プラーフの影 その1

更新日 Daily Deck on 2012年 8月 29日

By Jenna Helland

Jenna Helland is a designer and writer for the Magic creative team. She's a member of the story team, a creative liaison with design teams, and the author of the Theros novella, Godsend.

著者より:どうも、ジェンナです。来週、「プレインズウォーカーのためのラヴニカへの回帰案内」第二回をお送りする予定です。今週は、私達は新たなラヴニカからフレイバーを披露したいと思いました。ボロス軍のとある士官が、数年前に起こったゴルガリ団の暴動と繋がる一連の殺人事件を捜査します。この物語はその2、プレビューカードの公開とともに最高潮に達します。読んで下さってありがとう!


「魔女と泥棒か」 ブランコは列をなしたゴルガリ団の囚人達をじっと見て考えた。

 彼は麻痺警棒の柄を握り締めた。彼は叫びたかった、アゾリウス評議会拘留所の壁を叩き壊したかった、そして陽光の下へと逃げ出したかった。彼らとその奇妙な呟き、獰猛な視線から離れたかった。

「警棒を離しておけ」 彼はまだ十代の新米守衛、ゲブリスの前を通る際に囁いた。ゲブリスは自身を過大評価しており、健全な状況にあってさえ卑屈だった。

「私は自分がやるべき事をします、貴方も自分の仕事をして下さい」 ゲブリスはぼそりと言ったが、それは意味のないものだった。彼らの仕事は同じだった。

 ブランコは正気をいくらか彼へと叩きつけたかった。この夜、アゾリウスの逮捕係達はゴルガリ団の縄張りを強襲していた。だがひとたび拘留所に入ると、ゴルガリ団の何人かは自分達を捕えた者を参らせ、一階を占拠した。今や、より多くの階層が奪われているかもしれない。ブランコには知るよしもなかった。彼はここ地階を押しつけられていた。

アート:Greg Staples

「魔女と泥棒だ」 ブランコは通路を歩きながら再び呟いた。彼のはらわたを抜きたいと切望する者達から僅か数インチの距離で。

 彼らは数時間に渡って、息の詰まるような回廊に閉じ込められていた。今のところ囚人達は落ちついているが、彼らはそわそわし始めていた。後ろ手に縛られてひざまずいているのは誰にとっても辛い。時間が経つにつれ、ブランコは彼らに同情した。だが他の守衛達は、ゲブリスのように、共感するというよりも興奮し始めていた。

 囚人のほとんどは一度も太陽に当たったことがないのであろう、弱々しい色の肌をした、汚れた人間達だった。より大きな身体を持つ人間達は木製の枷と輝く手錠で繋がれていた。中でも最も恐ろしいのは、縛られ猿轡をかけられ目隠しをされた、痩せ衰えたゴルゴンだった。彼女の髪は束縛されておらず、のたうち回るその触手達はブランコの肌をぞわぞわさせた。同胞達さえも彼女を怖れ離れていた。彼女は防壁を築かれた回廊の傍に一人で膝をつき、その残忍な状況にもかかわらず奇妙に堂々として見えた。

 彼女を監視しつつ、ブランコは真実に向き合わねばならないと知った。このあまりに多くの囚人を預かるには、守衛の数はあまりに少ない。

「腐った地虫が」 ゲブリスが突然叫んだ。彼は痩せこけた頬をした、消えかけた氏族の刺青がかつてグルールの者であったことを示す青ざめた肌の男に迫った。その男は何も言わず、赤く縁取られた目に憎悪を込めて睨み返しただけだった。

「おやまあ、鼠の顔だ」 ゲブリスが挑発した。「お前が生まれたの祝ったんだろうなあ? ゴルガリママに抱っこされてなあ?」

 ブランコは、より階級の高い士官がいればと願った。だがゴルガリ団の暴動に続く最初の混乱の間に、彼ら士官達は囚人達の残りを地階へと追いやった。彼らは守衛達へと救援が来るまで動かないよう命令し、防壁の魔法をかけて出口を塞いだ。

アート:Tyler Jacobson

 誰も入らない、誰も出ない。上司がそう言うまでもなく。

「汚いのがそんなに好きか、じゃあこれはどうだ?」 ゲブリスは靴の爪先を上げるとそれを男の顔面を突き、男の頭を壁に打ちつけてそのまま壁へと押しつけた。回廊の至る所でゴルガリの者達が非難の囁きを始めた。それは獣じみた唸り声となり、タイル張りの天井に反響した。

「告訴されるぞ」 ブランコはゲブリスに警告した。

「そうですかね?」 ゲブリスはあざ笑ったが、足を下ろした。男の唇は切れて出血し、彼は再び顔を上げはしなかった。囁きは止んだが、囚人達の名残惜しそうな怒りはもはや直に感じられるほどで、空気中に煙が漂っているかのように刺々しかった。

