宴が終わって
私の世界選手権は終わってもワールド・ウィークはもう少し続きます。
ここからはワールド・マジック・カップ、そしてプレイオフの日曜日です。
私もニコニコ生放送で解説を担当させてもらったり、そういえば前回のプロツアーで近くにスーパーと絶品フィッシュフライを売っている魚屋があったなとふらふら行ってみたり。
あ、そういえば土曜日の午前中には、人手は足りてるかと思って、となり町のハーグまで遠出してみました。
お目当てはハーグ、マウリッツハイス美術館が所蔵している、フェルメールの『真珠の耳飾りの少女』。
前々から見に行きたいと思っていたので、これを機会に見に行くことに。
事前の情報収集によりアムステルダムからは電車で40分程度、そして肝心のマウリッツハイス美術館は現在改装中であるものの所蔵品の有名どころは近くのデン・ハーグ市立美術館で代理展示してるのもチェック済み。
往復の切符も買って、
トラムの番号もばっちり、
ついでに帰りに立ち寄るところを物色して、
美術館に到着。
適当に見て回ればそのうちお目当てのものも見つかるだろうと高をくくっていたら広いこと広いこと。
ようやくそれらしきところを発見しました。同じフェルメールの『デルフトの眺望』。
ですが、それらしきところを何周回っても肝心のものが見つかりません。
諦めてその辺の人に聞いてみると、
『今、貸出展示でここにはないよ』
元絵になったというグイド・レーニの『ベアトリーチェ・チェンチの肖像』に続きここでもか…
よくよく目当てのものを見逃してしまうのはもはや一種のお約束。
悲しみにくれながらアムステルダムへの電車に乗ってみると、オランダの電車はフリーWi-Fiが完備されているので車内で進行中のワールド・マジック・カップの中継が見られるのです。
なんとアメリカ代表チーム対イスラエル代表チームがグループリーグ脱落を賭けた試合をしているじゃないですか。もちろん首ったけ。
しかし会場に到着するためにはアムステルダム中央駅まで40分で、さらにそこからトラムで10分。
残念ながら回線もそれほど強くなく途切れがちで、重要な場面を見逃してしまいました。
ということでちょっと急ぎ足…、でもないか、またフィッシュフライを買ったりしてから現場に戻ってみると、グループリーグも既に佳境。
ブラジル対ベルギー、これも勝ったほうがリーグ通過、負けたほうがリーグ敗退というマッチがフィーチャーマッチに指定されていて、これの解説なんかも少々。
結果はベルギーが1勝2分けでのチームスコア勝ちで、日曜日のシングルエリミネーションへと駒を進めることになりました。
個人的にはサッカーのFIFAワールド・カップと同様のシステムを持ってくるのは分かりやすくて良いと思うのですが、現状、順位点でのグループリーグ割り振りにそれまでの勝ち点の意味がほとんどないのはちょっと残念かなと。
初日スイスドロー、2日目グループリーグ×2回、3日目に決勝シングルエリミネーションなのですが、初日負けなしだったチームがグループリーグに入って2連敗すると即退場というのはちょっと虚しすぎるというか、プレイヤーとしてはなんだかなという気分にさせられてしまいます。
初日と2日目の方式を逆にして、初日グループリーグ、2日目スイスドローというのはどうなんでしょうかね?
