Translated by Yoshiya Shindo
![]() ウィリアム・“ヒューイ坊や”・ジェンセン |
話は1年半ほどさかのぼる。2003年3月23日。イタリアはベネチア。フォーマットはオンスロートブロック構築。プレイヤーはビリー・ジェンセンと、最終的にこのトーナメントを勝ったオシップ・レベドヴィッチ。プロツアー準決勝。ジェンセンは《怒りの天使アクローマ/Akroma, Angel of Wrath》を手札に何枚も抱えたまま、相手の天使の前に沈んでいった。
観客の中にいたマジック開発部の面々はうなり声をあげた。
「レジェンド・ルール」は新しいクリーチャー・タイプ――レジェンドをサポートするために、マジックのかなり初期の段階で生み出されたルールだが、こいつは長いこと開発部の悩みの種だった。そのルールは、イメージ的な側面からはかなりうまくいっている――すでに戦場にいるレジェンドを召喚しようとしても、その呪文は失敗する――のだけれど、イメージではルールほどバスを先に走らせられない。レジェンドが強すぎた上に出すのが簡単すぎる場合、ゲームはしばしばどちらがそれを先に出すかの競争になってしまう。この問題は、メルカディアン・マスクスブロック構築の《果敢な勇士リン・シヴィー/Lin Sivvi, Defiant Hero》ですでに鎌首をもたげていて、最終的にこのカードはブロック構築では禁止になってしまう。我々はそれ以降、軽くて強力なレジェンドを作るのをやめたが、それで問題が無くなったわけではない。実際にプロツアーは、一方が8マナの天使を出して、相手の手札にある同じカードをがんじがらめにしたことで決まったんだ。
解法
その日のこと、イベントが終わった後で、マジックのデザイナーでありプロツアーの顔役のマーク・ローズウォーターは何人かのプレイヤーを連れて、「レジェンド・ルール」とその問題点、特にトーナメントにおける問題について議論しあった。ジャスティン・ゲイリーとズヴィ・モショウィッツはアイデアや有効そうな修正をいくつか出していったが、ローズウォーターはそれら全部にダメ出しをしていった。しかし、ズヴィは金鉱を掘り当てたのさ。
「2枚目のレジェンドが出たら、両方が墓地に置かれるようにしたら?」と彼は尋ねた。
「ほぉ……そいつはすばらしいね。」とローズウォーターは言った。
別な邪魔者
話をさらに、オンスロートの開発までさかのぼろう。そのセットには、《映像の造形者/Imagecrafter》など数多くのクリーチャー・タイプを変更するカードが入っていた。しかし、ほんのいくつかのタイプ――名指しするならレジェンドと壁なんだが――にはルールがくっついているため、我々はそのカードに、プレイヤーがそれらのタイプを選べないようにするためのおまけを付けなくちゃいけなくなった。そのため《映像の造形者》は、「{T}:クリーチャー1体を対象とする。クリーチャー・タイプを1つ選ぶ。ターン終了時まで、そのクリーチャーのクリーチャー・タイプは選ばれたタイプになる。」となる代わりに「{T}:クリーチャー1体を対象とする。レジェンドでも壁でもないクリーチャー・タイプを1つ選ぶ。ターン終了時まで、そのクリーチャーのクリーチャー・タイプは選ばれたタイプになる。」となったんだ。この制限はカードに何回も出てきて本当にうっとうしかった。そんな余計な文章は、この「ルール上の障害」のついているクリーチャー・タイプがあるべきなのかどうかという議論に発展した。
開けたブースターパックから出てきたのがレジェンドだった場合、それが1体しか場に出られないって言うことはすぐにはわからないし、クリーチャー・タイプだけではそのカードが他とどう違うのかわからないだろう。壁も同じだ……第4版の頃、多くのプレイヤーは《人喰い植物/Carnivorous Plant》で攻撃を行っていた。その巨大なクリーチャーが攻撃できないということは直感的ではなかったからだ。我々は壁の問題(の一部)を注釈文をつけることで修正したが、ルールの関係してくるタイプという問題は残ったままだったし、レジェンドもそのままだった。
さらに言えば、“レジェンド”はクリーチャー・タイプだが“伝説の”――“伝説の土地”や“伝説のアーティファクト”などの――は特殊タイプだ。この奇妙さはレジェンド時代から引き継がれてきたもので、現在のシステムでサブタイプや特殊タイプを扱う際に、統合性をもてていない状況だった。
すべき時
話をちょっと先に進めて、神河物語のデザインに移ろう。セットがまとまってくるにつれ、このセットの中の大部分をレジェンドが占めることが明らかになってきた。そして、さらに明らかになってきたのが、我々は強くて、攻撃的で軽いレジェンドが本当に真剣に必要だったが、「レジェンド・ルール」の存在がそれを骨抜きにしていた。
そこに助けに現れたのがズヴィだった!
