ラヴニカの裏路地深くに、ディミーア家は潜み、機を窺っている。他のギルドが、例えばオルゾフは魂や金、例えばグルールは暴力を通貨とする中で、ディミーアはまた異なる、それらよりずっと貴重で力のある通貨を用いていた。それは「情報」である。秘密に包まれたギルドをどうドラフトするかということは、もしかしたらもっとも貴重な秘密かも知れない。ご想像の通り、目に見えるディミーアはディミーアの実体とは異なる。そしてディミーアのカード・プールを一瞥しただけでも、この揺れ動く漠然とした性質は見て取れる。
まず、ギルド・メカニズムの暗号がある。ディミーアの暗号カードは、攻撃的で回避能力に長けたギルドという姿を見せる。《影切り》や《束縛の手》はゲームを加速させ、暗号が何度も誘発できるようにするためには回避能力持ちのクリーチャーが必要になる。そして、このセットの黒や青のカード全体に見受けられる副テーマが研磨メカニズムである。《欄干のスパイ》や《地底街の密告人》は、ライフではなくライブラリー切れによる勝ちを目指すように仕向け、暗号デッキとは違う次元で戦うことになる。
この二面性のため、多くのディミーア・デッキは両方の勝ち方を目指すようになりがちであり、どちらにも秀でているとは言いがたいものになる。「ディミーア」という以外の明確な計画や個性を持たないデッキに仕上がってしまうのだ。ディミーア自体がこういった不明瞭な個性を賞賛しているとはいえ、ドラフトにおいては、それは敗北への近道である。
ディミーアに隠された暗号を解くために、私はマジックの最大チーム3つ、すなわちTeam SCG、ChannelFireball、Mana Deplivedの協力を仰いだ。各チームが派遣してくれたディミーアのスペシャリストは、このドラフトしにくいギルドを取り巻く影を取り払うための助けとなったのだ。
Team SCGのアンドリュー・クネオ/Andrew Cuneoは言う。
「ディミーアの本質は防御です。除去と、ゲームを長引かせる手段を評価する必要があります。他のデッキはどれも早く勝負を決めようとしますが、ディミーアはそれに比べて遅いと言うことに気付くでしょう。ゲームを長引かせることに成功すれば、それからが勝利の道を築くときになります。ディミーアの優秀なフィニッシャーを挙げるなら、《第6管区のワイト》《地底街の密告人》《破壊的な逸脱者》あたりになります」
除去はディミーア家の鍵である。ゲームの終盤までしのぐのは相手のライブラリーを空にする計画を助けるだけでなく、
《第6管区のワイト》のようなカードが本領を発揮する機を与えてくれる。
カナダのチームMana Deprivedを率いるアレクサンダー・ヘイン/AlexanderHayneも、クネオに同意する。
「ただの一時的な除去に見えても、まずは除去だね。《肉貪り》や《忌まわしい光景》ははっきり強いし、さっさと取るべきだ。でも《死の接近》や《外出恐怖症》、《道迷い》といった遅い手番でも回ってくる可能性のあるカードは、回ってきたら取るべきだろうね」
彼らが序盤の防御の強さ、重要性を信じている理由は、ゲームを長引かせればディミーアの天下だとわかっているからだ。
ヘインは続ける。
「ディミーアは他のほとんどのデッキ寄りも長期戦にずっと強いんだ。ターンが進み、カードを引くたび、対戦相手は『生命を失っている』んだよ。他のデッキはゲームが進むと息切れすることがあるけれど、ディミーアは常に時計の針を動かし続けているんだ」
彼らはまた、このデッキの強みの1つは、現時点でそのデッキが評価されていないことだという。「誰かのゴミは誰かの宝」という格言の通り、ディミーアにとって有用なカードを遅い手番で取ることができるのだ。
不可欠なカードもあるが、遅い手番でも取れるカードもある。ディミーア・プレイヤー用に仕立てられたカードだ。
「《薨の徘徊者》《外出恐怖症》《死体の道塞ぎ》《賢者街の住人》といったカードは、他のデッキでは使い物にならないか、よく言って凡庸です。でも、ディミーアではゲームを作り上げてくれる優秀なカードなのです」
クネオはそう教えてくれた。
ChannelFireballのコンリー・ウッズ/Conley Woodsは、それらは他のデッキが欲しがるものではないが、ディミーア・デッキの方向性を決めるカードにはなり得るという。
