いよいよ第1ラウンドが開始され、多くのプレイヤーたちのグランプリ・名古屋が始まったころ。プロポイントやPWP(プレインズウォーカーポイント)で不戦勝をもらっているプレイヤーにとってはまだ気持ちに余裕がある時間帯だろう。
不戦勝を持って暇している強豪を探しに会場を歩いていたところ、カードショップ巡りをしている八十岡 翔太(東京)に巡りあった。
グランプリ・サンアントニオでのクイックインタビューにおいて多くのトッププロから世界一のデッキビルダーだと賞賛された彼に、今回参加するデッキの概要と、そのデッキができるまでの思考と過程を尋ねてみよう。
――「こんにちは。いつもは出場するデッキを当日の朝に組上げているイメージがあったのですが、今回は結構練習していたと耳にしましたよ」
八十岡 「ういっす。今回は結構練習したね。環境には緑白人間とかナヤとかラクドスとか、アグロから中速まで大体のデッキがクリーチャーデッキって括りができるからコントロール系を試した。たとえば?そうだね。バント、エスパー、ジャンド、青緑赤、青白奇跡、5色《空虚への扉》、青黒吸血鬼……後は何だったかなぁ」
――「段々と怪しいデッキ名が出てきましたね。《空虚への扉》はともかく、青黒吸血鬼とは?」
八十岡 「《吸血鬼の夜鷲》と《血統の守り手》がクリーチャーデッキには強いからね。それを除去と万能系カードでバックアップする感じのデッキ。でも今の環境には《喉首狙い》がないから諦めることになった」
――「たしかに多色クリーチャーを倒せない《究極の価格》はちょっと不満がありますよね」
八十岡 「まあ《究極の価格》は許せるよ。そういうカードだし。でも、さすがに《オリヴィア・ヴォルダーレン》を倒せなかった時には戦慄した。そして負けた」
――「《オリヴィア・ヴォルダーレン》? 《吸血鬼の夜鷲》と《血統の守り手》はそこそこタフネスが高いので問題なさそうですけど」
八十岡 「2つ目の起動型能力のテキスト覚えてる? あれ、吸血鬼を奪うんだよ。つまりこっちのクリーチャーが5マナで好き放題に奪い去られる。しかもあれを倒すカードはデッキに入っていなかったから本当にボコボコにされた。
まあ、このことがなくてもちょっと厳しいデッキだったんだけどね。あとは普通に青白系コントロールを調整してたかな」
――「バントコントロールですか。たしかに最近は構成が整理されてきたこともあって、見る機会も増えましたね。感触はどうでした?」
八十岡 「あまり好きじゃなかったかな。まず、ラクドスミッドレンジに対して特に有利がなかったのと、人間系アグロと赤単アグロに弱かったことが致命的だった。《スレイベンの守護者、サリア》が厳しいのは当然なんだけど、それに加えて序盤のクリーチャーたちと後半の速攻クリーチャーへの対抗策が限られていたから使いたいデッキだとは思わなかったかな」
――「たしかにアグロ相手は《至高の評決》と《スラーグ牙》を出してからが本番って行動が多いですしね。速攻クリーチャーへの対策の薄さは青白系の悩みですね」
八十岡 「一応それでもがんばろうとして青白黒の組み合わせも試したんだけど、根本的に《至高の評決》に頼ることは今のアグロ相手にはあまり良くないことが分かっただけだった。黒が入ったことで《強迫》を使えるようになって、中速とかコントロール同型に強いことは魅力だったから最後まで弄ってたんだけど、根本的な問題を解決するほどにはならなかったね。《スフィンクスの啓示》は強いから使いたかったけど」
――「《至高の評決》だけでアグロに対抗するのが微妙かもしれないって話が出たのですが、最近の青白系コントロールに採用されている《終末》では不十分ですか?」
八十岡 「奇跡したら強いけど、まず、あれは6マナの《至高の評決》だからね。最序盤に必要とはいっても、ゲーム開始時のライブラリーの上から4〜5枚に載ってなければ期待できないカードってどうなのさって思う。もちろん悪くないカードだと思ったから、青白奇跡コントロールとか組んでみて試行錯誤したんだけどね」
――「お、その試行錯誤とは? そういう調整の過程とかは聞いてみたいです」
