【戦略記事】 スタンダードの基本の「き」 Part1:Listen

更新日 Event Coverage on 2012年 12月 7日

By 伊藤 敦

 グランプリ・名古屋イベントカバレージへようこそ。

 ここでは皆さんがカバレージを読む手助けとなるべく、混沌としたスタンダード環境における登場人物たちとその役割を整理しておこうと思う。

 記事が3つに分けられているのは、それだけデッキの種類が多いということだ。ある意味で健全な、しかしプレイヤーたちにとっては近年稀にみる複雑な環境である。

 選ぶべきはビートダウンか、ミッドレンジか、コンボか、コントロールか……おそらく今回、参加者たちは自らの命運を託すデッキの選択に、さぞ頭を悩ませたことだろう。

 しかし、何の前情報もなくカバレージを読んでも、そういったデッキ選択や細部の調整についての各人の苦悩、決断の重みが、うまく伝わってこないということも考えられる。

 そこで、この記事が導入として用意されているというわけだ。

 もちろんあくまで導入なので、スタンダードをやり込んだ人や、よりレベルの高い議論に踏み込んでいきたいという方は、さらっと読み飛ばして今後更新される戦略記事の方を読んでもらいたい。

 さて、ひとまずは環境のスタートライン。この名古屋でもメタの中心になると思われるデッキから見ていこう。

ラクドスミッドレンジ

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 グランプリ・チャールストン→グランプリ・サンアントニオと2週連続で栄冠を勝ち取った昇り竜。スタンダード環境で今一番ホットなアーキタイプがこれだ。

ゲラルフの伝書使

 《墓所這い》《ゲラルフの伝書使》《ファルケンラスの貴種》の持つナチュラルな除去耐性、そして《地獄乗り》《雷口のヘルカイト》の持つ「速攻」により、いっそ清々しいほどの「アンチ《至高の評決》」ぶりを誇るこのデッキは、コンセプトが中途半端なビートダウンや練り込みの甘かったミッドレンジを食い物にしていたコントロール使いたちを震撼せしめ、一躍環境の中心へと躍り出た。

 このデッキの最大の強みは、いったん攻めにまわれば急転直下でゲームをクライマックスまで持っていけるというフィニッシュの加速度にある。そもそも除去耐性持ちのクリーチャーが多くてコントロール側が受けにくいのに、一手受け損なうと即座に次の矢が放たれ、対処に追われているうちに気がつけばライフがもう残っていない、なんてことも頻繁に起こりうる。

魂の洞窟

 また、このデッキは構造的には3マナ以降のクリーチャーが打点の中心であり、純粋なビートダウンに比べればそこまでスピードが速いわけではない。にも関わらず、このデッキに対して受けにまわることを極めて難しくしているのは、《魂の洞窟》の存在が大きい。本来絶好の「打消しどころ」であるはずの《ファルケンラスの貴種》や《雷口のヘルカイト》といった重いクリーチャー呪文が、突如「セットランド」だけでカウンターされなくなってしまうというのでは、カウンターを構えるのが馬鹿らしくなってしまうだろう。

 除去耐性があり、カウンターもできないというのに、しかもそれらが速攻を持って殴ってくる……いわば「究極の受け殺し」であるこのデッキに対し、他のデッキがどう立ち回るのか。

 他方で、メタゲーム的には否応なく注目の的となってしまっており、あまりにその存在を意識されすぎた状況で、ラクドスミッドレンジがさらなる進化を見せられるかどうか。

 いずれにせよ、「ラクドスミッドレンジとそれに振り回された各デッキ」という構図は、今回のグランプリ・名古屋のベースラインとして何より重要であることを覚えておいて欲しい。

バントコントロール

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 これに対して、破竹の勢いで快進撃を続けるラクドス軍によって、ここまでやや厳しい戦いを強いられていたのがコントロール勢である。

至高の評決

 コンセプトである「ラスゴ(《神の怒り》)」こと《至高の評決》はしかし、既に述べたとおりラクドスに対してあまり効果的でなく、かつては頼もしかったプレインズウォーカー・ジェイスも、ヘビー級の速攻クリーチャーたちを前にしては大した活躍が出来ないという、どうしようもない噛み合わせの悪さ。

