七つの鐘 その1

Posted in Serious Fun on 16 Novembre 2012

By Jenna Helland

Jenna Helland is a designer and writer for the Magic creative team. She's a member of the story team, a creative liaison with design teams, and the author of the Theros novella, Godsend.

原文を読む

マイカス・ヴェイ 我々はお前を保護してきた――これまでは。だがアゾリウスが裁きを求めている。
ボーリ・アンダーン 窓を割ったことへの裁きですか? 大聖堂にそんな優しい心があるとは知りませんでしたよ。
マイカス・ヴェイ 笑いごとではない。
ボーリ・アンダーン 私はニヴ=ミゼット様から個人的に与えられた研究を遂行していたのですが。
マイカス・ヴェイ 周りを見てみるがいい。この部屋はラヴニカでも最も素晴らしい、輝けるもので満ちている。お前の研究はそれよりも壮大でも何でもない。ただ少しばかり破壊的なだけだ。
ボーリ・アンダーン 貴方は建物への些細な傷を心配しているんじゃないんでしょう。私の成功を怖れているんです。そんな卑しい感情は我々の目的によろしくありませんよ、首席イズマグナス殿。
マイカス・ヴェイ その芝居がかった見せびらかしを止めろ。法律屋の目を引くだけだ。
ボーリ・アンダーン 私は貴方の指示に従ってきたんですが!
マイカス・ヴェイ 声を落とせ、アンダーン。議会命令により、お前の現行プロジェクトは凍結とする。火想者様がお前に特別な仕事を命じた。お前自身の研究を再開する前に完遂せねばならないものだ。
ボーリ・アンダーン 仕事とは?
マイカス・ヴェイ 同時不調和定理の解決だ。
一同 [叫び、議論]
ボーリ・アンダーン 私の研究を脱線させないでくれませんか。私はもうじき――
マイカス・ヴェイ 座れ、それとも議院を解任されたいのか!
ボーリ・アンダーン ばかげている!
マイカス・ヴェイ 解明不能の定理と言われている。アンダーン、お前はそれに詳しいかね?
ボーリ・アンダーン もちろんですが……
マイカス・ヴェイ 問題はこうだ。「一人の人物が七つの大鐘楼塔の七つの鐘全てを同時に鳴らすことは可能か?」 多くの天才達が挑み、全員が失敗してきた。彼等は不可能だと主張している。それが誤りであると証明できるほど君は利口かね?
ボーリ・アンダーン あんたにそんな権限はない!
マイカス・ヴェイ これは火想者様直々の命令だ。もし好みでなければ、お前はイゼット団との関係を切ることになるだろうな。
ボーリ・アンダーン ヴェイ、この裏切り者! お前の仕業だな。いいだろう、俺は証明してやる、お前が――
マイカス・ヴェイ 衛兵! この男を部屋から連れ出せ。
一同 [叫び、議論……衛兵がアンダーンを連れて退室]
マイカス・ヴェイ(議会に向けて) さて、彼は去った。彼は自身のエゴに打ち負かされ、あの問題を解明するべく努めるだろう。少なくともしばしの間は彼を厄介事から遠ざけてくれる。では起こりうる最悪の事態は何だ? 七つの鐘全てが鳴ることかな。
一同 [笑い声]

火想者の予見》 アート:Dan Scott



 

ボーリ・アンダーンの日誌 一日目

 

 鐘の音で目が覚めた。寝室の窓から、カルニカ街区の七つの大鐘楼塔のうち二つが見える。俺はここで育ち、生まれた時から毎朝その鐘の音を聞いてきた。夜明けに鐘はハーモニーを奏でるが、それぞれの縄を引くのは別々の鐘鳴らし人だ。一人の人物が七つ全てを同時に、どうすればできる? これは俺に恥をかかせようという議会の魂胆だ。奴等は俺に「解明不可能」な問題をよこした。いいだろう、目にもの見せてやる。解明不可能なものなどない。

 見た目は灰色だが、あの鐘は驚くほど見事なものだ。半分眠りながら、俺は何処へも続いていない階段で一杯の巨大な部屋の中にいる夢を見ていた。俺は二度寝したに違いない。夢の中で、俺は終わりのないからっぽの回廊を早足で歩いていた。角を曲がって、銀の玉座に腰かけるでかい歩哨を見て後ずさった。俺はどっちへ逃げたかわからないが、そいつの目は俺を追っていた。

