死地の中での死力

更新日 Latest Developments on 2012年 3月 9日

By Zac Hill

Zac is a former game designer/developer for Wizards of the Coast and was the lead developer for Dragon's Maze. His articles have appeared in The Huffington Post, The Believer, and on StarCityGames.com. Currently he serves as the chief operating officer of The Future Project, a nonprofit education initiative, and holds a position as a research affiliate in the MIT Game Lab.

 運命の週(の終わり)へようこそ!

 私が「運命」という言葉について考える時はいつも、ワトーの「運命に任せようじゃないか?」と言う声が(どうしても)頭の中から振り払えない。

 君たちには解らないかもしれないけれど。

 我々の尊敬すべきコンテンツマネージャーが「窮地の週」ではなく「運命の週」という言葉を選んだのは、ライターたちがテーマに沿った記事を書く道を見出しやすいように、ということだと私は言われた。私が「プシューーーーーー」と音を立てやすいように。今回は窮地のメカニズムについて話をしたい。加えてそれを創り出した、才能溢れるハンサムなデザイナー兼デベロッパーのことを......

Iこの私、ザック・ヒルのことをね!

 うんうん。実はこのメカニズムは私が考えたのだ。

おおよその変遷が明らかに!

 闇の隆盛のデザイン初期のころだ。我々は怪物側が勝利しつつあることを知っている。事実、怪物たちは人間の顔という顔を殴りつけている。事実、怪物たちは結果的にイニストラード全土に蔓延っている。やつらは街を包囲し野山を荒らし農民を焼き、その力をもって、気味の悪い軟らかな皮に包まれ丸々と太ったいやな肉の袋をつらい目に合わせるべく、あらゆることをやった。それでも、私たち人間は勇者揃いで、血を啜る不死の軍勢に私たちの強い決意をくじかせるつもりはない。私たちには守るべき子供たちがいるんだ、ちくしょう! 悪魔どもに私たちの立派な三角帽を汚させるわけにはいかない!

 言うなれば、この物語には話すべきもう一つの側面があったということだ。私たちは、イニストラードの人間たちが苦境に立たされている、という事実を伝えなければならなかった。彼らの運命は定かでない、ということを教えなければならなかった。私たちは、言葉で、示さなければならなかった。彼らは死力を尽くしていた、ということを。

信仰の盾》 アート: Svetlin Velinov

 そういうわけで、闇の隆盛のデザイン・リーダーであるマーク・ローズウォーターは、デザイン・チームに死力を尽くす感じを十分に伝えるようなメカニズムの提出を求めた。

 そこで私が最初に投げたのが、(一番初めは)「死力」と呼んでいたメカニズムだ。

「死力――あなたのライフが5点以下の間、[カード名]は[X]を得る」

 見覚えがないかな?

 私の考えでは、マジックにおいて死力を尽くしている状態とは、死が間近にせまっているということを意味する。マジックにはそれをはっきりと見ることができ、はっきりと理解できるものがある。ライフ総量だ。以前にも「5ライフ」を境に能力が起動するカードがあった――《病みあがりの介護》や、《セカンド・チャンス》など――ので、私は内心、そのころを掘り起こすことも可能であろうと思っていた。同時に、私はもう少しだけ深いところにある何かも感じとった。考えてみてくれ、人間というものは戦わずして屈服するということはそうない。私たちは状況を好転させたいのだ。多くの場合、逆境は人の最高の力を引き出す。そういうわけで、私は本質的な意味で人間の魂を――いざという時のためにいつでも余裕を残すという、奇妙ではかない心理的な部分を――見せるようなメカニズムを作りたかった。

 デザイン・チームはこの最初のアイデアを気に入ってくれて、試してみようということになった。それから私たちはいくつかのカードをデザインし、ファイルに綴じた。見ての通り、それは完成までの道のりを全て通過した。

 もちろん、その旅路は完全に平坦なものではなかったのだけれど......

