プロツアー「テーロス」編・新環境考察記録

更新日 Making Magic on 2013年 10月 30日

By 中村 修平


「音」の話

 時々ですが、日本語は本当に『音』を重視する言語なんだなと思います。

 例えば人の名前で、「マイケル」「ミハエル」「ミゲル」「ミカエル」。

 日本人的にはどれも別個の言葉として認識されているように思えるのですが、アメリカ人からすれば全部「マイケル/Michael」、基本的に英語読み一択。

 あるいは本人からのリクエストがあればその都度考える、というようなスタンスを取っていて、むしろそういう人は面倒だからと「いっそのこと苗字で呼ぶか」っていう人が多い気がします。

 カルカノ/Cristian Calcanoを『クリスティアン』って名前で呼んでる人、アメリカ人で見たことありません。まあもちろんカルカノだから、という説も否定しませんけど。

 しかし日本語というものは、うんざりするぐらいの代名詞の多さや、向こうでは「神戸」由来の単語を「コービー」として使っているのに比べて現地読みを徹底している律儀さ、昨今のキラキラネームから明治の西洋かぶれ名前まで語感が良ければ即採用、当て字でも気にしない。

 そういえば当て字とは言うけれども漢字はそもそも中国からの借り物で、しかもわざわざ音読み訓読みと中国語由来、日本語由来で二通りも別々の音を用意していたりと、音を気にする側面はかなりある気がするんですよね。

 と、なんでこんなことを唐突に書いているかというと、プロツアーへの調整一日目からして音に感するカルチャーショックを覚えているからです。

 さっきからチャネル・チームの間で飛び交っている「サイア」「センター」「セルベウス」とは一体?

サテュロスの享楽者ケンタウルスの戦上手

死の国のケルベロス

 答えは、「サテュロス/Satyr」に、「ケンタウルス/Centaur」に、「ケルベロス/Cerberus」。

 たしかにそのまま英語読みすればそうなるね。とタネさえ解れば何のことはない話なのですが、ただでさえ聞き取りに難があるのにこういう側面攻撃を食らうとかなり面食らってしまいます。

 ましてや、完全に時差ぼけを食らっていて起床時間が20時間を超えているいるような昼下がりとなるとね…

 このところ恒例になっているラスベガスのイーフロウ邸。

 9月最終週の金曜日から翌金曜日まではここで練習に明け暮れていました。

 登場人物は次回にご紹介することとして、今回はプロツアーに向けてのリミテッド、スタンダードの研究について書いていきたいと思います。

新環境リミテッドの最初の一歩

 「怪物的」「英雄的」「信心」「占術」といったキーワード能力、それらの配置と分布。さらに基本スペック、その標準値からの偏りなどなど……

 かつてドラフトというのは、与えられたカードプールの中からわずかな手がかりをもとに最適な答えを探し出すゲームでした。

 ある程度は意識されていながらも手つかずのカードの連なりから、自分自身でより強力な戦略を組み立てるという作業。

 おそらく開発者はパズルのピースだけを用意して、その化学変化については予測はすれど組み立てについてはノータッチというくらいのスタンスだったのだと思います。


じゃないと説明がつかない。

 ですが当代のドラフトというのは開発者がより関与の度合いを強めています。

 読み解くべきテーマはむしろ、「このセットを作った人間は、どのような世界を構築しようとしたか」。

 開発部が用意した箱庭の世界から、隠されているパズルのピースを見つけ出して繋ぎ合わせるというゲームへと変わりつつあります。

 基礎的なマジックの技量や技術、例えば古典的な青白飛行ビートダウンというのはもちろんそこでも通用しますが、その部分のみを使って構築したデッキの素点が「10点」だとすると、開発者が意図して用意したレールに沿ったデッキはだいたい素点で「15点」くらいにはなるようにできているのです。

 もちろん私としては最終的にはその開発者の仕込みすら超えて、開発者に「これは予測できなかった。参った」と言わせるのが目標ではありますが、まずそのためには環境の設計図、開発者が意図しているテーマを知ることが必須。超えようにもその壁の高さが解らなければ、です。

 それでは実際に、環境にどのようなアプローチで切り込んでいくか。

 第一歩は直感ですね。

 過去の経験から踏まえて、自分が強いと思う組み合わせでデッキをドラフトしていきます。

 今回のドラフト初デッキは青黒コントロール。

 《記憶の壁》はさすがに強いだろう……と思ったのですが失敗です。

記憶の壁

 残念ながら環境にまともな除去はほとんどありませんでした。

 なるほど、除去が弱い。それならばクリーチャーは?

