
プロツアー決勝ラウンド、「栄光の日曜日」へようこそ。まずは最初を飾る一戦、まずは"Player of the Year"津村 健志と、フランスのBastien Perezのマッチをご覧いただこう。
日本におけるプロツアー級のイベントといえば、直近では昨年の世界選手権が思い出される。一時はナーバスになりながらも3つ巴の激戦を競い合い、またエールを送り合いながら津村はタイトルを手にしたのだが、そのころと比べても、格段に落ち着きと風格が備わった印象がある。
もちろん、その鋭さは昨年とも変わらず、さらにプレイのキレは増している。それに加え今大会では、「揺るぎなさ」とでも呼ぶべき雰囲気を身につけているのである。地位が人をつくるというが、彼もその例に漏れない人物になろうとしているのだ。
一方のBastien Perezはフランスのプレイヤー。まだ19歳と年若いが、これまで10度のプロツアーに参戦しているという歴戦の勇者である。その積み重ねは着実に力となり、昨年のプロツアー名古屋ではTop 32、そして今年のグランプリ・パリでは、多くの参加者の中準優勝を勝ち取っている。蓄積が今、まさに花開こうとしているプレイヤーだ。
この日の最初の一戦とはいえ、この試合は「シングルエリミネーション方式」=「負ければ終わり」の準々決勝である。頂点へ向けてあと3戦、ひとつたりとも落とせない戦いに二人はどう挑むか。
Game 1
先攻となった津村、その注目の初手は《平地/Plains》、《島/Island》、《嵐景学院の使い魔/Stormscape Familiar》、《アヴナントの癒し手/D'Avenant Healer》、《雲を追うケストレル/Cloudchaser Kestrel》、《城の猛禽/Castle Raptors》、《留置呪文/Detainment Spell》。土地の引き次第ともいえるが、まずまずのスタートである。
ゲームはまずPerezが《明日への探索/Search for Tomorrow》待機から《宝革スリヴァー/Gemhide Sliver》とマナを伸ばす立ち上がり。
津村も《嵐景学院の使い魔》《雲を追うケストレル》と飛行クリーチャーを並べて構える。が、ここで早くもPerezのデッキが火を噴く。
《明日への探索》が待機を終えて《沼/Swamp》を導くと、プレイ《芽吹き/Sprout》に続けて《巣穴からの総出/Empty the Warrens》。ストームが2回カウントされ、第4ターンにして早くも7体の1/1トークンが場に並ぶ。そして、次のターンには総攻撃から《数の力/Strength in Numbers》!
だが、津村は顔色を変えない。ブロックに回った《雲を追うケストレル》を静かに墓地に置き、20から8に減少したライフを記録した。
いきなり耐えるしかない状況に追い込まれた津村は、土地を引いて《城の猛禽/Castle Raptors》。Perezは《獣群のナール/Herd Gnarr》《ウェザーシードのトーテム像/Weatherseed Totem》をプレイする。
増援が来ない津村に対し、押し切りたいPerezは《幻影のワーム/Phantom Wurm》を追加。ここでようやく《ヴィセリッドの深み歩き/Viscerid Deepwalker》が待機を終え、《天界の十字軍/Celestial Crusader》をプレイして反撃に転じようとしたのだが、そこでPerezから放たれたのは《虚空/Void》。
《城の猛禽/Castle Raptors》《ヴィセリッドの深み歩き/Viscerid Deepwalker》を失っては戦線を支えきれないと判断した津村は、手札を公開する前に投了することを選択した。
津村 –0 Perez –1
津村は、数押しに備え《留置呪文/Detainment Spell》に代えて《アイケイシアの触れ役/Icatian Crier》をサイドボードから導入した。
Game 2
しかし、津村にとっては逆転を期した第2ゲームも、先ほどのリプレイを見ているようであった。
《ダスクライダーの大隼/Duskrider Peregrine》待機から《ヴェク追われの盲信者/Zealot il-Vec》という上々の立ち上がりを見せた津村だが、《ヴェク追われの盲信者》は《突然のショック/Sudden Shock》で対処し、《宝革スリヴァー/Gemhide Sliver》を2体展開するPerez。
十分なマナができたところで、まずは《獣群のナール/Herd Gnarr》をプレイしてくる。津村も《ダスクライダーの大隼》を戦線に加えて《アムローの求道者/Amrou Seekers》とともに攻撃を始めつつ、《オパールの守護者/Opal Guardian》をプレイして抑止力かつ明日への備えとするが、ここでまたしても《芽吹き/Sprout》から《巣穴からの総出/Empty the Warrens》。
《獣群のナール》は12/12のモンスターに変貌し、かといって《オパールの守護者》は目覚めない。津村は攻撃を受けるしかない。
ターンが返ってきて《城の猛禽/Castle Raptors》で耐える構えも、待っていたのはやはり《数の力/Strength in Numbers》だった。
待機カードからの《巣穴からの総出/Empty the Warrens》、並べた後の《数の力/Strength in Numbers》のギミックは、既に津村などのプロプレイヤーの中では知られた部類に入る。安いカードで猛烈な効果を生み出すこのアーキタイプ、可能であれば津村もドラフトしたいと考えていたようだが、それはかなわなかった。
そればかりか、今まさにその力で崖っぷちに追い込まれようとしている。
津村 –0 Perez -2

Game 3
津村はこのまま、なすすべなく敗れてしまうのだろうか? 期待と不安を背負う中、彼の表情は変わらない。
ここまでは圧倒されていた津村が、第3ゲームでその本領を見せ付けてみせた。
先ほど同様に《ダスクライダーの大隼/Duskrider Peregrine》待機から入ると、まず《ヴェク追われの盲信者/Zealot il-Vec》。これは《突然のショック/Sudden Shock》で失うも、続けて《オパールの守護者/Opal Guardian》を設置。
これが次の《暗影の蜘蛛/Penumbra Spider》で目覚めれば、《ダスクライダーの大隼》と2体で攻撃、さらに力強く《聖なる後光の騎士/Knight of the Holy Nimbus》《ヴェク追われの盲信者》2枚目とプレイする。
Perezは《炎核の精霊/Flamecore Elemental》をプレイしてターンを返すが、ここで津村は総攻撃を宣言。《オパールの守護者》が《暗影の蜘蛛》に、《聖なる後光の騎士》が《炎核の精霊》にそれぞれブロックされたところで、プレイ《天界の十字軍/Celestial Crusader》!