という部外者の意見はおいておいて、決勝進出の8チームも決定し、これにて予選ラウンドの日程は全て終了。
いよいよ日曜日を残すのみ。
打ち上げという名目を兼ねて、チャネル勢達が昨日行ったという現地日本食に突撃してみました。
変な日本食を見るのって好きなんですよね。
鍛冶友浩命名、「消しゴムみたいな寿司」とかね。お米の配分がどう見てもおかしいんですよ…
日曜日
溢れんばかりの米に敗北しての翌日。
いよいよこの日、世界チャンピオンとチャンピオンチームが決まります。
とは言っても私の出番はだいぶ後。チーム戦のシングルエリミネーションが先に行われて、チャンピオンチームが決定してから4人の頂上対決が行われるのです。
せっかくの良い天気、夏なのにやや暑さを感じるくらい。
さすがにスポットライトが厳しい特設ステージ近辺や、人口密度が凄いことになっているトーナメントステージには扇風機が投入されていましたが、
それ以外の場所ではそもそもクーラーという設備を見ることすら稀。
ホテルにクーラーがないとか日本では信じられませんが、ここではどうもそれが標準。
日陰に入るとちょうどよい塩梅くらいの気候なのです。
そんな手持ち無沙汰な昼下がり、
昼寝なんかもしてみましたが目が覚めてもまだ準決勝が終わったあたり、ということで決勝に残れなかった国別代表チームと一緒にタダドラフトに参加していると、横では決勝ラウンドに残ったベン・スターク、シャハーラ・シェンハー、レイド・デューク、ジョッシュ・ウッター=レイトンもドラフトに興じていたりします。
やはり考えることは同じですね。
というわけで、劇的なトップデッキでの決着となったフランス優勝の瞬間も歓声で知ったのですが、昼をとうに過ぎて午後3時あたりだったでしょうか。
いよいよ、この5日間で最後の3マッチです。
準決勝:ベン・スターク対シャハーラ・シェンハー
劇的な《稲妻》連発で終わった第1ゲーム以降は終始シャハーラのペースだったこの試合。
特にシャハーラの誘導のうまさ。別にベンも悪手を打っているわけではないのですが、ベンから見た最善手がちょうど誘い込まれているポイント、というのが際立ったのが第2ゲーム。
第3ゲームもほとんど完全にシャハーラの掌中……からのベンの逆転劇。
もちろんそこには引いてきてしまった《スフィンクスの啓示》を優先したシャハーラの判断ミスがあったのですが、私としてはそれよりもその次ターンのベンの決断、《ザルファーの魔道士、テフェリー》を、引いてきた《謎めいた命令》によって守ったというのが勝負のキーポイントになったと思います。
ベン | シャハーラ | |
5 | ライフ | 18 |
《謎めいた命令》 《瞬唱の魔道士》 《呪文嵌め》 《呪文嵌め》 | 手札 | 7枚 (直前に《スフィンクスの啓示》で補充している) |
アンタップ状態の土地11枚 《ザルファーの魔道士、テフェリー》(タップ状態) | パーマネント | アンタップ状態の土地6枚 タップ状態の土地1枚 |
状況:シャハーラの第1メインフェイズ スタック上にシャハーラの《流刑への道》、対象:《ザルファーの魔道士、テフェリー》 |
現状は著しく不利な場で、自分の延命にとっては不必要なテフェリーへの《流刑への道》に、たった今引いてきたばかりのライフラインを差し出せるか。
シャハーラの判断は状況を分析すれば悪手と断定するのが容易なのに対して、ベンのここでの判断はこの原稿を書いている時点でも結論を下しかねています。
私ならおそらく打ちません。
ただでさえライフが劣勢なところを、《スフィンクスの啓示》で追加ドローまでされています。
自分が置かれている状況は、攻めなくてはというより、むしろ守らなければという局面であり、自分の攻め手に対しての虎の子を使うのはもったいなさすぎるのです。
それに追加して、もしベンがシャハーラの手札を知っていたなら、決して打ち消さなかったでしょう。
なにせシャハーラの手の内には《雷口のヘルカイト》という、通してしまうと致死の生物がいるのです。
結果論で言うなら、どちらの選択肢でも生き残っているのは事実。
ですが、ここで注意してもらいたいのは、ベンのこの選択によってシャハーラをほんの僅かなターンで倒せたということです。
もしテフェリーが素直に追放されていたら…
そう考えると凄い選択だったと思いませんか?