八十岡 「《索引》でライブラリーを操作して、3ターン目と4ターン目に《終末》する確率を上げる工夫とかだね」
――「聞きたくなかった!!」
八十岡 「いやいや馬鹿にしちゃいけないよ。開始4ターンまでにしか価値がないカードが強いのならば、その価値を限りなく向上させる工夫を施すのがデッキビルダーの使命だろ。単体で弱いカードであっても使い方次第では化けるのがMTGってゲーム。《終末》をより良いコンディションで使用するためにそれが必要ならば、見た目や既存の観念にとらわれずにただ使うべきだろ」
――「なるほど。感動しました。僕も習ってこれからは積極的に色々なカードを試すように気をつけてみます」
八十岡 「まずは詐欺に気をつけたほうがいいね」
――「とりあえず話を戻すと、青白系コントロールはアグロにやや厳しく、ラクドスにも強くなかった。これまでの調整過程が否定されたわけですが、そこで八十岡さんは次にどうしたんですか?」
八十岡 「ここで青黒吸血鬼での経験が生きてきたんだよね」
――「いやいやもう騙されませんよ。本当はどうなんです?」
八十岡 「次に人を信じることにしたほうがいいね。青黒吸血鬼ってのはほんとだよ。とりあえず単体除去と《吸血鬼の夜鷲》ってアプローチに立ち戻ってみたんだ。で、できたのがこれだね」
(※デッキリストは2日目終了後の掲載となります)
――「なるほど。《吸血鬼の夜鷲》に《ルーン唱えの長槍》ですか。もりもりライフが増えますね。赤い除去カードも採用されているので、これなら《オリヴィア・ヴォルダーレン》も大丈夫ですね」
八十岡 「そうだね。《吸血鬼の夜鷲》はかなり強い。あとは《イゼットの静電術師》かな。これはアグロ系に対して明確すぎるアンチカードなんだよね。瞬速のブロッカーになるし、苦手な《スレイベンの守護者、サリア》も倒せる」
――「でも、ここまでクリーチャーへの意識を強めると、コントロール同士のマッチアップは不安じゃないですか?」
八十岡 「例えばバントコントロールとのマッチアップだけど、メインボードは驚異的だね。2割くらいしか勝てない」
――「かなり危険な数字が出てきましたね。まあ、それでもクリーチャーデッキには勝てるからいいっていう算段なんでしょうか?」
八十岡 「いや、黒を採用したことでのメリットの一つとして《強迫》があるんだよね。これを《瞬唱の魔道士》で使いまわすだけでだいぶ有利になる。そして更に《殺戮遊戯》まで採用しているから、サイド後の相性は驚異的だよ。なんと8割くらい勝てる」
――「それは期待できそうです。たしかに《強迫》は、《スフィンクスの啓示》や《記憶の熟達者、ジェイス》に頼った青白系コントロールには強そうですね。《強迫》といえば頻繁に《脳食願望》との比較がされますけど、枚数を散らすことなく《強迫》にした理由はありますか?」
八十岡 「まず、この2枚はどちらも外れる可能性があるんだけど、《脳食願望》は外れたときにリスクがやや大きい。例えば《強迫》は対戦相手の手札を覗いて何もなければ《オリヴィア・ヴォルダーレン》が確実に生き残るっていう局面が期待できる。ただ、《脳食願望》の場合は外れた際に、対戦相手の手札には高マナ域のカードがない、ってことがわかるだけでこちらのゲームプランは何も進行しないんだよ。だから、このデッキならば《強迫》で間違い無いだろうね。デッキによって異なる基準ではあるから、プレイしたときに抜けるカードとともに外れたときにどのような状況に立たされるかは考えてみるべきかもね」
――「抜くカードと外した時の状況の想定ですか。難しそうですが、考えてみる必要はありそうですね。《脳食願望》では《スフィンクスの啓示》が抜けないといった効果の役割は考えていましたが、外れた際のゲームプランなどは頭にありませんでした」
八十岡 「まあ、もちろん重要なのは効果のほうだけど、どちらか悩んだ時には逆側の視点から見てみることも重要ってだけだね」
――「興味深いお話ありがとうございました。ちなみに今回の目標は?」
八十岡 「まあ欲張らない程度にTop4くらいかな。またね」