「世界選手権2013」編・その2

更新日 Making Magic on 2013年 9月 12日

By 中村 修平

その1」もご覧ください。

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アムステルダムへ

 翌朝というより数時間後、夜が明けるか開けないかの頃。
 リミニから電車に乗ってボローニャ、そして空港からミュンヘン経由でアムステルダムへ。
 ジュザ達は直行でアムステルダム行きの便なのですがこちらはそういう訳にはいかず、乗り継ぎ便。かつ余裕を持って行動するためにはどうしてもそんな時間から動くことになります。

 ちょっと早く空港に着いてしまいましたが、飛行機に遅れるなんて事態になるよりかはだいぶマシ。ミュンヘンで突然の大雨にちょっと出発が遅れましたが、だいたいは予定通りの午後4時過ぎに到着。
 チェコからフライトが近かったシフカ(グランプリをスキップして家で構築デッキの調整をしていたらしいです)との合流もスムーズにいって、タクシーでウィザーズが取ってくれたホテルへ。

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スタニスラフ・シフカ/Stanislav Cifka

 会場が3年ほど前のプロツアーと同じ所だったし、ホテルも同じ名前だから前回と同じ所だろう……と思っていたら着いた場所が全然見知らぬところだったのでちょっと面食らいましたが、チェックインして部屋に入るにつけ、だんだんと当時の記憶を思い出しました。

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 主に部屋が狭いだの、基本的にエアコンというものが存在しないだの、そしてアムステルダムの飯はマズいだのという残念なことばかり、いや、実際には良い要素も色々とあるのですが、部屋に入った瞬間、それを思い出したのも、まあ、仕方がないかなあと。かなり高級なところなのにこれで2人部屋と言われちゃうとね。

 というのはそこそこに、我々にはやることがあるのです。

 そう、デッキを完成させなくてはならないのです。

スタンダード

 日本にいる間にだいたいの指針は決めていました。それは、

  • 中速よりさらにちょっと遅いくらいのデッキを使いたい
  • そしてジャンドは使いたくない
 の2つです。

「中速より遅い」というのは、

環境にあるデッキのうち高速ビートダウンがそれほど優勢ではなく、かつ16人の中で使ってきそうなプレイヤーが少ない

→それならば対応性に優れたなるべく低速のデッキ→かと言ってあまりに低速すぎるデッキは今度は環境が生存を許してくれないので、できうる限り対応力に優れた遅いデッキ

 ということです。

 こう書くとジャンドこそがその条件に当てはまりそうなものなのですが、
 ジャンドは惜しいところで、私の中で低速すぎる。
 基本的にはクリーチャーを出されては除去で返すリアクションデッキなのです。サイドボード後はデッキの立ち位置が変わりますが、そういう傾向にあることは変わらず。
 せっかく環境随一の高スペックのクリーチャー達がいるのに防御的に動くのはちょっと好みに合いませんし、ずっと同じデッキを使い続けているレイド・デュークのようなプレイヤーとミラーマッチをしたくありません。

 候補としては白黒赤または白黒緑の両アリストクラッツ、そして青白赤コントロールといったところが挙がっていたのですが、出立前までに良い感じのアリストクラッツのリストを発見できず、逆に青白赤コントロールは井川良彦が廻していたバージョンがが割と感触が良かったので、概ね青白赤コントロールを使おうかなというところ。

 そこでシフカが見せてくれた秘密調整デッキは、なんと青黒コントロール。

参考:チェコ代表(主な使用者:スタニスラフ・シフカ)

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ネファリアの溺墓

 先ほど「あまりに低速すぎるデッキは今度は環境が生存を許してくれない」といったまさに典型のようなデッキ。このデッキを草大会に持っていけば赤系のデッキに当たって負けることは、考えるだけでもお腹いっぱいです。

 ですが確かに理もあるのです。
 青白赤コントロールのような「遅いデッキの中では速い部類」のデッキに対しては勝率が良いのもまた事実。
 16人の内の大半がコントロールを選択するようなことであれば充分に勝機があります。

