スペルスリンガー

更新日 Daily Deck on 2012年 6月 8日

By Zac Hill

 私はちょうど今、セントチャールズのエンバシー・スイーツの一室で、ワールド・マジック・カップ予選のスペルスリンガーで使うたくさんのスタンダードデッキをスリーブに入れて準備してるところだ。チャック・クロスターマン/Chuck Klostermanとジュノ・ディアス/Junot Diazの本を読んで1日を過ごしたが、これを伝えるのに意味があるかどうかは分からない。外は曇り空で、中は涼しい。窓越しに、クラッカー・バレル/Cracker Barrel(訳注:レストランのチェーン店)とカンディフ・ファニチャー/Cundiff Furnitureのネオン、それに何もしていないクレーンが見えていた。私は恥知らずにも、あのクラッカー・バレルで夕食を摂ったのだ。コーンブレッドがおいしかったが、甘い紅茶はもちろんひどいものだった。中西部が懐かしい。と言っておこう。

《混沌のゲーム/Game of Chaos》 アート:Thomas Gianni

 スペルスリンガーとは、大体以下のようなものだ:開発部のメンバーが様々なデッキをお供にメジャーなイベント(主にグランプリや大型の独立サーキット・イベント)へと飛び出す。そしてあなたがたは参加費無料で彼らと対戦し、もし勝てばあなたはパックをもらえる。もし負けたら? そのときはなにも支払う必要はなく、今一度、勝つために列に並ぶことができる。

 これは悪い取引ではない――特にあなたがラウンド開始をただぼけーっと待っているときには。

 笑えるほどに単純だ「ふぁっ、マジックをプレイしてるよ」――だがイベントで行われるスペルスリンガーは開発部メンバーの最も価値ある日常活動のひとつなのだ。「舞台裏」でのこととは違うことなので――なぜしているのか、どうデベロップに活かされているのかについて書いたことはないかもしれない。

 おお! これでコラム1本書ける!

    ちいさな黄色いタグ

 私は現実を失った。

 この感傷は味気なく聞こえるが、実際、おおむねその通りだ。生活するためにマジックを作ることとなると、基本的にはもっとも素晴らしい仕事で、私たちは第一線を離れ、競技的な"IRL"イベントから引退することを知っていた。あきらかにそれだけの価値は存在する。しかし、ある面では、現実から離れた、奇妙な実験的タイムカプセルの中に取り込まれてしまう。 現在の、イベント、スポーツ、政治、文化、食料品店で不可解なワルキューレの帽子を被ったあの男。あなたはあなたの仕事について話す。あなたはあなたの家族について話す。あなたは一緒に物事を行う。あなたがゲーマーなら、ゲームで遊ぶ。あなたは経験を共有する。あなたは思い出を作る。あなたは世界とともに回る。

人里離れた谷間》 アート:Terese Nielsen

 友達の50%がマジックプレイヤーで、あなたがマジックを作っていると思ってくれ。突然、たくさんの日常的にありふれていたものが、もはや一般的でなくなる。職場での会議について話題にできなくなる。2014年まで公開されない秘密を漏らしてしまうことになるかもしれないからだ。私が作った新しいデッキについて話すこともできなくなる。なぜならそれは「アンリーシュド:君の背後に迫る餌食リスの逆襲」でお披露目する予定の新たなるメカニズムをばらしてしまうことになるからだ。ばらしてしまうことが何もなくても、マジックの「外部の」そこらの人と雑談するときにも同じような困った奇妙なことが起こる。誰かが近づいてきて、なんと言うこともなく、キャサリン妃の結婚についてとか、映画『インセプション』の超現実についてとか話すかも知れない。それは――ねえ、ほら? あったじゃん?

 ああ、あったとも。あったことでなかったならなかったし、なかったことでなかったならあったんだ。

 その結果、全体としてとても危険な可能性がある。一連の気泡が、マジックの世界で起こっていることと我々の間に壁を作っている。ふぅ、そこで我々はこれといろいろな方法で戦っている。我々は大手のウェブサイトをフォローし、すべての異なるカバレッジストリームを視聴し、ソーシャルメディアの進化と足並みをそろえ、こういったコラムを通して直接的にフィードバックを聞く。だが、そこには地に足の着いたあなたに何が起こっているかを例えるものがない。

 そこでスペルスリンガーだ。

    きみ!この塔で缶詰に...いや!

 スペルスリンガーがが我々を《象牙の塔》から降りてこさせて、他の方法にはとてもとても代えがたい3つの重要なことをさせる。

1. 現実世界のフォーマットのソリッド感の開発

 このコラムの内容を、フューチャースタンダード(などなど)を、納得するまで調整して、それをドアの向こうへと送り出し、次の仕事にかかる、と捉えられることが多い。だが実際にはそのプロセスはもっとずっと流動的だ。実際の世界のトーナメントからのフィードバックは、我々のセットが推すべきデッキ、対策すべきデッキ、発売されたセットの鍵となるものが有効に働いたか否かといったことを教えてくれる。

思案》 アート:Dan Scott

 我々は可能な限り現在の環境に触れ続けようとしている。これをするためにマジック・オンラインをプレイし、デッキやサイドボードの仕方をチェックしたりして、毎週我々が予想していたトレンドが正しいか調査している。だが、プレミア・イベントでプレイすることはできず、また、何年かかけて作り上げていくこれからのマジックを決めるには、オンラインで収集できる情報だけでは足りないのだ。

