エンチャント特集と言うことで、新しい企画「タイプのお話」をお送りしよう。一人称語りと言えなくもない。
マロー: やあ諸君。諸君7人に集まってもらったのは他でもない、新商品『Friends』の立ち上げのためだ。『Friends』は、ギリシャ神話をモチーフにしたセットになる。そこで、デザインの中でカード・タイプの中の1つに多少焦点を当てた作りにしたいと思っているのだ。
インスタント: 俺がやる。俺がいいに決まってる。
マロー: 落ち着いてくれ、インスタント。まだ私の話は終わっていない。この会議に全カード・タイプを召集したのは、何がこのデザインに一番しっくりくるかを全員と語り合いたいからなのだ。
マロー: インスタント。
インスタント: なぜ俺が相応しいか、説明してもいいか?
マロー: ちょっと待ってくれ。諸君がそれぞれにこれまでどう使われてきたかをよく知っているのはわかっている。だからこそ、全体会議で『Friends』の主役をすべき理由について語ってもらうのが一番だと考えたのだ。
インスタント: もういいか?
マロー: インスタント。最初に君に話させるから、もうちょっと待ちたまえ。いいね?
インスタント: わかった。
マロー: この会議の前に、諸君には イーサン/Ethanのまとめたギリシャ神話に関する資料に私のメモをつけて送ってある。さて、ここで。自分は注目を浴びるべきカード・タイプかね? もしそうでなければ、誰が最適だろうか? これが質問だ。わかったかね。
インスタント: ああ。
クリーチャー: 了解です。
アーティファクト: わかりました。
プレインズウォーカー: そうですか。
エンチャント: もちろん。
土地: はい。
マロー: ソーサリー?
ソーサリー: 大丈夫、わかっているわ。
マロー: よし。それじゃインスタント、はじめてくれ。
インスタント: サンキュ。俺は俺が注目されるべきだと信じている。他のカード・タイプはブロック単位で注目を浴びたことがあるだろう? アーティファクトは『ミラディン』と『ミラディンの傷跡』、さらに『アラーラの断片』のエスパー。土地には『ゼンディカー』。エンチャントは『ウルザズ・サーガ』。他のブロックはどれもクリーチャーが主役だった。『オンスロート』や『ローウィン』は部族がテーマだったが、これはクリーチャーの亜種だろう。プレインズウォーカーは注目を浴びるほど数がない。後残ってるのは俺とソーサリーだけで、いつも俺たちはひとまとめに扱われることができるから問題ない。
アーティファクト: マローの質問は、誰の番かということではありませんでした。彼は、誰がギリシャ神話の世界にもっとも相応しいかということを聞いていたではありませんか。
インスタント: 俺が相応しい。
アーティファクト: なぜ、相応しいと思うんですか?
インスタント: あー……うーん、そうだ、ゼウスは《稲妻》を使っていた。ほら、インスタントだ。
アーティファクト: このセットにインスタントは存在します。問題なのは、なぜインスタントが注目されるべきかということです。例えば、ギリシャ神話には重要なものがいくつもあります。パンドラの箱、トロイの木馬、ヘルメスのサンダル、ヘパイストスの槌……
マロー: 待ってくれ、書き留める。
アーティファクト: アーティファクトはギリシャ神話で一定の地位を占めています。インスタントが重要視される理由はわかりません。
クリーチャー: たしかに、ギリシャ神話にはアーティファクトも少しは存在します。ですが、それよりずっと多いものをご存じでしょう。クリーチャーです! ミノタウルス、ケンタウルス、ペガサス、サテュロス、ゴルゴン、サイクロプス、ドライアド、スフィンクス、グリフィンニンフ、トリトン、海馬、キマイラ、クラーケン、ハーピー、ハイドラ、それに数知れない人間の兵士もいます。
土地: 待ってください、クラーケンは北欧神話で、ギリシャ神話ではないですよ。
クリーチャー: それなら海蛇でどうです。重要なのは、ギリシャ神話とはクリーチャーそのものだということです。何かに注目を浴びせるというのなら、選ぶまでもなく私でしょう。
インスタント: まだ注目され足りないのか? カードの半分以上はお前じゃないか! まだ足りないって? スポットライトを浴びたことのない奴に譲ろうって気はないのか?
クリーチャー: 申し訳ありませんが、私が注目されるのは、他の皆さんよりも面白いからですよ。
プレインズウォーカー: 今、箱を開けたときに一番注目されるのは誰だと思います? 誰がセットの一番のウリになっていると思います? もちろんこのボクですよ。
クリーチャー: 神話レア3枚を確保してるじゃありませんか。どうやってそれ以上「注目を集める」んです?