 思った以上に強いようです。自分ではあまり出来がよくないと思っていた、ただの緑デッキが思ったよりも勝ててしまいました。サイズ押しという戦略はそれなりに有効なようです……

 と、こういうふうにちょっとずつ標準的な感覚から『テーロス』環境へと感覚を調整していく作業。これは基礎的な10点、その部分をマスターする為にどうしても必要。

 また、同時に意識を大幅に変えなくてはいけない部分があるのも忘れてはなりません。追加要素の15点への学習です。

 特に開発者が最も焦点を当てたいであろうキーワード能力については注意。素点が大幅に違うということは、これまでの常識を覆すようなことがあるとみるのが当然なのです。

 この相矛盾する要素を自分の中で昇華できて、ようやく入り口に立てたという感覚になります。それまでは本当に試行錯誤の繰り返し。16点目はまだまだ先。

 ですが手がかりとなるもの、そして補助具も、かつてからは比べものにならないくらい充実しているのです。

 個人的には、開発者がコラム(今回の場合は「Latest Development:リミテッドでの色のペア・パート2」)で環境の成り立ちそのものを書くようになったのと、それなりに有用なドラフトシミュレーターが出てきたのは大きな変化ですね。

 コラムには何が強いかというのがそのものずばり書いてあることがほとんどですし、シミュレーターは各カードの順位付けを、実際に出くわすその場面で試行してはっきりと積み上げていくことができます。

 とっつきはかなり手こずらされましたが、練習4日目辺りでどうやら当たりを引いたな、と感じてからは大分勝率も戻してきて自信がついてきました。

 というわけで環境のTipsに入りたいと思います。

『テーロス』リミテッドの分析

 私の今回のドラフト指針として、まず主軸となる2つの大テーマがあります。

 それは「英雄」と「怪物」。

 この2種類はコインの表裏のようなものですね。

 どちらも巨大なクリーチャーを作るというコンセプトに変わりはなく、英雄はオーラ全部載せ、怪物はマナを払って怪物的、という手法の違いはあれど、環境に与えている影響は同じです。

 英雄的になりすぎたクリーチャーが無双したり、《ネシアンのアスプ》が怪物的になって全く止まらないままゲームが終わるというのはこの環境では日常なのです。

 命題:大きいクリーチャーを用意することは良いことである。

 これを基準に置き直した場合に、実際に標準的なドラフトとどう変わっていくのか。

 それを読み解いていくのが、すなわちパズルを解くということなのです。

大きいクリーチャーを推奨している。つまり除去が弱いというのは当たり前。

 開発者がこのテーマに沿うように、《破滅の刃》のような「なんでも殺せる除去」を極端に少なくしています。

 そしてダメージやマイナス修整というのはこの環境ではあまり上手く作用しません。なぜなら大きいクリーチャーを推奨している以上、3〜4といった中途半端な値を当てたところで殺せる見込みが薄いのです。

 それならば英雄的になる前の状態のみに特化した軽量除去の方がまだ強い。

 ですが除去の中で最も信頼がおけるのはバウンス呪文。

 本来は手札に返すだけというのはデメリットですが、この環境ではたくさんついたオーラを剥がして一般人に戻すことや、怪物化に使うマナを無駄にさせて実質2ターンを飛ばすといった、通常のゲームよりはるかに強い使い方が可能です。

航海の終わり海神の復讐

 逆に怪物であればこういった状況に耐性があるカード、つまり怪物的にならない時点で既に強いカードや、怪物化するタイミングをこちらで引っ張れるカードが、英雄であればこれら妨害を弾く《神々の思し召し》やアドバンテージを失わないカードの数々が有効となります。

