ああ、GP静岡。
全世界を真空波動拳で震撼とさせると思いきや、「ゴージャス」山田屋の天下御免の無敵ドローによって斬り捨てられた決勝戦が未だあちこちで大人気の語り草となっているのが森田。チーム戦のGP横浜を合わせると実に今回が3回目の挑戦である。
一方 Alex は Sideboard の Week in Review でもお馴染みの「全世界どこにでも」現れる Flying Match Man。今シーズンも、先のGP Lisbon でベスト 8 に残っており、相変わらず絶好調ぶりをみせており、実は Player of the Year の 2 位争いでも有力な候補である。日本で行われるグランプリには大抵顔を見せているので、皆様も来場の際には大きな声で「Alex~」と叫んでみると、振り向いて怒られるかもしれないからお勧めはしない。
世迷い事はさておき、参加者428人の頂点を賭けた戦いの火蓋が切って落とされる。
森田のデッキは黒緑をメイン色とし、《降り注ぐ塊炭/Shower of Coals(OD)》をブレンドしたもの。除去カードが若干重いながらも《郷愁的な夢/Nostalgic Dreams(TO)》を通して再利用できる展開になると実に強力。
Alex は除去こそ《苦悩/Afflict(OD)》 2 枚のみと若干心弱いがクリーチャー布陣には、脅威の《ラクァタスのチャンピオン/Laquatus's Champion(TO)》や《サイカトグ/Psychatog(OD)》、《ボールシャンの協力者/Balshan Collaborator(TO)》と贅沢な仕上がり。更には新たな《踏み荒らし/Overrun》と名高い《ナルシシズム/Narcissism(TO)》までもが加わっている。
では、彼ら二人の美技を味わうとしよう。
Game 1
Alex の初手。島こそあるものの森が 2 枚で沼が無い。抜群とは決して言えないが、やるしかない状態の手札をキープ。森田は森一枚のみの手札をマリガン。《はるかなる放浪/Far Wanderings(TO)》があるものの、この大事な舞台、さらには後手であることを考えるとギャンブルにはいけない。マリガン後の手札をキープしてゲームが始まる。
3 ターン目、無事沼を引き当てたAlex は《催眠の悪鬼/Mesmeric Fiend(TO)》を召喚。森田の手札を冷静に観察しながら、手札に構えた《中略/Syncopate(OD)》を使用すべカードを探る。対象は《最後の儀式/Last Rites(OD)》。
しばしの間、互いに召喚を行う。静かに時が流れる。
森田 《巣立つインプ/Fledgling Imp(OD)》
森田 《墓をこじ開けるもの/Gravegouger(TO)》
Alex 《エイヴンの風読み/Aven Windreader(OD)》
森田 《凶暴象/Rabid Elephant(OD)》
森田 《薄汚いネズミ人間/Dirty Wererat(OD)》
7枚の土地を並べたAlex。風読みで攻撃を行い、島と森の二枚を残しながら《ゾンビの暗殺者/Zombie Assassin(OD)》を召喚する。
Alexが誘い、森田が受ける。
森田の一斉攻撃。象と刃を交わした暗殺者が《筋力急伸/Muscle Burst(OD)》の力を借り相打ちを行う。だが森田もここで 6 点のライフを削ることに成功している、悪くない取引である。そして、《クローサの射手/Krosan Archer(OD)》追加召喚。
ここでなにかしらの打開手段が必要なAlex。見事《ナルシシズム/Narcissism(TO)》を引き当てる。Alexの手札は 3 枚であり、アンタップ状態の緑マナソースは 1 枚。
このターン森田は《 Werebear / 熊人間 》を呼ぶに留まる。
動きが出たのは再び迎えた森田のターン。熊の助けを借り 6 マナを捻り出すと、《病的な飢え/Morbid Hunger(OD)》を単体で場を支えている風読みにぶちかます。だが、この動きはAlexの予定に盛り込まれている。《中略/Syncopate(OD)》がそれを許さない。
ターン終了時に風読みの能力が起動。めくれたカードはゲーム中二枚目となる筋力急伸。 Alexの表情が僅かに曇る。
Alexは《セファリッドの物あさり/Cephalid Looter(OD)》を召喚。
森田はカードを引くと、一斉攻撃。ブロックアサインが行われたのは以下の組み合わせ。 熊 (1/1) vs 悪鬼 (1/1)
こじ開け(2/2) vs 風読み (3/3)
巣立つ (2/2) vs 物あさり(2/1)
Alexの手札は 2 枚。森田の手札には先ほど見えた筋力。森田は間髪入れずにこじ開けを 6/6 に増強する。選択肢の残されていない Alex は、手札の土地 2 枚を使用し、これを撃退する。だが、既にライフは 8 まで減らされてしまっていてる。
状況整理。
Alex 風読み、ナルシシズム。 森田 鼠、射手。
ここまではまぁ五分五分。
問題は手札である。Alexの手札が0なのに対して森田が4枚。それぞれのクリーチャーが自身またはエンチャントの効果により再生・増強効果を持っているのだが、その全てにはカードが必要なのだ。捨て札として考えるなら。
ここで森田が唱えたのは、「緑夢」!
