
「十年選手」中島 主税のD25がトップ4に入り、Kajiharu80が優勝と、日本人チームの活躍が華々しく報じられたPTチャールストン。そんな2つのチームの活躍の陰に隠れて、トップ8入賞という着実な成績を残したチームがあった。
その名は「GG Jirou」
昨年度の世界選手権日本勢躍進の影の立役者であり、今シーズンのトーナメントシーンをにぎわす「ソーラーフレア」のデベロッパーのひとりともされる、今、最も熱いデックビルダーのひとりである鈴木 貴大。
GP松山トップ8の経験をもち、最近でもGP広島トップ8に、鈴木とともに入賞したことが記憶に新しい野中 健太郎。
彼らふたりの活躍については、この2週間の間も散々報じられたと記憶している。このGG Jirouというチームは、ネット上のBlogを中心としたコミュニティを母体とするチームであり、彼らがPTチャールストン以降もこうして活躍を続け、成績を残し続けているということは、既存のトッププレイヤーコミュニティーと一線を画する新たなコミュニティの台頭を示す証明であり、象徴なのである。
ところで、PTチャールストンのレギュレーションは3人チーム構築。つまり、チームは3人で構成されていたわけで、ひとり足りない。
その、最後のひとりが栗原 伸豪である。
初日スタンダードラウンドでは、いまひとつ実力をいかしきれなかった彼だが、続くラブニカドラフトラウンドで、軽量クリーチャーを集めた赤白青デックで4連勝。そして、コールドスナップドラフトランドでも目下2連勝中と、リミテッドで遂にその実力を発揮した。
そんな栗原の「リミテッド7連勝」を阻止するべくたちはだかったのがご存知、小室 修。
彼についてはもう、多くを語る必要はないだろう。一言でいえば「華麗なる天才」。
もともと顔見知りである栗原に小室が一言。
「凡人が天才にかてるかな?」
相変わらずの、天才節。
Game 1
小室が赤黒、栗原が赤白と赤系同士の対決。
先手は小室。
小室が《ゴブリンの霧氷走り/Goblin Rimerunner》《オークの血塗り/Orcish Bloodpainter》、栗原が《突風の漂い/Squall Drifter》とお互いに展開するが、栗原が《オークの血塗り》に《うねる炎》をキャストしたのを皮切りに、小室が《雪崩し/Skred》、ならばと栗原も《雪崩し》と除去が飛び交い、一度場はまっさらに。
そして、ここで小室が華麗にイニシアチブを握る。
2ターン連続で《熱足ナメクジ/Thermopod》という華麗と言うよりはナメなクロックを用意しつつ、栗原の《キイェルドーの先導/Kjeldoran Outrider》《バルデュヴィアの大将軍/Balduvian Warlord》へは連続の《骨に染む凍え/Chill to the Bone》を叩き込み華麗に場を支配する。
一方の栗原は、ただでさえ華麗に場を支配されている状況で、土地が4枚でストップし、非常に苦しい戦いを強いられる。なんとか《熱足ナメクジ》を1体《酷寒の枷/Gelid Shackles》で押し留めるものの、小室は《クロヴの悪漢/Krovikan Scoundrel》キャストと攻撃の手を緩めない。
しかし、そんな状況が栗原の《灰の殉教者/Martyr of Ashes》のキャストによって一変する。
土地事故によって展開ができない栗原の手札は4枚。
4枚全てが赤いスペルであるとは思わないが、2枚が赤い可能性は十分にありえる。《灰の殉教者》が《熱足ナメクジ》をブロックして能力を起動すると、あまりにも損な取引になってしまう。
小室は熟考の上で、《クロヴの悪漢》だけで華麗にアタック。栗原はこれをスルー。
続いて栗原のドローを前に「3枚目の赤いスペル」をひかれてしまう可能性を懸念し、《雪崩し》で除去をするか否かを検討するが、今度は小室が華麗にスルー。
この小さな1/1クリーチャー1体の存在のせいで、小室は手札の展開を圧倒的に抑制されてしまっているわけで、完全にイニシアチブを奪われ返されてしまった形だ。何とかしたい、だが、できない。
そして、小室のターンエンドについに小さな「赤い悪魔」の能力が起動される。当然のように3枚の赤いカードを公開しながら。公開されたカードは、《熱足ナメクジ》と《うねる炎》。
最後の一枚は本物の「赤い悪魔」《霧氷鱗のドラゴン/Rimescale Dragon》。
栗原の土地は5枚。そして、次のドローで6枚目。
自分の場が崩壊してしまった事も、対戦相手の場にキャストされた《熱足ナメクジ》も無視できないできごとではあるが、それよりも、《霧氷鱗のドラゴン》が、7枚目の土地が脅威だ。
