王子アナックス その1

Posted in Magic Story on September 27, 2013

By Tom LaPille

Tom LaPille makes things. Some of the things he makes are card sets, like Dark Ascension and Born of the Gods. Sometimes he makes stories, too. Sometimes he makes unexpected things, like 16th-century Japanese clothing. He's probably making something right now.

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 アナックスは競技場の縁を走っていた。焼けつくような夏の太陽は空高く昇っていた。汗だくで肺は燃えるようだったが、気分は良かった。

 彼は槍と剣が立てかけられた棚の前を過ぎ、加重された鍛練用の盾の前を過ぎ、革の前掛けと石の小山の前を通り過ぎた。更には遮蔽盾の訓練をしている武装した兵士達の前と、砂場で砲丸を投げる男達の前を通り過ぎた。

アート:Steven Belledin

 一旦、日陰を求めて彼はすぐ近くの庭園に入った。そこへ入ろうとする者は誰もいなかったが、アタナス王の第一王子であるアナックスを止める者はいなかった。


 この午後早い時間にしては、浴場は混みあっていた。普段ならば混み合う時間ではなかったが、父王とセテッサ人との最終謁見が始まるまでもう一時間しかなかった。誰もがそこにいると思われた。アクロスの力の誇示に加わる者達と、何が起こるかを見届ける者達の両方が。

 アナックスは浴槽に居残り、その肌に冷たい水の感触を味わっていた。長居しすぎる前に水を冷たく感じ、彼は震え始めた。彼は浴槽から上がり、身体を乾かした。その時背後から弟の声がした、非難の声色をほとんど隠そうともせずに。「今朝、何してたのさ?」

 アナックスは振り返り、ティモテウスの姿を認めた。アナックスは彼より二つ年上だったが、兄はずっと小柄なままで、弟はずっと大柄だった。今や二人の体格はほぼ同じで、とはいえティモテウスの腕の方が少々太いかもしれなかった。彼らは裸であり、誰もの目に触れていた。無遠慮に見る者はいなかったが、五年程もすれば兄弟に従うであろう男たちの横目の視線は明らかだった。

 アナックスは言った、「僕はアルケロスの『効果的修辞法』を読み終わったし、競技場を11周走ってきた」

 ティモテウスは軽蔑するように鼻を鳴らした。「僕は重さ30マイナの砲丸を自己記録より3フィートも遠くへ投げられた、それとルーコスの指揮官から槍の訓練を受けたよ」

アート:Winona Nelson

 アナックスは衣服が畳んである腰掛けへと向かい、服を着始めた。ティモテウスは背を向けて去ろうとしたが、肩越しに振り返った。「セテッサ軍が喋るのに飽きたらさ、兄さんは逃げ出す計画なのかな?」

 近くにいた男が数人、含み笑いを押し殺した。アナックスの顔がかっと熱くなった。


 瑞々しい緑色の亜麻布をまとったセテッサの大使が、随員達を伴って謁見の間へと入った。そこは部屋の縁まで、アクロス人兵士達の編隊でぎっしりと満たされていた。大使は高座へと近寄り、派手な身ぶりで父王へと頭を下げた。「アタナス王よ。私達が協定に同意できないほど不幸なことはありません」

 王妃と父王は誇らしげに立ち、彼らがまとう赤色の外套は金で飾られていた。アナックス、ティモテウス、そして彼らの妹であるペラギアは両親の隣に立っていた。父王は使者を睨みつけた。その髭には白いものが数本混じっていた。「わしの考えは知っておろう。もし望むならば、戦場で自由に論じるがよい」

 その大使は寂しそうに微笑んだ。「セテッサ議会は忍耐強く、また我々の記憶は長く続きます」 彼女はしなやかに片腕でティモテウスを指した。「貴方様の後継者殿とは仲良くできるかもしれません」

 父王は右腕をアナックスの肩に置き、顔をしかめた。「我が長子はこのアナックスだ」

 その使者はアナックスを上から下まで値踏みするように見て、渋い顔をした。「陛下、あなたの伝統への固執は立派なものですよ」

 父王は右腕を下ろし、剣の柄に手をかけた。「そして貴様は臆病者の議会の一員というわけだ。立ち去るがよい」

 使者は再び仰々しく頭を下げ、随員を率いて無言のまま謁見の間を退出した。彼らの背後で案内役が扉を閉めると、父王が口を開いた。「わしはセテッサ人へと、彼らの不満の代償となるに相応しいと考えたものを提示した。そしてそれでは不十分だというではないか。彼らが軍を動かすか動かさぬか、それはわからぬ」 父王はその剣を抜き、頭上高くに掲げた。「だが彼らがそうした時は、我らが打ち砕くであろう」