 あの夢は予兆だ。あいつらは俺の行動を全部監視している。



 

監視者の報告

 監視対象は住居を離れることはありませんでした。


ボーリ・アンダーンの日誌 二日目

 古い友人ザーバを尋ねて二つ向こうの地区まで旅してきた。あいつはラヴニカ全土の最高の地図を作っている。俺が思った通り、あいつは七つの大鐘楼塔の超精密な地図を持っていた。あいつの仕事はすさまじく詳細で、壁に開いた鼠穴までわかるくらいだった。不意に、俺は高架歩道、存在しない川にかかる橋、多層の道が混乱するようにもつれている様子を理解することができた、暗記してはいたが測ったことはなかったものだ。

 茶を飲みながら、ザーバは面白い話を聞かせてくれた。カルニカの伝説、俺が住む地区の名前の由来となった偉大な聖騎士の話だ。ザーバが語る古のラヴニカ、人々を圧政するリッチの王の話に、俺はまるで爺さんの膝の上で話を聞く子供のような気分になった。その聖騎士は農民へと、鐘を鳴らす一連の暗号を教えた。正しい順番で鐘が鳴らされたなら、総決起して暴虐の王を倒す時だという知らせだ。ザーバによれば、塔には特別な順番があるのだと。正しい順で塔を巡ることのできる行程はただ一つしかないらしい。正しい道順を見つけたら、曲がり角の向こうで真の愛が俺を待っているだろう。ザーバは歯の無い口で笑ってそう言った。

 議会とのトラブルについて話すと、ザーバは地図をただでくれた。あいつはその行程の意味そのものについて何か言った、そして俺達は別れた。道中、黒髪の男が三ブロックの間俺を尾けていた。ヴェイの奴が手下に俺を尾けさせてるのは別に驚くことじゃない。監視したいならすればいい。俺は逃げも隠れもしない。



 

監視者の報告

 地図製作者への質問では、我々が既に知っている以上のことは何もありませんでした。監視対象は同時不調和定理の解明に向けて調査を続けています。


ボーリ・アンダーンの日誌 三日目

 靴に穴があくまで歩いたが、成果はあった。ザーバの「真の道」とかいう滑稽な言葉がアイデアをくれた。各塔をそれぞれ一回ずつ、一度ずつしか通らずに回る行程を見つけた。幾何学的場所での素晴らしい運動、そして相互連結性は俺に疲労と希望をくれた。ううむ、鼠が目の裏側をかじってるような感じだ。もう寝る。



 

監視者の報告

 歩く。歩く。とにかく歩く。監視対象は独り言を呟いていました。混乱しているようにも見え、そわそわした動きと駆け足で頻繁に通行人を心配させていました。定理が解明される危険について考える必要はありません。配置転換を希望します。


ボーリ・アンダーンの日誌 五日目

 催眠電送装置が完成した。自然の障害物を対処しながら、そして地図作りがくれた歴史的情報のお陰で、俺は三次元空間内で「真の道」を渡る方法を開発した。これによって、それぞれの鐘から等距離をなす完璧な中心の位置がわかる。俺は装置で測定し、音の細波を伝えることができる。音波は鐘に当たってそれらを同時に鳴らしてくれるだろう。ヴェイの顔を見るのが今から楽しみで仕方ない。



 

監視者の報告

 監視対象はガラス製容器を背負い、それに管で繋がれた真鍮製の箱を持って住居から出ました。容器の内には青色の液体と霧が入っていました。彼はカルニカ野外市場の中心へと向かいました。ケンタウルスの巨大な彫像を御存知でしょうか? はい、彼はその上に昇り、馬に騎乗するようにまたがりました。次に彼は長い時間をかけてからくりを弄んでいました。人々は彼を見ていましたが、彼は夢中になっているようで(夢中になっていたのでしょう)気に留めませんでした。そしてある時、装置から青い光が発せられましたが、何も起こりませんでした。



 

