真夏のシドニーにて

更新日 Making Magic on 2013年 2月 7日

By 中村 修平

なかしゅー世界一周2013 第2回

/

 さてシドニーについて、と行く前に少しまだシンガポールの話をさせてもらいます。

 私のグランプリ・シンガポールは13位で終了しましたが、大会自体はこれからトップ8ドラフトを経て、優勝者を決めるシングルエリミネーションへと続きます。

 準決勝のラクドス同系対決を「2ターン連続で《裏切りの本能》で《暴動の長、ラクドス》を奪って勝つ」という派手な決着、その実はリソースは全く残っていなくて《裏切りの本能》の2枚目もトップデッキという、見た目以上の接戦で制した行弘賢には、ひとつの問題がありました。

進むべきか引くべきか

 準決勝の決着がついたのは午後8時40分を回ったころ。
 午後5時にはトップ8ドラフトが開始と非常にテンポよく進んでいたトーナメント進行は急激にトーンダウンしてしまっています。
 これが行弘には、というか『まあ流石に問題ないでしょ』と予約を取った私にも大きな誤算となってしまいました。

 帰りの飛行機の刻限が迫っているのです。

 フライト時刻まではそれでもまだ2時間あるのですが、搭乗チェックインには空港に最低でも1時間前までには到着している必要があります。
 加えて空港までの移動時間を加味した場合、実際のタイムリミットはまさに現時刻。

 行弘の旅券手配を行った者として、どうやらタオルを投げる時が来たようです。
『行弘、今日帰ることは諦めなさい。代わりの旅券は探してあげるから』

 よく人間は大切な何かを捨てた時に更なる成長を遂げるだなんて言いますが、
 こうしてまた一歩何かの階段を登って、何かを捨て去った行弘は見事優勝することができました。

/
終了直後の握手(英語イベントカバレージより)
 

 いや、本当に良かった良かった。
 いくら勝っても負けても面白いという行弘のキャラクターがあるとはいえ、これで負けた時には流石にかける言葉が見つからないところでしたよ。てか本人勝って嬉し泣きしてるし!

 問題の旅券の方も、当夜中に新しい旅券が…と思ったら行弘のクレジットカードが本人も気が付かないままかなり前に止められていて、慌てて翌朝取りなおし、というハプニングもありましたがなんとか確保できました。
 ただし翌日月曜日は日本では祝日。安いフライトともなると深夜にシンガポールを出るものしか残っていなかったのです。

 ということで、その晩にシドニーへと旅立つ私と杉木さん、友晴は寝ているので置いといて、行弘の3人でシンガポール観光というかマーライオンを拝みに行くことに、
 どちらかというと私的にはしばらくぶりに見に行くか、という方が近いかもしれません。

/

 今は空港近くにイベント会場ができたので、会場近くのホテルから行って帰ってというのがシンガポールツアーとなってしまいましたが、かつてアジア開催ではショッピングモールの催事場、というのがお約束でした。
 そしてこの狭いシンガポールで、ショッピングモールといえば必然的に街の中心部となっていたのです。

 こうやって久しぶりにシンガポールの中心地まで来てみると、何もかも懐かし…あれ?
 会場だったショッピングモールが解体工事している、シティホールも建て替えているし、見渡してみると見覚えがない建物だらけ。
 ですが一番面を喰らったのは、
「マーライオン近くに、てっぺんにバナナボートを付けた変な建物が建ってるよ!」

/

 いや、前回も紹介したマリーナ・ベイ&サンズですが、知っているのと実際に見て違和感を覚えるのは別問題です。

 しかも記憶にある風景から、いきなりこんな変なものがニョッキリと建っているのですからもう完全に混乱状態。

/

 こんな一等地にこんなアレな建造物を立てることを思いついたデザイナーと、ゴーサインを出した人に内心喝采を送りながら、いつ何時も凛々しく吐き続けるマーライオンをバックに記念撮影する我々観光客勢。
 数年で変わるものですねえ。