死力の欠如

 当初から、死力ははっきりと「人間」の(すなわち、まず白の、続いて緑の)カラーパイのメカニズムのひとつだった。ファイルには次のようなカードの束があった。


クリーチャー――人間・兵士
2/1
死力――あなたのライフが5点以下の間、[カード名]は+1/+1の修整を受ける。

インスタント
クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで+2/+2の修整を受ける。
死力――あなたのライフが5点以下の間、[カード名]はさらに+2/+2の修整を受ける。

これらのカードはすっきりとしていて、なおかついろんな要素をしっかり詰め込んでいる。だがしかし、そこには2つの大きな問題があることが判明した。

まず、そしてこれが非常に重大なもので、大抵の場合自分のライフを直接コントロールできない、というものだ。もちろん、ライフが5まで落ちるように戦闘でのブロックを管理することはできるし、あるいは《焼身の魂喰い》のようなカードをプレイして瞬く間に低いライフにすることができる。しかしほとんどの場合、それらが「機能する」内に対戦相手はあなたの顔を殴り続ける。その結果、死力のメカニズムはほとんどの時間の間何もしないにも関わらずいくらかの言葉をカードに書くことになる。そのうえ、それは全く魅力がない。「いやもう、尻を蹴飛ばされた時にだけ役に立つカードが詰まったパックを開けたくてたまらないんだ」という人などいない。私たちは、君たちがある種の戦略を追求したりある種のデッキを組んだりできるようなメカニズムをデザインしたい。これらのカードの先行きは、あまりに不確かだった。

ガヴォニーの鉄大工》 アート: Karl Kopinski

 もうひとつの大きな問題は、「死力」が発動した時には手遅れだ、ことだった。これは2つの初歩的な要素に原因がある。ひとつは、君たちが(一つだけ例を挙げるなら)先ほど見せた「死力付き巨大化」を使って勝利する瞬間、対戦相手は死力持ちカードを意識し始めることだ。たとえゲームの何割かでライフが自然に5以下になるとしても、その数字はプレイヤーがセットの新しいカードに考えを巡らせ始めるにつれて、じわじわと落ちていくだろう。もうひとつは、単にその効果の大部分がその敗勢をひっくり返すほど劇的なものではなかったということだ。残りライフが3の時、《クロヴの悪漢》が《男爵領の吸血鬼》になったところで、ゲーム全体がひっくり返ることはないだろう。「よし!!!!!111 ついにやったぞ!!111いちいちいち」とかにはならない。

ビッグになるか田舎に帰るか

 幸運なことに、これら二つの問題は同時に、問題の解決に役立つものだった。

 私は、マジックとはストーリーに即したものであるべきだ、という考え方に大いに賛同する人間だ。私は、無作為化したデッキから3枚を取って見せる思案のようなカードによって予想されるカードの有用性を巧みに計算されて負けるよりは、何かものすごくパワフルなことをされて負ける方が楽しい、と思う。《思考掃き》を対象にした《瞬唱の魔道士》を唱えることによって得る勝利より、巨大なドラゴンを使って勝った方が楽しい、と思う。しかし、その後者が前者を排除すべきだ、とは言わない――言うまでもなく、最新のふたつのセットで《瞬唱の魔道士》と《思考掃き》を作ったのは私たちだし、これらの能力にもマジックにおける居場所があることを信じている。しかし概して言うなら、私はできる限りストーリーに力を入れたカードやメカニズムを作りたいと思っている。

 1体のクリーチャーに+1/+1の修整を与えるのはストーリー的でない。8体のクリーチャー各々に+2/+2の修整を与えるのはストーリー的だ。1体のクリーチャーを戦闘中はパワーが二倍になるように増強するのはストーリー的でない。君たちの軍勢が突然破壊されなくなって、敵の軍勢が総崩れになるのはストーリー的だ。

村の生き残り》 アート: David Rapoza

 先述した問題に対して、私は何をしなければならないのか?