「《賢者街の住人》を使って盤面の見方を固めるのは好きだよ」
ウッズもヘインも、ディミーアのバリエーションは2つあると考えている。そのうちの1つは研磨カードに重点を置いたもの、もう1つは暗号に重きを置いたものだ。ウッズはパックが一周した後、強いシグナルを読み取り、それを活かして自分の行動を決めるのが好きだという。
「ドラフトの序盤からどっちのディミーア・デッキにするか、決めないほうがいいよね。まず強いカードを取るんだけど、どっちにするかはまだ決めなくていい。《欄干のスパイ》や《賢者街の住人》は強いカードだし、《被害妄想》のようにはっきりライブラリー破壊に舵を切ってはいない。だから、《影切り》や《被害妄想》といった、どちらのディミーアに行くかを示すようなカードを使ってどっちのデッキが組めるかを考えるんだ。もし《欄干のスパイ》や《賢者街の住人》といった多目的なカードの入ったパックを引いたなら、《影切り》や《被害妄想》があっても、両面に使えるカードを選んで、もう1枚が帰ってくるかどうかを見るのさ。戻ってこなければ、そっちじゃないほうのディミーア・デッキをドラフトすることになる」
コンリー・ウッズは《賢者街の住人》や《欄干のスパイ》といったカードを使い、どちらのディミーア・デッキにするかを決める。
どちらのデッキでもこれらは強いので、《被害妄想》のようにピックした時点で計画を固めてしまうことはない。
ウッズは、この柔軟なドラフト戦略の結果、ピック順が変わったという。
「戦略の選択肢を狭めないために、どちらかのデッキに固めてしまうカードのピック順は低くなるよね。ただし、どっちのデッキにするかを決めたら、そのデッキ・タイプで強くなるカードは一気に評価が高くなる。言ってしまうと、各部門のカードを必要なだけ集めなければならない。序盤には、暗号を運んだり強請で生き延びたりするカードが欲しい。除去や、生き延びる手段が欲しいんだ。それに、選んだデッキを成立させるカードも欲しい。充分なカードを入れたら、もう目一杯だろう」
その後、ウッズはヘインやクネオとはまた違う理念を示してくれた。2人がディミーア・デッキにおける防御や強襲の重要性を言ったのに対し、ウッズは《大都市のスプライト》や《聖堂の金切り声上げ》といった小型クリーチャーに注目したのだ。もちろん、これらのカードは暗号デッキでは《影切り》を運び、対戦相手を素早く削っていくという役目を果たすが、研磨デッキには関係ないように見える。ウッズは説明を始めた。
「一番よく見落とされるのは、ディミーア・デッキには軽い呪文が必要だってことさ。《聖堂の金切り声上げ》のような強請クリーチャーで得られるライフの量は、生き延びるためにもっとも重要なことの1つだろう」
この意見の違いはあるが、3人とも、ディミーアにはどちらのデッキでも強力なカードが数枚あるという点では一致していた。目にしたなら確認すべきカードだ。コモンやアンコモンで言うと、《第6管区のワイト》《賢者街の住人》《欄干のスパイ》《肉貪り》《死の接近》《忌まわしい光景》《殺意の凝視》《地底街の密告人》がそれにあたる。
これらのカード全てが研磨デッキで強いのは明白だが、暗号デッキでもまた強烈だ。暗号デッキで強いカードの中で研磨デッキではピックしようと思わないものとなると、《束縛の手》《大都市のスプライト》《影切り》《夜翼の呼び声》《盗賊の道》《死教団のならず者》あたりがそれにあたる。興味深いことに、暗号デッキではテンポを失うことを恐れて《鍵達人のならず者》を使わないプレイヤーがほとんどだが、研磨デッキでは《賢者街の住人》を何度も誘発させることができることは認めている。相手のライブラリーを削りきるために優先すべきカードは、もちろん《被害妄想》、次いで《薨の徘徊者》だ。《薨の徘徊者》は攻撃的な相手を止めるだけでなく、《賢者街の住人》を誘発させたり《地底街の密告人》で何度も生け贄に捧げたりできるのだ。
3人の助けを得て、私はディミーアを取り巻く闇をわずかながら振り払うことができた。アンドリュー・クネオ、アレクサンダー・ヘイン、コンリー・ウッズの誰かが2日目に残れなかったとしたら……それは、私のせいじゃ、ないよ……。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)