大きいクリーチャーを推奨している。つまり裏を返せば横に並ぶデッキはあまり強くない。

 大きなクリーチャーの弱点とは何か。それは小さなクリーチャーがたくさん殴りかかってきて立ち往生させられる、あるいはそんな状況だから殴りにいけない、という展開です。

 もしセットが大きなクリーチャーを推すのであればこういうシチュエーションは極力排除しようとするはず。

 そして実際にその通りなのです。

 2マナクリーチャーはそれなりの数が用意されていますが、性能的にはかなり見劣りがします。この環境で2マナを並べるというオーソドックスなスタイルが許されるのは、せいぜい白赤くらい。

 あとは大抵、単なる2マナ2/2にはほとんど価値がないと言ってもよいのがこの環境です。

 そしてさらにそこから派生して、質の高い2マナクリーチャーは何よりも重要ということにも行き着きます。

 例えば英雄側から見ればオーラ全部載せの対象が《旅する哲人》であれば残念すぎるのでそうならないようにするのは当然ですし、緑であれば《旅するサテュロス》はより怪物を早く召喚するのにうってつけで緑のトップコモンといえるスペックになります。

戦識の重装歩兵旅するサテュロス

実際のデッキに運用するとなると

 怪物デッキは緑か赤が主体の重量級デッキ、英雄デッキは白が主体、たまに緑のオーラを多めに入れたコンボデッキ風となります。

 色的には青が最強なのは間違いないですね。コモンで一番有用な除去に、コモンで一番有用な授与、それにもっとも欲しい2マナの軽いところから重いところまで飛行クリーチャーが揃っている。

 全くもって言うことがありません。

 一応で順位を付けるならば次がクリーチャーのサイズが他と一回り違う緑、そして3位が同率で白と黒で続き、赤が最弱となりますが、青以外は特に優劣がないですね。

雨雲のナイアード蒸気の精

授与

 ここまでの話はいかに大きなクリーチャー推しをセットでしているか、でしたね。小さいクリーチャーを大きく、大きいクリーチャーをより大きくする授与が弱いはずがありません。

 授与に関して言うと、どちらのデッキにおいても非常に強力なので、強い授与は見たら即取るというだけの存在です。特に授与が絡んだから、というコンセプトは存在しません。

 ただ注意してもらいたいのは授与について、まず「オーラ」として見るべき、という点です。従来のオーラが弱点としていた「付け先が無く手札で無駄にしかならない」という状況を回避できるオーラ、ということです。

 素の状態で強い「使者」クラスならばともかく、《目ざといアルセイド》なんかは、切迫にブロッカーが欲しい時以外は、例えマナが空いていてもほとんどの場合出すべきではないと私は考えています。

 例えば《雨雲のナイアード》。

 《幽体の飛行》に追加の3マナを払うだけで、殺されても2/2飛行が残る。

 素晴らしい!

 しかも緊急時には3マナでただの2/2飛行としても出せてしまう。

 なおのこと素晴らしい!!

 ですがクリーチャーモードはあくまで緊急回避。よく《希望の幻霊》が高評価されていますが、クリーチャーとしてのスペックはただの1/1絆魂です。

 『ラヴニカへの回帰』環境で《訓練されたカラカル》は何手目クラスでしたか?

 『基本セット2014』環境で、《吸血鬼の印》4枚というデッキはどうでしたか?

希望の幻霊訓練されたカラカル

第三の道・黒

 最後にここまでの話とは全く違う第三の道。

 信心について、というよりは黒。いや、むしろ《アスフォデルの灰色商人》と言い切った方がよいかもしれません。

アスフォデルの灰色商人

 総合力で見れば黒は良くても全体から3番目の評価しかありませんが、このカードのお陰で常に卓内最強デッキとなる可能性があるのです。

 なぜ黒だけが? それは信心は各色にありますが、カード評価では(神話なアイツはどうせ出ないので除外すると)《アスフォデルの灰色商人》の完全なる一強状態だから。

 なぜこれがコモンにあるのか目を疑うレベルのカードなのです。緑が草場の蔭で泣いています。

 だいたいこれが3枚もデッキに入っていたらそれだけでそこそこのデッキと言っても差し支えはありません。

 初日を2敗で通過した私の、グランプリ・オクラホマシティ2日目の1回目はまさにそういうドラフトでした。

 1パック目の序盤に《アスフォデルの灰色商人》だけを抑えていて、最終盤で黒の中位カードが流れていたのでとりあえずで取っていたところから、2パック目初手に《エレボスの鞭》。