 あとはもう1つの障壁であるジャンドに勝てるかどうかです。
 使いたくはないですが、このデッキに勝てなければ意味がない。
 それについてはかつてのプロツアー「ギルド門侵犯」前の調整において、チャネルファイアーボール内で青白黒コントロールを調整している時に嫌というほど味わっています。
 ジャンドというデッキは、好みという点では受け身すぎて好きではないのですが、とかく隙がないデッキというのは事実。
 特にサイドボード後に関しては、ビートダウンには除去を追加、コントロールには除去を抜いて特化、とまったく別のデッキへと変貌します。
 カードパワーではどうしても王道デッキに劣るメタデッキを持ち込む以上、その第2段階にも勝てるデッキでなければ。

 この日のほとんどをシフカの調整に付き合っていましたが、感触としては駄目。
 最終的にシフカも諦めてしまい、気がつけばグループ全員が青白赤コントロールということになりました。

中村 修平

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モダン

 一方でモダンの方についてはシフカとジュザが調整をしているということを聞いていたので、日本にいる間はただひたすら既存のデッキを順々に廻して理解することに専念していたのですが、その中で、もしどれかを選ばなくてはならないとすると、ブランドン・ネルソンがグランプリ・マイアミでトップ8入賞を果たした青白赤コントロールが抜けているという印象でした。

Brandon Nelson

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 はじめはこんなに勝ち筋の薄いデッキが果たして通用するのかと思っていたのですが、廻してみると意外にどんな相手にも気がつけば勝っているのです。
 そしてリミニで聞いてみると、シフカ達が調整していたのもその青白赤コントロール。
 オリジナルリストから不満に思っていたところがほとんど改善されているので一目で気に入ったのですが、同時に石村信太朗に教えてもらったデッキもかなり異彩を放つ仕上がりになっていたのでした。

 青黒ライブラリーアウトです。

(参考)Azazel314 (4-0)

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クリーチャー (7)
4 面晶体のカニ 3 ボーラスの占い師
ソーサリー (8)
4 不可思の一瞥 4 精神の葬送
アーティファクト (3)
3 催眠の宝珠
他 (3)
3 強行+突入
60 カード

不可思の一瞥書庫の罠

 定石とはまったく別の角度からゲームの勝ちを狙いにいくその構成。
 冗談のような見た目とは裏腹に4〜5ターンもあればライブラリーを空にしてしまうかなり強力な、いや、親和やドレッジのようないわゆる「メイン最強系」のデッキを名乗れるレベルのものでした。

 しかし問題点も。対策がとても簡単なのです。
 たった1枚の《引き裂かれし永劫、エムラクール》をサイドボードに仕込むだけで相性差が劇的に改善されてしまうのです。

 もちろんこちらとしてもそれだけで投了ということにはならないのですが、墓地に落ちて、ライブラリーに帰っていくのに合わせてゲームから追放するにしても、一からライブラリー破壊をしないといけなくなるので単純に倍以上の労力が必要となってしまい、それこそ2/2くらいの生物で簡単に殴りきられてしまうのです。

 正攻法で行く青白赤か、搦め手の青黒か。
 ここでも全く同じ色の組み合わせの2択。

 そして選んだのはここでも青白赤コントロールでした。

中村 修平

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 さて、デッキは決まりました。
 何はともあれリストを渡してしまえばこれ以上の変更はかないませんし、なんというのでしょうか、本番はまだこれからですが入試が終わった受験生のような気分です。
 ちょうど前夜祭的なパーティーもあることですしね。

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 トーナメントコーディネーターであるスコット・ララビーから大会の諸注意を少々。
 任意の投了の禁止、試合前の対戦相手のデッキ公開について、それと今大会から試験運用される新タイブレーカーシステム…これは完全に理解はできなかったのですが、要は「同じ勝ち点同士なら、先に負けている方が絶対に下になる」ということらしいです。(参考:The Cumulative Tiebreak・英語記事)

 聞き取り的な問題もあり『絶対に』というのが確証が持てなかったので、レベルジャッジでもあるシェルドン・メネリーに
『同じ2敗同士だとして、ラウンド1と4で負けたプレイヤーと2と3で負けたプレイヤーならどっちが上なの?』
 と聞いてみたら、答えが二転三転した上で、
『四の五の言わずに勝て』
 なんて言われるくらいには運営サイドも分かってない様子に、ある意味ホッとしました。

