異論弁論:対象を取る「カードを引く」こと

更新日 Daily Deck on 2012年 3月 30日

By Zac Hill

 開発部の我々は頑固者の集まりだ。マジックのすべての主要な問題点については、DailyMTG.comの記事を読むことにより我々の集団意識としての見解を容易に感じることができる。だが、実際には個々の思想が異なることは多い。私たちの部署の大きな会議のうちの一つに、火曜に定例で行われる「カード制作」会議というのがあり、そこではみんなが集まって、青と黒の飛行クリーチャーの違いはどうあるべきか、あるいは"物あさり"が青と赤のどちらにふさわしいのか、どんなパンプ能力が緑っぽくてどんなパンプ能力が白っぽいのか、といったことを声高に討議している。

集団意識》  アート: Steve Argyle

 これらの意見の違いは、外部に公開されるまでには見えなくなるのが通例だった。そこで、マークと私は1か月ぐらい前に、今後は「異論弁論」型のコラムを折に触れて作り、まだ最終的な決着のついていない論争について世に出すことにした。今週は《予言》や《知識の渇望/Thirst for Knowledge》といった、カードを引くことに価値がある呪文について挑むことにした。

 仕組みは以下の通り:私と彼が互いに完全に独立して記事を書く。通常、私は彼の記事を読んでからでは彼の意見にスマートかつクレバーに反論できるように修正ができてしまうので、このままだとちょっとばかり不公平なアドバンテージを楽しめる。なので 、彼が何かを言ったことに対して直接的に対応する機会を得る前に提出するよう指切りしている。その後あなた方にどちらが納得できるかをフォーラムやメールを通してジャッジしてもらおうというわけだ。

 いいかね?

    ご一緒にポテトはいかがですか? ヤンマーの2GM20のマリンディーゼルエンジンで使用された駆動ベルトはどうですか?

 通常、行動する上で「選択肢」といったものは非常に魅力的で良いものだ。「バラエティ」には前向きな含意がある。「選りすぐり」は広告主があなたに優先してもらいたいものを提示するもので、スーパーの店頭などで遭遇する言葉だ。しかし、幸福の総量がどうなのかということを脇に置いても、調査によると過剰な選択肢はむしろ満足度を下げることを示している―あなたが本当に欲しいものについて考えてくれ、例えば、64の異なる種類の合成洗剤がランドリーの通路にあったり、ケーブルテレビで350種類の異なるチャンネル(沼で人々がワニを追いかける4つのチャンネルに分かれたショーを含む)しても―関係ない。それは、我々が日々生きている中では、自身に必要のない選択肢は自然と消去しているからだ。

《不自然な淘汰/Unnatural Selection》  アート: Kev Walker

 例えば、現在私は喫茶店で座ってこの記事を書いているところだ。快適な椅子に座っている。この椅子を、既存の機能性をすべて保ったままで、座席の下の部分に最大4本のベータマックスのテープを入れるようにデザインすることはできただろうと思う。さらに、私はたった今、美味しい16オンスのダーティチャイラテ(エスプレッソ入りのチャイラテ)を注文したところだ。ここのメニューには、コーヒーのちょっと違うだけのものがずらりと並んでいる。さらに、ホイップクリームのスプレー缶、はちみつのびん、そして少なくとも18種類の異なるシロップが入っていて――さらには(なぜだか知らないが)ユダヤ教の食事規定に従ったディルのピクルスの小瓶まである。だがそれらはメニューに掲載されていない。これらの選択肢は購入時に提示されない。

 どうしてそうなのか?

 こんなカードを想像してみてくれ:


 私は――大半はとても競技寄りの――ほとんどのカードがこうなることを願っているプレイヤーたちと話し合ったことがある。彼らは、"、インスタント:黒のペンギン1体を対象とする。 それはターン終了時まで-1/-2の修整を受ける。"といった感じのカードと相互作用する":赤のペンギン1体を対象とする。ターン終了時まで、それは黒であり緑である。"といったカードが欲しいと思っている。つまり、もっと価値を高める機会を! もっと対戦相手を超えるようなアドバンテージを捻出する機会を! ということだ。

 しかしながら、私は、彼らが本当に望んでいるデザインはそんなのではないと考えている。対戦相手を見つけるためには、まずプレイヤーがいなければならない。そして誰もマジックをプレイしなくなる。

