とてつもない旅 その2

更新日 Making Magic on 2014年 4月 23日

By Mark Rosewater

Working in R&D since '95, Mark became Magic head designer in '03. His hobbies: spending time with family, writing about Magic in all mediums, and creating short bios.

原文はこちら

 『ニクスへの旅』プレビュー第2週にようこそ。タイトルに「その2」とついているのでもわかるとおり、今回は『ニクスへの旅』のデザインに関する記事の第2回(そして最終回)だ。後半の話を始め(て、そして楽しいプレビュー・カードを紹介す)る前に、「その1」をさっと振り返ってみよう。

神々はおかしくなくちゃいけない

(このテーマのすばらしさへの愛を込めて)

 寸劇開始。

デザイン・チーム・メンバー1:『ニクスへの旅』をデザインしないと。

デザイン・チーム・メンバー2:焦点は、神々とテーロス世界の住人の対立だ。

デザイン・チーム・メンバー3:まずは神々の側に集中しよう。

デザイン・チーム・メンバー4:神々が本質的にエンチャントに結びついているということを一から確認していこう。

デザイン・チーム・メンバー5:それなら、エンチャント・テーマのメカニズムを作ろう。この最終セットで使うために温存していたんだ。

デザイン・チーム・メンバー1:上陸っぽい上エンチャントはどうだ?

デザイン・チーム・メンバー2:いいねえ、でもそれを持たせるのはエンチャントだけだ。

デザイン・チーム・メンバー3:完了。

 寸劇終わり。

 デザインの中で神々の側だけを見たなら、『ニクスへの旅』のデザインは何の問題もなく簡単で、ドラマも何もなかったと考えるかもしれない(いやまあ、この素晴らしく魅力的な寸劇もドラマではあるけれど)。実際にはもう1つ、対立の反対側には住人の側が存在する。こちらはそう簡単にはいかなかった。実際、ずっと長い物語があり、それこそが今日の本題なのだ。順を追って紹介し、そしてこのセットに存在するもう1つの新メカニズムを持ったプレビュー・カードをお目にかけよう。

定命の者の戦

 まず、「世界の住人」と言ったときに何を意味しているのか定義しておこう。テーロスは、ギリシャ神話に着想を得た世界である。当然重要になるのは神々だが、神々だけでなく、作られた世界そのものが存在する。住人とは、神々とその創造物を除く、テーロス世界に存在するありとあらゆるものである。デザイン空間においては、テーロスの3つのテーマである神々、英雄、怪物のうち、英雄と怪物がそれにあたる。

 神々の側をテーマ付けるのは、ブロックのデザインにおいてエンチャントの扱いを通して強い個性を与えられているのでずっと簡単だった。住人側はそれより多少散漫だ。英雄と怪物について検討した結果、1つのことが明らかになった。英雄のメカニズムは英雄的で、怪物のメカニズムは怪物化と貢納だ。この3つにはどれも共通した性質がある。そう、+1/+1カウンターだ。つまり、『ニクスへの旅』に+1/+1カウンターとうまくかみ合うメカニズムがあれば、住人の側を結びつけることができるのではないか?

 この構想は先行デザインの間に出てきたもので、チームは+1/+1カウンターを使うプレイヤーを有利にするために何ができるかということを調査し始めた。通常、こういう何かを見付けたければ、過去を見直して何か同じようなことをしているメカニズムがないかを探すものだ。そして幸いにも回答が存在した。増殖だ。

かき鳴らし鳥

 『ミラディンの傷跡』ブロックをプレイしていなかった諸君のために説明しよう。増殖は、カウンターの乗っているプレイヤーやパーマネントを任意の数だけ選び、それらにそれぞれ(既に乗っているのと同種の)カウンターを1個ずつ載せるというメカニズムである。先行企画チームはそれと似通った、しかし異なるアプローチを探すことにした。ひらめきの元になったのは、私が『ドラゴンの迷路』で作ったカードだった。

育殻組のヴォレル

 『ラヴニカへの回帰』ブロックで、シミックはカウンターを濃いテーマとしており、私は何かを倍にするのが大好きなので、私はシミックの迷路走者にカウンターを倍にする能力を与えたのだ。増殖の焼き直しのようにも見えたが、全てを少しずつ大きくするのではなく、1つを一気に大きくするのだ。プレインズウォーカーに影響を及ぼすようであればデベロップは不安視するだろうし、エンチャントに影響を及ぼすようであれば神々の側と距離を取れなくなる。しかし、《育殻組のヴォレル》はアーティファクト、クリーチャー、土地にしか影響を及ぼさなかったので、完璧に働いた。我々はこの能力を「強化/enhance」とあだ名し、『ニクスへの旅』の新メカニズム候補として取っておいたのだった。

