ボロは着てても心はドヤ

更新日 Making Magic on 2012年 12月 10日

By 浅原 晃

○ファッションフレーバー

 マジックのカードにはゲームでは使わない世界観やキャラクターの雰囲気を表したフレーバーが書かれている。

「どうせお粗末な呪文だったんだろうさ。」

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 これは、昔は昔、《対抗呪文》のフレーバーとして書かれた《熟達の魔術師アーテイ》の言葉だ。自信家で毒舌のアーテイのフレーバーは個人的にかなり好きで、彼自身のカードに書かれた「それだけ?」などデュエルでも使ってみたいような名言をいくつも生み出している。ウェザーライト号の乗組員でドヤ顔の似合う男と言えば彼だろう。

 また、カウンターとフレーバーの組み合わせでは《最後の言葉》も秀逸だ。

「いつか、誰かが私を打ち負かすだろう。だがそれは今日ではないし、お前にでもない。」

 素晴らしい。この、素晴らしいドヤ感。フレーバーはマジックの大きな魅力の一つであり、自分はその中でもドヤ感溢れるドヤフレーバーは大好きなのである。そして、マジックを楽しむ上で、こういったフレーバー要素を自分自身の中で持っておくというのは大切なことではないだろうかとも思う。

 公式のトーナメントでは変な目で見られる可能性が高いのでオススメできないが、友達同士の対戦では、こういったフレーバーテキストを言いながらプレイするのも面白いだろう。そして、こういったフレーバーを見ると、勝利という枠を飛び越えて、常にドヤを狙う姿勢というのは忘れてはいけないとも思う。

 つまり、今回のテーマはどうドヤるかという美学の話である。

 さて、マジックのカードにおける、フレーバーは世界観やキャラクターのアイデンティティを示すものだが、マジックプレイヤー自身にもフレーバー、アイデンティティと呼べるものがある。それは自らの分身とも言える使用するデッキであり、デッキ構築におけるスタンスであろう。

 デッキ構築におけるスタンスはメタゲームに対する姿勢として影響することが多い。メタゲームとは、デッキタイプや流行、大きな大会における、それらの実績によって様々な角度で変化していくものだ。しかし、メタゲームに対するプレイヤー自身のフレーバーは、それらのデッキタイプに対する自身の心の角度、有り様である。

 メタゲームのトップを常に使い続ける人もいれば、トップを牽制しつつ、2番手のデッキからある程度のデッキを選ぶ人。もっと、別のデッキを探し続ける人。いろいろな人が居るだろう。メタゲームは変化しデッキは変わっても、その立ち位置はプレイヤーにとって変わりにくい本質的なものだろう。

 それぞれのプレイヤーがそれぞれの信念や嗜好、フレーバーを持ってメタゲームに挑み、どうやって勝とうか、もとい、ドヤろうかというのを探しているとも言えるのだ。

スラーグ牙

 しかしである。近年、強力なデッキを知ることが容易になり、自分自身のアイデンティティを見失っている人も多く見られるような気がするのだ。例えば今の環境の代表的なクリーチャーに《スラーグ牙》がある。《スラーグ牙》は確かに強いな、だから《スラーグ牙》を使おう......ちょっと待ってほしい、本当にそのクリーチャーが使いたいのだろうか? 逆に本当は《スラーグ牙》に対してこう言いたいのではないだろうか「5点ライフに3/3トークン? それだけ?」と。

魂の洞窟ロクソドンの強打者

 確かに《魂の洞窟》や《ロクソドンの強打者》なんてものが居るこの時代、あのアーテイが今居たら「どんだけ?」とフレーバーも改変され心がポッキンと折れてしまうかもしれない世の中ではある。ただ、諦めてはいけない。そこで、最近自分のデッキ構築のフレーバーとしている「ボロは着てても心はドヤ」を元に作られたデッキを提案していきたいと思う。

 ちなみにこの「ボロは着てても心はドヤ」の精神とは、適当に強いカードで使ってくる奴らを、普段見ないようなカードで倒し、悔しがらせてドヤるというものだ。こう聞くと、ただの天邪鬼にも見えかもしれないが、弱者が強者の暴政に立ち向かうような、高貴な精神から来ている可能性もいくばくか存在するので侮ってはいけない。

 そして、何より、これは楽しい。虐げられしカード達の逆襲によって、《スラーグ牙》も泣いて逃げだすというストーリーを想像していただければ分かると思うが、これはまさに痛快。相手プレイヤーの心の中から聞こえる「ああ、逃げて《スラーグ牙》、変態デッキよ!」。これこそ、まさにスタイリッシュドヤではないだろうか。

 今回はそういった、泣いて逃げ出す《スラーグ牙》を想像つつ2つのデッキを構築してみたので紹介していこうと思う。

 では、一つ目はエンチャントを主体にしたデッキだ。

『えんちゃんとつける』

Download Arena Decklist

安全の領域

 エンチャントを主体にしたデッキで、メインとなるカードは《安全の領域》だ。その名の通り、このエンチャントを置いて、安全を確保した後に勝利を目指すデッキになっている。《安全の領域》は5マナと少し重いが、エンチャント主体のデッキであるならば、相手のクリーチャーをほぼストップできるだろう。

