あいまいな線引き:マナ・コスト

更新日 Daily Deck on 2012年 3月 16日

By Zac Hill

(※訳注 原題『Blurring the Edges』はMeredith Brooksの楽曲)

 ここDailyMTG.comでは、デザイン、デベロップ、クリエイティブがそれぞれの立場で異なる要素から話す。もちろん、我々のコラムの形式もそれに則っている。我々はデザインについてはMaking Magicで、デベロップについてはLatest Developmentで、そしてクリエイティブについてはSavor the Flavorで話しているので、私たちが示す問題点は、まあ当然それぞれの領域の一部であると思われるものだ。

三つの夢》 アート: Shishizaru

 だが実際には、それらがいつも明確に分けられるというわけではない。デザインは、メカニズムがリミテッドでどうプレイされるか、カードがゲーム世界において何を示すかについて考える。デベロップは、ゼロから新しいカードを生み出し、すでに存在する技術のかけらにそぐうように改訂を加えることもする。そしてクリエイティブは、―特に部族セットではゲームプレイに関係する―クリーチャー・タイプの指定を行ない、さらにはパワーとタフネスを最終的に決める権限まで(我々は2/1の巨人なんていらない――セゴビアにいるのでもない限りはね!)持っているのだ。(※訳注 セゴビアは通常の次元の100分の1スケールの世界)

 これらの相互作用は私にとって興味深い。各部門で彼らは個別のレベルを極めている。(開発部の最新のメンバー―イェイ!)ショーン・マイン/Shawn Mainのとても楽しいメカニズムや、エリック・ラウアー/Erik Lauerの素晴らしいドラゴンや、リチャード・ウィッターズ/Richard Whittersの超絶魅力的なコンセプト・アートのかけらについて話すとき、ショーのスターだけでなく非常にたくさんの人々が関わりあっている。これは開発部のイケてる働きのうちの一部――熱心で協力的な環境の例だ。だが、私たちはウェブサイトでいつもそれらを細かく分析することはできていない。そんなことをすれば、混乱するし終わらなくなるからだ。なので時々、私はこのコラムを使ってそれらの単一の話題ごとに、部門の範囲内で掘り下げていきたい。ウサギの巣穴のような道があるに違いない。

    経費明細書

 今日は、マナ・コストについて取り組みたいと思う。

 これは明らかにデベロップの領分であることはわかるだろう?

《相殺/Counterbalance》  アート: John Zeleznik

 さて、デベロップの存在理由の大きな理由として、カードのバランスを取ることが挙げられる。 そしてゲームにおけるバランスを取るうえで重要な要素となるのが、カードのコストがいくつかということだ。さらに、単なるバランスの問題を越えて、コストはゲーム・プレイ経験の中心となる決定要素のうちの1つだ。より高いコストのカードは自然とゲームの後半に現われることになり、従ってより大きな効果は序盤の状況が固まった後でのみ発生するため、物語性がデザインできるようになる。例えば1、2マナの狼男ならたくさんでも、あなたは簡単にバランスをとれるだろうが、たくさんのデッキがゲームの最初に呪文を唱えることを意図していないという現実を考慮すれば、そのギミックはイケてるとは言えない。つまり、マナ・コストはデベロップの領分でかなりのウェイトを占めているように見える。

 それはほとんど正解だ。

 だが、コストと効果の関係は単純な一方通行ではないことがわかる。完全な世界においてはこの効果の「あるべき」コストがいくつであるなんていう、天から授かったようなリストなんて存在しない。ゲームのバランスを崩さない範囲で複数の選択肢があることも多く、カードがこの選択肢群のどこに入るかは、デザイン側の問題である。さらに、デザイナーは「ファイル」を作るのであって「カード」を作るわけではない。結局のところ、セットをくみ上げるのはデベロッパーにゆだねられているのだが、その全体的な雰囲気や感触、メカニズム的な定義などはデザイン側の話だ。よいデザインファイル、それ自体は多彩なプレイスタイルや効果を含むべきであり――また、それらが様々なコストにふさわしいようになっている場合にのみ、多様な選択肢が残るのだ。

    なにもかも

(※訳注 原題『The Whole Shebang』はSHeDAISYの楽曲)


 ・・・こりゃなんだ?

