Yann HamonとNicolas Labarreの存在はこのプロツアー・ニューオーリンズでの大きな話題のひとつといえるでしょう。よき友人でもある彼らは同じプレイテストチームに所属して《ゴブリンの放火砲/Goblin Charbelcher》+《マナ切り離し/Mana Severance》デッキを開発し、ともに栄光の日曜日へと勝ち進んでいるのです。そして彼らは日曜日の緒戦にあたる準々決勝でマッチアップすることとなりました。しかしながら、悪いことに彼らはともに日曜日の午前8:00に発つスケジュールでのパリ行き航空券を手配済みであり、それをいまさら変更するのはとても困難なことだったのです。
彼らが旅行に関する数々のサイトを調べてみた結果、結局のところ彼らは新しい航空券を購入するほかはなく、それには1000ドルを超える費用がかかるということがわかりました。そこで彼らはDCIに準々決勝のうち彼らのカードだけを土曜日の夜に開催してもらえるように打診しました。そうすれば、少なくとも彼らのうちの敗者だけは航空券を無駄にせずにすむからです。
申し出を受け、DCIの責任者であるChris Galvinはただちに上級レベルのジャッジたちとミーティングを行い、その申し出を受け入れることはできないという結論に至りました。
「プロツアーのスケジュールというのは多くの要素がからみあって決定されているものであり、参加選手に便宜をはかるためとはいえこれを急遽変更できる準備はない。準々決勝が日曜日の午前9:00からはじまることは動かしようがない」
HamonとLabarreはDCIのポリシーを完全に理解しており、結局のところ変更が認められないだろうことを予期していたようでした。彼らはすぐさま賞金総額を50%ずつでスプリットすることを決定し、二人のうちの片方(準決勝に進出できることになるプレイヤー)だけが日曜日のトーナメント決勝ラウンドに参戦し、他方が手配済みのチケットを無駄にせず帰国することを考え付きました。
そのため、ここで二人のプレイヤーは「非公式に二人がマッチを行い、そのマッチで敗北した方が準々決勝を投了する」ということが可能であるかどうかを新たにDCIに問いました。そして、Chris GalvinはDCIポリシーについて以下のように説明したのでした。
「二人の申し出を要約すると『どちらがマッチに投了するかを決めるためにマッチを行いたい』ということになる。これに関してDCIのルールは明確なものだ。勝者がランダムに決定されたものでなく、強請や共謀、賄賂をともなわない、そして…それがハプニングでもない場合、われわれは関与しない。私が言えることは、午前9:00に着席していないプレイヤーは決勝ラウンドを戦う資格を剥奪されるだろうということだけだ」
Chrisはめったにないシチュエーションに苦笑しながらも、今回の事例を踏まえてのDCIポリシーに関する話し合いをレントンの本社に戻り次第行うつもりであることを話してくれました。
「なんとも奇妙なケースの申し立てにめぐり合えたわけで、私はこのプロツアーに足を運んだ甲斐があったことを喜ぶべきなのかもしれないな」
LabarreとHamonはトーナメント会場でその「非公式試合」を行うことを希望したのですが、これはかないませんでした。DCIとしては目前でそのような試合が行われることを許容することはできないのです。ちなみにLabarreは3度にわたるプロツアー決勝ラウンドを経験していますが、一方のHamonははじめてのスポットライトということになります。ちなみにHamonは今年に入って2度のグランプリ決勝戦をプレイし、先週のリヨンでは見事初優勝を飾ったばかりです。
結局、二人のプレイヤーはホテルに帰ってからマッチを行い、どちらが日曜日の栄光のスポットライトを放棄することになるかを決定することにしたようです。Labarreとしては単純にここで投了して親友にステージで戦う機会を譲ってあげたい…という気持ちも芽生えていたようですが。
多くのプレイヤーたちの死闘によって選び出されたトップ8であることを尊重すれば当然なのでしょうが、「コインフリップによって権利の放棄を決定することを許可できない」とChris Galvinが発表したことは皮肉めいています。Tomi Walamiesなどに言わせると、「今大会で二日目に勝ち上がるためには(先攻後攻を決める)コインフリップの技術に優れていることのほうがプレイスキル云々よりも重要だったのではないか」という話ばかりを耳にしたということです。
ちなみに、Yann Hamonもホテルでのマッチでコインフリップに敗れたとき、日曜日に戦う権利を逃してしまったと確信したそうです。実際問題、先攻のLabarreが一本目に勝利し、二本目に先攻となったHamonが取り返し、三本目に先攻を取り返したLabarreが勝利し、同様に四本目に先攻となったHamonが勝利するという具合だったようです。しかしながら、最終戦となった5戦目でYann Hamonは《マナ切り離し/Mana Severance》をトップデッキし、何とか1ターン差でNicolas Labarreを出し抜いてこのジンクスを打ち破ったそうです。ともあれ、Yannがトップ8プレイヤーの記念撮影をしている今、Labarreは機上の人となっていることでしょう。
興味深いことに、彼らの試合が公式にはまったくもって何の意味ももたないということをここで言及しておきましょう。ホテルで彼らが行った試合での彼らの取り決めを反故にしてNicolas Labarreが今朝9:00に会場に現れた場合、やはり準々決勝は規定どおりに行われたはずなのです。彼らがホテルで行ったのは明確にただの野試合なのでした。
「DCIはタイブレイカーで敗れた9位のプレイヤーを棄権した人物の変わりに決勝の席へつけたらどうか?」といった提案もなかったわけではないようですが、DCIのルールは明確にこういった扱いを禁止しているのです。そう、トーナメントがシングルエリミネーションへと移行したあとでそのトーナメントからDrop(途中棄権)することは出来ません。これはイベントが終了した後に金銭によって順位が変動することを防ぐために曲げようのない部分なのです。
ともあれ、今回の件に関しては、DCIの調査がこれからも継続していくようです。そして、二人のプレイヤーや立ちあった証人たちは、Labarreが日曜日に参戦しなかった理由が(金銭的な便宜や物理的な暴力などの)不適当な影響によらないことを確認しています。
二人のプレイヤーはDCIのルールに抵触しないよう終始慎重でしたし、彼らの申し出によっておこった不都合に対して非常にもうしわけなさそうな態度をとっていました。現在、Yann HamonはHarvey-Osterberg戦の勝者と準決勝で対峙することを心待ちにしており、わずか一週間という間隔で二度目のメジャーイベントに勝利することを狙っています。