プレインズウォーカー: これ以上注目は必要ないですよ。ボクはもう充分注目されてますからね。
クリーチャー: ……じゃあ何で声を挙げたんですか。
プレインズウォーカー: あなたをからかうのが楽しいからですよ。
土地: 私は、ギリシャ神話の中心は神々だと思います。ですから、どのカード・タイプが主役かと言われれば、神々を描くのに相応しいカード・タイプに焦点を当てるべきだと。
クリーチャー: つまり、神々はクリーチャーなんですから、私ですね。
土地: そうでしょうか?
クリーチャー: どういうことです? 神々は生きています。呼吸をする、感情のある存在です。クリーチャーじゃないとでも?
エンチャント: んー、土地が言ってるのは、神々はただのクリーチャーじゃないってことじゃない?
土地: 神々は、世界に影響をもたらす存在です。つまり、物事のはたらきを定めるルールを変化させるのです。この点はどうですか?
クリーチャー: エンチャントだとでも言うんですか? 冗談でしょう。コモンに存在できるエンチャントは、オーラだけなんですよ。オーラが神々とどう関係するっていうんです?
土地: 神々が、世界の定命の者にもたらす影響を表すにはいいのではないでしょうか。
インスタント: おいおい、エンチャントはもう主役になったことがあるだろう。神々の影響力はインスタントに任せろよ。ああ、もちろんソーサリーにもな。ソーサリー、お前もそう思うだろ?
エンチャント: 一つだけ言わせて? 確かに一回は開発部がブロックの主役にしてくれたけど、そこには壊れたアーティファクトが山積みで、「アーティファクト・サイクル」と呼ばれてたよね。
マロー: それはブランド・チームが呼んだだけで、開発部はエンチャントをテーマにしたと伝えているよ。
エンチャント: 『ウルザズ・サーガ』には9枚の禁止カードがあって、これはアルファ版の次に多いのよ。でも、エンチャントをテーマにしたセットなのに、エンチャントで壊れたカードはないの。禁止カードの内訳は、3枚が土地、3枚がソーサリー、あとはインスタントとクリーチャーとアーティファクトが1枚ずつ。当時あったカード・タイプのうちで禁止されてないのは私だけ。そのセットのテーマは私だったのに!
クリーチャー: つまるところ開発部がデベロップに丸投げしたのに強いエンチャントはできなかったんですね? それがなんでお前を主役にするってことになるんです?
エンチャント: マロー、土地の言う通りよ。ギリシャ神話を描きたいなら、神々が世界にもたらす影響を描かなきゃならない。私はそれができる。環境に影響を及ぼすのは、私の仕事だもの。
アーティファクト: 私達もできますよ。
エンチャント: アーティファクトは目に見えるものでしょ。ギリシャ神話にはそうじゃない神々の魔法が一杯だわ。
インスタント: ああ、魔法が一杯だ。神々は行動し、魔法を使い、そして何かが起こる。その魔法ってのは俺たちだ。俺とソーサリーだ。ソーサリー? おい、ソーサリー、なんで黙ってるんだ?
土地: そうとは限らないでしょう。一例を挙げると、神々が姿を見せ、定命の者に何か試練を与える。この試練を通して、その定命の者は英雄になる。これをどうやってインスタントやソーサリーで描くんですか?
インスタント: クリーチャーに、ターン終了時まで残る誘発型能力を与えりゃいいじゃねえか。
土地: 試練がそのターンで終わらなければどうですか?
インスタント: 複数ターンに渡る効果は確かに専門外だな。
土地: 長期間の効果を作ることはエンチャントの本領です。毎ターン誘発することもできますし、カウンターを置くこともできますし、次第に強まる効果を描くことさえできます。実際、神々の影響を受けたクリーチャーを描くには、オーラこそが最適です。
アーティファクト: パーマネントなら誰でも長期的な効果を描くことはできます。トップダウンで重要なのは、象徴になれるかどうかです。そして、象徴と言えば私でしょう。
クリーチャー: いいえ、確かにあなたも象徴を務められるかもしれませんが、私の方がより象徴的ですよ。クリーチャーに与えられる神々の影響をわざわざ別のカードを使って描くことはないでしょう。ただクリーチャーをそうデザインすればそれでいいんです。スレッショルドのようなメカニズムを考えてください。クリーチャーを出しているときに、神々が存在すれば修整を受ける、みたいな。神々が存在すればクリーチャーが強化されるんです。
土地: そんなことをすると、メカニズムが孤立的になってしまいます。そのクリーチャーは神がいなければ使い物になりませんよね。神々はおそらく神話レアになるんですよ。プレインズウォーカー、あなたはどれぐらいパックから出てきます?
