1600名を超えるプレイヤーたちが集結した今回のグランプリ・名古屋は、台湾やチェコといった日本国外からの参加者も珍しくない国際色豊かなトーナメントとなった。そして、この準決勝の大舞台にまで勝ち登った4人のうちの1人もインドネシア出身のプレイヤー、Rhaman A. Aryabhima(ラーマン・アリャビマ)だ。
Rhaman A. Aryabhima
これも世界各国で楽しまれているマジック:ザ・ギャザリングというゲームならではの魅力だといえるだろう。言葉は通じなくてもタップとアンタップは通じるし、カード名でもなんとなくの意思疎通は取れてしまうものだ。生まれも育ちも違っても、お互いマジックを楽しむ心は一緒なのだから。
この準決勝でも身振り手振りを交えた開始前の和やかなやり取りが繰り広げられている。ときおりおぼろげな日本語が挟まっているのはほほえましい光景だ。
ただ、お互いのデッキリストを確認する時間が訪れると、テーブルには緊張した空気が張り詰める。
鋭い視線が交錯したわけではない。
互いの拳がぶつかったわけでもない。
ただ、両者が真剣になっただけ。
通じているのは「楽しむ心」だけではない。
このゲームに「勝ちたい」という一心も万国共通の国際言語なのだ。
両者の意思がはっきりと通じ合い、
今、準決勝が始まる。
ゲーム1
注目の第1ゲームは、《ラクドスの哄笑者》に《戦墓のグール》と展開していくアリャビマの攻勢に対し、永井の《高原の狩りの達人》が行く手を阻む、という激しい序盤戦を迎えた。
アリャビマは《高原の狩りの達人》への対処を悩みつつも、手札に抱えた《ファルケンラスの貴種》によるダメージを期待して、《反逆の印》をプレイして強引に永井のライフを削ぎ落としにいく。
一桁にまで減少した永井のライフだったが、駆けつけた《スラーグ牙》が癒しを与える。それに渋い顔を見せたアリャビマは、急展開となる《ファルケンラスの貴種》ではなく、安全策の《ゲラルフの伝書使》を優先して展開し、盤面のクリーチャーを犠牲にしつつも強引にライフを削りに行く。
しかし、そこに現れたのは2枚目の《スラーグ牙》だった。
それでも攻撃を諦めないアリャビマは、犠牲を払ってでも歩を進めて永井のライフをわずか6にまで落とす。手札には《ファルケンラスの貴種》と《灼熱の槍》があるため、まさにあと一息といったところだろう。アリャビマにはライフが19も残されているため、永井を討ち取る時間の猶予はあるはずだ。
ただ、ライフわずか6の永井が、攻守は逆転したとばかりに《スラーグ牙》2枚と《高原の狩りの達人》をレッドゾーンに送り込んだことで一気にゲームはクライマックスを迎える。
突然の展開に戸惑いつつも、アリャビマはその攻撃をブロックせずに受け止めた。10点を超えるダメージに一気にライフが危険域にまで追い詰められたが、永井のブロッカーは0体で、次のターンを迎えればきっと勝てるはず……
そんなアリャビマの希望を打ち砕いたのは第2メインで唱えられた《修復の天使》だった。
これで《スラーグ牙》が明滅する。突然、永井の盤面には大量のブロッカーが登場し、ライフも11と一気に射程県外に遠ざかってしまった。
一応次のドローを確認するアリャビマだったが、この絶望的な状況を打開する手段は残されていなかった。
アリャビマ 0-1 永井ゲーム2
永井 守
当然のように先手を選択したアリャビマは、《沼》と《墓所這い》でゲームを開始した。永井の《アヴァシンの巡礼者》には《火柱》を打ち込み、《ラクドスの哄笑者》を場に出して4点の強固なクロックを作る。
これに顔をしかめた永井は、《ゲラルフの伝書使》のために残しておきたい《火柱》を、気が進まなさそうに《ラクドスの哄笑者》にプレイした。
だが、この選択を咎めるようにアリャビマが続けたものは、まさに《ゲラルフの伝書使》だった。
苦し紛れに《忌むべき者のかがり火》で《墓所這い》を落とすも、アリャビマの戦場にはゾンビである《ゲラルフの伝書使》がいるため、これは焼け石に水程度の時間稼ぎにしかならない。
カードを失いつつも守勢に徹する永井だったが、ようやく《高原の狩りの達人》にたどり着くことができた。ライフは未だに13も残されており、これに《スラーグ牙》が続けば問題ないゲーム展開になるだろう。
狼トークンで《ゲラルフの伝書使》をブロックし、合計4点のダメージを受けた永井のライフは9に落ち、アリャビマが追加した2枚目の《ゲラルフの伝書使》が7にまで追い詰める。
5枚目の土地が置けない永井は、ターンを返して《高原の狩りの達人》を変身させようとする。これにアリャビマが反応を示さなかったことから、アリャビマの手札に除去がないと読みきった永井は《修復の天使》を追加して、新たな狼トークンを生み出してライフを補填する。
それにも怯まないアリャビマは《ゲラルフの伝書使》と《墓所這い》で攻撃し、永井にペースを渡さない。《修復の天使》で4/3の《ゲラルフの伝書使》をブロックし、狼トークンは《墓所這い》と相討ってとにかくライフを維持する永井だったが、《スラーグ牙》を召喚する5マナのコストが支払えない。
そのもたつきを見逃さなかったアリャビマは《ファルケンラスの貴種》を戦場に加えると、永井の《スラーグ牙》の回復量を上回るダメージを叩きつけた。
アリャビマ 1−1 永井ゲーム3
お互いにそれぞれのデッキらしい理想的なゲーム展開をした上での3本目が始まった。泣いても笑っても最後のゲームである。永井の先手を宣言する声にもどこか緊張感が混じって聞こえる。
そんな永井の初手は、
という文句なしの面々である。
《遥か見》から《寺院の庭》を届けて3マナを手にした永井は、《墓所這い》《悪名の騎士》と展開したアリャビマの戦線をX=1の《忌むべき者のかがり火》で薙ぎ払う。ここで永井の土地はピタリと3枚で止まってしまったが、出鼻をくじかれたアリャビマの損害も十分すぎるものだろう。静かに呻きが聞こえる。
それでも《ゲラルフの伝書使》を展開するアリャビマは限りなくベストな動きをしており、永井の《ロクソドンの強打者》がブロッカーとして登場するものの、《悪名の騎士》のバックアップからゴリゴリと永井のライフを削り取る。
これを苦しげに《ロクソドンの強打者》を連打することで抑えこむ永井だったが、アリャビマの戦線に《ファルケンラスの貴種》が加わってしまうともう時間は残されていない。
永井はなんとか《アヴァシンの巡礼者》を経由して《スラーグ牙》にたどり着く。しかし、その頃にはライフはたったの7にまで減らされていた。
ターンを渡されたアリャビマは手札に残されていた1枚であった《ひどい荒廃》を《スラーグ牙》にエンチャントすると、コントロールするすべてのクリーチャーをレッドゾーンに勢い良く押し出した。
永井はブロックの組み合わせに考えを巡らせてみたものの、あらゆる組み合わせで致死ダメージを受けることを確認すると、静かにアリャビマに手を差し出した。
アリャビマ 2-1 永井