 そういう堅苦しいものもそこそこに、デッキ創作という重圧から解放されたマジックプレイヤーの目の前にブースターパックがあるならやることは1つであり、そのパックの出処はというともちろんありがとうウィザーズ・オブ・ザ・コースト。

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解説者・開発者陣も交えて

 パーティー参加者にはタダでドラフト用パックが支給されているのです。
 しかも『基本セット2014』に『Modern Masters』と両手に花、どちらでも自由に選びたい放題。
 ではないですね。圧倒的なまでの『Modern Masters』人気。そりゃみんな《タルモゴイフ》が引きたいさ。

 私も当然『Modern Masters』勢でしたが、これも当然のことながら《タルモゴイフ》なんて影も形も現れず。

 ついでにドラフトについての雑感も軽く触れておこうと思います。

『Modern Masters』ドラフト

Tarmogoyf

 《タルモゴイフ》引きたい…じゃなかった。
 いや実際のところ初手に引くと充分に初手レベルのカードなので取るには取るのですが、カードの質的にはちょっと違っているのでそういう意味でも初手なことは初手なのですが…
 ふむ、なかなか一言でその強さを説明するのが難しいです。
 この「初手なんだけど初手ではない」という微妙な感覚こそが『Modern Masters』の妙。

 いかに部族やアーティファクト、コンボといった特定のデッキタイプに自分のデッキを作っていくかというのが大きなテーマなのですが、同時に、それらのテーマに基づいてデッキを作っていく時にも、どのようなデッキであれ強いカードはやっぱり強いというものもあるのです。
 例えば《熟考漂い》。レベルビートダウンのような押していくデッキにも、もっとゆっくりとしたコントロールにも、はたまた発掘やストームのようなコンボデッキに入っても強いです。

熟考漂い

 ただ強いではなく、どのようなデッキにも入りうる幅の広さがある。
 そういうカードを取っていく事で無理なく人気薄のアーキタイプへと参入しやすくなる。
 《タルモゴイフ》を単体で見た場合、どこまでいってもシナジーが生まれにくい、ただのコスト比で大きな生物、この環境ではあまり強くないカード筆頭の《放漫トカゲ》とあまり変わらない、という側面と、
 その一方でビートダウンにもコントロールにも使え、発掘のようなコンボデッキにも序盤から壁として、あるいは追加の勝ち手段を提供してくれる上で、環境全体に少ない2マナ圏という側面がせめぎ合って、
 初手は初手だし、金額以上に嬉しい、嬉しくないでも嬉しいんだけど…。
 となるわけです。

 もう1つ、この環境での強いカードの基準としては、1対2交換以上が取れるカードですね。

 これは通常のリミテッド環境、というよりマジックではおおよそ当たり前のことなのですが、『Modern Masters』ではそれがより顕著に現れます。
 なにせほとんどのカードがかつてのリミテッドでエースを張っていたカード達なのです。1枚1枚のカードパワーが強ければ、それをより多く引けたり利用できたりする方が勝つのはわかりやすくらいわかるということで。
 除去に耐性があったり、戦場に出た時に既に仕事をしてくれているもの、さらには除去されても置き土産を用意してくれたりと、そういうカードこそが優先して取りたいカードとなります。
 そのようなカードの筆頭にして、往々にして頭を悩ませる原因ともなるのが《雷雲のシャーマン》。

雷雲のシャーマン

 巨人は部族としての相互作用が地味で、基本的には負け組の代名詞なのですが、このカードだけは別格。
 たった1枚で、どれだけ大量に増殖したレベル達であろうが、徘徊を重ねたフェアリーであろうが、はたまたストームを重ねた大量のゴブリントークンであろうが、一瞬で根こそぎにしてしまいます。
 ただしちゃんと使えるのであれば、です。
 とにかく他の巨人カードが、これまでに書いた定石の真逆をいくようなかわいそうなカードばかりなので巨人に進むことは稀、むしろ初手にこのカードを引いた時に覚悟を決めてやるか、1パック目の序盤に流れてきて覚悟を決めてやるか、それ以外の大半ではこのカードをカットするかどうか、を悩むこととなります。

