私のことは気にしないで

更新日 Card Preview on 2016年 3月 14日

By Mark Gottlieb

 こんにちは! これから皆さんに『イニストラードを覆う影』をプレビューできることを、心から嬉しく思います。私の名前はマーク・ゴットリーブ/Mark Gottlieb、このセットのリード・デザイナーです。『イニストラード』セットをさらに進化させることができるなんて、本当に素敵なことです。

 皆さんの多くと同じように、私も『イニストラード』のことを史上最高のセット(そして最高の舞台)の1つだと信じています。そして、その伝説を引き継ぐべく努力しました。『イニストラード』と『闇の隆盛』ではデベロップ・チームで働いたので、そこにも私の基礎はあります。『イニストラードを覆う影』のデザイン・チームは、旧『イニストラード』のコピーを作りたいとも思いませんでしたし、逆にあまりにもかけ離れたものにしようとも思いませんでした。私たちは『イニストラード』を楽しく独特のものにした要素を抽出し、それらの要素を新しく印象的な形で再生させようと考えたのです。成功したと思っていますし、このセットをとても誇らしく思っています。もちろん究極的には、皆さんが判断することです。

 デザインの全体的な展望については、今日のマーク・ローズウォーター/Mark Rosewaterの記事を読んでください。彼もデザイン・チームの一員で、2部作のその1で目的と展望について書いています。同じことを繰り返しても仕方ないので、私は3枚のプレビュー・カードについて深く掘り下げ、皆さんが興味深いと思ってくれるような話をしたいと思います。

落ち着いて、落ち着いて

 私の記憶が曖昧でもご勘弁ください。御存知の通り、私のチームが『イニストラードを覆う影』に取り組んでいたのは2014年の1月から12月まででした(12月に、私たちはこのセットをデイブ・ハンフリー/Dave Humpherys率いるデベロップ・チームに引き渡しました。来週の記事をお楽しみに)。

 当時、開発部は「マルチバース」というデータベースでカード・ファイルを管理していました。マルチバースはよくトラブルを起こしており、それ以降にずっと良いデータベースに移行しています。ですが、当時はマルチバースを使うしかなかったのです。特定のカードの記録がなくなったり、他のカードの文章欄で上書きされたりしたときには、システム内のグレムリンの仕業だなんて冗談を言ったりもしました。

 私がグレムリンと戦い始めたのは、〈火の我慢/Temper of Fire〉というカードのことでした。デザイン・チームは早いうちにマッドネスを再録メカニズムにすることを決めていました。テーマ的に狂気を描いたセットにどんぴしゃりだったのです。また、マッドネス・カードをデベロップする方法や、マッドネスが使えるようにカードを捨てる方法についても充分学んでおり、デイブと私はうまくやれると確信していました。

 ただし、《癇しゃく》は現代の火力呪文にしてはコストが優秀過ぎます。そこで、私たちは〈火の我慢〉を作りました。マナ・コストは{3}{R}で、マッドネス・コストが{1}{R}。クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象にして、それに3点のダメージを与える。しかし、なんということか、この調整版カードはファイルから消えていたのです! デザイン会議に向けてセット全体の記録を打ち出した私は、マルチバースのグレムリンの手によって《癇しゃく》の再録に変わっていることに気づきました。奇妙なことです。

 私はそれを元に戻しましたが、翌朝、再びカード・ファイルに《癇しゃく》が現れました。翌日も同じことが起こりました。データベースを編集できるのは私だけではなく、開発部員なら誰でもできますが、誰もしていません。ファイルの管理は非常に慎重に行われています。リーダー以外の誰かが勝手に弄るようなことがあれば、逆に自分がリーダーになったときに勝手に弄られることになるからです。しかし、これはもはや事故ではすみません。私は誰かが悪戯をしているのかと疑い始めました。そうであれば、私の頑固さを甘く見ています!

 翌週、私は毎朝《癇しゃく》を〈火の我慢〉に戻し続けました。その後、日に2回にしました。その後、1時間に1回に。本当に奇妙だったのは、データベースに他の変更を加えた人がいなかったことです。時には、システムにログインしたのが私だけということもありました。ある日曜日、ファイルをロックして私以外変更できないようにしたにもかかわらず、私は丸1日デスクに座り、マルチバースを5分に1回〈火の我慢〉へと書き戻す作業を続けました。午前3時17分。私は閃きました。結局のところ、《癇しゃく》を再録すればいいんだ! これはあまりにも自然だったので、なぜこれほど長くに渡って戦ってきたのかわかりません。この日学んだことは、閃きの元がどこだか分からないこともあり、悪い考えも考えで、もしかしたらいい考えかもしれないのだから試してみろ、ということでした。

 このカードの最終形は、こちら。

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名前に何が?

