今週からはDailyMTG.comのプレビュー・ウィークであり、そしてそれは『神々の軍勢』の新しいカードのための時間です! このカードを理解するのに多くの背景は必要ないはずなので、前置きは抜きにして〈宿命的心酔/Fated Infatuation〉をご覧ください。
D(jk2m2389/rTGdLiukac_JP.jpg)
ギリシャ神話に詳しい人なら、このカードの発想の元となったナルキッソスの神話にとてもよく似たイラストが描かれていることに気づくかも知れません。しかしながら元ネタとなった本来の神話では、水面に写ったナルキッソスの姿は彼に挨拶するために湖から出てきたりはしません。『テーロス』ブロックのクリエイティブ・チームの一部はよく知られているギリシャ神話をマジックのカードにそのまま当てはめはしませんでしたが、それらからインスピレーションを得てマジック世界に取り入れました。
「クローン作成」は『アルファ版』にも2枚存在するとても芳醇で興味深いメカニズムです。ファンタジー的な表現からすれば、「自分にそっくりなもの」やシェイプシフターが他のクリーチャーに変化するボディ・スナッチャーのようなアイデアは実に分かりやすいものです。もちろん、実際にそれを機能させるのは人々が考えているほど簡単ではありませんでした――最初のバージョンの《クローン》や《Vesuvan Doppelganger》を見てみましょう。
プレイヤーはこのカードを好きでしたが、我々は《クローン》たちを長年収録しませんでした。それはこれらが強すぎるから? …ではありません。それはこれらが数年間上手く機能しなかったからです。「マジック・オンライン」以前のことですが、ご存知のように時折我々がルールを整理するといくつかのカードが実際に機能しないことがありました。もしくは機能するようなことが書いてあるが実際には機能しないカードが存在しました。しかしながらプレイヤーは大抵《クローン》、《Camouflage》、《Illusionary Mask》のようなカードの動きを適当にごまかせたので何とかなっていたわけです。カードをコード化する必要があるオンライン・ゲームの場合、動きを厳密に説明するのはとても困難になります。最終的に我々はルールを調整し、《クローン》は再び「存在」できるようになりました。
- サイクルを作る
他のプレビューを見てお気づきになったかも知れませんが、このカードは自分のターンに唱えると占術2ができるインスタントのサイクルの1枚です。これまでに、〈宿命的介入/Fated Intervention〉と〈宿命的火災/Fated Conflagration〉をあなたは見ていることでしょう。まだ見ていないのであれば、カードギャラリーに行ってチェックしてください。こいつらはかなりクールですよ!
『アルファ版』を見返してみると――そこはサイクルに満ちています。モックス、ラッキーチャーム、色対策など色々ありますが、このゲームについての長期的な考えの中で、恐らくあらゆる意味で最も重要なものは「1マナ3」サイクルでした。これらは1マナのコストでその色にまつわる「3」を提供してくれる呪文です。白はライフ(もしくはダメージ軽減)、青はドロー、黒はマナを生み出し、赤はダメージを与え、そして緑はクリーチャーを大きくします。これらはこのセットの中で最もバランスが取れたカードではありませんが、異なる色が異なることを行うというアイデアがどれだけ重要であるかを示す助けとナリました。我々はそのこつを掴んでそれらカラー・パイの問題を調整するのにかなりの時間がかかりましたが、私はサイクルのカード間のパワーレベルを同じにすることについては今ではかなりいい感じのバランスが取れていると思っています。

そもそも我々がサイクルを作る理由は、マジックが本質的に5つの色の動きがどれだけ異なるか、そしてどれだけ同じであるかをとても意識しているからです。それを表す最も手っ取り早い方法の1つは、カード用に基本的なテンプレートを1つ取り上げて、それぞれの色が異なる方法でどのようにそのテンプレートを満たすかを見せることです。そういったサイクルはデザインからではなくデベロップから出されることが何度もありました。デザインはクールなカードを作るために多くの個性的なアイデアを出し、そしてデベロップはそれを見た目とプレイが最も良い状態にし、その後セットに欠けているものを考え出します。時には、我々は1つのクールなカードと他の4色のバージョンを作ります。他の場合ではこれと同じように、『神々の軍勢』にはプレイヤーが主なメカニズムを行っていなくても楽しめる、周囲から独立したレアのサイクル――『ローウィン』の命令サイクルのような――が必要だとリード・デベロッパーのトム・ラピル/Tom Lapilleが判断したものです。