 『ニクスへの旅』のデザインが始まり、我々は「エンチャント・テーマ」のメカニズムについて議論を交わしたが、強化はそのままでセットに残ることになった。デザイン・チームでデベロップ代理人を務めていたエリック・ラウアー/Erik Lauerは、倍にするメカニズムは少しばかり危険だと忠告してくれたが、いざとなれば倍にするのではなく一定数だけ増やすようにすればいいということはわかっていた。デザインを過激な方から始めるのは、より過激な場合にどのようなことになるかを掴むためである。しばしば、一見しておかしいと思うものが実はそれほどでもないということもある。逆に、想像通りのことになることもあるが、その時はより安全な側に寄せるだけだ。デザインにおいて重要なのは、危険性を廃除することではなく、理想を追求することなのである。

 新メカニズムを2つだけにしたかったので、怪物の場所は+1/+1カウンターを使う個別のカード群と、それらと相互作用できる新メカニズムで埋まることになった。また、『テーロス』や『神々の軍勢』の大部分と異なり、英雄的で+1/+1カウンターを得る効果を白と緑だけに限るのではなく全部の色に与えることでにした。

 そして、デザインの初期に、我々は強化を試してみて、それは楽しかった。倍にするということはエキサイティングなことで、実際に動かしてみると大きくて信じられないようなことがしばしば起こったのだ。最初は、巧く行くようにも思えたのだが、プレイテストの結果はエリックがこのメカニズムを一目見て警告してくれた通りだった。倍にするのはほとんどの場合には問題ないが、問題がある場合には問題どころの騒ぎではなかったので、我々はメカニズムを弱めることにした。このメカニズムの改訂版には数字が入り、「強化2」とか「強化3」といったような表記になった。これをカウンターの乗ったアーティファクトやクリーチャーや土地に使うと、その数だけカウンターを増やすのだ。最初は、強化3を大量に入れたが、プレイテストの結果、それらの多くは強化2に格下げになった。

 強化1についても検討されたが、そうした場合にはこのメカニズムは増殖の完全下位互換になってしまう。そうなると、なぜ増殖を再利用しないのかという議論になるが、増殖は比較的新しいメカニズムなので、どうすべきかわからなくなってしまった。これは、このセットがデザインからデベロップに引き渡されるころの出来事である。

デベロップを眺めてみれば

 「デヴァイン」(デザインとデベロップの中間、デザインがファイルを管理するがデベロップ・チームからのフィードバックも受け付け始める時期)の末期に、デザイン・チームは、強化は使い物にならないと気づき、代替品を探し始めた。ここに到るまでは、+1/+1カウンターを英雄と怪物を繋ぐものだと捉えていたが、問題を精査していくうちに他の方法を探すべきだと気がついたのだ。

アート:Chase Stone

 我々は、住人がメカニズム的にどう繋がっているかを探すのではなく、フレイバー的に何が結びつきになり得るかを考えることにした。神々が、神々が世界に及ぼす力を表すエンチャントを軸にして強く結びついているのは明らかだ。一方の住人は、自分たちを強めることに注力しているように思える。+1/+1カウンターは強化のための1つの手段だが、それだけではない(オーラなどもある)。さらに精査していった結果、我々は、住人のメカニズム的中心にあるのは英雄的メカニズムだという結論に達した。それを手助けする方法は他にもあったかもしれない。

 デザイン・チームは問題を黒板に書き出していった。

  • 英雄的能力とかみ合うメカニズムが必要だ。
  • ブロックのこれまでのメカニズムはほとんどがクリーチャー専用だったので、インスタントやソーサリーにつけられるメカニズムが必要だ。
  • 各セットにマナを消費するメカニズムを入れたいので、そのメカニズムは過剰なマナを消費したいプレイヤーを助けるものであるのが望ましい。