プレインズウォーカー: 大型セットなら、だいたい40パックに1回ぐらいですね!
土地: つまり、リミテッドではほとんど強化されることのないクリーチャーを入れたいということですか?
クリーチャー: 私はただ頭に浮かんだ一例を挙げただけです。マローや彼のチームはもっとクールな方法を見付けてくれるでしょう。
土地: それに、英雄や怪物もこのセットでは焦点となります。英雄や怪物はデザイン的にどう考えてもクリーチャーでしょう。
クリーチャー: 複数のメカニズムが私をテーマにすることはよくあります。まあ、私と同じぐらい重要なカード・タイプがあれば、それも複数のメカニズムを得ることがあるんじゃないですか。
土地: クリーチャーレスのデッキを作るプレイヤーもいますけどね。
ソーサリー: いいかしら?
インスタント: もちろんだ!
ソーサリー: このメモの中で、マローは彩色を戻そうかって言ってたと思うのね。信心という名前にして。
マロー: その通り。
ソーサリー: この信心っていうのが、定命の者と神々の間のポジティブな繋がりを表すのなら、神々の影響を表すカード・タイプが何であれ、それが信心に入ることが重要だと思うの。そうでしょう?
土地: パーマネント、それも色つきマナをマナ・コストに持つパーマネントであるべきだと言うんですか。
クリーチャー: 私とエンチャントだけですね。
アーティファクト: 普通は私は無色ですが、色つきのアーティファクトもいますよ。
クリーチャー: ギリシャ神話の色つきアーティファクト?
インスタント: おい、ソーサリー、初めて言ったのが俺たちは相応しくないってどういうことだ? 黙ってりゃよかったじゃねえか。
マロー: 信心というのは目の付け所がいいな。
クリーチャー: 色つきマナ・コストを持つカード・タイプが必要というのはいいとしましょう。では、エンチャントができることの中で私にできないことはなんですか? 神々はクリーチャーです。祈りを捧げる側もクリーチャーです。英雄は? クリーチャーです。怪物は? クリーチャーです。ギリシャ神話とはクリーチャーなんです。
アーティファクト: クリーチャーの他に物もありますよ。
土地: 舞台もね。さておき、マローが必要としているのは、神々のエッセンスを体現する存在です。神々そのものの話はしていません。神々の影響力が必要なのです。
インスタント: ちょっと連想ゲームをさせてくれ。いいか? プレインズウォーカー、今から単語を言うから最初に思いついたことを答えてくれ。いいか? ゼウス。
プレインズウォーカー: 神々の王、ですね。
インスタント: 外れ。《稲妻》だ。
プレインズウォーカー: 最初に思いついたことを言えって言ったじゃないですか。あなたの考えた正解を当てろって言うなら当てますけど?
インスタント: 神々の王ゼウスと言えば、真っ先に出てくるのは《稲妻》だろ。《稲妻》はインスタントだ。神々の行い、つまりは神々の影響はパーマネントなんかじゃなく呪文に決まってる。
土地: 確かに、君が主役になったことがないのは認めますし、いずれ主役になる日もくると思いますが、神々の影響力はパーマネントでなければ描けませんよ。そう、パーマネントでなければ。
インスタント: いつだって主役はパーマネントかよ。インスタントは瞬間的すぎる? インスタントは使い捨てだ? インスタントは残る物じゃない? はっ!
エンチャント: インスタント、言ってることはわかるわ。でもあなたは私よりずっと恵まれてるじゃない。私は主役になるべく準備されていたブロックで主役を奪われ、プレイヤーにもブロックのテーマだって思われてなかったのよ? あなたも出番が欲しいかもしれないけど、私だって出番が欲しいわ。
マロー: じゃあ、エンチャント。自分を売り込んでみろ。
エンチャント: え、はい! じゃあ、1つだけ……《輝く透光》。
マロー: 私がそのカードを嫌っているのは知っているだろう?
エンチャント: ええ。知ってるわ。『未来予知』のときにも私はいたもの。あなたが嫌いなのは、《輝く透光》がエンチャントらしくなかったからよね? でも、クリーチャー・エンチャントというアイデアそのものは嫌いじゃないでしょ?
マロー: もちろん、アイデアは気に入っている。しかし、その両方のカード・タイプを必要とする方法が見つかるまでは作る気はない。
クリーチャー: ん? それなら、エンチャント。あなたは私と協力したいということですか?
エンチャント
クリーチャー・エンチャントを作り上げるために重要なのは、なぜその両方でなければならないかということよね。アーティファクト・クリーチャーは、無色マナ・コストでアーティファクトとして作られた存在だからアーティファクト・クリーチャーなの。じゃあ、ギリシャ神話でクリーチャー・エンチャントに意味づけするのはなんだと思う?
