このワールド・マジック・カップで私が一番興奮したフォーマットはチーム共同デッキ構築・スタンダードで、それぞれ個別にスタンダードデッキを用いて3試合の1対1の対戦を行うのだが、チーム内での枚数制限がある。つまりチーム間では、サイドボードを含むデッキの中に、基本土地を除いてどんなカードも4枚ずつしか入れることができないのだ。
この制限が生み出す、興味深くて挑戦的なデッキ構築のパズルを解くために、ある程度の創造力が要求される。主な課題はカードの重複をどう扱うかということだ。例を挙げよう。ジャンクリアニメイトデッキとトリコロールのフラッシュデッキを同時に使うことはできない。なぜなら両方のデッキが機能するためには、4枚ずつの《修復の天使》を必要とするからだ。同じように、ジャンドミッドレンジとジャンクリアニメイトは上手く構成するために共に4枚の《スラーグ牙》が必要だ。
このような問題があるにもかかわらず、ほとんどのチームは既存のアーキタイプからあまり逸脱しないようにカードの重複を避ける方法をなんとか見つけ出した。以下の表はステージ2にたどり着いた16チームの中からデッキの組み合わせをまとめたものだ。
国 | 《踏み鳴らされる地》デッキ | 青いデッキ | 第3のデッキ |
オーストリア | グルールアグロ | 青白赤フラッシュ | 白黒赤アリストクラッツ |
エストニア | グルールアグロ | 青白赤フラッシュ | 白黒赤アリストクラッツ |
アイスランド | グルールアグロ | 青白赤フラッシュ | 白黒赤アリストクラッツ |
南アフリカ | グルールアグロ | 青白赤フラッシュ | 白黒赤アリストクラッツ |
ベルギー | グルールアグロ | 青白赤フラッシュ | 黒緑ミッドレンジ |
ブラジル | グルールアグロ | 青白赤フラッシュ | 黒緑ミッドレンジ |
ベラルーシ | グルールアグロ | 青白赤フラッシュ | 黒赤ゾンビ |
チリ | グルールアグロ | 青白赤フラッシュ | 緑白黒ゾンビ |
チェコ | グルールアグロ | 青黒コントロール | 青白緑呪禁 |
アイルランド | ジャンドミッドレンジ | 青白赤フラッシュ | 緑白ビヒモス |
ハンガリー | ジャンドミッドレンジ | 青白赤フラッシュ | 白緑アグロ |
ニュージーランド | ジャンドミッドレンジ | 青白赤フラッシュ | 青白緑カエル |
フランス | ジャンドミッドレンジ | 青白フラッシュ | 緑単 |
イスラエル | ジャンドミッドレンジ | 青白フラッシュ | 赤単 |
ギリシャ | ジャンドミッドレンジ | 青白緑呪禁 | 赤単 |
ほぼ全てのチームが選んだのは《踏み鳴らされる地》入りのデッキと、青いデッキでは大体がトリコロールフラッシュを、そして3番目のデッキをある程度ジェンガ式に当てはめることとなった。上記のデッキの組み合わせを選ばなかったのは唯一ウクライナ代表チームだけだ。彼らが運用していたのはリアニメイト、黒赤ゾンビ、そしてエスパーだった。彼らはリアニメイトを調和させるために深く悩まなければいけなかった。
《踏み鳴らされる地》デッキ
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ジャンドとグルールのどちらにしても、《踏み鳴らされる地》入りのアーキタイプは全てのチームに含まれていると考えていい。 |
上記のメタゲームの概観から見えてくるのは、チーム共同デッキ構築・スタンダードにおいて最重要カードは、間違いなく《踏み鳴らされる地》だということだ。この土地はほとんどのチームにとって分岐点となった。というのも、グルールアグロ(世界選手権2013でブライアン・キブラーが使用したデッキで、《エルフの神秘家》から《地獄乗り》や《ドムリ・ラーデ》に繋げるのが目標)とジャンドミッドレンジ(スタンダードの中で最高のカード数種類を軸にしたデッキ。《オリヴィア・ヴォルダーレン》や《スラーグ牙》、《忌むべき者のかがり火》を含む)のどちらを使うか選ばないといけないからだ。両方とも全体的に堅実な素晴らしいデッキなのだが、正当な理由により、上位16チームの中で両方とも使おうとするチームは皆無だった。もし片方のデッキに4枚の《踏み鳴らされる地》を採用し、他方のデッキは2枚ずつの《山》と《森》を入れたとしよう。後者は2枚ずつ別々の基本土地を並べることになり、しばしば呪文を唱えられないことがあるだろう。マナ基盤の密度はとても、とても重要なのだ。
青いデッキ
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ほぼ全てのチームが、本イベントのチーム共同デッキ構築・スタンダードにおいて、青いデッキを1つ主役に据えている。 |