 これらの制約のおかげで、我々は創造性を手に入れ、そして「再供給/resupply」という新しいメカニズムを作った。その働きは次のようなものであった。

〈アジャニの存在/Ajani's Presence〉

インスタント
クリーチャー1体を対象とする。ターン終了時まで、それは+2/+2の修整を受ける。
再供給 (クリーチャーが1体あなたのコントロール下で戦場に出るたび、あなたはを支払ってもよい。そうしたなら、あなたの墓地にある[カード名]をあなたの手札に戻す。)

 この時点でデヴァインは終わり、ファイルを公式にデベロップに引き渡すことになった。デイブ・ハンフリー/Dave Humpherysと彼のチーム(イアン・デューク/Ian Duke、トム・ジェンコット/Tom Jenkot、エリック・ラウアー/Erik Lauer、ケン・ネーグル/Kne Nagle)は再供給のプレイテストを重ねた。果たすべき多くの目標を果たしていたが、少しばかり複雑すぎるということがわかった。また、英雄的カードを大量にデッキに入れているプレイヤーに特に有利になるということもなかったのだ(もう少し後で詳しく触れる)。

 デベロップからもらったメモには、もうすこしバイバックのようにプレイできて、マナが余ったときに何かに使えて、英雄的とコンボになるメカニズムがいいと書かれていた。ある時、デベロップ・チームはバイバックのようなメカニズムを知っていることに気がついた。そう、バイバックだ。

 バイバックというメカニズムに詳しくない諸君のために、手短に歴史の説明をしよう。『テンペスト』のデザインの際に、リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldは、追加でマナを支払うことで、解決時に墓地に行く代わりに手札に戻せるという呪文を提案してきた。わたしはこのメカニズムが気に入って、2つの大きなキーワード・メカニズムの1つとして採用したのだ(もう1つはシャドーだ)。

 バイバックは、強力で好評だった(この2つは関係していることが多い)が、問題もあった。最大の問題は、プレイの再現性だった。バイバックで呪文を唱えられるようになったら、毎ターンその同じ呪文を唱えるだけになる。もう1つの問題は、平均的なプレイヤーに理解できるバイバックへの対策が少ないことだった(バイバック呪文を止める最善の方法は、例えば、対象を除去することによって立ち消えにすることだ。そう、自分のクリーチャーを殺してバイバックを止めるというプレイが重要になることもあった。経験の浅いプレイヤーは想像もしなかったことだ)。

 デベロップはバイバックをファイルに戻し、そして目をこらした。問題がありうるのはわかっているが、英雄的クリーチャーを強化するのにはすばらしい働きをするのもわかっている。挑戦する価値はある。彼らはバイバックに取り組んだ。バイバックを持たせる呪文を絞り込んだ。制限をかけようとした。対策カードをデザインしようとした。しかし、結局のところ、巧く行かなかったのだ。

結集の時

 デイブ・ハンフリーは第1子の誕生に向けて父親産休を取り、不在中のリード役をエリック・ラウアーに託した。エリックはバイバックが無理だとわかっていたので、デイブの不在中に何かその代替となるメカニズムを探していった。エリックはデザイン・チームと同じ制約の下で別の選択肢を見付けた。「結集/rally」と名付けられたメカニズムは、次のようなものだった。

〈アジャニの存在/Ajani's Presence〉

インスタント
結集 (あなたはこの呪文を唱えるに際し、追加でを望む回数支払ってもよい。)
クリーチャー1体を対象とする。ターン終了時まで、それは+2/+2の修整を受ける。あなたが結集した1回につき、それぞれ、別のクリーチャー1体を対象とする。ターン終了時まで、それは+2/+2の修整を受ける。

 結集は、追加のマナを支払うことで呪文が追加の対象を取れるようにする、というものだ。鍵となるのは、各クリーチャーは1度しか対象にできないということである。エリックは、再供給やバイバックのような英雄的クリーチャー1体だけを使うことを推奨するメカニズムにせず、英雄的クリーチャーが多数いる時に使うものにしたかったのだ。これによってプレイヤーは住人を使って「広く」プレイし、英雄的を主軸的メカニズムのように扱うことを推奨されるようになる。

 エリックは結集を弄り、そして狙い通りのものだとわかった。戻ってきたデイブは、エリックがバイバックを新しいメカニズムと差し替えたと知ったが、その目にしたものを気に入ったので結集(後に奮励と名を変えた)はそのままセットに残ることになった。

 このセットについてはもう少し語ることもあるが、奮励から離れる前にやることがある。今日のプレビュー・カードは奮励カードで、面白い奴だ。それでは諸君、〈双つ身の炎〉をご覧あれ。