豊かな成長地の封印

 《豊かな成長》や《地の封印》でドローしながらこれを設置すれば、十分なエンチャント数も確保できる。2枚も張れれば、もう完全に相手はアタック不能である。

包囲マストドン

 こうして、状況を整えてしまえば、「あれ? 《スラーグ牙》居たの? 《包囲マストドン》かと思ったわ。」そんなドヤフレーバーを心の中で言うこともできるはずだ。

地下世界の人脈金輪際

 他のエンチャントとしては、ドローエンジンの《地下世界の人脈》、汎用性の高い除去の《忘却の輪》などがある。また、《金輪際》は、相手とデッキがかち合う可能性がほぼ0のこのデッキでは、好き放題指定することも可能で、サイド後は《天啓の光》を防ぐ手段にもなる。

永遠との接触

 そして、極めつけは誰が使うんだよ!と誰もが思っただろう《永遠との接触》だ。現環境はエンチャントによる効果的なライフ回復手段が乏しいために採用してみたが、《地下世界の人脈》との相性もわりかし良い。また、相手に対して与える「えっ、これにやられちゃうの」プレッシャーはイラストの顔と相まって最強レベルであろう。

 しかし、このデッキ、問題があるとすれば、あまりにも勝ち筋が細いことがある。呪いエンジンがエンチャントなので採用してみたものの、瞬間的な驚きによるインパクトが少なく、なんとなく、だらだらとドヤり続けるのは精神衛生上よろしくないという欠点があったのだ。

 そこで次に制作したのが、トリコロールのトークンデッキだ。

『TOKENTOKENTOKEN』

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火炙り

 トークン+《火炙り》の組み合わせで一気に対戦相手のライフを削るデッキである。このデッキの構成要素は基本的にトークンを出すカード達、《ゴブリンの電術師》、《戦いの賛歌》といったマナ加速、《信仰無き物あさり》や、《魂の再鍛》といったドローサポートで構成されている。

 《火炙り》はクリーチャー1体につき3点のダメージを与えることができるので、トークンなどを含めて7体のクリーチャーが居れば、対戦相手を瞬時に倒すことが可能だ。

魂の再鍛炎の中の過去

 しかも、そのトークン生成速度は思ったよりも早いため相手が油断して《スラーグ牙》を出して5点のライフ回復で安心しようものなら、《戦いの賛歌》でマナを生み出しながら、《魂の再鍛》でデッキを回し、さらに《炎の中の過去》で墓地のカードを使い回してトークン大量生産、といった感じで一気に大ダメージを与えることができるだろう。

町民の結集戦いの賛歌

 また、注目すべきは窮地になれば1枚で5体のトークンを生み出せる《町民の結集》だ。《町民の結集》からの《戦いの賛歌》、そして、《火炙り》は人間がやる気出して火炙りじゃーい!といった感じのスタイリッシュ3連ドヤコンボであり、これまた瞬時に対戦相手を倒すことができる。

 このデッキに対して5マナを使って、ただちょっとライフを回復するクリーチャーは効果が薄いこと考えれば分かるとおり、《スラーグ牙》を出した相手に対して、「そのライフはメモ取らなくて結構ですよ、次のターンで終わりですから、はいドーン!」と心の中でそんなドヤフレーバーを言うことができるのでは無いだろうか。

 窮地の条件は相手がビートダウンならば難しくはないが、ギルドランドを手に抱えて置くことで、ライフ調整も可能になるため、ギルドランドを1枚手札に抱えておくというプレイも考えておこう。特にライフを5以下にしないように殴って心の中で「読みきった!」とドヤってくる相手もいるはずなので、そこを、すかさずペイ2点ライフからのドヤ返しで対抗できるのは非常に重要な点といえるだろう。

 この記事が掲載されるころにはスタンダードで行われているグランプリ・名古屋も決着しているので、また、新しいメタゲームが始まるはずだ。

 自分のフレーバーを前面に押し出したデッキを使ってのドヤりあい。そんな戦いもいいものではないだろうか。


演者紹介:浅原 晃

 マジック界のKing of Popとして知られる、強豪プレイヤーにして、デッキビルダー・ライター。主な戦績は、世界選手権05・世界選手権08トップ8、グランプリ優勝2回、The Finals2連覇など。

 「構築戦はビルダーの舞踏会。タキシードでないデッキはジャージ」といいつつ、時に斬新なデッキを持ち込み、時にトップメタのデッキを使うという虚実入り交じった発言で人々を惑わせる『A級の虚影(エーツー)』。

 ゴブリンデッキに《怒りの天使アクローマ》を投入するなどの柔軟な発想から海外でもカルトなファンが多く、また、構築・リミテッドを問わず見せる高いプレイスキルから国内プロからの信頼も厚い。・・・が、虚構も多いので、虚構を虚構と見抜ける人間でないと浅原のアドバイスを受けるのは難しいと言われている。

 代表作は、自身のビルダーとしての原点という「アングリーハーミット・ゼロ」、荒堀 和明のグランプリ・仙台優勝によって世間の注目を集めた「アサハラ・ゾンビジム」、ヴァージョン6まで存在する勝ち手段の存在意義を問うた問題作「みのむしぶらりんしゃん」、God of the Deck略して「G.o.D.」、Wander Deck「The One」他多数。

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