 デザインとは優雅さである。デザインとは簡潔さである。デザインとは分かるカード、人々が理解できるカード、人々が望むことを魅力的な方法でするカードのことである。注目のカードとするべく4マナ4/4のカモノハシを作った。だがそれは100万マナかけて人々を混乱させるだけのたぬるぬるした何もしない能力持っていたがために魅力的にはならなかった。これはただの憶測ではない。以下の2枚のカードを人々に提示して実際に市場調査をした。



 圧倒的に、どの点から見ても、人々は「より悪い」で能力なしの3/2を好んだ。彼らが馬鹿だからでもなければ、3/2と3/3の違いを理解していないからでもない。「: 10点のライフを失う」という能力が、冗談か、ウソか、それともプレイヤーを不安・困惑・戸惑いに陥れようというデザイナーの侮辱だからだ。これは罠だ。人々が誤ってこれを起動し、負けるからではない。人として、デザイナーのことを「目的があってそれを創造した」と信頼している。そうでなかったとき、我々を落胆させ――約束された信頼関係が失われることになる。

 さて、ときおり10点のライフを失うという能力でアドバンテージを得られるデッキがあるることがある。私はそれを理解している。実際に、私はそういった直接アクセスできるようなとても愛しているメカニズムをデザインしたところだ(死地の中での死力参照)。 だが闇の隆盛――マロー自身がデザインを主導したセット――では、こんなカードはファイルに一切存在しなかった。偶然ではない。我々が思いつかなかったわけでもない。そんなカードを印刷することが明らかに間違っているのだ。

 彼がそのことを理解しているのに、「対象のプレイヤーはカードを2枚引く」が全く同じことであるのを理解していていないことは、私にとって非常に興味深い。

 マークは年がら年中アップルを称賛している。アップルは世界でも最も成功した会社の一つであり、それは全体的にカモノハシのような製品を作らないという製品開発戦略をとっているからだ。アップルは95%ユーザーの望まない挙動を示す罠となる、過剰な「選択肢」を消費者に提示しない。アップル製品でできることは少ないが、できることを確実にできるのだ。

 「カードを2枚引く」はアップルだ。「プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーはカードを2枚引く」はLinuxだ。

 もちろん、この主張に異論があることはわかっている。たくさんの人がLinuxを好いてることは知っているし、多くの人がアップルはもっと選択肢を提示すべきだと思っているということも知っている。私がここで言いたいのはどちらか一方が優れているという話ではない。だが、我々がマジックを通して思い出づくりを手助けすると信じて、その手で稼いだお金を製品へと費やしてくれる人々に、デザイナーとして果たすべき責任があると感じている。私はそれを彼らとの約束だと感じている。そして、約束を果たすということに関しては、アップルのやり方には非常によい実績がある。

    物事をきちんと実行する

 オーケー。 私は「:10点のライフを失う」と「対象のプレイヤーはカードを2枚引く」は同じだと言った。どこが一緒なのかって?

 よくぞ聞いてくれた。それをこれから解説していこう。

《果たし合いの場/Dueling Grounds》  アート: Pete Venters

 それを定量化するのにはてこずるが、さまざまな証拠から90%以上のマジックのゲームは1対1で行われている。もちろん、多人数プレイに熱狂的なファンが多いことは理解しているし、多人数プレイのマジックを矮小化したいわけではないということをあらかじめ主張した上で話を進める。確かに多人数戦もよくプレイされているが、それはマジックがよくプレイされているからである。証明終わり。これが何を意味するかというと、一部のファンのために統率者のようなセットを作ることもあるが、ほとんどのカードはほとんどのプレイヤーのためにデザインされなければならない。そして、ほとんどのプレイヤーは、1対1のデュエルの形でマジックをプレイしている。

 つまり、《予言》を「対象のプレイヤーはカードを2枚引く」として印刷するのは間違った選択肢を与えることなのだ。そうすれば対戦相手に対して唱えることができるようになるが、その選択肢は私にとって非常に都合が悪い。10点のライフを失うことよりも悪い。対戦相手に《Ancestral Recall》を唱えさせているようなもので、結局、私はカードを1枚減らし対戦相手はカードを2枚増やすことになる(差し引きで3枚のカードが増えたことになる)、これで言えば私は3マナを費やさなくてはならず、対戦相手は何も費やさないのだ。

 これはライフの合計が半分にされる選択肢同様、プレイヤーたちをまさに不快にさせる。四六時中駆けずり回っても実際にそれが本当に起こることはそんなに多くはない(例えばプレリリースで2ターン目に私に対して《血の署名》をどの程度唱えられたかを連想している)。直感に反したカードを最小化することによりマジックは成功を収めてきた。

 1対1のときでさえ対戦相手にデッキを枯渇させるためにカードを引くことを強いたい、そういうときもあることはわかっている。それについてはまた次のセクションで扱いたい。だがその機会は、対戦相手を殺せるときだけで――そうでないとき、敵を強めるために塩を送っているだけで、ブースタードラフトでは対戦相手が0マナのパワー9を唱えることに等しい――そんなシチュエーションが来るのは極めて稀だ。なので別の方法で論理を組み立てよう。以下の2枚のカードを考える。


 と、


 ......どちらを印刷したか、言うまでもない。

    だけど待って! 他にもあるんだ!