 と、ここまで書いたところで
『強いカードを取るんだよ、だけどより強いテーマデッキを作るんだよ』
 と簡単にまとめられてしまうことに戦慄を感じているのですが、これを実際にやるとなると一筋縄ではいかないのですね。
「方向性」という言葉でまとめようにも、状況によっては本線を外すこと、例えば敢えて《深遠の覗き見》を流して帰ってくることを期待するようなドラフトもしますし、もっと尖ったシチュエーションだと、デッキに入るカードではなく「対戦相手に使われては嫌なカード」を集中的に序盤のピックで抑えたりもありえます。
 また全く同じカード、似たようなシチュエーションでも、流したカード、来るであろうカードから、例えば《聖域のガーゴイル》か《台所の嫌がらせ屋》の間ですら優先度が変化します。

 実際に世界選手権で、ベン・スタークが青をやっているのに《曇り鏡のメロク》を流して《聖域のガーゴイル》を取ったいうのも私には全然理解できます。
(参考:『Modern Masters』ドラフト・ポッド2 ハイライト

聖域のガーゴイル曇り鏡のメロク

 《聖域のガーゴイル》を取るというのは、印象とは違うでしょうが、かなり防御的な選択。
 親和デッキであるベンにとって、回収能力もさることながら、それ自身もアーティファクトである、つまりより親和しやすいという点を評価したのです。

 これが参入のきっかけになる1パック目初手のことならば「ただ強いメロク」こと《曇り鏡のメロク》を取って様子見をするでしょうし、2パック目ならばやはりメロクを取って、まだデッキの方向性を変える道を見つつ、親和デッキの人気がないと見るなら《聖域のガーゴイル》が1周すると見て流す、この場合は各プレイヤーがデッキを固める作業をしているので、彼らはシグナルになると見て敢えて流してくれる。
 どのみち、返しの流れ次第では親和ができないこともあるし、と判断するでしょう。
 3パック目で、自分が親和に行くと決めたからこそ、ベンの中で《聖域のガーゴイル》が《曇り鏡のメロク》を上回ったのです。

 まあ、私としてはそれを理解した上で、それでも《曇り鏡のメロク》を取りますけどね。ただただ強いし、使われたら負けるし。

 それはともかく個人的にお勧めのアーキタイプは親和、青赤コントロール、そして全く別軸の発掘あたり。
 どれも最強カラーの青が使えつつ、卓内で人気が無いのが分かりやすく参入しやすい、というのが特徴ですね。
 一応、保険として白黒レベル、赤黒ゴブリン、そして緑多色系のデッキもレパートリーに加えておくともしもの時も安心です。

 本番前のレセプションパーティーで、開放感からうっかり発掘をやってしまったので、マークされるのも嫌ですし親和か青系を軸にやろうかなぁとか考えていました。

『基本セット2014』ドラフト

 基本的には強いカードが強い。いや、言い方を変えたほうが良いですね。
 カードパワーが全体としてとても弱いセットです。
 なのでこれまでのセットでは当たり前にあったような程度のコンボが、この環境ではとても強いコンボとなります。
 代表的なのが《反逆の行動》+《血の幼子》ですね。

反逆の行動血の幼子

 もっとも赤黒はそれ以外にも除去色+除去色なのでほっといても強くなってしまいますが、そうでないような色の組み合わせでは、コンボがそれだけでデッキの核にして良いほど、デッキを組む上で指針となります。
 《泥沼病》+《オーラ術師》がちょうどそうですね。

泥沼病オーラ術師

 白は今回明らかに負け組。
 軽量、飛行クリーチャーの不足、タッパー、プリベンターの不在と、これまで白のコモンを支えてきた要素をほとんど失ってまさに踏んだり蹴ったり。
 できることならやりたくない色筆頭なのですが、唯一白黒だけはこのコンボがあるので狙っても良い。
 というか初手で《セラの天使》を引いてしまったり、取るものが《平和な心》しかないようなパックであれば、とりあえず取ってそっちに向かうというのが基本戦略ですね。

