
八十岡 「Craig、ヒマじゃないんじゃなかったの?」
Craig ”OK Com’on!”
Photo Essay Round 18 : 津村 健志(広島) vs. Hannes Kerem(エストニア)
「遠くで針が地面に落ちた音にさえ気づく」という喩えがある。
もしも今ここにいる津村 健志というプレイヤーがそうだと言われれば、おそらく私はそれを信じるだろう。それくらい、おそろしいほど静かで、淡々としていて、堂々としていて、集中している。
はたして、明鏡止水の境地とやらにたどりついた人はどうなるのだろう。
私がそんなとりとめないことを考えているうちに、二人は三日間を締め括るための戦いをはじめた。
Game 1
エストニアからやってきたケレムは、ここで負けてもおそらくベスト8確実だろうという素晴らしい成績で勝ちあがっている。2007年、イスラエルからやってきた無名のユーリ・ペレグという若者が一躍ニューヨークの地でスターダムにのしあがったように、エストニアの新鋭がここメンフィスでの大きな成功をおさめる可能性も小さくはない。
「エルフ!」デッキを相棒に勝ちあがってきたケレムは、マジック界がほこるスーパースターを前に、その果敢なるプレイスキルと新鋭ならではの意気軒昂なるドローとを見せつけた。
先手1ターン目に《イラクサの歩哨/Nettle Sentinel》。次の《エルフの幻想家/Elvish Visionary》こそ津村に《呪文嵌め/Spell Snare》されてしまうものの、3ターン目には《ペンデルヘイヴン/Pendelhaven》を置きながら《エルフの幻想家/Elvish Visionary》を召喚し、カードを1枚引く。4ターン目の《垣間見る自然/Glimpse of Nature》を《呪文づまりのスプライト/Spellstutter Sprite》で打ち消し、さらに《祖先の幻視/Ancestral Vision》を待機させてから《ヴェンディリオン三人衆/Vendilion Clique》で手札を覗きこみにかかる津村だったが・・・ケレムの手札はクリーチャーが満載されていた。
津村に目撃されてしまった3枚のクリーチャー、すなわち《本質の管理人/Essence Warden》2体と《イラクサの歩哨/Nettle Sentinel》を一気に戦線に加えて攻勢にうつるケレム。《ペンデルヘイヴン/Pendelhaven》によるバックアップが、若きエストニアのホープの側に一方的に有利な戦闘を演出する。
さらに《遺産のドルイド/Heritage Druid》を陣容に加えたケレムは、果敢な突撃を観衆に披露した。2体ずつの《イラクサの歩哨/Nettle Sentinel》と《本質の管理人/Essence Warden》、《エルフの幻想家/Elvish Visionary》、5体をレッドゾーンに!
いかに津村 健志がクリーチャー戦闘の名手であるとはいえ、物量に勝るウィニー軍団をバックアップする《ペンデルヘイヴン/Pendelhaven》にはなすすべもなかった。
ケレム 1-0 津村
ところで、一本目を取ったケレムの発した第一声はこうだった。
ケレム 「・・・まだ、引き分けにしてもいいよ?」
ケレムが極度の緊張状態にあることもまた、おそらく事実だった。アンタップステップに《イラクサの歩哨/Nettle Sentinel》をアンタップしようとして津村とジャッジに制止されるシーンもあった第1ゲームだった。
逆説的に言えば、そんな些細なミスなどまったく気にならないほど、ケレムがプレイするマジック:ザ・ギャザリングは充実しているのかもしれない。しかし、明確にケレムはマッチを継続せずにインテンショナル・ドロー(※合意の上での引き分け)に持ち込むことをのぞんでいた。
今思えば、あまりに静かな闘志をみなぎらせた津村 健志の逆転劇の予感を、ケレムは感じ取っていたのかもしれない。
淡々とサイドボードを入れ替え、デッキをシャッフルし、津村は対戦相手に差し出した。
ケレムの申し出に対する、津村の無言の回答だった。
Game 2
いつもは太陽のような笑顔が魅力的な津村 健志が、氷のような無表情で、ライフの変動以外のすべての決定事項を淡々としたジェスチャーによってエストニアのライバルへと伝達しようとしていた。
ケレムはいくぶん青ざめた表情でマリガンを選択し、6枚をキープしたものの、《樹木茂る山麓/Wooded Foothills》からフェッチした《森/Forest》だけで土地がしばらく止まってしまうという不運に見舞われた。
マナがないために1ターンに1枚ずつしか脅威を展開できないケレムは、第1ターンの《イラクサの歩哨/Nettle Sentinel》こそ召喚できたものの、続く2体目を《マナ漏出/Mana Leak》で打ち消され、なんとか後続に《本質の管理人/Essence Warden》を登場させたと思ったところで、津村の《誘惑蒔き/Sower of Temptation》にさきほどの《イラクサの歩哨/Nettle Sentinel》を奪われてしまうという事態に陥った。
それでもケレムは《ワイアウッドの共生虫/Wirewood Symbiote》を盤面に追加するが、その次の《エルフの幻想家/Elvish Visionary》は《呪文嵌め/Spell Snare》でカウンターされてしまう。
津村は《祖先の幻視/Ancestral Vision》を「待機」してから、冷静に上空から一撃をみまい、《誘惑蒔き/Sower of Temptation》を《激浪の研究室/Riptide Laboratory》でバウンスしてからケレムの《ワイアウッドの共生虫/Wirewood Symbiote》を奪い取るというプレイを行った。