 これまで、(a) 対戦相手にデッキを枯渇させるためにカードをを引かせない (b)2人プレイでゲームをしている。という前提に基づいて話してきた。これらの条件下では、大きくて重たい魅力のない選択肢をカードに記載すべきではないという私の主張は理解してもらえると思う、マークの、デッキを枯渇させるために対戦相手にカードを引かせる、あるいは多人数プレイをしている、という仮定を認めてさえ、彼の解法がマジックにとって良いものだと賛同することはできない。

清浄の名誉》  アート: Greg Staples

 2002年の世界選手権で、私の上司であり殿堂顕彰者であるデイヴ・ハンフリーズは歴史上最も記憶に残る日曜のゲームを、全ての《サイカトグ/Psychatog》を《ロボトミー/Lobotomy》によって追放したのちに、《綿密な分析/Deep Analysis》し、《セファリッドの円形競技場/Cephalid Coliseum》することによって対戦相手を死に追いやった。そのゲームは極めて骨の折れるもので、時間制限のないマッチで〔遅いプレイ〕の警告を出されるほどだった。こういったシチュエーションはレアだからこそ緻密でイケてると言える。だがカードを引く呪文によって対戦相手のライブラリー切れを起こせるようにすると、局面はより悲劇的で疲れる、直感に反するものになり、さらには(通常の環境下で)故意でない引き分けへと導くことになる。


 私が覚えている中で最も痛ましいフォーマットの1つであるローウィン・ブロック構築では、突出した戦略として、対戦相手にカードを引かせられる《ウーナの寵愛》を含んだ5色コントロールのミラーマッチが繰り広げられた。私は――私自身も含む――こういうことを好むプレイヤーがいることは知っていた。しかしながら、ほとんどの人々は文字通り他のことをしたく思い、そしてマジック・デベロッパーとしての仕事は、私の顧客を満足させることで、私自身を喜ばせることではないのだ。増加可能なカードを引く呪文により対戦相手を殺す能力をプレイヤーから取り去ることによって、コントロールデッキはゲームを終わらせるようなフィニッシャーを適切な時間内にプレイしなければならなくなった。

 ところで、増加可能なカードを引くことを制限すべきと話したのはこのイラストが理由の1つだ。私はミラディン包囲戦のデベロップ・チームに在籍し、そこで《青の太陽の頂点》――対象を取るドロー呪文を印刷した。この呪文はゲームを終わらせるものだが、レアなので、経験の乏しいプレイヤーを混乱させることはないと判断された。構築のテストでも、このカードは強すぎるからバランスを取るために「対象のプレイヤー」を取り除くべきだという話はなかった。ゲームを終わらせることができるカードになったのだ。


 多人数戦では?

 今、《予言》を唱えれば、私はカードを2枚引く。選択の余地はない。それはデッキを通して私に土地や呪文を供給してくれる。ここに対象を取るという能力を付けた途端、その価値あるカードは政治的なものになる。私を対象とするという決定は、すなわちチームメイトを対象としない、または卓上他の誰も対象としないという決定をしたことになる。時には盤面が有利なプレイヤーが対象を自分や「他の人」にするよう要求するかもしれない。時には私は私のチームメートよりカードを必要と考え、私のチームメイトは真逆に考え、そしてそのことについて水掛け論になるかもしれない。もし私が大がかりな呪文を唱えるとき、実質的にゲームの物語の軸に影響を及ぼしうるのでそれらの会話は適切だと言える。だが、これらの決定点により曲げられるように従来の《予言》はデザインされていない。それらは最小限の記述で、あなたのデッキの働きをほんの少しだけ手助けするようにデザインされている。

 このカードに求められる働きを可能な限り易しく作ることで、本当に重要なカードに複雑さを取っておくことができるのだ。

 これが、なぜ私が正しくマークが間違っているのかの説明である(笑)。

(Tr. Shin'ichiro Tachibana / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru)




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