 次の面白い話は、〈殺人の印/Mark for Murder〉というカードに関するものです。これは私が作ったカードで、デザイン中のお気に入りのカードの1枚でした。これは奇妙なちょっとしたカードで、その重すぎる起動コストが目立ちました。コンセプト的には、このカードは狂信者の儀式をトップダウン的に表したもので、黒魔術的な成果を得るためには呪文書と血の一滴、イモリの目などが必要というものでした。この場合、このカードは黒のエンチャントで「{B}, 1点のライフを支払う, あなたのライブラリーの一番上からカードを1枚あなたの墓地に置く, カード1枚を捨てる, 殺人の印を生け贄に捧げる:クリーチャー1体を対象とし、それを破壊する」というものでした。

 このカードは単なる冗談ではありません。いつでも有用な除去呪文で、マッドネスや墓地戦略を助けることもできます。特に、昂揚の条件を満たすのに有用です。墓地にエンチャントを送れるのはもちろん、他に2枚のカードを送れるのです。また、このデザインは常に懐疑の目に晒されていて、私はリード・デザイナーの強みを活かして守り続けなければなりませんでした。

 私がこのカードを初めてマルチバースに入れたとき、〈狂信者の儀式/Cultist Ritual〉と名づけました。短くて要領を得た名前です。次のプレイテストの間に、私はこの名前が〈殺人の印〉に変わっているのを見つけました。このカードはクリーチャーを破壊するので噛み合ってはいますが、私が考えたコンセプトとは違っていました。また、ストーリー・チームがこの処理をこんなに早くすることも異例でした。通例では、ストーリー・チームがカード名にとりかかるのはもっとずっと後になって、どのカードが実際に印刷されるかが決まってからのことです。

 私はこのことを『イニストラードを覆う影』のクリエイティブ・リードのジェームズ・ワイアット/James Wyattに尋ねましたが、彼はマルチバースを変更していないと言い、私の持っているプレイテスト・カードのカード名は〈狂信者の儀式〉でした。奇妙なことでしたが、同意しないことに同意したのです。

 その次の数回のプレイテストで、私がそのカードを目にするたび、そのカード名は変わっていました。それほど大きな変化ではありません。〈殺人の印〉が〈殺人のマーク〉になり、〈殺人マーク〉になり、〈マーク殺し〉になり。これについて私は『イニストラードを覆う影』のデザイン会議のたびに議題にしましたが、無意味でした。私のチームは、そのカード名は〈狂信者の儀式〉だと言ってきたのです。もしそうだとしたら、なぜ私はこんなに汗をかいているのか――と思いましたが、私は矛を収めました。会議中に叫びたくはありませんが、嘘をつきたくもありません。からかってきている相手がそれだけ賢いのです。

 次にプレイテストで見かけたとき、カード名は〈狂信者の儀式〉でしたが、その名前は〈人殺し、マーク、人殺し、マーク、人殺し、マーク〉と何度も何度も何度も何度も繰り返して聞こえました。私以外誰も指を耳に突っ込んで絶え間なく繰り返されるカード名から逃れようとしなかったので、私は、これが私だけへの悪戯で他の誰にも聞こえないのだと理解せざるを得ませんでした。ブルートゥースか何かでやったのでしょう。

 さて、疑っている皆さんに。私は誰も殺していません。冗談、冗談ですよ。私は影響を受けやすいだけです! 血はすぐに拭い去れないので、あの夜のことは夢だったとわかっています。ただ、私はチームからの新しいカード名の提案を受け入れました。クリエイティブの判断において、彼らは最終版のカードだけを見ますし、重要なのは最終形がクールで理解できるものであることです。最初のアイデアに一致しているかどうかは重要ではありません。また、チームの意見に耳を傾けることは重要です。すべての意見が同じことを言っていて、反対しているのがあなただけなら、あなたが間違っていて他の意見に従うべきなのです。

 さて、〈殺人の印〉の最終形をご覧に入れましょう。私だけでなく皆さんが同じカード名を見られるに違いありません。

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下降

 私の最後の話には、このセットの代表的なカードの1枚が関わっています。

  • 全体除去です。
  • このデザインはこのセットのストーリー上の序盤に起こる、アヴァシン率いる天使たちが邪悪を絶滅させるためにはすべてを絶滅させるしかないと判断して人間の村を一掃し始めるという重要なことを表しています。
  • 破壊するのではなく追放するという点で、これは単なる全体除去よりも勝ります。
  • このセットの主要なメカニズムの1つ、昂揚を使っています。
  • クリーチャーすべてを追放した後で、飛行を持つ4/4の天使を戦場に残すことができるので、全体除去よりもずっと上です。