 これを取るだけとって様子を見ようとしたところ、黒の大豊作で3−0デッキの完成です。

中村 修平

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 ポイントとしては、この環境の黒は「クリーチャーは黒であること」を要求しますが「単色である必要は全くない」ということですね。

 ほとんどの場合、4ターン目にが用意できれば問題がないので、実質黒だらけでも《》10枚にして2色目を探す余裕があるのです。

 このデッキでは途中で色替えした代償として取れなかった呪文枠を誤魔化すための《解消》を入れていますが、より完成された黒青であれば呪文が全て青であったりしても問題はないのです。

実践例・その2

 というわけで3−0で折り返し、第2ドラフト。

 ビデオカメラもついてやる気溢れる状態で構築したデッキがこちらです。

中村 修平

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 1パック目で青を固定させて、2パック目以降の流れから英雄の白、怪物の緑、コントロールの黒のどれかを選択する。

 この環境で私の得意パターンとも言える動きを経て選んだのが青白英雄デッキ。

 3パック目初手で使いうる白いカードが4枚もあるのと、2-0することが条件のため、負けうる可能性のある《悪夢の織り手、アショク》をカットして、目論見通り1周後に《希望の幻霊》を回収したのは自信を持って良いドラフトをしたと言えるのですが、6手目に《乗騎ペガサス》と《レオニンの投網使い》で、人間のカウントを忘れてうっかりレオニンを取ってしまったのはそれを帳消しにするバッドプレイ。

乗騎ペガサスメレティスのダクソス

 そういえば2枚取れている《メレティスのダクソス》も、4枚取れてる《戦識の重装歩兵》も人間でした。

 そして初戦で、1本目は6ターン目に2枚目の《》を引くまでに、2本目はそもそもダブルマリガンしている間に、左のプレイヤーのその《乗騎ペガサス》に小突かれて負けという内容。

 一縷の望みを託しつつ残り2つを勝って、結果は9位。

 9位です。

 トップ16を切ることができないキャップ・システム下ではある意味最も取ってはいけない順位。

 これで今シーズンのグランプリ成績は上から順番にトップ8×2、16×1、32×1、64×1の合計14で、一応は埋まることとなりましたが、本音を言えばアメリカ人ですらプロツアーに行く人間のほとんどがスキップしたこのグランプリでは勝っておきたかった。これが偽らざるところです。

 普段ならヤケ食いだ、とばかりに何処か美味しいものがあるところまで出かけますが、この時はそんな気力も尽きてそのままホテルで寝てしまっていたあたりに落胆の程をお察し下さい。

 同宿のポール・リッツェルやベン・スタークに

「俺も9位5回ほどしてるしさ、元気だせよ」

 なんて慰められつつベッドに突っ伏してましたとさ。

スタンダードの調整過程

 一方、スタンダードはどうなっていたのか。

 ちょっと時系列が戻ってしまいますが、ここまでの調整過程をたどっていきます。

環境初期

 ラスベガスに到着直後のあたり、この頃はまだ完全に手探りの状態で、デッキを作っては潰すという時期です。

 まず誰でも考えつくよね、と言った具合で旧環境から赤単、エスパーコントロール。分かりやすくカードが強化されている白緑と言ったデッキが既に制作されていて、それに対抗できるようなデッキというものを模索していました。

エスパー・コントロール(初期型)

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白緑(初期型)

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 パウロは《海の神、タッサ》を使ったデッキを構築していて、ビートダウンよりからよりコントロールを意識したスタイルに、白を足したり、黒を足したりを考えているようです。

 ルイスは何時も通りのコントロールマニア具合を発揮してエスパーにご執心。

 逆にビートダウン命のキブラーはとりあえず黒緑ビートダウンから、

 ジョシュは青黒コントロール、ウェブはジャンドビートダウンといったデッキを試してみる様子。

 そんな中で私が主に組んでいたのは黒単コントロール。

 日本では噂で持ちきりになっていたので、これは試さないと、といった感じですね。

 断片的な情報から推測して組んでみて、デッキ構成はこんな感じからスタートしたと思います。

黒単コントロール(初期型)

