この大会における大きなサプライズのひとつは、アイスランド代表チームだ。チーム合計の生涯通算プロポイントはたった12点、人口30万人という小さな国にもかかわらず、この週末の大会で準決勝までの道を切り開いてきた。
そのアイスランド代表に立ちふさがるのが、フランス代表チームだ。率いるのは殿堂顕彰者のラファエル・レヴィ/Raphael Levyで、彼はこのゲームで長く活躍を続ける大物の一人だ。両チームの経験の差を表すと、ラファエル・レヴィ単独での生涯獲得プロポイントはアイルランド代表メンバーが持つプロポイント合計の45倍以上だ。つまり、マジックのカードで例えるならば、アイスランド代表チームをコピーした《前駆ミミック》が44人いるとして、この190人のアイスランド人の大グループは生涯通算プロポイントでラファエル・レヴィには敵わないのだ。
これはまさにダビデとゴリアテの闘いだ。そしてゴリアテはそのことを知っている。試合前、ラファエル・レヴィは自信があるように見えた。彼いわく、フランス代表はスイスラウンドで一度アイスランドを破っており、このマッチアップは相性が良さそうだとのことだ。しかしその反面、どんなことだって起こりうるのだ。両チームは席に着き、円陣を組み、ハイタッチを交わして士気を上げて、シャッフルを始めた。
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アイスランド代表は現代のゴリアテであるフランス代表と相対することとなった。ダビデがゴリアテを制するのか。 はたまた、フランス代表がマジック史の中で未だ勝ち得ていない唯一のタイトルへの最後の試合へと進むのか。 |
アルヴィン・オーリー・ギスラソン/Alvin Orri Gislason(ドムリ・グルール)vs.ラファエル・レヴィ(緑単アグロ)
このマッチは《捕食者のウーズ》を中心に回った。
第1ゲーム、鍵となるプレイは2ターン目の《捕食者のウーズ》だった。1ターン目の《エルフの神秘家》の恩恵を受けて、レヴィは3ターン目から彼のウーズで殴り始め、そのサイズは毎ターン大きくなった。ギスラソンは場に出てしまった《捕食者のウーズ》を除去する手段が無いため、残された唯一のプランはダメージレースに持ち込むだけだった。なんとか挑んでみたものの、達成することはできなかった。《火打ち蹄の猪》と《地獄乗り》はレヴィのクリーチャーたち、特に《ウルフィーの銀心》が降り立つと、容易にブロックされるされるものばかりだった。数ターン後には《捕食者のウーズ》が介錯することとなった。
第2ゲーム、レヴィはまたもや《捕食者のウーズ》を2ターン目に繰り出した。しかし、ギスラソンは今回はゲームの舞台に上がることができた。《漁る軟泥》と《絡み根の霊》という攻撃的なドローを続け、レヴィの《捕食者のウーズ》は単なる破壊不能のブロッカーへとなり下がった。ギスラソンの地上クリーチャーに対しては頼りがいのある壁となったが、飛行クリーチャーまではブロックできない。《雷口のヘルカイト》が降り立つと、レヴィは窮地に陥った。彼は《怨恨》を《捕食者のウーズ》につけることで何とかダメージレースに持ち込もうとしたが、ギスラソンの《地獄乗り》と《ゴーア族の暴行者》がダメージレースを制し、試合は1ゲームずつを取り合うタイへとなだれこんだ。
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レヴィとギスラソンはぶつかり合い、お互いにゲームを取り合った。 しかし、この試合の結末は他の試合が終わるまでお預けとなった。 |
このウーズが詰まった試合の第3ゲームは残る2つの試合の結末を待ってから行われることとなった。
ラグナル・シグルズソン/Ragnar Sigurdsson(ジャンク・アリストクラッツ)vs.ティモシー・シモノ/Timothee Simonot(ジャンド・ミッドレンジ)
第1ゲームは《オリヴィア・ヴォルダーレン》が全てだった。ジャンドはスタンダードでも最高のクリーチャーたちを展開し、この黒と赤の吸血鬼もその中にいた。とりわけ、それはジャンク・アリストクラッツの《血の芸術家》や《若き狼》のような脆弱なクリーチャーを楽々と潰していった。肝心なのは、シモノは彼の《オリヴィア・ヴォルダーレン》を除去にさらさなかったことだ。試合後に彼が述べたのは、6マナが出るまで待って、すぐに《オリヴィア・ヴォルダーレン》を4/4にすることが重要だということだ。こうすれば、きわめて大事な《オリヴィア・ヴォルダーレン》は《情け知らずのガラク》に打ち落とされることが無くなる。これが功を奏し、《オリヴィア・ヴォルダーレン》が場に残って1ゲーム目を奪取した。
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フランス代表は彼らの勝機に自信を持っていたが、番狂わせが起こる時だってあるのだ。 |
2ゲーム目は《忌むべき者のかがり火》が全てだった。シグルズソンの《生命散らしのゾンビ》が暴いたシモノの手札は《オリヴィア・ヴォルダーレン》、《悲劇的な過ち》、《忌むべき者のかがり火》、そして土地だった。非常に濃い手札は、ジャンドがこの長いゲームをリードすることを約束していた。興味深いポイントが数ターン後にやってきた。シモノは《高原の狩りの達人》と5枚の土地をコントロールしており、《生命散らしのゾンビ》によって見られたカードは全て手札に残っていた。テーブルの反対側いる《生命散らしのゾンビ》、《若き狼》、《復活の声》を前にして、シモノにはいくつか選択肢があった。《忌むべき者のかがり火》の引き金を引くことができた。《オリヴィア・ヴォルダーレン》を降臨させることができた。またはターンを返して、《高原の荒廃者》の誘発で《生命散らしのゾンビ》を殺すことだってできた。シモノはしばらく考えた後に、最後に挙げた選択肢を選び、《忌むべき者のかがり火》をより効果的なタイミングまで温存することにした。「このマッチアップでは《忌むべき者のかがり火》は一番大切なカードなんだ」と試合後このフランス人の男は私に語ってくれた。「それを手札に持っているならば、すべきことは上手く打てるタイミングを選ぶことだけだ。」 そして、その時はすぐにやってきた。その力は強大だった。シグルズソンは全てのクリーチャーを失い、再起不可能になった。
フランス代表が1勝を挙げた。その間、3番目のテーブルでは何が起こっていたのだろうか?