 ついでなので、そのベイ&サンズへも向かってみました。

/
/

 意外と普通、というか高級ホテルという趣。 吹き抜けになっているただ広いエントランスはいかにもです。
 ちょっとアクセントになっているのは入り口にある中国風のデコレーション。そのあたりはやはりシンガポールは華僑の国なんだなと思わせます。

 と、月並みな感想はこのくらいにしていざ、屋上のバナナボートへ……

 ……向かうには現実は非情すぎました。
 屋上へと向かうエレベーターにはルームキーが必要で、ルームキーは宿泊者かそのゲストではないと手に入らないという、徹底した一見さんお断りシステム。
 やはり経費でホテル滞在を落としてくれるように泣きつくべきでしたか。

 悲しみだろうがなんだろうが背負ったところでどうしようもないので退散。
 ちょっとだけ悔しいのでカジノでも覗いてみるか、ということに。

/

 入店前に出国検査並のパスポートチェックが入ったり身体検査があったりしましたが、無事に潜入成功。
 とは言っても手持ちのシンガポールドルはわずかですし、遊べるゲームがあるわけでもないので本当に覗いてみているだけ。
 唯一知っているのはポーカーなのですが、プレイヤー間でのものではなくてディーラーと対戦する方式、かといっていわゆるドラクエポーカーとも違っていてさっぱりです。
 どうしようか、と思った矢先にちょうどいい実験体がいました。

 我らがグランプリチャンピオンです。

 数々の甘言でその気にさせて準備OK、全額スッてしまうもよし、万が一勝ったとしてもそれはそれでよし、こういう時に負けても勝っても美味しいキャラクターというのは重宝します。

 して、その結果は。

 大勝ちしてしまいやがりました。
 まさか、開幕で最強の手であるエースペアから始まり、ほぼ行弘バカヅキ劇場を見せつけられとは。
 ディーラーのおばちゃんに、
『あんたツキすぎよ!』
 と言われる始末。
 これがグランプリ優勝直後の運気なのか……

 こうしてお土産軍資金ができてホクホクな行弘と、それを見せつけれた杉木・中村ペア。行弘の奢りタクシーで多少溜飲を下げつつ、近くのショッピングモールでお土産を買って、一路シドニーへ。

/

 乗り継ぎ先のクアラルンプールで猛烈にお腹を下して、これから先の8時間フライトに赤信号が灯りかけましたが、なんとか持ち直して到着。ビジネスクラス様様です。
 別便だった齋藤、杉木組とも合流を果たせて、そのままタクシーでお世話になるマジック/ポーカープロ、ロイズのアパートメントへ。

 会場もあるダーリングハーバー沿い、実は前回のシドニーでお世話になったアーロン・ニカストリの部屋があったアパートメントのすぐ下のフロア。
 またお世話になろうとアーロンに連絡したらアーロンはブリスベンに引っ越していて、代わりにロイズを紹介されたという流れです。
 ここから約1週間、シドニーでのんべんだらり生活が始まるのですが、またひとつ重大な問題がありました。

お金がない。

/

 ロイズから「日本からブースターパックを持ってきてくれ」と頼まれていたのに、みんなマジックオンラインでドラフトしていて思ったより売れなかったり、シドニーの物価が日本より高かったり、はたまた日本のクレジットカードが使えなかったりと色々な問題が絡んでの結果なのですが、簡潔に言ってしまえば豪ドルが無くて困ってしまったのです。

 日本から持ってきたパックを売ることを見込んで少なめの換金、100米ドル分しか替えずに、その100ドルも手数料を10豪ドル分くらい引かれて80豪ドル。
 タクシーに15豪ドル支払って、昼ごはんをタイ・カレーのテイクアウトで15豪ドル、スーパーで細々としたものを買って20豪ドルで残りはもう30。
 ちなみにグランプリの参加費は60豪ドルで、今はまだ火曜日。
 このままどう考えてもショートしてしまいますね。困りました。

 そこで思い浮かんでしまったのが数日前にホクホクしていた奴です。
 ちなみにオーストラリアで一番大きいとある施設、スターシティーは歩いて5分もかからないところ。ということは…

