「世界選手権2013」編・その1

更新日 Making Magic on 2013年 9月 11日

By 中村 修平

 お久しぶり。あるいは初めまして。
 まずは自己紹介ということにしましょう、
 私の名前は中村修平、一応マジック:ザ・ギャザリングのプロプレイヤーです。

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2013年世界選手権にて

 現在はプレミアイベント――年に4回開催される高額賞金大会であるプロツアーと、同じく年に40回ほどのペースで世界各地で開催されるグランプリ――、それ以外にも幾つかの賞金大会や、マジック関連で発生する諸々で生きています。
 と、ここまではテンプレート的な回答ですね。

 もうちょっと突っ込んだ自己紹介をすると、
 残念ながら皆さんが考えるようなプロ云々といったものとは違って、もっとこじんまりとした生業をマジックというカードゲームでしています。
 このゲームでは、プロとは言っても残念ながら世に華々しく活躍しているメジャースポーツに比べると極々慎ましいもの。
『プロ』と名乗れるクラスのプレイヤーは全世界に60人ほどはいるのですが、一番上でもせいぜい数百万円単位。賞金だけで食えるほどたくさんもらえるわけではないので、別に本業を持っている人がほとんどです。
 賞金が億単位にもなるポーカーや、隆盛しているオンラインゲームの高額賞金大会を見ていると毎度のことながら羨ましく…、失礼、脱線しました。

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 話を戻すと私はその中でもちょっと、いや、大分変わり種。

 前述のプレミアイベントで一定の成績を収めるとプロポイントというものがもらえて、年度末にそのポイント数が一定以上に到達していると、上から「プラチナ」「ゴールド」「シルバー」プロという等級と、それに応じたボーナスがもらえる仕組みとなっています。

 先ほどの60人という数字も、実はプラチナとゴールド、そしてゴールドと同待遇で実際にプロツアーに参加しているプレイヤーを合わせた人数。

 シルバーを除外しているのは、このレベルでは最高峰の大会であるプロツアーへの予選免除が年1回しか与えられず、残りの3大会は自力で予選会から勝ち上がらなくてはならないためです。

 一方でゴールドは4大会全てが予選免除、かつプロツアーに出るだけで500米ドルの支給が付きます。

 そしてプラチナはというと、プロツアーに同じ『出る』という表現では語弊があるくらいの格差。所在地から開催地までの往復航空券に加え大会中はホテル支給、さらに出るだけで3000ドルの支給付き!

 この他にも色々なボーナスが付くのですが、1つレベルが違うと完全に別天地。

 ルイス・スコット=バルガス(通称LSV)というアメリカのプラチナプロいわく、

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 まさにその通り。プラチナレベルのみが、賞金にプラスされる各種報酬でどうにかマジックで食っていけるくらいのお金をもらえるのです。

 そのプラチナレベルを、如何に効率よく獲得し維持し続けるか。
 それを考えた結果、世界中で開催されるグランプリを出来るだけ参加しよう。
 ついでに、ただマジックをするだけはもったいないから、見てみたいところや行ってみたいところに足を運んでみよう。

 と、いうのがつい先日までの私のライフスタイルでした。

『でした。』
 残念ながら今シーズン、5月中旬からシステムが変更されてしまったのです。
 詳しくは2013年の第8回を見ていただくとして、試しに直近3シーズンでどのように私の獲得プロポイントが変動するか見てみましょう。

2012-13シーズン 2011-12シーズン 2010-11シーズン
当時の獲得プロポイント54点51点54点
今年の基準だと…45点46点38点

※プラチナ・レベルの資格は45点以上(今年の基準の場合)


 はい、軒並み大幅ダウン。
 それでも2012-13シーズンなどはプラチナを確保しているように見えますが、この中には世界上位16人でのスペシャルイベント、マジック・プレイヤー選手権での7点の下駄を入れてのこと。
 つまりここ3年で、まともにプラチナを確保できているのは1年しかないのです。

 ちなみにこの生活をしていてのプラチナレベルというのは最低ライン。
 正直言って最後の16人トーナメントまで換算に入れないとそもそも釣り合わないというのにこの惨状。
 本当にシャレになっていません。冗談などではなく廃業の危機というやつです。