 赤は除去2種類に加え《アカデミーの略奪者》という最も過小評価されているカードがあり、

チャンドラの憤慨アカデミーの略奪者

 緑はクリーチャーが優秀でコモンでパワーが4相当のカードがあるのは評価できますし、使える2マナ圏が最も充実しているのは高評価。

轟くベイロス命取りの出家蜘蛛

 ですが、できれば青か黒がやりたいですね。

 この2色は除去、飛行、リソース差発生カードなどなど、単体でほとんど全ての要素を備えているので、2色目を選ぶのに柔軟性が取れますし、それこそ弱い白との組み合わせですら、白黒は先程のリソース戦略、青白は伝統的な飛行戦略でデッキの方向性を作ることができます。

 その上で、繰り返しになりますが、なるべく分かりやすく強いコンボをデッキに仕込む。
 赤緑なら《獣の代言者》と4マナのビースト2種類。
 青黒なら《予言》と《精神腐敗》というリソースに差をつける組み合わせなどなど。
 それこそ《溶鉄の誕生》+《血の幼子》ですら強いと感じられる環境なのです。

 青か黒主体でデッキを構築しつつ、できるようだったら後手を選択するようなデッキを作れればなあというのが戦前の希望でした。

/

で、結果の方は

 初日2勝4敗。
『Modern Masters』ドラフトの方の1勝2敗は、難しいドラフトの末、ちゃんと親和が卓内に1人というのを読み切った上でのドラフト。
 勝てる相手だったレイド・デュークに負けたのは悔しかったですが、シャハーラ・シェンハーのデッキには勝つことがそもそもほとんど不可能なのでしょうがないと割り切れます。

 ですが後半戦のスタンダード3回戦については、実質ゲームカウント0−6だったのを2戦目の2本目にジュザの頓死によって救われているだけなのです。

ジュザ 
13ライフ
1枚手札戦導者のらせん
対抗変転
スフィンクスの啓示
タップ状態の土地6枚
アンタップ状態の土地2枚

霊異種
(アンタップ状態、1/1をブロック済み)
パーマネントアンタップ状態の土地6枚
タップ状態の土地2枚

5体の1/1トークン(攻撃済み)
今召喚した《ボーラスの信奉者
軍勢の集結》(カウンター3つ)
状況:こちらの終了ステップ
スタック上にジュザの《戦導者のらせん》、対象:私

 ショックランドを引かず、5ターン連続でM10ランドをタップインで置き続けた代償は大きく、後手なのにジュザに青マナを浮かされた上で《霊異種》を展開される最悪の展開。
 こちらもなんとか返しで《軍勢の集結》を置けたものの、状況は相当厳しい。
 おそらくジュザの最後の有効牌が《戦導者のらせん》だったので、この時点で負けは決まっています。

霊異種戦導者のらせん

 ただし、ジュザが終了ステップに打ってくれたので、悪あがきするチャンスは残されました。
 ジュザの《霊異種》に向けてこちらの《戦導者のらせん》を撃ちこみます。
 ライフを回復されるのを嫌って追放領域に消えてくれれば、《霊異種》が帰ってくるのはジュザの終了ステップなので1ターン分猶予ができますし。
 冷静にタフネスを上げて対応されたとしても、ジュザ側から見れば2ターン分余裕があるので、《アゾリウスの魔除け》を警戒して全力で強化して来ないかもしれません。

 と思ったら、素直にらせんを霊異種に受けてくれました…

「うん、その霊異種、兵士をブロックしていて1点食らっているので死ぬよね…」
「あっ」

 3本目はこちらの《スフィンクスの啓示》に合わせて、カウンターマナを残してX=4の《スフィンクスの啓示》で返されて、負けたと思ったら残りの手札とドローが全て土地だったらしく勝ち。

 まあ、この時点で1勝3敗対0勝4敗の戦いです。それはもう酷いものです。
 まともに勝ったのはこの後の1ゲームだけ、それも本来はありえないはずの3本目。
 それ以外はマリガンをさせられた上でゲームと呼べるような展開ですらさせてもらえず、試しにマリガンする初手でキープしても、ダブルマリガンしてもやはり同じという状態。