「落ちつけ」 ブランコはゲブリスへと囁いた。ブランコは自身より背の低いその男の肩に手を置いたが、ゲブリスは憤りに肩をすくめた。

 数ヶ月前に顔を合わせた時から、ゲブリスは身長7フィート以上にもなるブランコへと即座に嫌悪の情を見せた。背が高いだけでなく、ブランコは鍛冶職人のように筋骨隆々として逞しかった。彼の背格好こそがこの状況を独り制御し続けられるものだと感じた。

「そんなことは聞いてません!」 ゲブリスは怒鳴り散らした。「やろうとしたのはこの野郎です」

「誰だ、ジーヴァンか?」 ブランコは尋ねた。判事ジーヴァンが、ゴルガリ団を根本的に一掃すると声高に勧めるこの大規模逮捕を発令していた。

「何言ってるんですか」 ゲブリスが言い返した。「腐った地虫のこいつらです。こいつらは俺達にわざと逮捕された、そうすれば戻ってきてここで俺達を殺せる」

 ブランコは返答しなかった。囚人達の前で話すのは好きではなかった。自分のあらゆる動きを追跡する彼らの視線を背中に感じた、

アート:Ryan Pancoast

「演習場へと連れて行きましょう」 ゲブリスが促した。「南区画の囲いに閉じ込められます」 ブランコはその論法を理解した。南区画からの出口はない、だが少なくとも囚人達は何か健全な行動によって自制することができる。

「日光はどうする?」 ブランコは尋ねた。ゴルガリ団の囚人の輸送については厳格な協定が存在した。そして適切な儀礼が行われない限り、彼らを陽光にさらすことは禁じられていた。

「日光なんてどうでもいいじゃないですか」 ゲブリスは金切り声で言った。ブランコは素早く頷き同意した――ゲブリスの精神は危険な状態だ。

 囚人達を立ち上がらせた後、ブランコは回廊の端の扉で囚人の集団を待った。彼は陽のあたる演習場へと同時に二人を送り込んだ。ゲブリスは反対側に立って彼らを見ていた。唇から血を流す男が列の先頭に立った時、彼らまだ集団の半分しか動かしていなかった。ブランコは日光の下へ来るようにとその男を促したが、彼は動くのを拒否した。

アート:Marco Nelor

 ブランコが彼に手を伸ばそうとした時、残るゴルガリ団の者達の間に動揺の波が起こり、彼らは揃って立ち上がりブランコを包囲した。ブランコは群衆をその頭上から見ることができた。二人の囚人がゴルゴンを先導し、彼のもとへと連れてきた。囚人の一人は自力で束縛を破って自由となり、ゴルゴンの目隠しへと手を伸ばした。彼らは彼女を武器として使おうとしていた。

 囚人達の身体に閉じ込められ、ブランコは扉へと向かうことができなかった。彼らはブランコを蹴り、膝を折らせようとした。正当な憤りが彼を圧倒し、彼はやり返した。彼らの鳥のように細い骨を壁に叩きつけ、拳で頭蓋骨を砕き、逞しい膝で背骨を折った。

 そして今や束縛から自由となったゴルゴンが争いに加わろうとしていた。ブランコはこのような接近戦で戦うのは好きではなかった。花崗岩の塊になりたいと望むのでなければ、彼女を最初に打ち負かさねばならなかった。目を閉じ、彼はゴルゴンへと突進した。彼は逞しい手で彼女の骨ばった肩を掴み、開いた扉へと突き出して彼女を引きずっていった。

 彼らは砂の地面にもつれて倒れた。陽光は焼けつくように暑かった。ブランコは不器用にゴルゴンの上に乗ったが、どうにか目は閉じたままでいた。彼女は聞き慣れない言葉を呟き、彼の顔を引っかいた。盲目的に身体を揺らしながら、彼はゴルゴンへと何度も何度も肘を叩きこんだ。彼の下でゴルゴンの身体は次第に静かになっていった。だがブランコが立ち上がろうとすると、指が彼の耳を引きちぎった。彼は肉を引き裂く音を聞き、苦悶に叫びを上げた。ブランコはゴルゴンから転がって離れ、不注意にも周囲の混沌へと目を開けてしまった。囚人達は自由に演習場を駆け回っていた。彼らは統制を失ってしまっていた。

 彼の視線が一瞬ゴルゴンをかすめた。それは地面にうずくまっていた。苦痛がブランコに吐き気を催させ、彼の耳は首のあたりにぶら下がっているようだった。彼の周囲で深紅の光が脈動し、世界が横転した。ブランコは自分は意識を失おうとしていると気付いた。