 それでです。今年の方針をどうするのか、
 このままグランプリ行を続けるのか、グランプリ行を辞めるのか、どこかに頭を下げるのか、頭を下げるのか、下げるのか…

 と、色々と悩みましたが、

『とりあえずやれるだけやってみよう。』

 はい、完全に棚上げしてますね。
 まあ、せっかく去年頑張って維持したプラチナレベル。
 いきなり凄いハードルを上げられてしまったにしても、初めから諦めるほど往生際が良くはありません。
 せいぜい足掻いてみて、無理だった時は素直に終了するだけか、とここまで考えたところで、

 なんだ、程度は違えど毎年考えていたことと大して変わってないな、と開き直ってしまった次第なのであります。

 それに合わせて連載形式も変わります。
 これまでのように毎週グランプリに出続けるということはなくなりそうなので隔週連載という形ではなく不定期連載に。
 そうですね、だいたいで言うと月に1回や2ヶ月に1回といった間隔になりそうです。

 そんな感じで、連載再開第1回目となるのは今シーズン最初となるプレミアイベント、同時に前シーズンの最後の遺産でもある世界選手権について。
 正真正銘、これが最後に残った去年度分の貯金。
 前シーズンの終了前に予定を組んでいた最後の大会群でもあり、今となっては本当に貴重な、去年の上位16人だけに許された10個目のプロポイント加算大会となります。
 目標としては賞金が格段に違うラインの8位以内、ついでにシーズン計画的に前後にあるグランプリで1度くらいは、5回のキャップ内にカウントできる16位以内に入っておきたいところですね。

 それではちょっとヨーロッパまで行ってみましょうか。

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まずはイタリア

 世界選手権の開催地はオランダはアムステルダムですが、まず向かう先はイタリア、ボローニャ。
 世界選手権開催の前後週でヨーロッパにグランプリがあるのにこれはさすがに行かないわけはないだろうと、当時の私は一も二もなく飛びついた結果、取った航空券は

  • 成田〜フランクフルト〜ボローニャ
  • ボローニャ〜ミュンヘン〜アムステルダム
  • アムステルダム〜フランクフルト〜プラハ
  • ワルシャワ〜フランクフルト〜大阪

 というもの。

 さすがに世界選手権参加者ともなると、プロツアーでのプラチナレベルと同様に航空券が支給されます。
 ホテルもプラチナレベルと同じく開催期間中の支給アリ。
 本来なら前日の火曜日から翌週月曜日までなのですが、お願いしたらタダで前々日から部屋をもらえました。
 そしてウィザーズから支給される航空券は、本来は居住地から開催地までの往復のみなのですが、通常の110%を超えない範囲くらいまでならある程度のコーディネートは許される、という規定を使ってのあれやこれやで、気がつけばこんな複雑な旅程になりました。

 なぜこんなにドイツを経由するかというと、ドイツのルフトハンザ航空を使ったから、
 なぜプラハに行くかというのは、まあいつものあのチェコ人がいるから、プラハからワルシャワ行きの便が欠けているのは予算がオーバーしてしまったからといったところ。
 まあプラハ〜ワルシャワに関しては別途で航空券を取れたので問題はありません。
 片道だと3万円なのに、何故か往復だと1万8千円という航空業界の謎仕様を垣間見てしまいましたが。

 直前で遊びすぎて熱を出した渡辺雄也を回収して、名残惜しくも日本を出発。
 さらば、日本。
 日本式カレーを食べるのも次は早くて3週間後。

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 そしてこんにちはイタリア。
 途中、ドイツの空港で2、3の飛行機の乗客全てがゲート内に閉じ込められるというアクシデントこそありましたが、あとは順調そのもの。
 アメリカでは根掘り葉掘り色々聞かれる入管もヨーロッパではフリーパスのようなものですし、荷物も無事に届きました。
 そこからあらかじめ調べておいたバスに乗って、ボローニャ中央駅近くのホテルで1泊します。

 ついでにふらっと市内観光。

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 ヨーロッパのこの季節は、午後9時を過ぎてもまだ明るいのが素晴らしい。
 もっとも、文化施設は午後5時くらいまでには閉まってしまうので注意が必要です。
 とは言っても今回はそんな時間を取れなかったので問題はなく。見て回るだけ。