 だがグランプリでガンスリンガーをしているとき、たくさんたくさんのプレイヤーと、たくさんたくさんのゲームをする機会を得られる。これは、《思案》を解決して勝率がはねあがるようなデッキのパワーレベルを評価しようとするときに特に妥当だ。また、実際には何が楽しくて、何が楽しくないかを理解するのに非常に役立つ。例えば、あなたが初めて《蔵の開放》のようなデッキと相対した時、それはとってもかっこよくて、革新的で、きれいだ。イベントでそれが3回4回と起こった場合――そのデッキが充分強かったとしたら――それは本当にすぐに本当に平凡になるかもしれない。従って、現実世界での妥当性を計るのにもっとも簡単なイベントなのだ。

 それはFFLデッキを作る助けにもなってくれる。開発部生活の現実は――今の方がずっといいプレイヤーになっているというマーク・ローズウォーター/Mark Rosewaterを除いて――高レベルのゲームをしなくなれば、マジックの能力は衰えていくものだ。何百というマッチを競技プレイヤーと繰り返す世界に戻ることで、社内リーグに戻ったときによりよく現実を映すことができるようになっている。時折、古き良きスキルをリフレッシュすることが重要なのだ!

2. 現実世界ののトーナメントがどう運営されているのかを直接目撃する。

 あなたを逃がさないために、我々は常に組織化プレイ体験の改良のための新たな方法を見つけようとしている。はっきりしているのは、マジックのイベントは人々がただ漠然と集まってただゲームの点数をはじき出すだけの場所であるべきではないということだ。

村の食人者》 アート:Bud Cook

 とはいえ、私たちの考えがいつでも的中するわけではない。椅子に座り、どうなるべきだと理論立てるのは簡単だが、それを実際にすることは非常に難しい。ゆりかごの中で安らぎ、このビルの外では何もかもがうまく行っているのだなどと考えない理由はそこだ。革新するにあたって非常に重要なのは、その革新がコミュニティになにか良いものをもたらすようにすることである。そのための最善の方法は、イベントに顔を出し、多くの人とふれあい、実際に起こっていることを知ることなのだ。

 こうして、興味深いことの数々を学ぶ。:

  • [プレリリース X]で、デッキ構築で20%のプレイヤーがまだデッキ構築中にランドステーションの基本土地1種が枯渇する。
  • 私がプロツアーでプレイをしていたころ、プレイマットを使っている人は誰もいなかった。今ではそこかしこで見かける。
  • ペアリングの配置のような単純なことでもプレイヤーが着席するのにかかる時間を500%短縮することができる。
  • あるイベントでは、そこにいる誰もが、誰がプレイヤーで現在どうなっているかを正確に知っている。他のイベントでは、ただ人々はマジックをしに集まっているだけで、トラブルが起こりそうになっていても何も気にしない。
  • "ブランドプレイ"体験の成功は、私たちとイベント主催者による、小さなアイデアとたくさんの実行による。

 いくつか挙げてみた。

3. 現実世界を取り巻くプレイヤーからフィードバックを収集する

 良い意味で想像しがたいような驚くべき新事実として、人々が何もかもをインターネットで発信するということを私たちは理解した。元デベロッパーのマット・プレイス/Matt Placeがかつて宣言したように「すべての意見は記録されている」のだ。それは悪いことではない。――我々のフォーラムやメールバッグへのフィードバックは、我々が受け取るフィードバックの中でも最も価値あるもののひとつだ! だが、繰り返すが、みんなが何を考えているかを正確に感じるには、地に足を付け直接話を聞く以外にはない。

兵員への参加》 アート:Kekai Kotaki

 単に、「結魂メカニズムについてどう思う?」と聞きたいという意味ではない。「11歳の息子にマジックを教えて、金曜日のイベントに行って男同士の時間を過ごせるようになった」とか「うちの統率者戦仲間はもう15年も続いてて、結婚した奴が4人、引っ越した奴が2人、転職した奴も1人いるよ」とか、「何年前のことだかは思い出せないけど、ドラフトしたセットが何だったかは覚えてるよ」とか。これらはどれも対話から得た、貴重な情報だ。経験や記憶を抜きにして重要なことをすることはできない。レントンの小さな箱の中でなら、なぜ、何をしているのかということにおいて、人間の性質を見失うことはよくあることだ。だが、人間の性質なしには何も始まらない。人間は体験の生き物で、私はそういった体験談に飢えているのだ。だからこそ、私は朝から働きに行くわけだ。

 もちろんそれは、我々がより技術的な方向でのフィードバックを望まないということではない。我々はあなたがたがスタンダードで、ドラフトで、モダンで、またはそれらと異なるカジュアルな好みのフォーマットで何を考えているかを知る必要がある。私はあなたが私に言いたいことを知る必要があり、――そして、その日の終わりに、私はただ話し合う必要がある。私は人と会うのが大好きだ。私は私たちの作ったものに興味のある人々と会うのが大好きだ。会うことは素晴らしく、それ以上楽しいことはそうそうない。もしあなたがこれを読んでいるのなら――あなたと会えるのが待ち遠しい。

    そのためになにをするべきかなぁ?

 もちろん、これらに隠されている暗黙の前提は、スペルスリンガーとして参加したら、人々が現れゲームをしてくれるということだ。それが何を意味するかというと、あなたの地域で、我々が行って対戦するイベントが開かれると知ったなら――ぜひ、来てくれ! 無料で、勝てばパックがもらえて、開発部のメンバーとあなたが望むことについてなんでも話すことができる。あなたに教えられないこともある――いや、基本セット2013に《平地》、《》、《》、《》、《》というマジックのカードが入っているかどうかは確実ではない。――でも、それは会話してはいけないということではないのだ。実際のところ、話をすることが楽しみなんだ!

 アーティストのサイン会の近くで黒いウィザーズのポロを着てみょうちくりんなデッキで戦っている奴を見かけたら、是非来て欲しい。もしかしたらもらうパックに神話レアが入っているかも知れないよ。

(Tr. Shin'ichiro Tachibana / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru)



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