マロー: 続けたまえ。
エンチャント: 神々はクリーチャーよ。だけど、ただのクリーチャーじゃないの。理想や思想を描いている、人生のあり方を決める存在なの。
マロー: そうとも取れなくはないか。
エンチャント: アーティファクトさん、私とあなたの違いは何?
アーティファクト: 私の方が人気がありますね。
エンチャント: そうじゃなくて! フレイバーの話!
アーティファクト: 私は有形の存在で、あなたはそうではありませんね。
エンチャント: クリエイティブ・チームはどうやって区分けしてると思う?
アーティファクト: 私は物質的なもので、あなたは魔法的なエネルギー、ですか。
エンチャント: あるいは、私は何かの状態で、実体すらないこともあるでしょ。
クリーチャー: それで?
エンチャント: 神々は有形? そうとは限らないわよね。ほとんどの場合、神々は私のようなエネルギーでしょ。
マロー: つまり、神々こそがクリーチャー・エンチャントに相応しい、と言うのかね?
エンチャント: はい。有形の時もあれば、無形の時もあるというところでもそうだし、それだけじゃないわ。ギリシャ神話は神々が定命の者に影響を及ぼす話よね。私は神様を体現できるだけじゃなく、神々の影響を描くこともできるのよ!
マロー: 続けたまえ。
エンチャント: 重要なのはオーラよ。オーラはゲーム内の物品にずっと影響を与え続ける魔法そのものよね。
アーティファクト: 私にも装備品があります。
エンチャント: 装備品にはオーラよりいいところも色々あるわ。でも、影響力という意味ではおかしいでしょ。装備品は物品だもの。武器とかそんな感じ。オーラはその名の通り輝きなの。辞書を見ても「人や場所や物から発生して広がるように見える性質や雰囲気」となってるわ。人や場所や物、つまり、クリーチャー、土地、アーティファクトよね。
マロー: 全体エンチャントはどうかね?
エンチャント: オーラと同じように考えればいいと思うわ。オーラは個々に着いて、直接神様が何か力を及ぼしているの。それに、神様そのものだけじゃなく、その生み出した存在もクリーチャー・エンチャントにできるわ。
クリーチャー: いいですね。クリーチャー・エンチャントをもっと検討してみませんか。
アーティファクト: アーティファクト・エンチャントはどうです?
マロー: それは何を表すのかね?
エンチャント: どうかしら? 神様が作ったアーティファクトならアーティファクト・エンチャントになるんじゃない?
マロー: ふむ。エンチャントと土地の言っていたことが気に入ったな。諸君の意見を聞かせてくれたまえ。
インスタント: 気に入らねえな。エンチャントの言ってることはわかるが、他にも検討すべきことがあるんじゃねえのか?
クリーチャー: 私に注目しないとかあり得ないです、でもエンチャントの意見によるとクリーチャー・エンチャントを重視するようですから、それでいいとしましょう。
アーティファクト: インスタントに同意します。もう少し色々検討が必要でしょう。
土地: もちろん私はエンチャントが相応しいと思っていますよ。
プレインズウォーカー: 皆が注目するのはボクですから。ボクには関係ないですね。
マロー: エンチャントが『テーロス』に相応しいかどうか考えを聞いているんだが。
プレインズウォーカー: 神話レアにボクの席は3枚あるんでしょう?
マロー: まあ。
プレインズウォーカー: それならやっぱりボクには関係ないです。ボクがこれ以上プッシュされたら大変ですからね。
エンチャント: 私の言っていることは伝わってると思うけど。
マロー: ソーサリー? 賛成3、反対3というところなんだが、君はどう思うね。
ソーサリー: そうねぇ、エンチャントはいいんじゃないかしら。他の選択とかあり得ないでしょう?
インスタント: ソーサリー、お前もか!
土地: そのセリフはローマですね。『テーロス』はギリシャですよ。
マロー: よし、答えは出たとしよう。諸君の協力に感謝する。
エンチャント: 興味があるなら、ブロック中に私を改造する方法を教えてあげるわよ?
マロー: 興味はあるな。ゆっくり聞かせてもらおうか。
インスタント: これからどうする?
土地: マローがいなくなったんですから、これで解散としましょう。
クリーチャー: マローはコメントに飢えているらしいです。各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+)で伝えて欲しいそうです。
土地: マローはまた次回、カードごとの話の第2弾で会いたいでしょうね。
ソーサリー: その日まで、あなたのタイプがあなたとともにありますように、ね?
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)