 根本的に曲がってしまっている塔をパシャパシャしたり、

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 イタリアの大都市にお約束の大聖堂、ドゥーモを発見してパシャパシャしたり、

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 ふらふらっと迷いこんだ路地裏で20ユーロでコースが食べられると書いてあるっぽいので入ってみたり。

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 説明を聞いてもさっぱりでしたが、とりあえずボローニャ来たんだからとボロネーゼが食べられそうというのが決定打。
 蕎麦も好きですがパスタも嫌いじゃないです。

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 食後はイタリアと言えばジェラートでしょ、ということでもう11時となって夜の帳が下りた街を徘徊。なんとなく行列っぽいのができているところでお目当てのものをゲット。

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 翌朝というか昼というか。

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 チェックアウトして隣の駅から電車に乗ること1時間少々で、リミニへと到着。

 5年前でしょうか、前回に来た時とは会場がまったく新しい施設に建て替わっていましたが、それ以外は微妙に見覚えがあります。
 いつものマーティン・ジュザにイヴァン・フローク。そしてアメリカから到着したばかりのベン・スタークという今回のメンバーとも無事に合流して、さて、本番への練習を兼ねて、『基本セット2014』リミテッドで行われるグランプリの開始です。

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グランプリ・リミニ

 今シーズンに入って増えた数少ないプラチナ特典に、タダでスリープイン・スペシャルが使える。というものがあります。
 デッキリストの提出が前日になってしまうので構築のグランプリではほとんど必要性を感じないのですが、リミテッドでは話は別。
 プレイヤーミーティングどころか、その後に行われるチェックパック等々が全て免除され、ジャッジの手で行われたものを本来の開始時間の3時間後に受け取って、デッキをそのまま組めてしまうのです。

 そんなわけで昼下がりに会場へ向かってみると。

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 フィーチャーデッキ構築に選ばれたらしく、カメラとギャラリーの前で公開デッキ構築をする羽目になっていました。
 うん、パックは微妙。
 とりあえず2マナ圏が豊富な緑は使うとして……
 せっかく《泥沼煎じの魔女》がいるのに《泡立つ大釜》が2枚で《ただれたイモリ》がいないというなんとも微妙な黒か、
 見るべきところがおおよそパックで一番マシな除去である《平和な心》1枚こっきりという白かの2択。

中村 修平

Download Arena Decklist

 困ったときはオーラを使おうということと、《生命散らしのゾンビ》は強いだろうということで緑黒2色でいくことにしたのですが、
 あとから考えると、どうせデッキどころか環境のカードが弱いのだからもっと欲張って微妙なコンボを満載しつつ、単体ではそんなに機能しないカードをバッサリという形にした方が良かったようです。

修正後のデッキ

Download Arena Decklist

 サイドボードが使用できる2戦目以降は、だいたい《魔性の教示者》経由で《天使の協定》から天使トークンを出すゲームをしていたような気がします。

 あ、それとデッキリストに使うカードを記入していると、「《カロニアのハイドラ》:1」とリストに記入があって、驚いてジャッジを呼んで確認してみると、1つ上の《カロニアの大牙獣》と打ち間違えていただけでした。残念。

 試合の方はというと。
 不戦勝明け初戦にもの凄く強くてきれいな構成の青黒デッキに2タテで負け。
 次の試合も負けていきなり後がなくなる中、前述のサイドボードプランにしたところデッキが噛みあいだして4連勝で初日抜け。
 ナベはデッキを組み間違えていたのが響いたらしく初日落ち、ジュザはもらったパックがとても弱いのをなんとかやりくりしていたのですたが最終戦のフィーチャーマッチで力尽きて同じく初日落ち。
 イヴァンと私が同じくフィーチャーマッチでなんとか初日抜けを決めた中、ベンはというと《セラの天使》《テューンの大天使》、《敬虔な祈り》のトリプル天使で余裕の1敗抜けを決めていましたとさ。