実は、小室の手札には、その回答となる《テヴェシュ・ザットの信奉者/Disciple of Tevesh Szat》が握られているのだが、しかし、小室はそれを場にだすための黒マナが1つしかない。
どちらが先に土地を引くかの勝負。栗原はなんでもいいから7枚目の土地を、小室は《沼/Swamp》を。
見るからに分の悪いこの勝負。当然先にゴールにたどり着いたのは栗原だった。
「赤い悪魔」が場に降臨した次のターンの小室のドローは《沼/Swamp》
「おせぇ」と小室が小さく一言。
栗原 1-0 小室
Game 2

当然栗原としてはドラフト7連勝をしたいのだが、できれば、ここで華麗に3勝してスタンダードラウンドを楽にしたいのは小室も同じ。
そして、小室が天才の意地を見せる。
土地が事故気味の栗原に対して、小室の華麗なビートダウン。
そして、場にあらわれる《カープルーザンのミノタウルス/Karplusan Minotaur》。
累積アップキープがコインフィリップという珍しいカード。そしてコインフィリップに勝利した方が1点のダメージを自由な対象に与えられる…つまり、毎ターン振り分けられるダメージが増えていくというランダムながらもかなり制圧力をもつカードである。
彼らの場合は、コインフリップではなく、ダイスの偶数奇数で行なうことで合意している。
さて、その勝負。
1回目は小室が勝利し、栗原の本体へ。
2回目は栗原が2回とも勝利し、手札の火力とともに再生用の氷雪マナがないうちに《ゾンビの犬ぞり乗り/Zombie Musher》を除去と、1勝1敗。
運命の3戦目。
栗原としてはあわよくば3回勝利して、小室の《熱足ナメクジ》を除去したいところだ。逆に3回とも負けた場合、ライフが危険領域に突入してしまう。
そんな、栗原が願いをこめて宣言を繰り返す。
「偶数」ダイスの目は5
「偶数」ダイスの目は1
「奇数」ダイスの目は…6
小室の華麗なるダイスロール。
栗原 1-1 小室
Game 3
《バルデュヴィアの大将軍》《熱足ナメクジ》という栗原のビートダウンから開幕。
小室の手には、《バルデュヴィアの大将軍》を除去する《うねる炎》が握られていたが、横に並ぶ《マグマの核/Magmatic Core》でのアドバンテージを期待して、華麗に我慢。
もともとコントロールよりのデックが、序盤のライフと後半のアドバンテージを引き換えにすることは少なくない。そして、根っからのコントロールプレイヤーである小室は、ここでもその選択をとる。
そして、その《マグマの核》も、さらに相手に展開させてからにしようと、こちらも我慢。牽制として《テヴェシュ・ザットの信奉者》をキャストするに留める。
しかし、《テヴェシュ・ザットの信奉者》に《雪崩し》が打ち込まれ、ブロッカーとして呼び出した《ゾンビの犬ぞり乗り》に《酷寒の枷》がつけられつつ《突風の漂い》を場にだされてしまうと、さすがに我慢の限界と、《マグマの核》。そして、《バルデュヴィアの大将軍》に《うねる炎》。
《熊の守護霊体/Ursine Fylgja》が登場し、一瞬ピンチかと思われた小室だったが、ここでこれ以上ない《骨に染む凍え/Chill to the Bone》を華麗にトップデックし難を逃れる。小室のターンエンドには《突風の漂い》に経年カウンター分の1点が与えられ、じわじわと小室ペース。
小室は、慎重に場を組み立てる。《マグマの核》が対戦相手の場を制圧している以上、小室は焦る必要はない。土地が7枚並ぶ栗原が、仮に《霧氷鱗のドラゴン》をキャストしてこようとも大丈夫なように《テヴェシュ・ザットの信奉者》からだしていくなど、相手の逆転の目を華麗に封じていく。
そして、次の小室のアタックで栗原のライフがなくなると思われたターン。
栗原は、ドローしたカードを小室に公開する。
《稲妻の嵐/Lightning Storm》
小室のライフは、3。
栗原 2-1 小室
小室 「3戦目は欲張りすぎたのがミスだった。《マグマの核》に目がくらんだ。《バルデュヴィアの大将軍》がキャストされたターンに除去していれば2ターン分ライフを温存できていた。そうすれば全部うたれても耐え切れていた(栗原の終了時の残りの手札は《うねる炎》と土地)。」
小室は自身の敗因を冷静に分析する。
だが、そうして勝利へのチャンスが与えられたとしても、それを活かせるプレイヤーと活かせないプレイヤーがいることは事実である。
栗原、華麗なる7連勝。