 「究極の受け殺し」であるラクドスに対して、「受け」のデッキであるコントロールではどう足掻いても太刀打ちできない。無理だ、コントロールはもはや死滅した……

 かのように見えた。

 だが、ここにきてコントロールにも希望の光が差しこんできている。

 というのも、ラクドスミッドレンジを含めた《魂の洞窟》の隆盛によってカウンターの(とりわけ《魂の洞窟》の影響をもろに受ける《本質の散乱》の)価値が急激に下落した結果、3〜5マナのクリーチャーの価値が相対的に上昇し、2週間前はLSVに「There is no Midrange.」とまで言わしめていたはずの(ラクドス以外の)ミッドレンジが、メタゲームの中で復権してきているのである。

 「風が吹けば桶屋が儲かる」ではないが、「相性が悪いラクドスが増えた結果として相性の良いデッキが増えた」という謎の因果関係により、コントロールもそう悪い立ち位置ではない、今やそういった現状になりつつある。

スラーグ牙

 加えて、そもそもバントコントロールというデッキは、スタンダードに存在するカードでも五指に入るほどのカードパワーを持つ《スラーグ牙》《スフィンクスの啓示》をふんだんに搭載し、不利な状況をひっくり返すことにとことん長けたデッキである。

 したがって直接対決の相性は悪いとはいえ、ラクドスミッドレンジが多少ぎこちない動きを見せれば即座に自分のペースに持っていける、そういうポテンシャルはもともと持っているデッキなのである。

ボーラスの占い師

 さらに手札で腐りやすいカウンターの枚数を減らしたり、《ボーラスの占い師》や《終末》を採用したりと、コントロール側からラクドスミッドレンジに対して耐性を高める様々な工夫も見られる。さすがにいつまでも同じデッキにやられっ放しのままでいるコントロールではない。

 スタンダードのメタゲームの動きは早い。「ラクドスミッドレンジが最強かと思ったら、いつの間にかコントロールが主役になっていた」なんて、そんな世代交代の瞬間をもしかしたらここ名古屋で見られるかもしれない。

 逆境をバネに戦うコントロール勢の動向にも要注目だ。

トリコFlash

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 一か月ほど前までは、青白Flashというデッキがスタンダード環境の主役だった。

 しかし、カウンター呪文と《瞬唱の魔道士》というシンプルなコンボを主軸にしたそのコンセプトは、《魂の洞窟》採用率の増加によりにわかに破綻し、ラクドスミッドレンジの登場が契機となって一時フィールドからほぼその姿を消していた。

 が、ここ最近になってStarCityGamesの看板プレイヤー、Gerry Thompsonが立て続けに結果を残したことで、再び注目を集めているのがこのトリコFlash、つまるところ「青白Flashタッチ赤」である。

火柱

 タッチの部分は最小限に留められており、従来青白Flashが対応できなかった「《魂の洞窟》からの《ゲラルフの伝書使》」への100点の回答である《火柱》と、サイドに《ファルケンラスの貴種》への強烈なプレッシャーとなる《イゼットの静電術師》を採用することで、ラクドスミッドレンジを強烈に意識した形となっている。

 カウンターの枚数が3枚に抑えられていることからも、《魂の洞窟》環境で生き残っていくために適応したレシピであることが窺える。

 ラクドスミッドレンジの存在を踏まえて練りに練り込まれた、まさしく最先端のデッキと言えよう。

瞬唱の魔道士

 さらに、カウンターが少なくなっても、「インスタント」「瞬速」というコンセプトは健在である。そして、行動のタイミングを好きに選べることにより生じる、「対戦相手にたびたび不自由な選択を迫ることで結果的に相手を陥れやすい」というこのデッキの性質は、一定以上のレベルのプレイヤーには特に好まれる要素であり、時にプロプレイヤーであっても抗うことのできない魅力を放つ。

 一言で言えばこのデッキは「玄人好み」なのである。

 「ラクドスミッドレンジを克服した(?)コントロール」というメタゲーム上のポジションも悪くないことに加え、一流のプレイヤーが使用者となることでさらに凶悪なポテンシャルを発揮することも考えられる。

 グランプリ本戦でも活躍が見込まれるデッキタイプだろう。


 →Part2へ続く……

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