アート:Peter Mohrbacher

 兵士達は賛成を示す咆哮を上げた。

「解散するがよい」 父王が謁見の間に声を上げると、兵士達はぞろぞろと退出していった。彼らが去ると、父王はしゃがんで息子達をじっと見た。彼は二人を同時に見た、まるで始めてそうするかのように。父王は誇りに目を輝かせてティモテウスを見た。その視線がアナックスへと移動すると、その眉間に皺を寄せ、その軽蔑する様子を隠そうともしなかった。


 アナックスはゲオルギオス、アタナス王の子供達の教師を務める老齢の男性と向かい合って座っていた。彼は微笑み、その目尻と口元に皺ができた。「始めても宜しいですか?」

 アナックスは頷いた。「命題:父上は僕が好きじゃない」

 ゲオルギオスは驚いて飛びのいた。「何ゆえにそのような事を?」

「父上は今日、僕を不機嫌そうに見ていました。そして弟を誇らしそうに見ていたんです。皆の前で。沢山の人がそれを見ていたことは確かです」

 ゲオルギオスは落ち着きを取り戻した。「王様が貴方を好いていないことは確かだと、そう思われますか?」

「他の説明は考えられません」

 老人は微笑んだ。「命題:王は個人的な選択や自身のどんな問題よりも、その領土の幸福に重きを置くべきである」

 アナックスは考えた。「それはもっともです」

「命題:王が行う最も重要な決定は、後継者を選ぶことである」

「相続の法ははっきりしているんですか?」

「王は法を改正する権限を持っておられますか?」

 アナックスの眼が見開かれた。「僕、競技場へ行きます」

 ゲオルギオスは不満そうな表情を見せた。「それは命題でも質問でもないのですが」

 生徒は立ち上がった。「僕はアクロスの王子です。ゲオルギオス先生、授業をありがとうございます」

 ゲオルギオスは笑みとともに立ち上がった。「光栄でございます」


 アナックスが競技場へと到着した頃には、太陽はほぼ沈みかけていた。彼は砲丸の置いてある砂場へと向かった。そこには別の少年がいた。彼はアナックスよりも大柄で頑丈そうで、幾つか年上に見えた。

アート:David Palumbo

 その少年はわずかに微笑んで彼と、そして沈みゆく夕陽を見た。「訓練を始めるにはちょっと遅くないか?」

 アナックスは少し意気消沈したが、腹の中に炎が燃えあがった。彼は気を取り直すと目的をもってその少年へと歩いていった。

 アナックスの正体を認識し、怖れに彼は顔色を変えてひるんだ。「も、申し訳ありません。あー、ど、どうもです。ゾティコスっていいます。以前ここに来られたのを見かけたことはないですが、どうすればいいかはお教えできます」

 アナックスは砂場へと入った。「お願いしたいな」

 年長の少年は小型の砲丸を一つ手にし、アナックスへと真似るようにと身ぶりをした。「いいでしょうか。足は肩幅に広げて下さい。砲丸は両手で持って。こんな感じに腰から押し出すみたいに、そうすれば砲丸は前に飛びます。胸の高さくらいまで持ち上げるようにして、でも腕の力を使いすぎないように」 彼は数度繰り返して手本を見せ、そして向き直った。「まずここから始めて下さい。投げることはできるでしょうが、投げ方に慣れるまで実際に投げないようにして下さい」

 アナックスは頷いた。彼は砲丸を押し上げ、少年の動きを模倣しようとした。数度の繰り返しの後、肩と背と腰が悲鳴を上げた。

 ゾティコスは王子がもがくのを見た。「止めて下さい」

 アナックスは砲丸を落とし、不満そうに言った。「まだできるよ」

 ゾティコスは頷いた。「そうしたら、明日ここに戻って来られなくなると思います。ここで止めて体力を温存して下さい。その方が結局、早く上達するんです」

 アナックスは頷いた。

「それともう一つです。競技場の周りをよく走っておられますよね」 ゾティコスは武器棚の横にある革製品の山を指差した。「あそこに前掛けがあります。あれを着て、物入れに石をいくつか入れて走るんです。子供は皆それを嫌います、脚がとても重くなるので。けれど走るのが好きでしたら、きっといい訓練になると思います。楽しく走れます」 彼は自分の冗談にくすりと笑った。

 アナックスは頷いた。「もし君さえ大丈夫なら、毎日この時間に会えるかな。僕は遅く来るかもしれないけど、一生懸命訓練するって約束するから」 彼は気品のある最高の笑みをひらめかせた。