 このカードは理にかなっていない。ある種の合理的で創造的な処理をしたとしても理にかなっていないのだ。そもそも、どこが伝説なんだ! 白にはで2/2クリーチャーなんていつでもいる、有用な能力が付いているのも珍しくない! なぜ他の何とも相互作用しないようなごく普通のカードに、伝説という欠点(仮に創造的な処理のために仕方なかったとしても)を与えることになったのか? こういった変更のための変更は、たいていの場合、悪い設計の証である――また、素人じみたフレイバーテキストから始めるなんてこともあり得ない話だ!

 これと逆の、以下のカードを見てもらいたい。


 子猫のほうが猟犬よりずっとかわいいということを置いておくと、この勇丸ってやつのほうがはるかにはるかに優れたデザインだ。これは理路整然としていて、そしてその理路整然さはすべてがこのマナ・コストゆえだ。マジックの世界には、どの色であっても、何の欠点もない1マナで2/2のクリーチャーはいない。何かを失うか、何かの不自然なことを受け入れるか、「特別割引、今すぐお電話を!」という状況になるか――このカードにふさわしいのは、「伝説の」という特殊タイプだった。表面上は、コストを置いておくと、さっきのものと全く同じ「デザイン」なのだ。

 違いは何か?

 あなたがマジックのカードをデザインする際のキーポイントとなるのは、実際にはプレイのパターンをデザインしているということだ。単に1枚の紙の上にルールテキストを書いているわけではない。《本質の吸収》と《稲妻のらせん》は同じデザインではない。 《先兵の精鋭》と《珊瑚ウツボ》は同じデザインではない。《Ancestral Recall》と《集中》はもちろん同じデザインではない。多くの新規のデザイナーがこの種の過ちを犯す。――たくさんの効果を作りさえすれば、正しいコストをあとで誰かが用意してくれるものだと思っている。しかし、この角度からのアプローチは、ゲームプレイ経験を彫りだす上でコストの重要性を無視しているのだ。

 これが理由の1つで――そしてこのことについては意見が分かれることも分かっているが――私は《悪斬の天使》をで作れたことを良く思っている。たくさんの人に愛され、たくさんの人に嫌われているが、我々はそれをその水準にまで押し上げることができ、この種の効果が競技マジックに存在してよいというお墨付きを得られた。ある種の環境でプレイされるようデザインされた。すなわち、"われわれは人々にこうしてほしい" という無言の意思表示なのだ。(たとえば) ならば、全くそうはならない。それは《悪斬の天使》ではない。それは同じデザインではない。情熱をかき立てるものでもなく、ただの一方通行だ。何もかき立てはしない、ただ羽の生えたもうひとりの女性だ。

    独立したミス

(※訳注 原題『Independent Misses』はSHAWNA PATの楽曲)

 私が伝えたかったことは、コストと効果は独立した変数ではないということだ。 これはデザイン・ファイルにとって、非常に奥深い意味あいを持つ。

原始のタイタン》  アート: Aleksi Bricolt

 デザイナーとしての力の一つは、総合的に素晴らしいマジックのカードを作れる能力があることだ。デベロッパーとしては私はすぐに愉快なものをスリーブにしまうのが好きだが、もしあなたが死と戦うためにコマンダー・カードのデザインをしたいなら、あなたの側には私ではなくネーグル/Nagelが必要だと約束しよう。一般的に、これが何を意味するかというとマジックのセットは、魅力的なレアを作るデザイナーがいることによって、よりよいものになるということだ。

 しかしながら、以下のカード(まだ印刷されていないとして)が、仮デザイン・ファイルの緑のレア・スロットにあると想像してくれ。

 さて、私は偶然にして、これらのすべてのカードの熱烈なファンだ。さらに、私たちの小さな空想上の宇宙では、ファイルがデベロップをまだ入力しさえしていないので、それらのマナ・コストは変わる場合がある。そうすると、同じファイルにそれらをすべて入れることは問題があるだろうか?