準決勝:レイド・デューク対ジョシュ・ウッター=レイトン
相性はデューク圧倒的有利な試合でありながら最終5本目までもつれたのは、やはりデッキとしての白緑の不安定さです。
最終ゲームこそワンサイドゲームでの決着となりましたが、残り全てのゲームで接戦となったのはこの手の奇襲デッキの難しさを物語ってますね。
しかしレイド・デュークは本当に素直な打ち筋のプレイヤーです。
マリガンを積極的にしなくてはならないこのデッキで、例えダブルマリガン後でも妥協をせず、ちゃんとマリガンを選択していたのが印象的でした。
個人的にゲーム展開とは全く関係はないのですが、マリガンしてもマリガンしても何故か手札に吸い付いてくる《安らかなる眠り》には笑いをこらえるのに必死でしたが。
決勝:レイド・デューク対シャハーラ・シェンハー
そしての決勝戦、
やはり第3ゲームですね。
既に2ゲーム先取してほとんど勝ちを確信したであろうデュークの、ほんの些細なミス。
戦闘前にオーラを付けすぎて、《蜘蛛の陰影》を戻された上で《謎めいた命令》のタップモードで凌がれてしまった箇所です。
シャハーラ | デューク | |
14 | ライフ | 19 |
5枚 | 手札 | 《天上の鎧》 《夜明けの宝冠》 《コーの精霊の踊り手》 《地平線の梢》 |
アンタップ状態の土地4枚 | パーマネント | 《地平線の梢》 《樹木茂る砦》 《林間隠れの斥候》+《怨恨》+《蜘蛛の陰影》 |
状況:デュークの第1メインフェイズ(土地を置く前) |
もし《謎めいた命令》への受けを考えた上で、このターンにマナを潰す目的で敢えて《コーの精霊の踊り手》を先に唱えていれば、あるいは《天上の鎧》を付けないで土地を置かずにとりあえず攻撃に入っていれば…
もちろんこれはお互いの手札が解っていた上で、かつ《仕組まれた爆薬》という受けがあるという想定を除外した上での行動。
デュークも、もちろんこのターンに《謎めいた命令》がかなりの確率で来るのが解っている上で、もしシャハーラが最善手を打った場合はどうしようもないので『無い場合』に賭けざるを得なかった、というのがおそらく真実なのでしょう。
ですがもし立場が逆で、白緑を使っているのが積極的に対戦相手を誘導したがるシャハーラであったら、とも思うのです。
という分析はこれくらいにしましょう。
優勝はイスラエルのシャハーラ・シェンハー。
マジックが生まれた時にはまだ生まれていなかった、初めての世界チャンピオンの誕生です。
マジック世界選手権2013 イベントカバレージ
ワールド・マジック・カップ2013 イベントカバレージ
それで現在
現在の日付は8月11日の昼下がり。
アムステルダムの世界選手権からは1週間ほど過ぎたところ。
ポーランド・ワルシャワの歴史地区で特大パフェ的なものとの格闘を終え、のんびりお茶を飲みながらこの記事の結びを書いているところですね。
ちなみに1ポーランド・ズウォティは…
毎回、読み方がわからなくて、今も文明の利器を使ってそのままコピー&ペーストしました。
33円程。
体感での物価は半分といったあたりでしょうか、写真の隣にあるパフェがこの国では結構高額な10ズウォティなので、さぞかし大きいだろと思って適当にその横を指さして注文すると、まず25ズウォティと言われて驚き、目の前にそびえ立つ乳製品の塊を見て追い討ちをかけられました。
おかげで今、全く動きたくありません。
世界選手権からのちの動きを簡単に記すと、
月曜日にアムステルダムからチェコ・プラハ、そこからジュザの家で金曜日までだらける。
金曜日にプラハからワルシャワ行きの飛行機に乗ろうとするも、欠航により目の前が真っ青に、
なんとかカウンターでプラハ〜ブダペスト〜ワルシャワの同日出発の旅券を代替してもらうも、乗り継ぎ時間はブタペストで40分で大いに焦る。
翌朝のグランプリはバイ明け2連勝後、3連敗したというとある怨霊の呪いからか6ゲーム連続で落として初日落ち、悲しみに暮れる。
ホテル近くのポーランド郷土料理店でヤケ注文したらメインディッシュが来る前にお腹がいっぱいになって牛、豚、鳥の前に轟沈する。
翌昼、英語が通じないタクシーと格闘の末、歴史地区でぼーっとしている……
といったところですか。
その間に、ジュザから3ヶ月前に会った時とは別の名前の彼女を紹介されて一人血の気が引いたり、そのちょっと前にもっと洒落にならないアクシデントに遭遇したり、
それで毅然に対応するジュザを見直したのも束の間、数時間後にはいつものジュザだなあと思っていたり。
まあ、相変わらずといえば相変わらずな、隙の多い日々を送っています。
今回の旅では当初掲げていたうちの最低目標は達成できたといったところでしょうかね。
もちろんあくまで最低目標なので、ここから先の1年計画の後ろの方で少し厳しくなってしまいましたが、一応誤差の範囲内。
最悪、グランプリの2点は取り直しの対象にしてしまえば、
いや、あまりしたくはないですね。
やはりプロツアーで当て逃げプラチナを取るのがベストか…とそんな皮算用を気がつけばしてしまうので、これくらいにしたいと思います。
それではまた世界のどこかでお会いしましょう。
ワルシャワ歴史地区外れのコペルニクス像前にて
中村修平