グランプリ・チャールストン、グランプリ・サンアントニオでの連続優勝という実績が、現在のラクドスミッドレンジの隆盛を支えている。一つ目の優勝であるグランプリ・チャールストンが終了した当初は、その独特な構成からやや敬遠されていた節もあったが、二回目ともなるとその功績から人々がラクドスミッドレンジをフロックとして扱うことは少なくなっていた。
2連続優勝は伊達ではない。ラクドスミッドレンジは強いデッキなのだと。
ただ、MTGというゲームの面白さは、それぞれのデッキの強さが環境を構成する顔ぶれの変化とともに移り変わっていくという点だ。時折、親和やCaw-Bladeのような絶対的な力を持ったデッキが登場するものの、大体のデッキは相対的な力によってその強弱が語られる。
そして、その相対的な力関係を決めるのは、それぞれのデッキのコンセプトと構成されているカードの取捨選択である。《未練ある魂》が《イゼットの静電術師》には勝てず、バーンが白単ライフに負けるように、この例ほど極端でなくともデッキのコンセプトやカードの相性は、たびたびデッキそのもののスペックを飛び越えた結果をもたらす。
ここで考えなければならない点は、ラクドスミッドレンジというデッキが相対的な力を持つデッキなのか、それとも親和やCaw-Bladeのような絶対的な力を持っているデッキなのかということだろう。
何かに有利だったからラクドスが勝ったのか、そもそもラクドスが強すぎるデッキなのか。このラクドスミッドレンジの強さについて会場のプレイヤーに聞いてみた。
☆ラクドスミッドレンジは絶対的に強いデッキである派
森 「俺は今のスタンダードでラクドスミッドレンジは強すぎるデッキだと思う。不安定さが問題だって言われているけど、ちょっと微妙な手札はどんどんマリガンしていいよ。そうやってマリガンしても全然気負わない。昨日のGPTでは初手4枚までマリガンしたことがあったけど問題なく勝てたよ。3枚までいける気がする」
日本チャンピオンと世界チャンピオンを経験している強豪の森 勝洋(東京)は、前日のGPT(グランプリトライアル)においてラクドスミッドレンジで5連勝して本戦の不戦勝を手にしている。彼によるとラクドスミッドレンジは根本的に強力なデッキで、不安定な一面は認めつつもそれを上回るほどのクオリティを持っているという。初手が3枚にまで減ってしまうとさすがにダメな気もするが、その強さへの信頼は伺えた。
津村 「ラクドス強いよ。今回使っているデッキは違うけど、ラクドス使わなかった理由は、あのデッキおもんないから」
殿堂入りプレイヤーの一人である津村 健志(大阪)は、本戦に出場しているデッキはラクドスミッドレンジではないものの、それを選択肢なかった理由として『強いけど、使っていても面白くないから』だという。
Juza 「環境で最も優れたデッキだと思う。ラクドスとのマッチアップに問題がある青系のデッキ(バントや青白)は彼らに駆逐されてしまったほどだ。中速ばかりの現在の環境が彼らにとって好ましい環境にもかかわらずね。例えば強さに数字をつけたとして、親和が12、Caw-Bladeが15だとするならば、ラクドスミッドレンジも10くらいの力は持ってるよ」
世界を股にかける現役最高のプレイヤーの一人であるJuza Martin(チェコ)もラクドスミッドレンジの強さを強調している。ここで青系のデッキへのコンセプト上の強さも含めてコメントしているが、これは青系がいるからラクドスが強いデッキであるわけではないという論調には注目だろう。現在の環境はナヤを筆頭とした緑白系の中速デッキが増えているにもかかわらず、それに有利な青系が増えることはない。それはラクドスミッドレンジがそれらに睨みを利かせているからだというのだ。
☆ラクドスミッドレンジはそこまででもないよ派
八十岡 「みんなブン回りのときのインパクトに振り回されすぎだよね。弱いカードも入ってたりするし、あんまり安定してないよ。あと、攻撃面ばかりフィーチャーされているけど、あのデッキ防御力皆無だからね。一度不利になったら逆転できない。デッキの強さの割りには対策され過ぎてるから、今回のGPでは勝ち切れないんじゃないかな」
御意見番の八十岡 翔太(東京)によると、ラクドスミッドレンジは決して強すぎたりはしないとのことだ。たしかに彼の言うとおり、ラクドスの強さにかかわらずラクドスが過剰な注目を集めていることは事実であり、このように過剰に対策された状態で勝ち抜くことは難しいだろう。弱いカードというのは、マナ域を埋めるために採用された数枚のクリーチャーや火力呪文だという。都合よくドローすれば強力なデッキではあるものの、そのようなコンセプトを支える割にはマナ域もカードの性質も散り散りになっている点は確かに気にかかる。
また、有り余る攻撃力に目が向くが、防御力に関しては八十岡が指摘するように問題ある。防御が必要ないほどの攻撃力と解釈することもできるだろうが、八十岡は、その段階に至るほどの安定性も攻撃力も持ち合わせていないという評価をしている。
渡辺 「強いデッキだけどね。でも、強すぎるってほどではないし、今回も使用者は多いだろうけど、最後まで勝ち抜く比率は低いんじゃないかな。やっぱり対策されているとどうしてもね」
プレイヤー選手権を優勝して現世界一のプレイヤーとなった渡辺 雄也(神奈川)は、『意識されている』デッキであることを理由にラクドスミッドレンジが今回は結果を残せないと予想している。《ファルケンラスの貴種》や《ゲラルフの伝書使》といった主要の面々は強いものの、それらを支えるパーツには不安が残ることは多くのプレイヤーも指摘していた。
■まとめ
ラクドスミッドレンジが環境において強すぎるかどうかは、支持派と反対派で両者真っ二つに割れたが、その中で幾つかの論点を見つけることはできた。
安定性
多くの1マナ域と4マナ域が混在するデッキでなおかつドロー操作がないため、初手の内容は不安定になりがちであることは事実だろう。その上で森 勝洋は、そのムラはマリガンというプレイ内容で補えると指摘していた。ただ、その他多くのプレイヤーは、このムラのある構成を補えないデメリットだと解釈している。
攻撃と防御のバランス
『強すぎる派』はメリットに目を向けてそのトップスピードやタフさを賞賛していたが、『そうでもない派』は攻撃面だけでなく防御面にも目を向けるべきだと反論していた。たしかに劣勢になった後の展開は厳しいことが多く、《ゲラルフの伝書使》や《墓所這い》などのブロッカーとしての役割に期待できない生物が多く採用されている部分が更に不安を煽る。
もちろん、先述したように防御が必要ないほどの攻撃力があればいいが、八十岡の指摘のように、安定していない攻撃力と脆弱な防御力のバランスだと考えるとやや欠点を抱えているように思える。
周囲からの対策
『強すぎる』や絶対的な強さを持っているかどうかは、周囲の対策といった環境の反応を受けても尚強さを保っているかどうかが焦点になる。今回はその点において意見が2つにわかれたため優劣をつけることは難しいが、このグランプリ・名古屋では多くのプレイヤーがラクドスミッドレンジを意識していることは確かである。
つまり、このグランプリでもラクドスミッドレンジが勝利を積み重ねれば、その強さは絶対的であると言い換えることもできるだろう。これからのスタンダード環境とメタゲームの秩序の未来はどうなってしまうのだろうか。ラクドスの活躍が未来を分ける。