戦線が壊滅したPerezは、次のドローを見て投了を宣言した。
《天界の十字軍》の光は、反撃の狼煙となるか。
津村 –1 Perez -2
後手となることを見越し、《宝革スリヴァー/Gemhide Sliver》からのダッシュを少しでも阻むべく、津村はルール確認の後《留置呪文/Detainment Spell》を《知恵の蛇の眼/Ophidian Eye》に代えてサイドインした。
Game 4
一撃必殺の技が飛び交うこのマッチ、第4ゲームもその勢いで取りたい津村の初手は《嵐景学院の使い魔/Stormscape Familiar》、《聖なる後光の騎士/Knight of the Holy Nimbus》、《雲を追うケストレル/Cloudchaser Kestrel》に《平地/Plains》3枚と《島/Island》1枚となった。
例によってPerezの《明日への探索/Search for Tomorrow》待機からゲームが始まる。津村は《聖なる後光の騎士》をまず送り込み、《獣群のナール/Herd Gnarr》を見つつ《嵐景学院の使い魔》をプレイして攻撃せずにターンを返す。
《獣群のナール》はここまで見てきたように非常に強力ながら、攻撃前に何か行動をする必要があるため、倒すにはマナが必要な《聖なる後光の騎士》とは多少ながら相性が悪い。ここでPerezは考慮に沈む。
そして《ゴブリンの空切り/Goblin Skycutter》プレイから《獣群のナール》攻撃、2マナが残っているため《聖なる後光の騎士》はブロックせず、4点のダメージが津村に。この《ゴブリンの空切り》は《嵐景学院の使い魔》との交換になる。
津村はここで《天界の十字軍/Celestial Crusader》を引いたが、まずは《雲を追うケストレル/Cloudchaser Kestrel》からプレイし、やはり《聖なる後光の騎士》は残す。
これに対しPerezは5枚目の土地を引き、《サリッドの発芽者/Thallid Germinator》をプレイ。上手い具合に2マナを残され、先ほど同様4点の攻撃を甘んじて受ける。
津村も《雲を追うケストレル》で反撃、《城の猛禽/Castle Raptors》を配備してターンを返した。
Perezが手を止めて《幻影のワーム/Phantom Wurm》をプレイするのみに終わると、ここで津村は意を決して《雲を追うケストレル》《城の猛禽》の攻撃から《天界の十字軍》をプレイしてみせた。ダメージを7点に増やして、レースに持ち込む意図である。さらに《ベナリアの騎兵/Benalish Cavalry》を追加する。
この動きに対しPerezは《鉄爪のノスリ乗り/Ironclaw Buzzardiers》をプレイするのみで終了した。だが、何故か不気味な雰囲気をかもし出している。
津村のアンタップを迎えたところで、盤面の状況を整理しよう。

津村(ライフ12):《ベナリアの騎兵/Benalish Cavalry》《聖なる後光の騎士/Knight of the Holy Nimbus》《雲を追うケストレル/Cloudchaser Kestrel》《城の猛禽/Castle Raptors》、《天界の十字軍/Celestial Crusader》、土地は《平地/Plains》《島/Island》計6枚
Perez(ライフ11):《鉄爪のノスリ乗り/Ironclaw Buzzardiers》《幻影のワーム/Phantom Wurm》《獣群のナール/Herd Gnarr》、《サリッドの発芽者/Thallid Germinator》(胞子カウンター2個)、土地は《森/Forest》《山/Mountain》《沼/Swamp》計6枚
単純には2回の攻撃で津村の勝ちだ。しかし、それにはどうもPerezの動きが気になる。津村はここで悩み、攻撃は《雲を追うケストレル》のみとし(Perezのライフは8)、今引いた《正義の凝視/Gaze of Justice》で《幻影のワーム》を除去、《城の猛禽》を1体守りにつかせてターン終了を宣言した。
しかし、Perezが満を持してプレイしたカードは…
《版図の踏みつけ/Tromp the Domains》!
Perezのクリーチャー3体がいずれも5/5トランプルとなり、しかも《獣群のナール》は《サリッドの発芽者》のトークンでさらに+2/+2する。合計パワー17の攻撃に対し、守る《城の猛禽》は3/5である。そしてライフは…12。
守り切れないと理解した津村は、最善のブロックを宣言した後、Perezの的確な行動をもって、その右手を差し出した。
津村 – 1 Perez - 3
観戦していたフランス勢から歓声が上がる。そのことは、津村が『挑戦を受ける』立場であったことを表していたように思えた。
期するものがあったであろう一番に敗れてしまった津村だが、その後に観戦者からプロプレイヤー・カードにサインを求められ、にこやかに応じていた。
その姿にはスタープレイヤーの資質を感じたが、同時に印象的だったのは、去り際に目立たぬところで「悔しい!」と、自らの足を叩いていた光景だった。
その悔しさが、練習への、そして勝利への飽くなき原動力となるのだろう。