バーリンの仰天話

Posted in Magic Story on April 26, 2013

By Adam Lee

Adam Lee had a long freelance career as a writer and artist in the greeting card industry before coming to Magic's creative team. He grew up in the commune-laden wilds of Northern California in the 70s and his Guild Quiz result was Selesnya. "Be groovy, people."

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 またあいつだ。

 バーリン・グレヴィクは不思議に思った。フード付き外套をまとったその妙な男が、ブリキ通りの交差点にある彼の店の端、不思議な彫りのある礎石に何故そんなにも興味を持ったのだろうかと。

 バーリンは子供の頃、祖父に連れられて彼らの絨毯、真鍮製品、手工芸品を売りに市場へ向かっている時、その石に彫られた奇妙な紋様を見たのを覚えている。グレヴィク家は何世代にも渡って市場に生きる人々で、一家の者が覚えている限り、ブリキ通りの同じ場所でずっと商売をしてきた。

 礎石は常にそこにあったが、それは丸められた絨毯や装身具や雑貨の入った売り物の箱の山にしばしば隠されていた。時折、奇妙な通行人がそれに注目したり、他所者がその意味や趣意を不思議がる事もあったが、誰も本当のことは知らなかった。バーリンの母は言っていた、それはブリキ通りの開通を記念したものだと――とても古い石で作られたのだろう――そしてその説明にバーリンは納得した。彼は古のラヴニカの歴史にも、ギルドの異様な魔法的儀式にも興味はなかった。彼はただそれなりの利益が欲しかった。他者よりも優れていると感じたかった。いいものを食いたかった。そして自分より不運な者たちの雑多な苦境を無視したかった。

 そのためかこの客には、彼の小奇麗な身なりの下の皮膚を苛立たせ、落ち着かなくさせる何かがあった――フードを被ったこの人物は、彼の店に築き上げられた幸福に脅威をもたらすような、ある種の揉め事の匂いを放っていた。

「どうしました?」 バーリンは自身の声色に少々の苛立ちを感じながらも、そのままでいようと決めた。彼は全くもって、苛立っていた。

 その人物がバーリンを見上げるとすぐ、彼の苛立ちは静まり、不安が増した。

 バーリンの経験から言うと、市場の者の大半は滅多に目を合わせはしない、そして偽りの礼儀正しさに隠れて会話をする――彼自身がそうするように――だがこの外套の客は彼をまっすぐにその目で見た。その視線は彼を万力のように掴んだ。バーリンはその感情が何かを表現する語彙を持っていなかったため、流れ出た感情と思考は混乱と怖れの間のどこかへと退けられた。

「ええ」 その客は言った。「この石。この模様について何か知っている事はないかな?」

 バーリンはその若い男に、短い通りをずっと下って行けと言おうとした。だが彼は気が付いた時にはその石の経歴、その起源と考えられる意味について、一家に伝わる推測の全てを喋っていた。彼は偉大なエストヴァル伯父の理論についてさえ言及した。それは最初のギルドパクトが署名された直後、アゾリウスによって置かれたのだと。もちろん、エストヴァル伯父はイゼットの大魔道士くらい狂った人物だったが、だからといってバーリンは家族の言い伝えを話すことを止めなかった。バーリンはその石について知る歴史全てを、空っぽになったと感じるまでその客へと話した。客は静かに、一心に聞いていた。

「ありがとう」 客はその表情にかすかな笑みをちらつかせて言い、そして去っていった。

 永遠とも思える一瞬の後、バーリンの妻が目の前に現れて言った。「ねえ! 聞いてるの! 一体何があったの?」

「どういたしまして」 バーリンは言った。


 バーリンはボロス軍のウォジェクではなかったが、その奇妙でどこか気にかかる遭遇の後、青い外套を着たあの若者について知りたくなり、何かしらの答えを得ようと決意した。彼の妻、ニーラはバーリンがその客の目を見たことに気付いており、また彼が何かを気に食わないでいるというのがわかった。バーリンは意志の固い男だった。彼の家族も皆そうだったが、バーリンは特に頑固者だった。彼の妻は親戚へと彼らを「ドローマッド達」と表現し、バーリンも一緒くたに扱った。頑固で意地っ張りだと。

ドローマッドの純血種》 アート:Carl Critchlow

「何を企んでいるのか明かしてやる、あの覗き魔め。あの石について何もかも喋ったなんてどういう事だ。今日はバムバット一滴だって飲んじゃいないってのに、酒場で酔っ払いじじいみたいに喋ってたとは」 バーリンは随分とおかんむりだった。自意識の支配が揺さぶられているという錯覚が、彼に戦意をもたらしていた。

「どうしようっていうの? あなたは何も盗られてはいないでしょうに」 彼が店の台所でこの日の昼食を摂っていると、妻が彼の肩に手を置いた。

「ニーラ、奴はディミーアだ。それだけはわかる」 バーリンは格別な苛立ちとともに玉葱を薄く切った。「あいつの薄汚い隠れ家まで追いかけて、何を企んでいるのか明かしてやる」 独善的な非難のうねりに浸され、彼は「魔女狩り」をいっそう正当化した。相手が「ディミーア」ならば、バーリンはその者の私生活を侵害することに何の疑問も持たなかった。

「ディミーアじゃないわ」 ニーラはそう言って、バーリンの昼食が入っていた籠を手に取った。「信頼できるギルドだもの。あなたやブリキ通りの皆は噂に囚われてる。このあたりじゃ、何か上手くいかない事があったら『ディミーアを倒せ!』、そればっかりなんだから」