手札の全てを消費し、墓地にあった熊・象・筋力急伸が再び森田の手に返ってくる。 ターンが再び返ってくると、森田は勿論二体で攻撃。
風読みが今度は鼠をブロックする。だが、先ほどと違いAlex の手札にはカードが一枚のみ。マッスル化した鼠から救うため、他に残された手段が無いAlexはナルシシズムをコストに最後の+2/+2を。
襲い来る獣の群を確認したAlex。闘志を新たに次のデュエルへの準備を開始する。 まだ、三本中の一本目が終わったにすぎない。
森田 1 - Alex 0
Game 2
両者とも初手をキープした二戦目。まずはAlexがこじ開けで先攻。
一方の森田は《森林地の廃墟/Timberland Ruins(OD)》、森、森と並べ何も召喚できずに終了。Alexは《ボールシャンの協力者/Balshan Collaborator(TO)》と続ける。
一戦目とは打って変わって、ゲームはあまりに一方的。
森田がようやく召喚した《飛びかかる虎/Springing Tiger(OD)》はすぐさま《霊気の噴出/Aether Burst(OD)》によって戻されてしまう。
余った黒マナを体内に注入し膨れ上がった協力者とこじ開けが攻撃を敢行し、早くも森田のライフが12に。
他に選択肢の無い森田は虎を再召喚。
そこに再び二体が襲いかかる。何かあると解ってはいても森田には、こじ開けをブロックせざるをえない。虎には当然の如く《苦悩/Afflict(OD)》が使用される。不思議とパンプされない攻撃者が2点のダメージを与え、残りライフが早くも10。
残されたマナは、戦闘後に最悪の形で消費される。
ナルシシズム!
これだけでかなり十分に致死量な匂いが漂いまくるが、Alexは全く攻撃の手を緩めない。
《ラクァタスのチャンピオン/Laquatus's Champion》!! 満腹。
森田 1 - Alex 1
Game 3
まずは森田が、続いてAlexが互いにデッキの力を遺憾なく発揮しあった三本目。いよいよラストマッチのラストゲームが開始である。
森田が緑マナを残せない苦しい形で《日を浴びるルートワラ/Basking Rootwalla(TO)》を召喚すると、すかさずAlexの苦悩が飛ぶ。
ならばと森田が鼠を召喚すると、Alexはサイカトグでこれを迎える。だが、今度は森田の《顔なしの解体者/Faceless Butcher(TO)》がこれを舞台から引きずり降ろすと鼠が最初のダメージを叩き出す。
だがAlexは風読みを召喚。容易に攻撃を許さない。
二体の2/3に立ちはだかる3/3。森田にはここで無造作に攻撃にいく大冒険も残されていたが、相手の手札枚数が多いこの段階ではあまりにチャレンジャー。さすがに行うことなく虎を呼ぶに留める。
攻撃を行わずターンを返すAlex。そこに虎が襲いかかる。だが、ここでAlex会心の《霊気の噴出/Aether Burst(OD)》。勿論顔無しがターゲットに指定され、顔無しによって隔離されていたサイカトグが異界から再降臨。虎をその牙に捕らえる。
なんら対抗策を打ち出せなかった森田。仕方なく顔無しを再召喚。なんと、それを待ち構えていたのが、揺り篭墓場ちっくな《中略/Syncopate(OD)》。きっちりと最後まで面倒みちゃいますよ。
Alexの構築したあまりに完璧な筋書きに、観客のそこかしこから賞賛と悲鳴の入り混じった声があがる。
しかも、その流れるような展開は全く止まらない。そのまま風読みで攻撃を行うと、《魂の災い魔/Soul Scourge(TO)》を送り出し烈火の如く一気果敢に攻め立てまくる。
はたして森田にここから逆転の目が?