 ゾティコスはしばし考えていたが、打算的な笑みを見せた。「喜んで」


 翌日、アナックスはゾティコスが言っていたように、前掛けに重しを詰めた。

 それは難しく、他の少年達が好んでいないのが理解できた。だが朝の鍛錬の間、アナックスは続けた。それは彼を強くしていった。彼は前掛けを身につけて遠くまで行ったことはなかったが、走ることそのものはもはや目的ではなくなった。ゾディコスはアナックスよりもずっと熟達していることがすぐに明らかになったが、夕方の活動も続いた。

 ある夕方、アナックスは思い切って言った。「どうして僕を手伝ってくれるんだ?」

「貴方は王子ですから」 ゾティコスは瞬きすらせずに即答した。

 アナックスは砲丸を砂に落とした。「でも、そうしなくなっていいし、毎日ここに来る必要だってない。どうして続けてくれるんだ?」

 ゾティコスは溜息をついた。「俺の親父はただの歩兵なんです、偉くなろうって野心も特に持っていない。だから俺は、親父を越えるために鍛えているんです」 彼も砲丸を下ろし、身体を伸ばした。「それと、貴方が、助けになるご友人を探しているように見えたので」

 アナックスは最高に厳格な表情を作って近づいた。「僕は友達? それとも、王子ってだけ?」

 年長の少年はひざまずき、砂の地面へと頭を下げた。「お許し下さい、殿下」

「アナックスだ」 王子は掌を上に、手を差し伸べた。「立ってくれ」 年長の少年は見上げ、立ち上がった。「宮殿の廊下で、僕が月桂樹の冠をかぶっている時は、そう呼んでもいい。だけど」 彼は使っていた砲丸を取りに戻った。「ここでは――」 そしてそれを手に取った。「僕は、アナックスだ」

 ゾティコスはその日の間、多くを語らなかった。だが翌日、彼はとても饒舌になった。

 続く数週間、アナックスは予想通りに筋肉痛に見舞われたが、強くなっていることを実感した。彼が予想していなかったのは、他の兵士達が彼と彼の弟を見定めるような興味をもって観察し始めたことだった。


 小さな教室に、アナックスはゲオルギオスと向かい合って座っていた。脚はとても痛かったが、具合は良かった。そして太くなり始めてもいた。「命題:僕は強くなっている」

 ゲオルギオスは微笑んで頷いた。「その主張をお守りなさい」

「でも先生だってそう信じてる!」

 老人ははすかいに彼を見た。「いかにも。ですがこれは修辞法の授業です。私を納得させるのです」

「僕は昨日、前掛けに4マイナの石を詰めて砂の運動場を11周しました」

アート:Clint Cearley

 ゲオルギオスは頷いた。「つまり、貴方は走ることができる」

「30マイナの砲丸を自己記録より1フィート遠くまで投げました」

 彼は再び頷いた。「つまり、貴方は強くなった。では、いかにして戦うのでしょう?」

 アナックスは少々拗ねた。「それは僕の主張には入っていません」

 ゲオルギオスは含み笑いをもらした。「命題:貴方はいつアクロスを統治しても大丈夫だと、貴方自身だけでなく多くの人々を納得させる必要がある」

 アナックスは溜息をついた。「その命題は認めます。どうすればいいんでしょう?」

 ゲオルギオスは片眉を上げた。「私にはわかりません。もしそういった問題に精通していましたら、王子様達の教師よりも高い地位に昇れたかもしれません。ですがイロアスの競技会が四ヶ月後に開催されます。貴方は年少階級の競技、その少なくとも一つに参加することを期待されておられる」

「僕の弟もだ。間違いなく」 彼は座り込んだ。

「事実、弟君はパンクラチオンの訓練を始めておりますな」

 アナックスは顔をしかめた。「もちろん、競技会で一番人気のある戦闘競技だ」

 ゲオルギオスは目玉を動かした。「命題:四ヶ月は長い」

「それは説明できません! 長さの基準は様々です」

「命題:貴方は私の言いたいことを理解している」 彼は生徒をじっと見た。「貴方はどんな競技の訓練もできて、期日までに備えることができる」

 アナックスは首を横に振り、その気分とは裏腹にわずかな笑みを浮かべた。「ローデの『セテッサ戦争の歴史』にありました、時には敵の得意な所へと大胆に攻撃するっていう知恵です。もし勝ったら、それは完全無欠の勝利になる」

「もし敗北したなら、完全無欠の敗北になりますな」

「命題:僕はもう負けかけている」

 ゲオルギオスが頭をかいて言った。「王子は私よりよくご存知のようですな。ですが、そのやり方は危険ですよ」

 アナックスは笑みを浮かべた。「いくつか、考えがあるんです」


(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)

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