 そんなベンのリミテッドセッションを受けながらの2日目は、なんとも悔しく、幸先が悪い結果。

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 2日目用に用意されているはずの、不正防止のためにカードにハンコが押されたドラフトセットが月曜日に到着する事態になった結果、急遽普通のブースターパックを開封するという、なんとも不思議なスタートとなったドラフト1回目。
 青が人気薄なのを考え、とりあえずの様子見2手目《潮縛りの魔道士》からかなり良い感じで参入することができて、フィニッシャーがちょっと薄いものの満足のいく青黒が完成。
 本来ならここから個々人でデッキ構築へと移るのですが、今回はデッキチェック者が必要ということで、席を挟んで後ろに座っている人とリスト&デッキを交換して、お互いにチェックリストを書くという応急処置。
 後ろに座っていたサミュエル・エストラッティに、
『こっち使いたい』
 と羨ましがられたご加護があってか、無事に3連勝で5番テーブルへ。

 おそらくトップ8まではもう3連勝が必要というところで、これまたかなり良い感じの白黒デッキが。
 もっとも今回は初手パックに黒いカードが集まっていて下と黒を取り合う形にならざる得なかったのと、《泡立つ大釜》を流して《血の幼子》を取った後で《天使の協定》から白に入り、この受けがあったことを早速大絶賛後悔中となるばかりか、

泡立つ大釜天使の協定

 1戦目の第1ゲームに土地を引きすぎている中、意味のない《血の幼子》のドローと既に戦場にある《天使の協定》というピックミスをざまざまと見せつけられる展開にクラクラしつつ、3本目も同じように土地を引きすぎて逆転負け。
 そこからデッキの強さもあって2連勝してこの日を5勝1敗とし、通算成績を12勝3敗で終えたのですが、結果はプロポイント3点圏内である16位以内に及ばない20位。

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 20位。トップ32。プロポイント2点。

 これまでの標準的なグランプリの成績に対する順位分布で考えると、2敗1分け以上でトップ8、そのすぐ下の3敗はオポーネントマッチパーセンテージが高ければもしかすればのトップ8、そうでなくてもトップ16は確保できている位置でした。

 もちろんこれまでも参加人数の極端に多いグランプリに関してはそうはならずに、例えば2012年のグランプリ・パリでは最終戦段階で2敗、勝てばトップ8ながら負けてトップ32、という経験もありましたし、前回の4500人が参加したグランプリ・ラスベガスではそもそも2敗でトップ32、負けて3敗となってみるとタイブレーカー上位ギリギリの63位に引っかかっているという有様なのはあるにはあります。

 ですが今回は参加人数が1000人程度の、言ってみれば近年で極々標準的なグランプリなのです。
 プロポイントの集計システムの影に隠れていたもう一つのシステムの変更、初日9回戦固定の結果に暗澹たる思いをさせられてしまいました。

 3敗でトップ32にまでしか行けない可能性があるというのに、
 プロポイントの集計対象となる、5個目の最上位スコアグランプリがリミニとなってしまったら、その時果たして私は海外に行ってまで、トップ8でのみポイント獲得となるグランプリに行くのでしょうか…

 ま、それはあと2回ほどグランプリで好成績を取ってから考えることにしましょう。
 そんな些細ながっかりで立ち止まっていては、とてもこんながっかりだらけな今シーズンなんてやってられません。これで今期のグランプリカウントとしてはトップ8が2回にもしかすればのトップ32が1回。2.5回分が既に達成ということです。
 まだまだシーズンは4分の1も過ぎていないのです。これからどうなるかなんてのは、もう後になってからでよいでしょう。

 一方、ベンの方ですが、危なげなく1回目ドラフトを3連勝。2回目も1戦目を取ったところで順位の読み違いをして合意の上引き分けてしまうものの、次を勝ってトップ8へ。

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 さっすが自他とも認めるリミテッド世界最強の男。

 多すぎるギャラリーを横目に、フランク・カーステンが持ってきていたiPadで我々はちょっと離れたところで実況配信に首ったけ状態。

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 ところがそういうところで期待を裏切るあたりも『らしい』です。
 決勝ドラフトは見事に失敗デッキを組んでしまってあっさり1没。
 本人はしきりに青白路線堅持していればと言ってましたが、一同の意見としては、「さっさと黒に向かっていれば強かったのに。」
 まあ、こうなっているベンに意見をしても無駄なので誰も突っ込まないあたり、我々もベンについて着実に理解が深まっているということなのでしょう。

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 この夜はイタリア最後の夜ということで、ピザに肉をつけて、

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 デザートはジェラートというのは言うまでもなく。

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 今回はこの辺りで、世界選手権編へと続きます。

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