マジックプレイヤーが好きなものといえば、それは価値だ。カード・アドバンテージ、戦場に出たときの誘発能力、カードの2対1交換。
そう、価値だ。
そして、このマッチで見られたものが、まさに価値だった。
マッチはチーム「ChannelFireball」を支えるメンバー2人、エリック・フローリッヒ/Eric Froehlichとジョシュ・アター=レイトン/Josh Utter-Leytonによって争われた。ともに、素晴らしいシーズンを経てきたようだ。フローリッヒはこのシーズンの3つのプロツアーで27位、4位、10位を記録した。年間最優秀選手であるジョシュ・アター=レイトンは、それさえしのぐプロポイントを稼いでみせたということだ。
さあ、アメリカマジック界の重鎮同士が、ここまで1勝1敗の成績で席につき、『Modern Masters』のドラフトで激突する。
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エリック・フローリッヒとジョシュ・アター=レイトンはともに素晴らしいシーズンを過ごしてきた。 2人の「ChannelFireball」チームメイトは、マジック:ザ・ギャザリング世界選手権2013で堅実なスタートを決め、 新たなシーズンの幕を開けたいところだ。 |
ドラフトとデッキ
ゲームに入る前、両者は相手のドラフトしたカードプールに軽く目を通し、互いのピックについて議論していた。
アター=レイトンはファースト・ピックとして、このセット最高のアンコモンとして話題に上がる《雲山羊のレインジャー》からドラフトを始め、続いて大量の赤い火力をピックしていった。2パック目でさらなる《雲山羊のレインジャー》を手に入れると、彼のドラフトはきわめて良い方向に進んでいるようだった。「ジョシュのカードプールはバケモンだよ」とフローリッヒは言う。アター=レイトンのデッキは、戦場に出たときの誘発型能力を持つクリーチャー(《雲山羊のレインジャー》や《残忍なレッドキャップ》、《象牙の巨人》など)に、いわゆる明滅効果(《ちらつき鬼火》と《来世への旅》)を組み合わせて、それらのクリーチャーからさらなる価値を引き出すという、素晴らしいコンビネーションを搭載したものだ。
ドラフトにおいて、アター=レイトンはフローリッヒのすぐ上の席順で、、《空に届くマンタ》のようなカードを流し、版図(ドメイン)アーキタイプが空いていることを示す明確なシグナルとした。フローリッヒはそのとおりにカードをピックしていったが、パックからの出が悪いと感じていた。「自分は正しいアーキタイプを選んでいたけど、ほとんど爆弾カードもなく、マナ供給カードもあまりなく、5色にしたところで利はなかった。このデッキはまさに平均点だね」と彼は言う。アター=レイトンのリストを詳しく調べると、フローリッヒは《放漫トカゲ》を指して、「こういうカードを俺からカットしたんじゃないか!」と言う。アター=レイトンは、ヘイト・ドラフトを意識的にしたわけではないと、チームメイトを安心させた。「《放漫トカゲ》は3手目だったんだ」とのこと。
試合
ゲーム1では、アター=レイトンは「価値」戦略を、《残忍なレッドキャップ》を《ちらつき鬼火》で明滅させ、戦場に出たときの誘発能力をただで得ることから始めた。しかしそれが、アター=レイトンがなんとか得ることができた唯一の2対1交換であった。対するフローリッヒは、彼にカード・アドバンテージの真の意味を示し始めた。《仮面の称賛者》、《シタヌールの樹木読み》、《熟考漂い》が確かなカードの流れを彼に与え、《湿地の飛び回り》と《裂け目翼の雲間を泳ぐもの》がさらなる価値を供給した。
ゲームが進むに連れて、エリックは自身が主導権を握っていることを理解し、あとはジョシュのトップデッキによる敗北する危険を考えるだけだった。《来世への旅》は《象牙の巨人》に使われてブロッカーをすべてタップしようものなら、と考えると特に恐ろしい。しかし、アター=レイトンは不運なことに、土地の過剰供給に陥ってしまった。最終的に引けた土地でないカードは《雲山羊のレインジャー》で、それもエリックが《衝撃的な幻視》を構えていて、それだけだった。「呪文5枚に土地10枚引いたよ」アター=レイトンはその後、意気消沈して言った。
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フローリッヒは確かなカード・アドバンテージの流れにより、 マナ過剰に陥ってしまい足場を作れなかったアター=レイトンの上を行った。 |
ゲーム2は接戦だった。アター=レイトンは《キスキンの大心臓》から《雲山羊のレインジャー》を含む素早いスタートを切った。一方のフローリッヒは、《木霊の手の内》を使ってマナ加速すると2体の5/5《空に届くマンタ》をプレイした。それから《大渦の脈動》で《雲山羊のレインジャー》を除去し、《羽毛覆い》でキスキンをブロックして、さらに壁とした。アター=レイトンはそこでクールな技を見せた。《来世への旅》を自分のクリーチャーに使うのではなく、フローリッヒの《空に届くマンタ》にキャストしたのだ。これにより《空に届くマンタ》は5/5から1/1に縮むことになり、《残忍なレッドキャップ》が後を掃除した。それでもなお、アター=レイトンは5/5の飛行クリーチャー1体に直面していた。
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アター=レイトンは自身のデッキの容赦無いドローの中でも立ち向かおうと努力していた。 |
《焦熱の落下》と《静寂の捕縛》を抱えて、しかし6枚目の土地を引けず、できることはこの飛行持ちに《静寂の捕縛》をつけることだけだった。そして、フローリッヒが空から5点の攻撃を続行させる《クローサの掌握》を持っていると知ると、握手を求めるよりなかった。
「あのとき、《クローサの掌握》を考慮に入れてプレイする方法はなかった」とアター=レイトンは言う。「6枚目の土地を引けず、《焦熱の落下》で5/5を落とせなかったことが負けにつながった。卓で最強のデッキだったと思うけど、ゲームではうまくいかなかったということ」
フローリッヒはこの対戦について、同様にいくつかのコメントを残した。「自分には《大渦の脈動》をはじめ大量の除去呪文があるので、《雲山羊のレインジャー》はそれほど痛手ではなかった」と言う。「実際には、自分にとっては《残忍なレッドキャップ》が最も強敵のカードかもしれない。こちらの除去呪文はあまり効かないし、それを使ったところで《来世への旅》や《ちらつき鬼火》で振り出しに戻してしまうだろうし」 フローリッヒには幸いなことに、それは実現しなかったのだった。
フローリッヒ 2-0 アター=レイトン
(Tr. Yusuke Yoshikawa)