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 巷の評判からすると感触はそれほどでもないかな、良くも無く悪くも無く、といったところ。

 エスパーには五分五分、その他のビートダウンにもそこそこ戦えますが手数で負けやすい。赤単には完全に手数負けするといった感じです。

ザスリッドの屍術師

 最も気に入らない部分は《ザスリッドの屍術師》ですね。ビートダウン相手には単体で時間稼ぎにしかならず、コントロール相手にはかなり役不足。序盤のエスパーから出てくる《悪夢の織り手、アショク》と《思考を築く者、ジェイス》両方にあまり良い仕事をしないかなりのマイナスイメージ。

 パウロは逆にすごく気に入ったようで、なんとかして《ザスリッドの屍術師》を使おうと人間クリーチャーを追加したりしていましたね。

 ここからはお決まりコースの《夜帷の死霊》を試したり、《地下世界の人脈》を1枚《死者の神、エレボス》にしたり。はたまたこのあたりから爆発的にブームになりだした「ニクソス」と書かれた紙片を沼に入れての実験が行われたり。たぶんどこの調整チームでもお馴染みの風景が開始されることとなります。

 同時期に作られたデッキで、これまでに挙がっていないのだと、白黒緑、青赤コントロール、青白コントロール、黒赤白ミッドレンジ、ジャンドコントロール、白単ビートダウン、ボロス、赤単からの派生系が幾つかといったところ。

 あ、コンリーは違う世界にトリップしてた頃だったっけ。

 意気揚々と《ニクスの祭殿、ニクソス》で大量のマナを出して、《無限への突入》と書かれた代理カードから、「うぃんこんでぃしょん」と書かれた代理カードをプレイしてるところを偶に見かけた気がしますが、いつものアレか、と生暖かい目で放置されていました。

 コンリー可愛いよコンリー。

ニクスの祭殿、ニクソス無限への突入

 この混沌とした状況から転換点となったのは調整開始3日目、週末に開催されたある大会でした。

スターシティーオープン・ウォーチェスター(9月29日)後

 エスパーと設計思想が同じ青白コントロールが結果を残したのは予想通り、ですが予想と違ったのは、緑白がほとんど結果を残さなかったのと、予想以上に赤単ビートダウンが結果を残したことです。

 環境初期はビートダウンが勝つというのは、コントロールは相手がはっきりしなければ適切な速度を掴めないという意味において正しいのですが、その予想以上に、攻撃的なデッキとそれに対抗するために必要以上に重い両極端なデッキのどちらかしか残っていないという結果。

 もちろんこういうアンバランスな構成は確実に揺り返しがあり、この場合の結末を想定するのは簡単です。

 環境が完全に赤の早いデッキへとシフトした末に、今度こそ《ひるまぬ勇気》という解りやすい解答がある白緑が勝つだろう。プロツアーはその先の週なので、ここからももう2ひねりくらいは必要。

 ですが同時に、今このデッキにも勝てるくらいの強度は用意しておかなければならないのです。

 仮想敵となるのはオーウェン・ターテンヴァルドとレイド・デューク、ウィリアム・ジェンセンの調整チームが持ち込んだ1マナ圏12枚の超攻撃的赤単ですね。

 構成を見る限り数ある赤単の中でも最速仕様。割り切ったデザインというのはいつの時代にも好感が持てるものです。10マナだか12マナだかのカードを使っている誰かさんのデッキとは大違いです。

 そしていつも問題になるのは、そんなに都合良く最速デッキを抑えられるデッキというのは開発できないという事実。ただ単に赤単に勝てるデッキであれば、溢れんばかりの除去と全体除去とライフ回復を入れれば良いのですが、そんなデッキでコントロールに勝つことだなんて夢のまた夢。

 私たちが欲しいのはその先にあるメタゲームの勝利者デッキで、かつ1周遅れている赤単に出くわしても勝てるデッキです。

 そんな模索の中で、ビートダウン担当、キブラーの新作はなかなか期待が持てそうな構成をしていました。

キブラーの緑単タッチ赤ビートダウン(初期型)