 一応は5連勝トップ4の目が残されてるとはいえ、こんな状態で明日全勝を目指そうというのはさすがにそんな気分にはなれず、最低限確保しておきたい8位以内、賞金5000ドルが目標となるのも仕方がないです。

/

 そんな状態で挑んだ2日目も、それはもう酷いものでした。
 『基本セット2014』ドラフトで、目論見通りの青黒デッキを完成させ、目論見通りの有利な相手に当たったのにもかかわらず、2連敗で初戦黒星。
 その直後に当たった、現在7連敗中でデッキも卓内最弱のジュザに対してですら、マリガンしているとはいえほとんど抵抗できずに1本目を落とす、このデッキを使って1本も取れずに2連敗が目前にまで迫っている…

 ままならない時があるのがマジックですが、いくらなんでもこれはあんまりすぎないか。
 もちろん統計的に見れば別にこれが初めてのことではないし、これから先にもいくらでもある出来事のひとつなだけ。
 ですが、生憎そんなことで片付けられるほど人間が出来ていないし、その程度で諦めるような良い性格をしているなら、こんなにまでこのゲームを続けていません。
 昨日と同じく最大限に出来うること、悪あがきをさせてもらいました。

 一息ついて、トイレに行き、
 それからジャッジを呼んで、「そこら辺にあるスリーブを持ってきて」と頼んだのです。

 そこから恐れ多くもヘッドジャッジにも手伝わせつつ、デッキのスリーブ交換。
 換え終わったスリーブをゴミ箱に叩きつけてもう一息。

 別に盤外戦ということではなくて、ドローが寄ってきたなと思ったら試合の合間にスリーブを買い換えたり、試合中にもデッキのシャッフルパターンを変えて、少しでも状況を変化させようとするのは四六時中やっています。
 限りなく意味がないことかもしれませんが、意味がないと証明できないのなら、それで得られるコンマ何%ですら取りにいかなくてはこんな生活やってられません。

 さすがにこんな大々的にやるのは、この大会が時間無制限、サプライ完全支給だからですけどね。

 そしてスリーブを換えた直後に来た初手は土地が1枚。
 これ以上はないというくらいのマリガンハンド。
 そんなことは解っています。ですがジュザも相当良くない手札のようで、今回はマリガンをしてくれました。
 変えられることなどほんの僅か、それで充分です。
 相変わらず良い初手や良いドローというほどではありませんが、なんとか選択肢が取れる程度にはゲームをさせてもらい、本当になんとか、といった感じで2本取り返して一息。
 3勝5敗とまだまだ負けが先行していますし、彼我のデッキ差を考えればむしろ当然といえるような結果ですが、ようやく悪い流れのようなものに変化が見えてきました。

 続くデイヴィッド・オチョア戦も、1本目はおおよそゲームじゃないような死に方。
 マリガン後に後手、《精神腐敗》と《取り消し》でキープして1ターン目のドローの《強迫》でカードを抜けず、その後に引いた呪文は次のターンにどうやっても死ぬところでの《古術師》のみ。
 ですがデッキの完成度はやはり大きく差があります。
 ドローに影響されないゲーム前の部分、ドラフトとデッキ構築の部分では明らかにこちらに分があるのは公開されているカードリストから解っているのです。

 《センギアの吸血鬼》の連打でゲームを取り返しての3本目。
 第2回戦の対レイド・デュークの時以来のようやく、カード並べではなく自分の選択でゲームが決まるという、本当に久しぶりにゲームらしいゲームができました。
 後手第4ターン、シチュエーションはこんな感じです。