津村は《ワイアウッドの養虫人/Wirewood Hivemaster》を《呪文嵌め/Spell Snare》し、さらに相手のエンドステップに《ヴェンディリオン三人衆/Vendilion Clique》をプレイして自分の手札を整理しながら航空戦力を拡充した。
次々と「待機」を終えて効果を発揮する《祖先の幻視/Ancestral Vision》が津村の手札に新鮮なドローを供給し、《誘惑蒔き/Sower of Temptation》の二枚目が《本質の管理人/Essence Warden》を奪い、《呪文づまりのスプライト/Spellstutter Sprite》で《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves》を打ち消す。的確なブロックでライフをしっかりと守りながら、確実に津村は勝利を見据えていた。
《激浪の研究室/Riptide Laboratory》によるリサイクル・システムが完成しつつある中、盤面に《ヴェンディリオン三人衆/Vendilion Clique》と《エレンドラ谷の大魔導師/Glen Elendra Archmage》が追加された。
ケレムは《召喚の調べ/Chord of Calling》をX=4でプレイしてライブラリーをまさぐりながら色々と善後策を講じようとした。しかし、結論は投了宣言だった。
ケレム 1-1 津村
Game 3
観客はなにかを予感しはじめていたようだ。
津村の少し後方の、一般観客席に座って私は取材を行っていたのだが、やたらと床をストンプしてみたり、貧乏ゆすりをしてみたりするギャラリーが増えてきた。大逆転勝利で「みんなのケンジ」がベスト8に進出できるかもしれない、そう感じ、期待している者も少なくなさそうだった。
またしてもマリガンを余儀なくされたケレムは6枚の初手から第1ターンに《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves》を召喚し、続くターンには《梅澤の十手/Umezawa's Jitte》をプレイし、《ラノワール》にまとわせて攻撃宣言を行った。静かに土地を並べているだけだった津村がここで《呪文づまりのスプライト/Spellstutter Sprite》を召喚してエルフをブロックし、装備品にカウンターがのってしまったものの、相討ちをとることに成功した。津村は《変わり谷/Mutavault》をセットしてから《祖先の幻視/Ancestral Vision》待機のみでターンを返す。
ケレムは《樺の知識のレインジャー/Birchlore Rangers》に《梅澤の十手/Umezawa's Jitte》をまとわせてのアタックで津村のライフを削り落としていくが、津村もまた《仕組まれた疫病/Engineered Plague》で《十手》に対処。ケレムはレスポンスでライフ回復のためにカウンターを使用した。
反撃にうってでたい津村はケレムの陣営にただ一体残ったクリーチャーを《誘惑蒔き/Sower of Temptation》で奪いにかかるが、ケレムも《召喚の調べ/Chord of Calling》でのレスポンスから《ワイアウッドの共生虫/Wirewood Symbiote》を展開。レインジャーをバウンスして対処する。津村は静かに《祖先の幻視/Ancestral Vision》を待機してターンを返した。
ケレムは《樺の知識のレインジャー/Birchlore Rangers》再召喚と《ガドック・ティーグ/Gaddock Teeg》のプレイでターンを返し、津村はもう一体の《誘惑蒔き/Sower of Temptation》で《ワイアウッドの共生虫/Wirewood Symbiote》を奪った。
二枚の《誘惑蒔き/Sower of Temptation》が使われたのを見て、自軍に残ったすべてのクリーチャーを生贄に《マイコロス/Mycoloth》をプレイするケレム。
毎ターン4体ずつのトークンを量産するファッティが敵陣にあらわれたことは、津村の逆転勝利の実現のためには大きな問題となると思われた。
しかし、津村は《変わり谷/Mutavault》を起動して《マイコロス/Mycoloth》をブロックしてから《激浪の研究室/Riptide Laboratory》でバウンスするという具合にしてダメージを軽減し、次々と「待機」をあけてくる《祖先の幻視/Ancestral Vision》からのドローを最大限活用しながら戦線を整え、敵陣の後続を断った。
冷静に、出来うる限りの手を尽くして事態を制圧していった津村は、とうとうこのゲームで3体目となる《誘惑蒔き/Sower of Temptation》にめぐりあい、《マイコロス/Mycoloth》を奪い取った。今度は津村の側に毎ターン4体ずつトークンがうまれるのだ!
ケレムの全軍突撃と、コンバットトリックとして使用された《召喚の調べ/Chord of Calling》からの《オルゾフの司教/Orzhov Pontiff》光臨によって津村の残りライフは4という危険水域まで落ち込んでしまうが、津村はそれでも冷静さを失わなかった。
ケレムは最後の4点を削るために全軍突撃を行うが、2体の《変わり谷/Mutavault》の起動によってこれをしっかりと瀬戸際でくい止める津村。戦闘により一瞬コントロールがケレムに戻った《マイコロス/Mycoloth》も津村は《誘惑蒔き/Sower of Temptation》の再展開によってしっかりと「奪いなおす」ことができた。
ケレム 1-2 津村
試合を終えた津村を日本人プレイヤーたちが取り囲む中、津村は先程までの沈黙がうそのような、まぶしい笑顔でケレムの健闘をたたえた。