勿論、このまま無抵抗に終わらせる男がこの席に座っている訳が無い。森田もある瞬間を虎視眈々と狙っていたのである。その時を待ちながら、凶暴象を場に送る。
二体の獣が大空を翔ける。その爪により6点ものライフを削ぎ取られた森田。残すは僅か7である。Alexは更に暗殺者をも投入。万全の布陣と成ったかに思われた。
好事魔多し、勝つと思うな思えば負けよ。ついに森田が動く。
《降り注ぐ塊炭/Shower of Coals(OD)》!
3 点のライフを隠し持つ災い魔、未だ酔いの解けない暗殺者、将来的なガンであるサイカトグ目掛けて炎が降り注ぐ。森田の場には再生能力を持つ鼠と、破壊力満載な凶暴象が控えており、再びゲームを司る天秤が傾きを変える。
と思われた。
だが、なんとAlexはここでも対応手段を隠しもっていた。災い魔に対して筋力急伸を使用し、ライフの回復を許さないまま航空戦力を維持しちまったのである。繰り返そう。森田のライフは僅か7なのだ。対してAlexは未だ18。この差は埋まるのか。埋められるのか。 フルマナタップの森田に対し、Alexは全軍突撃。唯一ブロック可能なサイカトグを鼠と象が迎え撃つ。その双方を凌駕する資源は無く、象と相打つ。だが、この攻撃により森田の残りライフは1。Alex陣営には未だ二体の飛行生物。
いつも通り、髪を前にはらりと垂らした俯いた姿勢。祈るようにカードを引く。ようやく6枚目の土地をセット。そのまま全てのマナを搾り出す。
病的な飢え!
勿論対象は災い魔だ。ついに魔術の種を切らしたAlexは一瞬顔をしかめながらカードを墓地へ置く。
3点を取り戻し、更に3点のライフを吸収した森田。これで再び7へ。鼠がようやく二度目の攻撃を行う。これでAlexは16。だが、未だ風読みは健在。残されたターン数は3である。
ここにきてAlexの引きも鈍る。補充部隊の無いまま風読みのみで攻撃。森田4。
その一方、森田は再びあのカードを使用する。そう、《郷愁的な夢/Nostalgic Dreams(TO)》。墓地から病的な飢え・降り注ぐ塊炭という強力2枚が再び手札へと加わる。鼠の一撃、Alex14。
逆に何かを引かねばならなくなったAlex。だが、そこにあったのは手遅れ感満載のこじ開け。風読みが最後の攻撃を行う。森田二度目のライフ1。予定通りに病的な飢えを使用しそのライフはすぐさま4へと戻る。しかも未だ森田の手札にはシャワーが残されており、9マナまで到達すればフラッシュバックでの飢えも待ち構える格好だ。これは逆転なったか!?。
Alexが力を込めてカードを引く。
《ボールシャンの協力者/Balshan Collaborator(TO)》!
それも、4つの黒マナを残して。
トーメントのもたらした蒼き怪物。クケケケと森田に微笑む。俺はそんなちっぽけな炎では焼かれてやらないよ、と。
こうして大会屈指の名勝負は幕を閉じた。ついに国内個人戦グランプリの栄冠が日本人の手から零れ落ちた。
我々は再び精進を積まねばならない。
大阪まで残すところ一月。
ともあれ、Congratulation Alex Shvartsman !
Alex 2 - 森田 1