ヘディン・ハロルドソン/Hedinn Haraldsson(青白赤フラッシュ)vs.ヤン・グットマン/Yann Guthmann(青白フラッシュ)
この試合はほとんどミラーマッチではあるが、小さな違いがいくつかあり、それが最終的には大きな違いをもたらした。ハロルドソンは《火柱》のために赤をタッチしていて、《復活の声》のようなカードが相手ならばとても上手く働くのだが、《ボーラスの占い師》や《修復の天使》が相手ならば二流以下だ。そういった赤いカードの枠にグットマンは《思考掃き》や《ルーン唱えの長槍》を取っている。そしてその小さな装備品は驚くほどに重要であることが示されたのだ。
1ゲーム目は長いものだった。両プレイヤーとも多くのマナがあり、延々とターンを返すだけで、対戦相手に《スフィンクスの啓示》を解決するチャンスを与えないよう、タップアウトしないように気を配っていた。そうは言うものの、幾枚かの《ボーラスの占い師》がお互いのテーブルに登場することになった。グットマン側の1/3の群れの方がはるかに優れていた。《ルーン唱えの長槍》が戦場に出ていたからだ。彼の墓地は《思考掃き》や《アゾリウスの魔除け》のようなカードで満たされていて、それはつまり、《ボーラスの占い師》が突如としてパワーが10の力強いクリーチャーに姿を変えてしまうことを意味していた。ハロルドソンは《至高の評決》で押し戻したが、《ムーアランドの憑依地》が稼動するだけで、1/1スピリット・トークンの絶え間ない生産が永遠に始まることとなった。おっと、10/1スピリット・トークンの間違いだ。ハロルドソンが生き延びるための赤い火力呪文を何枚か持っていたのでしばらく時間はかかったが、グットマンのクリーチャーに対処するためのハロルドソンの除去が尽き、最終的に《ルーン唱えの長槍》がゲームを決めた。さらに言えば、グットマンは十分にカウンター呪文と《瞬唱の魔道士》、ハロルドソンの《スフィンクスの啓示》を止めるための土地を十分に持っており、ゲームに勝つにはそれでよかった。
2ゲーム目は早い段階で、グットマンが《修復の天使》を煌かせ、攻撃を開始した。プレッシャーを感じて、ハロルドソンは何か行動を起こさなければいけなかった。彼は《忘却の輪》を唱え、3/4天使の追放を願った。グットマンは脅威を失いたくなかったため、それを巡ってのカウンター合戦が始まった。彼の《否認》と《払拭》がハロルドソンの《雲散霧消》を退け、《修復の天使》は引き続き居残ることになった。さらに重大なことに、このカウンター合戦でハロルドソンはタップアウトしてしまったため、グットマンがずっとチャンスを伺っていた《記憶の熟達者、ジェイス》を通す絶好の機会が開けたのだ。その後、グットマンはヘラルドソンに二面からプレッシャーをかけることができた。つまり、《修復の天使》による攻撃と、《記憶の熟達者、ジェイス》の起動だ。なおその上に、このフランス人は、どんなごまかしも阻止できる《雲散霧消》までも手札に抱えていた。ゲームの幕を下ろすのに長い時間はかからなかった。
2試合を勝利し、フランス代表が決勝へ進み、気立ての良いアイスランドのプレイヤー達はそれを祝福した。
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フランス代表がアイルランド代表のワールド・マジック・カップにおける快進撃を止めた。 そして、未だ手にしていないタイトルまであと1つだ。 |
「ダビデとゴリアテの闘いだったよ」アイスランド代表チームのキャプテン、ギスラソンは後に言った。「誰も僕らが2日目に進むなんて思ってなかった。誰も僕らがトップ16に進むなんて思ってなかった。誰も僕らがトップ8に残るなんで思ってなかった。そして、誰も僕らがトップ4に残るなんて思ってなかった。僕らはただ、マジックがしたかっただけで勝ち続けてきた。でも全てに勝つことはできない。」 同胞であるハロルドソンも同意する。「思うに僕らは、より強くて、より経験のあるチームに負けただけだ。彼らがとても上手くやったんだ。」
フランス 2-0 アイスランド
(Tr. Masashi Koyama)