 稼げてしまいました。
 ある意味身の程をわきまえた、開幕30分で退散という完全なる勝ち逃げムーブで周囲の怨嗟と週末に向けてカルマを溜めてしまった気がしますが、これだけあれば今週中はやっていけるというくらいには豪ドルを確保できました。
 早速、真っ昼間からオージー・ビーフをいただいてみたりと、完全にあぶく銭を持った人間がやりそうな動きを。まあ美味しければそれで良いのです。

/

 肉用ナイフの分厚さ加減に、農耕民族日本人の限界を垣間見たりしますが、それもまた一興。

/

 ということで軍資金も確保できたわけですし、せっかくなのでシドニー観光週間の始まり……と行きたかったのは山々だったのですが、実はさらにひとつ問題がありました。

暑い

/

 そうです。北半球は冬ですが、季節の逆転する南半球は今が真夏。
 到着した日こそ「赤道直下常夏のシンガポールから比べて過ごしやすい」だなんて感じていましたが、その本性は兵糧を確保していざ行かんとした翌々日に牙を剥いてきたのです。

 その日は、「シドニーといえば魚。」ということで歩いて10分のところにあるというフィッシュマーケットに行ってみようと、昼前に家を出て魚尽くしを味わった帰りでした。

/
/

 直射日光が眩しいを通り越して熱いのです。さながら《熱光線》。
 別に食べ物にあたったとかいうわけではなく、一緒に行った杉木さんも、道行く人も同じように辛そうです。
 行きは足取り軽かった下り坂も、死のロングウェイ状態。
 なんとか家まで帰り着いてみて、起きたばかりのジュザに「外、ものすごく暑いんだけど」と話してみると、テレビをつけるなり大笑いされました。
『44℃』

 この後気温はさらに上がり、午後2時頃にはこの年の最高気温を更新したそうです。

/

 そんなこんなですっかり夏バテしてしまった私は、安穏としたクーラーがかかった家でテニスのオーストラリア・オープンを見ながらマジックオンラインに興じる日々。
 ちょっと足を伸ばしてチャイナタウンで、怪しげなDVD屋を覗いたくらいでした。


/

グランプリ・シドニー

/

 『ラヴニカへの回帰』のみのリミテッドでは最後になるグランプリ。
 実はジェイスプレイマットが先着300人限定で前日の行列に並んでいて助かったとか、そもそもオーストラリアにしてはおかしいくらい人が来ているとか、やっぱりここでもスリープインスペシャルがあったけどほとんど誰も利用しないとか、シンガポールと同じような光景が。
 こういうのを見ていると、マジックが今上り調子なんだということを実感します。

/

 一方では私はというと、戦前のインタビューで最も過小評価されているカードに《根生まれの防衛》と答えたら、初戦の相手に3本目こちらの《至高の評決》に対応して防衛されて自分の場だけが壊滅して負けるという、報いがたっぷりなスタート。

根生まれの防衛至高の評決
 

 デッキも粒こそ揃ってはいるものの決定力に欠けるし、このままずるずると後退しそう、なんて言っていましたが、その後は無事連勝を重ねて7勝1敗で初日抜け。
 ですがこの時の愚痴り王はジュザでしょう。ワーストデッキとかなんとか言いながら、8戦全勝で暫定首位ターン。
 友晴とシフカも7勝1敗、ロイズやその弟に杉木さん、アーロンといったチームロイズ邸面々も6勝2敗で2日目へと駒を進めています。

 しかし8回戦は素晴らしいですね。
 500人程度までなら1戦少なく済む。かつてはアジアのグランプリでもそうだったのですが、もはや初日が8回戦で済むのはもはやオセアニアと南アメリカでしか見られない、もっとこの流れが続くと見られなくなるやもしれません。

 そんな感傷に浸っていたところでトーナメントコーディネーターに手招きされて、
『対戦相手に渡して回ってくれ』
 と手渡されたのがこれ。

/
「殿堂と当たったよ」バッジ
 

 今年からの新要素の1つとのこと。
 これ以上のコメントは差し控えさせていただきたい所存で、どう渡して、というかいつ渡せばいいのこれ?