「あいつが『信頼できる』かどうかを確かめてやるよ、砂糖鳩ちゃん」 バーリンは影に潜む泥棒と喉笛切りをぼんやり思い描きながら、ぶつぶつ呟いた。「確かめてやる」


 バーリンは距離を取りながら、そのフードを被った人影を追った。彼にはウォジェクの友人がおり、悪党やスリ、社会的礼節の足りない者について長い間語ってきた。そこから彼はブリキ通りで逃走者を尾行するコツをいくらか学んでいた。

 フードを被ったその人影は暗い路地へと逃げこんだ。

 まさしくディミーアの悪党だ、バーリンはそう思った。

 彼は上着に手を伸ばし、古いボロスの警棒の柄を確認した。ウォジェクの友人からのもう一つの贈り物だった。それにはまだ少々のマナが蓄積されており、ロクソドンでも気絶させることができるだろう――ディミーアの卑屈な泥棒なんて言うまでもなく。彼はアドレナリンが湧き上がってくるのを感じた。ついに、彼はあの無骨者の一人を捕まえ、正義を下すのだ。

「ブリキ通りで悪さはもうさせねえぞ」 バーリンは小路に入り込みながら呟いた。

 目が小路の暗さに慣れるまで少々の時間を要した。痩せこけた猫が魚の頭を噛んでいた。湿った敷石を踏みしめて小路の奥深くへと進んで行くと、ごみの山の背後からラクドスのゴブリンが一体飛び出し、先の尖った歯を見せて威嚇した。

 バーリンが警棒を振り回すと、そのゴブリンは不愉快な言葉を甲高く叫びながら暗闇へと慌てて逃げ去った。

「ラクドスの汚物め」 バーリンは息をつきながら言った。心臓が早鐘を打っていた。

 その小路は曲がりくねってよじれていた。足元あたりの窓から青い光に続いてブーンという音がするのを聞き、バーリンは引き返すことを考えた。滑りやすい階段をすり足で進むと、その先には木製の頑丈な扉が続いていた。注意深く、彼は掛け金を確かめた。鍵はかかっていなかった。扉をゆっくりと開けると、彼はフードを被った人影が、精巧なミニチュアのように広げられた第十地区の透明なイメージを見据えているのを目にした。赤いエネルギーの輝く線が一連の直線を描いていた。ブリキ通りを通過し、いくつかの街道を上り、ついには高い塔へと続いて――

「昔のアゾリウスの立法公文書局」 バーリンは自分が囁いたのに気が付いた。

「その通り」 外套のその人物はバーリンへと背を向けたまま言った。

アート:Jaime Jones

 バーリンは警棒と虚勢を完全に忘れていた。彼は明滅する第十地区のイメージと、それを前にして思案している魔道士を見ていることしかできなかった。輝く赤い線のもう片方の終点、その根元は――

「俺の店だ」 バーリンは輝く地図を指差した。

 フードを被ったその男は振り向き、彼を見た。「現に、あなたの店の礎石はアゾリウスの通過点で――アゾリウスのギルド魔道士達が残した一連の古の手がかりだ。暗黙の迷路に沿って同じような通過点がある。俺はそれを全部見つけないといけない」

「暗黙の迷路?」 バーリンは言った。「それは何だ……この地図、通過点? 何で俺はそれを聞いたことがないんだ?」 バーリンは「知っている」でないという状況が好きではなかった。

「複雑なんだ、バーリン」 その男は彼の名前を、古い友人であるかのように言った。「俺自身、『迷路』が何なのかよくわからない。正確な機能が何なのか、どんな力があるのか、もっと時間をかけて調べたいし情報を集めたい。だけどディミーアのせいで急がなきゃならない」

「そうだ! ディミーアめ! 知ってるぞ!」 バーリンは警棒を引き抜いた。ついに彼はそれを握りしめた。

「ああ、だけどあいつらはただ動かしているだけだ」 その魔道士はバーリンと彼が持つウォジェクの武器を見ても平然としていた。「他のギルドは互いを滅ぼそうとしている、俺が迷路を正しい順序で走らない限り」 青いローブの魔道士は立ち上がると手を叩いた。彼の輝く地図は光虫のようにまたたいて消えた。

「お前は、ディミーアじゃないのか?」 バーリンは言った。

「違うよ」 その魔道士は微笑んで、散らばった紙を何枚か集めた。「済まないね」

「なら、お前は何者だ?」 バーリンは警棒で彼を差した。だが本能がどこかで告げていた、それはボロスの燃えたぎる隊員にそうするようなものだと。

アート:James Ryman

「ジェイス・ベレレン」 その魔道士は外套のフードの下から言った。そして、顔にかかった影の中から魔道士の瞳が不吉な青色に輝き、彼の笑みを照らした。「もっとも、お馬鹿さんは今の事、何も覚えていないだろうけれど」


 バーリンは翌日になって目を覚ました。

「酔っ払い爺さんとずいぶんお喋りしてたのね」 ニーラが言った。「ゴルガリのシャンブラーみたいに帰ってきて、寝床へ一直線だったんだから」

「酒場から帰ってきたのか?」 バーリンは何一つ思い出せなかった。「そうなんだろうな。だけど一つだけ確かな事がある。もうバムバットは二度と飲まねえ」


(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)



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