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恭しき狩人加護のサテュロス

 基本的には緑単色のビートダウンデッキに相性の良い《ドムリ・ラーデ》を加えたもの。

 かなり新カードが入っているので従来のデッキの動きからは大分違って新鮮味もあり、カードとして強い占術土地《奔放の神殿》は《ドムリ・ラーデ》との相性も良くてお互いに補完しあっている。当時チャネル内で流行っていたニクソスもちょっと入れて急加速も可能。

 キブラーはこのデッキを作ったところでサンディエゴまで帰ってしまいましたが、週末内で開発されたデッキで私が気に入ったのは間違いなくこのデッキでした。

ラスベガス調整後期

 さて《ニクスの祭殿、ニクソス》です。

 とりあえず単色系のデッキでお試しで入れてみようというのは誰でもやることだと思います。この絵柄の違う《》は代理カードね。って具合に。

 そしていざ引いてみると予想外に強い。何故か4ターン目に6マナくらい出せちゃう、土地が3枚でずっと止まっているのにマナカーブ通りに展開している、というようなシチュエーションが多発したのです。

 気がつけば、代理カードの数が1枚から2枚、2枚から3枚となり……みたいなことも多発しました。

 その一助になっていたのは、環境に信頼の置ける全体除去が少ないことですね。

 《神々の憤怒》こそ加わりましたが、こちらは新しいカードなのでまずは無理なく入る構成のデッキを作らなければならないし、意外とそれが難しいというのを考えると、《至高の評決》のみが唯一信頼できる全体除去。

至高の評決

 加えてポイントとなるのは、このカードが多色というところです。

 例えば《審判の日》であれば、白青ばかりか、白黒、白赤、果ては白緑といったデッキにすら使用する選択肢がありましたが、《至高の評決》となるとそうはいきません。いくら多色推奨とはいえ、青白をベースにしたデッキ、つまり青白と青白黒=エスパーコントロールくらいにしか入れれるカードではないのです。

 となると必然的に他のデッキは、最も信心が獲得しやすいパーマネント=クリーチャーが並ぶこととなり、《ニクスの祭殿、ニクソス》の価値は否が応にも高まる……

 そんな認識が広がる中で、週明けの月曜日か火曜日にジョシュが作り上げたデッキがこれでした。

Reallllyyyyyy liking this deck

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 第一印象はなにか奇妙な動きをする。ですね。

 2ターン目こそ《灰の盲信者》で2点、というように序盤は攻撃的な赤単と変わらない動きをするのですが、手札の内容、実態は全然違います。そこから先はほとんど殴る気がないのです。《ボロスの反攻者》を出してターンを返し攻撃はせず。しかも相討ちを極端に嫌ってくる。

 なぜなら目的は信心。もあればもはやこのデッキの領域です。

 《ニクスの祭殿、ニクソス》から一気に5マナ、場合によっては《炎樹族の使者》を経由して7マナを出して、《鍛冶の神、パーフォロス》とお供をもう1体。あるいは《嵐の息吹のドラゴン》が「次のターンには怪物的になるよ」と殴りかかってくる。序盤の次はいきなり終盤のようなデッキなのです。

鍛冶の神、パーフォロスモーギスの狂信者

 《モーギスの狂信者》も凄い角度からゲームを決めてしまいます。

 5ターン目くらいに、戦場は圧倒的に押されているのに、《ニクスの祭殿、ニクソス》の2枚目を引いてしまったお陰で5マナ→使い捨てて加速の7マナ+《》から1マナの8マナで《モーギスの狂信者》で6点&7点。

 ついでに《鍛冶の神、パーフォロス》が誘発して+4点、合計17点で攻撃したのは3ターン目の《凍結燃焼の奇魔》のみ、後は対戦相手がギルドランドをアンタップインで置いていたからゲームセット、なんていう展開もあるのです。

 初見でこのデッキがどういう動きをするか読み取るのは限りなく不可能に近いですね。

 信心以外にも神なり、怪物的なり『テーロス』のギミックが大量に詰まっているというのも好感が持てるし、キブラーのデッキでは強いけど1ターン目以外では置きどころが難しかった占術土地も無理なくいける。

 私がダブリンに着く頃には結論が出ているんじゃないかな、という期待を込めつつ木曜日のテスト最終日を迎えました。

 それでは次回、プロツアー参戦記に続きます。


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