オチョア
23ライフ15
4枚手札血の儀式文
分散
海岸ドレイク
吸血鬼の印
センギアの吸血鬼
》《》《》《

林間隠れの斥候》+《吸血鬼の印
パーマネント》《》《》《

アンデッドのミノタウルス

 お互いのデッキリストは公開されています。
 《アンデッドのミノタウルス》に《吸血鬼の印》を付けた場合、オチョア側に対処できるカードは《血の儀式文》1枚のみ。
 ですが、オチョアにどれくらいの手札的余裕があるのかは知っておきたいところ。
安全策をとって、《海岸ドレイク》を召喚した上で、あちらの動きを先に引き出すという方向に決めました。
 手札の選択を悟らせたくないので再検討の時間を敢えて使わず、極力自然な動作でドレイクを出してターンを渡します。
 相手のリストからあり得るアクションを反芻する時間を取れないので少し怖いですが、概ね《分散》で対応できるはず。

 こちらのオーダー通りにオチョアが仕掛けてくれました。
 3/3になっている《林間隠れの斥候》を使って《弱者狩り》でこちらの《アンデッドのミノタウルス》を殺しにきたところで、呪禁を持っている《林間隠れの斥候》ではなく、《吸血鬼の印》の方に《分散》。
 都合で2ターン分の時間と2枚のリソースを奪い取るビッグターン。

吸血鬼の印分散

 その時点でオチョアが何を持っていたかというのは定かではありませんが、続くゲーム展開はこちらの《センギアの吸血鬼》に《垂直落下》と《轟くベイロス》、先ほど戻した《吸血鬼の印》を付けて殴らせた上でこちらが《血の儀式文》。
 浮いたマナで引いてきた《大気の召使い》を出したところに《血の儀式文》を打たれ、《アンデッドのミノタウルス》にこちらが《吸血鬼の印》を付けてゲームに勝ち、というもの。
 おそらく、先ほどの場面で《吸血鬼の印》を付けて攻撃していれば、かなり微妙なゲームになっていたでしょう。

 負け越している中でようやくの勝ち越しクオーターを作れた瞬間であり、深みからようやく抜け出せたと思えた瞬間でした。

 ここから続くモダンラウンドを2連勝して6勝5敗。
 トップ4へはとっくの昔に断たれていますし、目標の8位以内も序盤の大幅負けスタートからタイブレーカーは弱いだろうと全く意識に上がってこなかったのですが、次に勝てば7勝5敗。
 いくら弱いタイブレーカーでもこの成績なら8位以内に入れるだろうと意気込みを新たにしたところで、実際は既に8位以内が確定していました。

 試験導入している新タイブレーカーの恩恵を、今回は受ける側だったのです。
 とても大雑把に言うと、現時点で勝ち星が上のプレイヤーは下からの突き上げで逆転されることがない、というのがこのシステムの特徴。
 つまり現時点で、どういう状況になっても4位以内になることはない代わりに9位以下にもなることがない…

(参考)第11回戦終了時の順位

Name Total Points Cumulative Opponents'
Match Win
Duke, Reid 27 34.730143 60.33%
Shenhar, Shahar 24 31.682295 60.33%
Stark, Ben 24 30.916972 58.40%
Utter-Leyton, Josh 21 26.916927 50.41%
Kibler, Brian 18 23.936213 59.50%
Wescoe, Craig 18 23.686263 55.92%
Watanabe, Yuuya 18 22.980162 54.27%
Nakamura, Shuhei 18 22.671629 49.59%
Cifka, Stanislav 15 19.734294 50.41%
Butakov, Dmitriy 15 19.729431 43.25%
Martell, Tom 15 18.933345 45.45%
Ochoa, David 15 18.734298 47.93%
Edel, Willy 12 15.749018 53.99%
Froehlich, Eric 9 11.999004 46.83%
Shi Tian, Lee 9 11.995834 43.53%
Juza, Martin 6 6.9375 47.11%

 それを聞いて脱力したのがまずかったですね。最後は再び相性の良いはずのマッチアップで負けてしまいました。
 ですが悪い時は悪いなりになんとか目標に到達したことに、ようやくこの大会で初めて満足らしきものを経て、私の2013年世界選手権は終わりました。
 終わってみればなんとも長くて辛い2日間でした。
 あればの次回では、もっとお手軽簡単な展開を期待したいところです。

 マジック:ザ・ギャザリング世界選手権2013 イベントカバレージ

 メインは終わりましたがもう少しだけ続きます。

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