 デベロップが決定したことは、セットに収録される死力カードの量を劇的に減らし、そのゲームに与える効果を劇的に向上することだった。ごくわずかなアドバンテージを捻出するよりも、できるだけ多くのカードを苦戦しているゲームに活路を取り戻せるものにしたかったのだ。単体のクリーチャーに効果を与えるのではなく、君たちの軍勢全員を強化することにより、対戦相手の軍勢をくじき、また決定的な反撃ができるようになるだろう。

 これは多くの問題を解決してくれた。死力カードの量を何度も減らすにつれて、このメカニズムについて絶えず考える必要性が薄れた。このことはまた、いままでよりずっと死力の効果を「発動」しやすくなるのを可能にした。なるほど確かに、それでも死力の発動は稀なことだが――発動すれば、普通は思い出す。そして効果の程度が向上し、君たちは別の方法で勝利するよりもずっと多くのゲームに勝っていることに気がついた。君たちは世界が変わったことを痛烈に感じた。なんといっても、5体という量は、2体より遥かに多い人間・兵士トークンなのだから。

 効果の向上はまた、「もう負けだ負け!」という問題もいくつかの軸から解決してくれた。依然として、君たちが意のままにライフを5ちょうどまで減らすことはできないが、新たな死力カードたちは、君たちがライフを5まで減らすようなゲームの状態を作るのに、古いものよりもずっと応えてくれた。このことは君たちにずっと多くの「クレバー」なブロック処理の機会や、さらに劣勢から戻ってくる機会をくれる。事実――《スレイベンの破滅預言者》や《町民の結集》、《信仰の盾》のようないくつかのカードには――そこらへんにライフを投げ捨てる方法を捜し始めるほどの価値があるに違いなかっただろう。

 最終的に、この変更はこれらのカードが見た目以上にクールであることを読み取らせやすくした。君たちはこれらのカードを使ってゲームをするまでもなく、そのうちのひとつによって対戦相手を完膚なきまでに打ち倒すシナリオを、頭の中に描くことができるだろう。それは実際に起動することができるようになったとき、より強く感じるようになる。そしてそれは――すべてを結びつければ――ストーリーを紡ぐのだ。

需要を満たす

 窮地について本当にたくさん受けた質問は、なぜライフ5点なのか? というものだ。

 私たちは5から取りかかったが、他の数字も試した。ライフ1点に憧れを抱く私もいたが――我が道を進め!――その座を最も本格的に争ったのは7点と3点だと思う。

 一見、7点はちょうど良いように見える。ライフ総量の(およそ)3分の1ということで、5点よりも遥かにその恩恵を受けることになるだろう。しかも、単体の攻撃で7点ものライフを削るのは非常に難しいので、窮地を「機能させる」リスクが現在の形よりも小さいだろう。

しがみつく霧》 アート: Anthony Francisco

 しかし、結果的に、まさにその特性が問題であると判明した。5と7の間には大きな違いがあり、すなわち君たちのライフが7の場合、大抵は対戦相手の心臓を狙いまっすぐに殴り返すことができる、ということがわかったのだ。これは私たちがカードに与えてよい効果がそのスイッチを入れる難易度と完全に比例することはない、ということを意味した。

 多くの点で、ライフ3点の方にはちょうど正反対の問題があった。その身を《夜の衝突》や《火葬》の圏内に置くリスクに見合うだけの効果を生み出すのは難しすぎる。私たちはどのように変えればおもしろいものにたどり着くか、ということについて大いに話し合ったが、しかしどうしようもない限界がある。危険と隣り合わせに生きるということを突き詰めると、ご存知の通り、「サメと共に泳ぐ」ということになる――ただし君たちは酸素のある檻の中にいて、よく訓練された人たちが周りにいる中で。それはクールで刺激的で、結局のところ無害なものだ。みんなスカイダイビングみたいなことをしている。でも私が言いたいのは、イーベル・クニーヴェルのように、普通の人ならイライラするか狂気に陥るような危険と隣り合わせに生きることを本当に臨む人もいるということだ。私たちにできることは、落ちるリスクが十分に小さいような崖っぷちにいられるようにするだけだ。ライフが3点では、突然どこからともなく死が訪れるという代償に見合うだけの効果を生み出すのは本当に難しすぎたのだ。

 ゆえに窮地のライフは5点になるのが、まさに運命だったと言えよう。

(Translated by Tetsuya Yabuki / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru)

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