 これの問題点は、あるマナ・コストにのみふさわしい効果が存在するということだ。3マナの《歯と爪》は印刷することはできない。だが、リミテッドで機能するために、また、たくさんのプレイヤーにアピールできるように、あなたはコモン、アンコモン、レア、神話レアのマナ・コストを多様化しなければならない。たとえカードがすばらしい出来であっても、のカードを4枚入れたらやり過ぎなので、後のセットのために取っておくべきである。上掲のような引継ぎを持ってしても、これらすべてのカードはあまりに魅力的で、私は半分にするのにも試行錯誤した。それらを5マナ未満にすることは現実的に受け入れられない。この結果、私がデベロッパーとしてゲームの後半向けのカードをいくつもデザインし始めなければならず、それらは時間が足りずにやっつけ仕事になるため、セットとしての完成度は下がることになる。

 従って、よいデザイナーはは適正なコストを大まかに見積もれる必要がある。そうすれば、デザイナーはマナ・カーブの各ポイントごとに幅広い種類の効果をファイルに生成できる。それに応じて、よいデベロッパーはファイルから問題があるカードを見つけ出し、デザインに送り返して時間内にイケてる提案を引き出しデザインさせる。そうして往復を繰り返すのだ。

    奴らをバラバラにしてしまえ

 (訳注:原題『You Gotta Keep 'Em Separated』はThe Offspringの楽曲名)

 我々がマジックの開発部をデザインとデベロップに分割した理由:人はそれぞれ、いくつかの特定の技術を身につけている。しかし、ここに入った時、それらのスキルセットが重複し、場合によっては依存している範囲の多さに、私は驚いた。カードのコストをふさわしいものにするというのは、完全に別の部門でも重要だと証明されている"デベロップ技術"のひとつの例だ。これが、クリエイティブの人間をデザイン・チームに置いたり、デザイナーをデベロップ・チームに置いたりする理由の一つなのだ。本日は、少しずつ様々なことを知っておかなければならない、という言葉で締めさせてもらおう。

Zac (@zdch)

(Tr. Shin'ichiro Tachibana / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru)



最新Daily Deck記事

DAILY DECK

2015年 12月 11日

黒赤エルドラージ(モダン) by, Melissa DeTora

 こんにちは、皆さん。今年の「Daily Deck」は今回で最後です。本日ご紹介するのは、『戦乱のゼンディカー』で登場した新たなメカニズム「昇華者」を用いたモダンのデッキです。「昇華者」メカニズムといえば《不毛の地の絞殺者》がスタンダードで活躍を見せ始めていますが、それを用いたモダンのデッキを目にするのは初めてです。  《不毛の地の絞殺者》は、かつて環境を支配した《火炎舌...

記事を読む

DAILY DECK

2015年 12月 10日

Pox(レガシー) by, Melissa DeTora

 本日の「Daily Deck」では、レガシーで使えるものの嫌われやすい戦略をひとつ見ていきます。このデッキは《小悪疫》を中心に組まれたもので、対戦相手の手札を取り去り土地を破壊し、何もできない状態に追いやってゲームから締め出すことを狙っています。今回このデッキを選んだ理由は、このデッキが私に黎明期のマジックを思い起こさせてくれたからです。(「小」ではない)《悪疫》(Po...

記事を読む

記事

記事

Daily Deck Archive

過去の記事をお探しの場合 アーカイブのページをご覧ください。人気の著者による、数千にわたるマジックの記事が残されています。

一覧を見る