 彼の隣で、ゴルゴンの側頭部から血が噴き出した。彼女の頭が横を向き、ちらつく光が彼女を飲みこんだ。既に失った平衡感覚を保とうと、ブランコはその手を土に突き立てた。

 彼が再び見上げると、残っていたのは砂についた彼女の身体の跡だけだった。ゴルゴンは消え去っていた。


アート:Karl Kopinski

 それは簡単な事件だった。借家の18階が崩壊し、4人が死亡した、そのうち2人はラプト家の者達だった。ラプト氏は賠償を求めていた。

 レロフ判事はインク壺にペンを浸し始め、その事件について熟考した。彼は申請書の末尾に記された原告手書きの証言を読み直した。

 木製の床板は数週間前から柔らかくなっていました。私は信ています[原文]、そこには漏れやすい配管があったと。私はその件について家主に二度話しましたが彼は何もしませんでした。

 信じて、だろう? その単語をよく見れば見るほど、レロフは苛立たしく感じた。申請書の最初の10ページは理路整然としていた。提出者は正しい成文を特記していた、そして彼の法律的弁明の筋道は正常だった。目に見えない、懸念すべき材料はなかった――相手はギルド無所属の悪徳家主で、後日アゾリウスへと揉め事を招くような犯罪社会との繋がりもない。

 レロフは机の隅にぐらついている文書の山について考えた。そうだ、この男には教訓を伝えるのだ。ラプトさん、綴りを覚えましょう。そして私に貴重な時間を無駄にさせないで頂きたい。そして彼は申請書を山の底へと滑り込ませた。

 レロフは彼の注意を机の上の別の書類仕事の山へと向けた。彼は極めて慎重に気を配られた法律的言語を――僭越に思うがそれは実によくできている――そして午後の時間が心地よく過ぎて行くのを楽しんでいた。レロフは暴動に近接して逮捕された人々に罰金を科した、彼らが暴動に参加していたと証明できていなくとも。次に、彼は新たな大判事レオノスの彫像について賛成の意を表した。それが新プラーフ正門の傍(だが隣ではない)に置かれることへの議論が同意に至るまでは数ヶ月を要した。

アート:Drew Baker

 事務員が別の文書の山を抱えて彼の広々とした執務室の入り口に現れた時、彼は反カルト議案の資金提供に反対する論拠の書面をちょうど書き終えたところだった。判事の仕事は決して終わることはない……

「通気口からうるさい音がして気が散って仕方ない」 彼はその若い女性へと言った。「聞こえるか?」

「設備係へと要請を提出致しましょうか」 彼女はゆっくりと答えた。要請書を埋めるのは事務員の仕事ではないが、それは長く退屈であり、そして事務員は判事よりも空き時間を多く持つよう義務づけられていた。

「ありがたくお願いしよう」 彼は愛嬌のある笑みを浮かべて言った。

「かしこまりました」 彼女は言った。そして彼の机に二通の封書を置いた。「急使から届けられたものです」

 彼の笑みは気難しくなった。それらを即座に提出しなかったかどで彼女を懲戒することもできたが、それはやめようと決めた。彼は全くもってその事務員に頼っているのだ。レロフが受領文書に署名すると、彼女はアゾリウス評議会庁舎の迷路のような廊下へと姿を消した。

 最初の書状は、拘留区域への立ち入りを求めるオルゾフ執行者からの緊急利用の請願だった。その要請は12の法令を冒すが、レロフは書面下部に薄桃色の数字が印刷されているのを見るとためらわず署名した。彼はその数字を指でこすり、ヴィズコパ銀行の彼の口座へと速やかに支払われるであろう金額をぼかした。

アート:Kev Walker

 二番目の書簡はジェイヴィ、ボロス軍の調査員であり彼の最も古い友人の一人からだった。何年も前、彼は絶対安全議案として知られるボロス軍との合同事業の先鋒に立っていた。今や消滅したそれはグルールや貧困の牢獄から子供達を救い出し、彼らをアゾリウスかボロスの学校へと入れるというものだった。ジェイヴィは彼の最も熱心な支持者だった。その頃彼らは若く、理想に燃え、そして何よりも、物事をよりよく変えることの実現性については少々愚かだった。

 レロフは年月を経てずるくなっていったが、ジェイヴィは決してその理想主義を失わなかった。そして数年前、ジェイヴィと彼女の相棒は精錬地区の倉庫で襲撃を受けた。二人ともひどく痛めつけられ、ジェイヴィだけが生き残った。レロフはその噂を聞いたことがあった――オルゾフ組がその噂を黙らせたがったと推測される――だが彼は事件以来彼女とは話していなかった。彼は封蝋を砕いた。ページの上部に挨拶文が僅かにあり、そして彼女の馴染みある殴り書きがあった。

 誓言に捧げた人生の頂点は何? それは大量の血。すぐに来て。
――ジェイヴィ


「プラーフの影」その2、そしてプレビューカード!]


Jenna Helland / Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori



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