ボーリ・アンダーンの日誌 八日目

 この頭痛はいつ治まるんだ? 些細な音でも攻撃のようだ。催眠電送装置は失敗だった。理由はわかっている。次の試みでは、俺はあの環境に既にある要素を使わねばならない。答えは大気そのものだ! 風が、目に見えない共犯者になってくれるだろう。俺は首尾よく電送装置を再調整できた。俺の新たな装置、催眠波動装置は大量の空気を吸い込んでそれを放射状に発散し、鐘を鳴らしてくれるだろう。排気量が少々心配だ。俺が思うに、住人達は少しばかりのそよ風を感じるだけだろう。起動試験をする時間的余裕はない。火想者が待っている。



 

監視者の報告

 監視対象の正気に対する疑惑は確かなものです。彼は新たな装置を手に、再びケンタウルスに座っていました。今回も真鍮の箱とガラスの容器ですが、帽子に似た構成物もありました。その帽子というのは銅線と管からなる、そびえ立つような塊です。彼は箱をいじくり回し、奇妙なシューという音がしました。何と、排水溝のごみが空中に浮かび上がり始めました。嫌な予感がします。





 時計が9時を指した直後、天気は無風にもかかわらずカルニカ街区の住人達が強風を報告してきた。その風は強まり、街区のほぼ全ての窓が破壊された。壊れたガラスと瓦礫は黒鳩ドームの近辺に集まったが、不意にそれらはガラスの破片からなる円柱状の竜巻へと変化し、強さを増し続けた。その頂点では、ガラスの嵐はドームそのものよりも高いものとなった。周囲三ブロックの住人が避難した。戦闘魔道士の連合軍がこの巨大な脅威を食い止め、また消散させるべく奮闘した。彼等の努力により、その事故における死者は報告されていない。ドームの地面にはガラス片が散乱したが、構造物そのものは守られた。

サイクロンの裂け目》 アート:Chris Rahn



 

ボーリ・アンダーンの日誌 十日目

 違う、違う、違う。あのやり方は無益で、鐘は鳴らなかった。さらに悪いことに、黒髪の男がまたも俺を監視していた。あいつはきっと俺の失敗を議会に報告し、奴等は俺が費やした金額に思う存分笑っているに違いない。おまけに、鳥が頭上を飛び続けている。スパイとして訓練された鳩の話を聞いたことがある。解決策として風を使うのはあまりに単純すぎた。人々の思考エネルギーを変換し、それを大鐘楼塔へと送らなければ。そして鐘を鳴らす。思考の重さはどのくらいだろうか? 一人の脳が放散するエネルギーはどのくらいだろうか?

 俺は再び電送装置を調整し直した。この装置――催眠寄集装置――は鐘楼塔近隣の全思考を集め凝縮する。俺はその凝集した思考をエネルギーに変換して鐘楼塔に直接送り、全ての鐘を同時に鳴らすだろう。その影響によって前脳部がうずく、痒い感じがするだろう。人々がどんな経験をするのか、想像もつかない。



 

監視者の報告

 まだガラスも片付かないうちに、彼は別の装置を携えて戻ってきました。帽子が更に高くなっていたため、新しいものだとわかりました。通行人の表情から察するに、それは悪臭のする煙を発しているのでしょう。持ち場を離れる許可を願います。私は下層で安全な距離から監視を続けます。





 カルニカ街区にて大規模な精神攻撃が放たれた。記憶の喪失、方向感覚の喪失、耳からの出血が広範囲に渡って報告された。容疑者もしくは容疑者集団は未だ逃走中と思われる。

 

ボーリ・アンダーンの日誌 十日目 追加

 催眠寄集装置では鐘を鳴らせなかったが、その代わりに何やらとてつもない事が起こった。俺が装置を起動すると、人々はぼろ人形のように地面に倒れた。計画通りに、俺は集めたエネルギーを鐘楼塔へと送った。突然、空中に何百もの輝線がまるで幾何学的な織り糸のように交差するのが見えた。俺の場所から、それぞれの線が大鐘楼塔と交差するのが見えた。これは何だ? 境界線か? 導管か? センサーか? 一体どういうことだ?

 恐ろしい秘密が隠されているのかもしれない。俺は街区に走る秘密の霊脈の類を発見したのだ。鐘楼塔は連結点なのだ。もしかしたらニヴ=ミゼット様は、俺に罰ではなくこの不可解な秘密を解明するために定理を与えたのだろうか。俺は定理を解明するつもりだったが、何を発見したんだ?



(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)

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