ほぼ全てのチームが2番目のデッキとして、トリコロールフラッシュを作り上げた。この青いデッキはジャンドやグルールとカードを取り合うことがない。例外として、《火柱》と《雷口のヘルカイト》は重複の可能性があるが代替可能だ。面白いことに、青黒コントロールや青白コントロールを第2のデッキに選んだいくつかのチームは意図的に3色目を避けたのだ。チェコ代表のスタニスラフ・シフカ/Stanislav Cifkaと、イスラエル代表のシャハール・シェンハー/Shahar Shenharは共にそういったチームを率いていて、2色のコントロールを使うに至った《燃え立つ大地》の脅威について言及してくれた。彼らいわく、チーム共同デッキ構築・スタンダードにおいて、プレイヤーが使える適切なデッキを与えた場合、カード枚数制限のことを念頭に置くと、ほとんどのチームはデッキの組み合わせにおいてグルール・アグロか赤単の使用に帰結する。これが意味するのは、個人スタンダードで予想されるよりも遥かに多くの《燃え立つ大地》の海だ。言い換えれば、チーム共同スタンダードのメタゲームと個人スタンダードトーナメントのそれは異なる、ということだ。シェンハーとシフカはそのことに気づき、適応したのだ。
第3のデッキ
さて、3番目であり最後のデッキだ。グルールアグロとトリコロールフラッシュを使用するチームは黒いカードに目を向けることとなった。《悲劇的な過ち》を積んだデッキには3つの亜種がある。最初に、《未練ある魂》入りアリストクラッツだ。次が《もぎとり》入りゴルガリミッドレンジ。そして3番目が、《墓所這い》入りゾンビデッキだ。とりわけ面白いのは最後にあげたゾンビデッキについてで、《火柱》が現れてからというもの、ゾンビデッキはスタンダードで重要な要素になりえていなかったのだ。このデッキが死地から這い戻ってきたのはとても良いことで、たとえもし(まあ十中八九だが)その理由がチームのほかのデッキからカードを奪わないアーキタイプだからだとしてもだ。
ジャンドミッドレンジとアゾリウスベースのフラッシュデッキを選んだチームの第3のデッキは、もっと多様性があるものだった。イスラエルが選択したのは《燃え立つ大地》をメインから搭載した赤単デッキで、トリコロールフラッシュがほとんどのチームに登録されているという、普段とは異なるチーム共同デッキ構築・スタンダードのメタゲームでの冷静な微調整の結果だ。しかし、他にも面白い選択をしたチームがあったのだが、それはチームに課された枚数制限のせいだろう。ズヴィ・モーショウィッツ/Zvi Mowshowitzによる《エルフの大ドルイド》、《獣の統率者、ガラク》、《孔蹄のビヒモス》入りマナ加速デッキあり、緑白アグロデッキあり、《若き狼》と《急速混成》を組み合わせるバント蛙デッキもあった。そしてラファエル・レヴィは《エルフの神秘家》、《捕食者のウーズ》そして《ドルイドの使い魔》を手に毎試合暴れまわっていた。
待ってくれ、《ドルイドの使い魔》だって?「こいつは緑の《地獄乗り》なんだ」とフランス人の殿堂顕彰者は説明する。
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すまない、何だって?《ドルイドの使い魔》? |
「4枚どころかもっと《ウルフィーの銀心》と《ドルイドの使い魔》が欲しいところだぜ。このデッキはとても良くやっているし、いざとなったら個人スタンダードトーナメントでも使うだろうさ。」
物語とパズル
物語とパズルについて結論を出そう。金曜の朝、この大会が始まる前にスウェーデンの殿堂顕彰者であるオーレ・ラーデ/Olle Rade(彼のチームは最終的に33位という心痛む順位で終わった)がやってきて、何でもいいからカードを持っていないかと尋ねてきた。後にわかったのだが、彼はサイドボードに取るための《強打》を2枚探していたのだ。残念ながら私は彼を助けることができなかったが、なんとか必要なカードを手に入れることができた。グランプリ・ヨーデボリ2013のトップ8であり動画配信者であるヤン・ファン・デル・フェフト/Jan van der Vegtがアムステルダムの近くに住んでおり、親切にもトラムに乗って、2時間をかけて持って来てくれたのだ。
オーケー、これが物語だ。さあ、次はパズルの番だ。ラーデは私に次のように質問してきた。「さて、君は僕が《強打》を使おうとしていることが分かった訳だけれども、僕らがどんな3つのデッキを使うか分かるかい?」
読者の皆さんには答えが分かるだろうか?
ヒント:《強打》はジャンクアリストクラッツが《ゴーア族の暴行者》の湧血に対処するためのサイドボードだ。
答え(上記の表を見よう):その3つのデッキはジャンクアリストクラッツ、トリコロールフラッシュ、そしてグルールアグロだ。
そう、たった1枚のカードからチームの3種類のデッキを完璧に推測することができるのだ。これは驚くべきことだ。
日曜日に行われるこの素晴らしいフォーマットでの戦いが待ちきれない。
(Tr. Masashi Koyama)