 結局試合前が一番「丸い」だろうという結論で通してみた2日目の結果は、2−1、2−1の4勝2敗。
 最終戦1つ前の13回戦で負けてのトップ8ならず、2週続けての16位圏内、プロポイント3+3点。
 もちろんこの結果は上々なのですが、ここまで好調だったことを考えればもう1回くらいはトップ8に入っておきたかったというのも本音ではあります。

 Zhang Shreds Sydney!(英語イベントカバレージ)

 これで今期はプロポイント43点。既にプラチナレベルのボーダーは超えているので、ここからは名称が『世界選手権』へと戻った16人トーナメントへの参加権を獲得するための戦い。
 絶対的指標、何点稼げば良いという類ではなく、プロポイント上位、あるいは地域別の1位者という、相対的な争いとなります。
 これはこれで精神的に休まるところが無いですし、プラチナという到達基準から見るとひたすら無駄なエクストラポイントを稼ぎ続けるのでもったいないと感じてしまうのですけどね。
 まあ乗りかかった船ですし、前シーズンは最後までこれで苦労したので、今年は余裕がある、という風に解釈するとします。

/

 気がつけばジュザとヨーロッパで行われるチームグランプリ、ユトレヒトに参加することが確定していて、
『3人目はどっちのルーカス(ルーカス・ブロホン=プロツアー「闇の隆盛」トップ8と、ルーカス・ヤクロフスキー=今期プラチナレベル)が良い?』
 なんて聞かれますし。

 それと前回からのテーマ、滞在中の裏技で強引にプラスに持っていってしまった収支ですが、16位の賞金500ドルが加算されたことで、滞在費の100米ドルを差し引いても黒字を確保できたようです。
 簡単に計算してみると400×85=34000円。前回までの赤字が14000円ちょっとなので、差し引きおおよそ2万円の黒字。

 旅券で大分下駄を履かせてもらいましたが、レベル報酬が減額されてもこのあたりのスコアを出せれば問題はない……とはいえちょっと厳しいかもしれませんね
 損益分岐点が、これまでの64位以内2回入賞レベルから、一気にスイスラウンドでの2勝分を上乗せしたところになってしまったのですからね。
 まあ、それは後々の問題として、今は旅がプラスで終われたことをよしとしましょう。

 ここから小休止を挟んで、いよいよプロツアーです。それではまた次回で。

追記:
 そういえば例のプレイマットですが、晴れる屋オーナーでもあり、シドニーで4位入賞を果たしてプロツアーシーンに復帰する齋藤さんが参加費以上の金額で引き取ってくれました。
 そのお金はさっそく1キログラムの肉へと姿を変えてしまいましたとさ。

/

最新Making Magic記事

MAKING MAGIC

2020年 7月 25日

セット・ブースター by, Mark Rosewater

今日は、『ゼンディカーの夜明け』で初登場するもの、新型ブースターについて語っていく。それが、今回のタイトルにもなっている、セット・ブースターと呼ばれるものである。今日の記事ではそれについて話そう。 詳しい話に入る前に、少し伝えておきたいことがある。これは、我々がマジックに新しく導入するものだ。何もなくなるわけではなく、現在の製品は何ひとつ変わらないままである。これまでの...

記事を読む

MAKING MAGIC

2019年 9月 24日

プロジェクト・ブースター・ファン by, Mark Rosewater

(編訳注 7/24:一部の用語を修正いたしました。「枠なしプレインズウォーカー」→「拡張アート版プレインズウォーカー」)  私が、誰もが話題にするようなマジックについての新情報がたっぷり詰まった記事を時々書いていることにお気づきだろうか。今日の記事は、そういった記事の中の1本だ。これからさまざまな情報を話していくので、まずはこの記事で何を語るかについて説明することにしよ...

記事を読む

記事

記事

Making Magic Archive

過去の記事をお探しの場合 アーカイブのページをご覧ください。人気の著者による、数千にわたるマジックの記事が残されています。

一覧を見る