 おかしなことは、これがファイルに入った経緯です。これはデザインのかなり後期のことです。信じないかもしれませんが、私はこのカードが会議室のホワイトボードに書かれているのを見つけたのです! いいえ、そうじゃありません。壁に血で書かれていたのでもありませんし、不可視のインクで書かれていたわけでもありません。熱に浮かされた幻覚でもありません。

 それは非常識です。

 確かに私は漆黒の部屋(部屋というかクローゼットですが、そこがベストなのです)で結跏趺坐に座り、瞑想状態でほとんどのデザインをしますが、トランス感覚か妄想かはわかります。これはホワイトボードに書かれていて、私が会議室のテーブルの下から這い出てきた時に目にしたのです。

 私はこのカード・デザインの写真を取ろうと考えましたが、その必要はありませんでした。私の目に即座に刻み込まれたのです。そして、誰かの足音に気づき、私は慌ててテーブルの下に戻りました。会議室のドアが開かれ、誰かが入ってきて、ホワイトボードを消し、足早に去っていきました。あのデザインは見事でした。完璧でした。しかし、秘密だったのでしょうか?

 私は、ケン・ネーグルが私に背いていることを知ったのです。

 正直に言って、驚きはありませんでした。彼がなにか言うとき、そこには含意がありました。彼は『異界月』のリード・デザイナーになる予定で、私が会議を取り消すまでは『イニストラードを覆う影』のデザイン・チームの一員でした。チームを編成するたび、空気が不快に揺れるのです。なぜ彼は私にカードを見せたくなかったのでしょう? そして、なぜそもそも彼の筆跡で書かれていたのでしょう? 誰がわざわざ、何のためにネーグルの筆跡を真似たのでしょう? 疑問はあまりにも多く、私がわかる限界を超えていました。それでも私は悲鳴を上げるしかありませんでした。

 私はPCを開き、忘れる前に素早く新カードをマルチバースに入力しました。普通はそれに問題はないのですが、結構頻繁に問題が起こるようになっていて、不安定だったので私は自分の考えをメモに残すことにしていました。実際、私はこの記事を書くためにそのメモを見ようと思ったのですが、誰かが私のメモすべてをいたずら書きや落書きに取り替えてしまっていました――繋がらない文字や、整合性のない奇妙な記号などです。青のインクじゃなく黒のインクで書いたのに、一体どうやったのでしょう。ネーグルなら、あるいはネーグルの筆跡で書いた人物なら、わかるはずです。

 さて、私が説明していなかったのは、『イニストラードを覆う影』のコードネームが「Tears」で、元は「Blood」「Sweat」「Tears」ブロックの一部でしたが、最終的には(2セット・ブロック・モデルに移行した後は)「Tears」「Fears」ブロックの一部になったということです。マルチバースの3文字コードはTEAでした。しかし、私がこの新カードをTEAセットに追加した後、このカードが既にTRSセットに追加されていることに気づいたのです。TRSなんてセットはありません。あるいは、あるべきではありません。

 私は調査を続けました。このマルチバース・ファイルに、求めていた答えがあるかもしれないのです。たくさんのカードが見つかりました。昂揚つきカード。マッドネスつきカード、調査も、潜伏も。変身カードもありました。リミテッド用にマナ・カーブは調整されていました。私のセットの影の、完全なセットです。文字通り影のセットです(自分用メモ:これがなぜそう名づけられたのか調査が必要。フォーサイス/Forsutheの目を盗んで精神探査を)。このカード・セットは私のセットよりも、魅力に欠け、活動的でなく、鮮烈でもありませんでしたが、整然としていました。これは何でしょうか。政治闘争? 私への侵害? 私抜きで、解散後に会議をしていた?

 答えは突然やってきました。文字通り突然です。何かが私に囁いてきたのです。それは文字通り明白でした。デザイン・チームが、私の瞑想中の思考を読み取っていたのです。これがチームワークです。ここでの教訓は、信頼や明瞭な意思疎通は評価してし過ぎることはないということです。何人もの創造的な人が同じ目的に向かって働いているなら、全体は個人の合計よりも力を持ち、意思疎通は口頭に限らずあらゆる形でなされうるということです。

 テレパシーや心のひらめきで生まれた最後のカードが、こちら。

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再訪の時は終わり

 私の心の旅を楽しんでもらえたなら幸いです。あらゆる創造的な取り組みは創造者に何かを残すと言われますが、私もそれに同意します。イニストラードの狂乱に1年間浸ったのは……すっきりしました。肉体はこの小さな部屋に縛られていても、以前よりも自由な思考を手に入れました。私の言葉を文字通り捉えないでください。『イニストラードを覆う影』をあなた自身で掘り下げていくと、私の言っていることがわかるでしょう。深く飲み込んでください。そうすれば、あなたも私と同じことが見えてくるかもしれません。楽しいですよ。私はただただ笑って笑って笑って笑って笑って笑って

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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