マジック・インヴイテーショナル:石井巌一

更新日 Feature

ある日の朝のことだった。
家の電話が鳴った。眠い目をこすり、受話器を取った。
......インビテーショナルに参加できるとは、思ってもみなかった。
それからは準備に追われた。参加を決意してからインビテーショナルの日まで二週間しかなく、練習も満足にできなかった。結局、日本人としては過去最高とはいえ、自分としては不本意な結果に終ってしまった。
せめてあと一月あれば、もう少し勝てたように思える。

それはさておき。

インビテーショナルではたくさん印象深い試合があった(というか、全ての試合がとても楽しく、印象深いものであった)のだが、詳しく書くと紙面が足りないので、ここでは簡単にさせて頂く。

それより、私が書くべきことは、トップレベルのプレイヤー達に間違って混ざってしまった「普通の人」である自分が、インビテーショナルという、ある意味マジックをやっている人にとっての最高のイベントに参加できたという、その出来事自体についてではないかと思う。

他のプレイヤーはプロツアー、世界選手権などで会っていたり、試合をしていたりする間柄であろう。しかし、私は違う。プロツアーなど数える程しか参加したことがなく、ましてや彼らと対戦したことなど一度もない。そんな自分がなぜインビテーショナルに招待されたのかは謎であるが。

とにかく、「そこそこ強い一般人」である私から見た、今回のインビテーショナルを振り返ってみようと思う。

今回のインビテーショナルは、オーストラリアという場所も原因があったのか、非常に地味であった。何しろ観客が数える程にしかいない。雰囲気は町中のデュエルルームである。これが日本であったら、観客だけで1000人は越えるのに。
そんな雰囲気からなのか、プレイヤー達も非常になごやかに試合を行っていた。そんななかで一般的な日本人らしく、英語があまり喋れない私は、かなり苦労しながらも、今までの生涯で一番プレイを楽しんだ。何しろ雑誌やインターネットなど、間接的にしか知り得なかった彼らと試合をしているのだから。
試合の間じゅう、非常に楽しかった。それは、マジックをはじめたばかりのころの、試合をするのが楽しくて仕方がないという気持ちとおなじだった。まさに、私はマジックを純粋に楽しんでいたのだ。そんな気持ちを持ったのは、はたして何年ぶりだったか。周りの環境も良いものであった。あいにくの雨のため、外出することは出来なかったが、開場となったStar City Hotel はとても良いホテルだった。レストランは、少々値段は高いものの味は良かったし、なんとカジノまであったのだ。オーストラリアはカジノが盛んな国なのだ。しかし客の大半は中国、韓国の人であった。
惜しむらくは、非常に入り組んだ構造をしていたため、道に迷うことが多かった。それと、同室の Ron Foster がとてもよくしてくれたので、不慣れな外国の生活も安心して送れた。これは私が英語を話せないための、Wizards の好意によるものだが、日本語が話せる(彼はたいていの日本人より日本語が上手である)というのは、心強いものである。

さて、インビテーショナルを、日を追って回想してみる。

一日目。Wizards 主催の観光があった。但し、雨の中だったのでろくに動けず、予定時間よりかなり早くホテルに戻ってきた。その後、皆と夕食を共にし、終了。
二日目。デュプリケイトと BYOB が行われた。デュプリケイトは初めて、というより、何もかもが初めてなのでかなり混乱したが、カードに触れるととたんに落ち着いた。不思議なものである。
対戦したのは Noah Boeken、Zvi Mowshowitz、Mike Long、Gary Wise、Dave Priceの五人。Noah Boeken の時にはトリプルマリガンをしたりと、いろいろあったが何とか 3-2 で終える。
三日目。BYOB とソロモン。ここでなれない海外遠征の疲れとインビテーショナルの雰囲気にのまれたか、考えられないミスを連発する。特に Alex Shvartsman の試合は、テキストの読み間違いというありえないミスで負けてしまった。やはり緊張していたのだろう。対戦したのは Darwin Kastle、Alex Shvartsman、Bob Maher Jr、Kai Budde。1-3 という残念な結果で終わる。
四日目。オークションとクラシック。全勝で何とか決勝にいけるかも、というかなりさみしい位置からのスタート。オークションでは、私にとって使いやすい Michael Loconto を取りたかったのだが、気軽にベットした Jakub Slemr のデッキになってしまった。私がベットした瞬間に、皆が一斉に座っていくのはなかなか壮観であった。くそう。
まあ、良いデッキなので、当たり方次第、と思ったのだが、やはりそれをゆるしてくれるほど彼らは甘くなかった。
クラシックは Gary Wise に「やりすぎだ」とまで言わせた対 The Deck シフトの赤単。準備期間があまりに少なかったための緊急回避的なデッキである。ほとんどのプレイヤーが選ぶであろう、パワーナインを含んだカウンターデッキ、リプレニッシュからのコンボデッキなどに対抗したものだが、結論から言うと、サイドボードをミスした。だから準備期間がなかったんだってば。
対戦したのは、Trevor Blackwell、Ben Rubin、Jon Finkel、Ryan Fuller、Chris Pikula、Gerardo Godinez。
五日目。決勝戦。私はガンスリンガーに引っ張り出される。滅多にない経験だけに、楽しくプレイさせて頂いた。残念なのは、我々ガンスリンガーを待っている列より、ある日本人へのトレードの列の方が長かったことだ。いや、私の友達なのだけどね。
そして、表彰式。居並ぶトッププレイヤーのなかで、好運にも六位という非常に高い順位につくことができた。同時開催のグランプリに参加していた中村聡(日本の誇る「Hat Man」。私の敬愛する友人である)も大変喜んでくれた。
その後、Wizards の招待でバーベキューに行ったのだが、箸を使う場所だったために、皆に箸の使い方を教えることになった。Alex は結構うまかったし、他にもなかなか上手に使える人もいたが、大体はうまく掴めず、苦戦していた。で、私はお返しに水の注ぎ方を教わった。教わるようなことでもないのだけどね。

これが、私のたどったインビテーショナルの日々である。

さて、試合についてかなり省略してしまったが、一試合くらいは書かないといけないだろう。
どの試合も非常に良いものだった。しかし、一番印象に残った試合は、やはり Gary Wise との試合であった。親日で知られる彼は、大会前日から、不安げな私にいろいろ話しかけてきてくれた。そんな彼とは BYOB。フォーマットの第一戦で対戦したのだが、残念ながら圧倒的にこちらが有利な勝負であった。なにしろ彼が言うには「100 戦やって 3 回勝てるかどうか」というくらいだったのだ。使用デッキは、彼が Outpost を決め手とした Orim-Humility 、私が Rofellos と Masticore を仕込んだ Fires。このデッキは全ての人間が完全に「忘れていた」らしく、誰も警戒していなかったので、非常に「受けた」。あの Maro (言わずと知れたMark Rosewaterである)も大変に気に入ってくれた。残念ながら私のプレイミスなどで、あまり良い結果は残せなかったのだが。
一戦目は Kavu Cameleon と Keldon Necropolis で私が押し切った。そして、サイドボードを交換中に出来事は起こった。
「おい、Cameleon は何枚だ」
Gary がそう尋ねてきたのだ。公式試合でもないし、別段隠す程のことでもないと思い、「4 枚」と答えた。もちろん彼はうめいた。だが偉大なる Gary Wise はめげなかった。
「Urza's Rage は?」
「もちろん 4 枚だ」
この後、彼がどうなったかは言うまでもない。
勝負が決まった後、彼がデッキを見せてくれないかと言った。私も彼のデッキに興味があったので、お互いに見せあうことにした。以下はそのときの彼のセリフである。
(Kavu Cameleon を指して)「嫌なカードだ」
「この Obliterate 4 枚はなんだ!」
(Keldon Necropolis を指して)「このデッキはスタンダードか!」
そして、「Tectonic Instability もあるのか!」
の一言とともに、彼は私に襲いかかってきたのだった。もちろん冗談だが。

この出来事に今回のインビテーショナルの雰囲気が凝縮されている。参加人数か 16 人と少ないこともあって、皆が皆楽しくプレーできるし、終った後の語らいもできる。それは町中のデュエルルームと変わらない。そこにいて、マジックをしているというだけで友達になれる。
そうして私は思うわけだ。

「彼らも私とかわらないのだ」と。

私を招待してくれた Wizards of the Coast の人々に。これに懲りずにまた招待して下さい。
英語がろくに話せない私につき合ってくれたインビテーショナルのプレイヤー達、特に Gary Wise に。また会いましょう。
シドニー滞在中にいろいろお世話になった Ron Foster に。借りたカードはきちんと返します。
デッキを組むのを手伝ってくれた山口竜太郎と岩田ふとしに。これからもお世話になります。

感謝をこめて。

Ishii Yoshikazu

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