 私がプレイヤーとして大好きな、頭を捻ってどんな楽しいことができるか考えさせるタイプのこのカードを私のプレビュー・カードとして紹介できることに興奮しているよ。諸君皆がこのカードで最高のプレイをしてもらえれば幸いだ。

おっとまだ終わりじゃないよ

 星座と、「エンチャント・テーマ」については語った。奮励と世界の住人については語った。それで全てでは、ない。まだほかにも『ニクスへの旅』には語るべきことが残っている。

おお神々よ

 『ニクスへの旅』には第3の、そして最後の神々のサイクルが存在する。敵対色の神々だ。敵対色の神々と友好色の神々を違うものにするかどうかの議論があったが、最終的には、基本的なデザインが気に入っていたことから数字を同じにすることにした。友好色の神々同様、敵対色の神々にもアーティファクト・エンチャントの武器のサイクルは存在しない。

信心のために

 5柱の神々を除いては、『ニクスへの旅』には信心が存在しないことに気付くだろう。その理由は、なぜ信心がこのブロックに最初存在していたのかという話になる。ブロックが進むにつれ、世界の住人は神々への信仰心を忘れ、その結果このセットで描かれる対立に到った。これがブロックの進展なので、住人と神々の間の断裂を表す方法を見付けるのは重要だと感じたのだ。そのため、両者の間の繋がりを示すものが必要だった。

 そこから信心という構想が生まれたのだ。神々と住人の橋渡しとなるメカニズムが必要だった。『イーヴンタイド』の彩色メカニズムはまさに相応しかった。しかし、ブロックが進み、住人が神々に疑問を持つようになったなら、信心は除かれなければならなかったのだ。信心デッキを使うプレイヤーがいるのはわかっているので、信心と相性のいいマナ・コストを持つパーマネントを入れるように努めた。

怪物的株式会社

 『ニクスへの旅』のデザインのほとんどの期間、+1/+1カウンターの違う使い方をする怪物のデザインの1つを作ることだった。その後、強化メカニズムでそのカウンターを倍にしようとした。メカニズムが再供給に変更になって、さらにバイバック、奮励と代わっていって、怪物からどんどんメカニズム的な焦点が外れていった。デイブ・ハンフリーと彼の率いるデベロップ・チームは、怪物をまとめるなにかが必要だと気がついたのだ。

〈ハイドラの繁殖主〉 アート:Steve Prescott

 セットにすでに2つメカニズムが存在しているので、さらなる新メカニズムを作りたくはなかったが、怪物の軸となるものはどうしても必要だった。ある日、誰かが何ともなく呟いた。「怪物化はどうだ?」と。我々は貢納を入れるため、『神々の軍勢』からこのメカニズムを取り除いたが、このメカニズムにはまだまだデザイン空間が残されていた。『ラヴニカへの回帰』の5つのメカニズムは全てが第2セットで一旦消えて、第3セットで戻ってきている。怪物化がそうしたとして、どうなる?

 チームは新しい怪物化カードをデザインしはじめた。このメカニズムは『テーロス』出身なので再録に相応しい。ということで怪物化が戻ってきたのだった。

エンチャントされた

 『テーロス』ブロックに存在せず、『ニクスへの旅』で華々しく登場したのがクリーチャーでもオーラでもないエンチャントである。『ニクスへの旅』では、ただ「エンチャント・テーマ」を導入しただけでなく、昔ながらの純粋なエンチャントも導入したのだ。『テーロス』や『神々の軍勢』で存在しなかったことについてはずっと話に登っていた。理由は単純で、クリーチャー・エンチャントを入れるためにエンチャントの場所がなくなっていたのだ。『ニクスへの旅』は、「エンチャント・テーマ」のために一定量のエンチャントが必要なので、最終的に、昔ながらの基本的なエンチャントを入れる場所ができたというわけである。

旅を楽しめ

 見ての通り、この週末のプレリリースで探求すべきことはいくらでもある。我々は『ニクスへの旅』で、これまでの流れを守り、そして新しい一ひねりを加えることに注力してきた。諸君が愉しんでくれれば幸いである。そして、このセットに関する諸君の意見を募集している。メール、掲示板、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『ニクスへの旅』のカード個別のデザインの話をする日にお会いしよう。

 その日まで、あなたの旅が楽しいものでありますように。


Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

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