我々は絶対的に必要なとき以外、ルールを変更するのは好きではないが、今回はあまりにもパスするにはタイミングが良すぎた。「レジェンド・ルール」をちょっといじるだけで、我々はサブタイプ/特殊タイプの問題を修正し、“隠れたルール付きクリーチャー・タイプ”の問題を修正し、より強いカードを作ることができるようになるのだ。で、そうしたわけだ。変更点は以下の通り。
1. クリーチャー・タイプの“レジェンド”は今後は存在しない。代わりに、クリーチャーは他のパーマネントのタイプと同様に、特殊タイプ「伝説の/Legendary」を持つ。これまでクリーチャー・タイプに「レジェンド/Legend」が含まれていたクリーチャーは、代わりに「伝説の/Legendary」の特殊タイプを持つ。今後は、クリーチャーのタイプを変更してレジェンドにすることはできない。
こうすればレジェンドのクリーチャーと伝説のアーティファクトや土地がうまい具合にまとまるし、クリーチャー・タイプやタイプ変更効果に「レジェンドは除く」とか書かなくて済むようになる。
2. レジェンド・ルールは変更される。新しいルールは以下の通り。
420.5e 2つ以上の同名のパーマネントが「伝説の」の特殊タイプを持っている場合、それらすべてをそれぞれのオーナーの墓地に置く。これは「レジェンド・ルール」と呼ばれる。伝説のパーマネントが1つだけの場合、このルールは適用されない。
これは大きな機能的な変更だけど、それは我々に多くのものをもたらしてくれる。ゲームではプレイヤーが“死にカード”を引くことを無くしてくれる。相手の場にいるレジェンドと同じカードを引いてきたら、それが何もせずに手札で腐る代わりに、いい効果を狙ってプレイすることが可能なのだ。
しかし、今回の変更で私が一番気に入っているのは、これにより多くのデザイン上の“開かずの間”が開かれることで、その結果我々はさらに多くの軽くて強力なレジェンドを作ることができるようになるだろう。その証拠がこれだ。

我々は確かに強いレジェンドを作ったし、それらはデッキに入るようになった。いいかい、新しいセットには多くの強力な伝説のクリーチャーが登場するよ。そいつはまるで《悪辣な精霊シルヴォス/Silvos, Rogue Elemental》のクラスの同窓会並みさ!
最強の防御は……
すべてのクリーチャー・から隠れたルール上の問題を取り除くため、我々はレジェンドの他にもやるべきことがある。クリーチャー・タイプ“壁”は、今後はルール上の意味を持たない。代わりに、すべての現存の壁はキーワードを持つように訂正が出る。
クリーチャー・タイプ「壁/Wall」に関するルールは変更される。クリーチャー・タイプ「壁」は今後も存在するが、それは今後はルール的意味を持たない。代わりに、クリーチャー・タイプ「壁」を持つすべてのカードは、今後は「防衛」能力を持つ。
《鋼の壁/Steel Wall》 (ミラディンのカードの最新オラクル表記)
{1}
アーティファクト・クリーチャー ― 壁
0/4
防衛 (このクリーチャーは攻撃に参加できない。)なお、神河物語には防衛能力を持つクリーチャーはいない。このルールの変更は、特定のクリーチャー・タイプに固有のルールをまとめて取り除く目的で行われている。
こうなるとは思わなかっただろう!
昔からのプレイヤーはこの変更に少々うろたえたかもしれない。何にせよ、壁やレジェンドのクリーチャー・タイプの奇妙さは、ちょっと可愛げのあるものだったし。しかし、我々は常に未来に目を向けなければならず、カードにかかれない秘密を抱えているようのクリーチャー・タイプは、どこをどう切ってもいい物にはならない。今や、壁は自身の能力を持ったし、レジェンドも少なくとも特殊タイプを持つことで、プレイヤーに通常のクリーチャーとは異なるということを思い出させるだろう。
色々細々
今回のルールの変更で起こる様々な細かいことに興味がおありなら、以下はお気に召すことだろう。
-
- 《ローリング・ストーンズ/Rolling Stones》は「すべての壁は防衛を失う。」となる。
- 《映像の造形者》や《不自然な淘汰/Unnatural Selection》、その他のタイプ変更カードは、今後は「クリーチャー・タイプを1つ選ぶ」となり、何も余分はつかない。“壁”を選んでもかまわないが、そのクリーチャーは防衛能力を得るわけではなく、単に壁になるだけである。そして《不自然な淘汰》は、今後は重複したクリーチャーを両方ともレジェンドにすることで殺すことはできなくなる。《映像の造形者》+《太陽の網/Sunweb》デッキよ、安らかに。
- 新しい「レジェンド・ルール」は、これまでのものと同様に状況起因効果である。したがって、そちらが《トレイリアのアカデミー/Tolarian Academy》を出している状態で私が自分のを出した場合、それらが墓地に置かれる前にタップしてマナを出すタイミングは無い。この問題は伝説の土地にのみ影響がある。土地をプレイすることはスタックを使わないからである。
新しいルールは今までと違っているし、最初は少々気持ち悪いかもしれない。しかし、我々はこれが皆さんのプレイ状況を良くすることには自信があるし、同時に我々も面白いカードを作れるようになった。
この変更を、特にインターネットに無関係のプレイヤーに広めるには少々の努力を要しそうだ。我々はこの新しいルールを神河物語の新しいボックスやデッキに入れたが、我々にはあなたの助けが必要だ。君の周りに君ほど最新情報に通じていないプレイヤーがいる場合、変更を教えてあげて欲しい。信じないようなら、このコラムを見せてあげてもいいから!
先週の投票結果
新しい“タイプ1.5”の第一印象は? | ||
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関係ない | 4142 | 40.8% |
気に入った | 2961 | 29.2% |
最高 | 1935 | 19.1% |
最悪 | 657 | 6.5% |
気に入らない | 445 | 4.4% |
合計 | 10140 | 100.0% |