またサイクルにはデザイン空間を浪費せずにエキサイティングで多種多様なカードを作り出すという重要な役割があります。デザインとデベロップに課せられている最大の制約の1つはこのゲームが出来てから20周年を迎えたということであり、さらに我々が望んでいるのは今後も20年生き残っていくことなので、従って新たな世代のデザイナーとデベロッパーにデザイン空間を残しておくことが鍵となります。「いつでも唱えられるが、自分のターンに唱えるとボーナスを得られる」という基本的なアイデアを取り上げた5つの異なるカードをこのセットに入れることは、このセットに一種の結合力のようなものを作ることと、他のいくつかのアイデアを将来それが必要になるまで温存することの助けになります。
このサイクルの狙いはプレイヤーにそれらのカードを唱えるべきタイミングについての興味深い選択を与えることでしたが、プレイヤーに選択肢を与えたとしても、それらが実際に選択肢にならないと興味深いものにはなりません。このサイクルでは、それは最適なタイミングで唱えれば「占術2」よりも価値があるような効果を見つけるということでした。我々が取った手段の1つは、カードを唱える適切な瞬間を見つけることと、占術をすることの間で葛藤を作る助けになるよう、そのカードの効果を一般的に相手のターンに唱えた方が強くなるようにしました。例えば〈宿命的介入/Fated Intervention〉は対戦相手のプレインズウォーカーがまだ死なないと思っているときに圧力をかける場合や、全体除去を打たれたあとの立て直し、あるいは単にブロッカーとして出すときでもインスタント速度のほうが明らかに優れています。あなたが自分のターンにこれを唱える場合、それは占術2をこれらのクリーチャーをインスタント速度で出すことよりも評価しているということです。
D(jk2m2389/0CnlV2GC9j_JP.jpg)
〈宿命的心酔/Fated Infatuation〉の場合、急に出てくるブロッカーの価値はそのオリジナルのクリーチャーを対応して殺せるという事実によって弱まります。対戦相手のターンにマナを残しておくことは、あなたが打ち消し呪文を持っているか、もしくはブラフをかましたければさらに意味が出てきます。しかしそれは占術2を失う価値があるのでしょうか? 対戦相手がタップアウトしているときにこの呪文を唱えるのが正しい選択になる場合もあれば、冒すリスクがアドバンテージに見合う場合もあるでしょう。この葛藤は興味深いゲームの状況を作り出し、我々はテストの時にそれがとても楽しいものだということが分かりました。
- 居場所を見つける
さて、〈宿命的心酔/Fated Infatuation〉は《クローン》の亜種です。これは大きなサイクルの一部ですが、単体ではどんな動きをするでしょうか? を出すことは多色環境では難しいかもしれませんが、もしできるならそれに見合ったものが得られます。そしてまず第一に、これが上手く入りそうな、かなり人気のあるスタンダードのデッキがあります――《波使い》とこれはどちらも青であり、これをコピーした場合とても素晴らしい動きをします。これはインスタント速度の部分が恩恵として働く部分です――《至高の評決》に対して直接プレイできないことを考慮に入れても、前のターンにはかなり安全に見えた盤面に突然致命的な脅威を出すことができます。さらに、《波使い》を対象とした除去呪文(や、《世界を喰らう者、ポルクラノス》の能力)に対応してコピーを作り、オリジナルの生み出したトークンを全て守ることができます。
このカードの使い勝手の良さはこれだけに止まりません。 FFLのプレイテスト時、ある対戦で2ターン目に《前兆語り》を唱え、続いて3ターン目に〈宿命的心酔〉をプレイして合計占術6を行い、その対戦で重要なカードに向かって掘って掘って掘りまくったり、単に必要な土地が手に入るようにします。 対戦相手のクリーチャーが襲ってくる? あなたは恐らくこれを追加の《潮縛りの魔道士》として使えるでしょう。《凍結燃焼の奇魔》のコピーとしてこのカードを使い、《海の神、タッサ》を顕現させてレッドゾーンに送り込んだり、突如ブロッカーとして使うこともできます。
ちょっとしたサンプルとして、以下にベン・ヘイズ/Ben Hayesが去年の4月に組んだFFLのデッキをご紹介します。
〈宿命的心酔/Fated Infatuation〉が全ての青単デッキに合うかどうかは分かりませんが、あなたがその道を選べばとても強力になります。〈宿命的心酔/Fated Infatuation〉はこのデッキをより除去に弱くする恐れがあり、はるかに強力で爆発的な動きを提供していくつかの組み合わせの相性を改善しますが、他には弱くなります。我々にとって、このようなメタゲーム次第でデッキに入ったり抜けたりするカードがあることは実際にとても興味深いことです。我々はFFLで多くのデッキを作りますが、デベロップ中はカードが常に変化し続けるので、それらのデッキの多くは現実世界に現れることはありません。プロツアー『テーロス』で実際に勝利したデッキに我々がどれだけ近づけたかを考えれば、私はあなたがこれによく似たデッキを地元のゲーム・ショップで見かけるだろうと信じています。
ではまた次回お会いしましょう。
サム( @samstod )より
(Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru)