テーマたち

更新日 Making Magic on 2015年 10月 26日

By Mark Rosewater

Working in R&D since '95, Mark became Magic head designer in '03. His hobbies: spending time with family, writing about Magic in all mediums, and creating short bios.

 私が最初に目にしたのは、私を見つめている非常に年老いた男だった。

「もうしばらく、横になっていた方がいい」

「ここはどこだ?」

 辺りを見まわすと、私が、無数のベッドが並べられている広い部屋にいることがわかった。どのベッドにも、誰かが横になっているようだった。なぜここにいるのか、記憶がない。私は頭脳をフル回転させた。

「安全な場所だよ」

 老人はそう言って私の腕に触れてから、私の隣のベッドへと向かった。彼が歩いて行く姿を眺めながら、私は自分の記憶をたどっていった。私は、自分の机で『Lock』のファイルを見ていた。まだ展望フェイズでだったが、セットはだんだんと出来上がりつつあったのだ。私が長年にわたってマジックに取り入れようと取り組んできたメカニズムが、いよいよ日の目を見るところだったのだ。その満足が、私の最後の覚えていることだった。

 次に気になったのは、私が横たわっているベッドのことだった。マットレスに触れてみると、なんとも奇妙な手触りだった。今までに触れたことのあるどのマットレスとも違う感触。触れた感じは心地よいが、バネの感触は感じられない。形状記憶フォームのようなものに違いないが、私がこれまでに体験したことのあるどれとも違っていた。

 その次に気になったのは、私の手首に巻かれた金属のバンドだった。少しばかり熱を感じる。私の手首にぴったりとフィットしていて、継ぎ目や開環場所は見当たらない。そもそもどうやってこれが私の手首にはまったのか、興味が湧いてきた。

「マーク!」

 私は声の方へ向き直った。隣のベッドから起き上がった人が、私を呼んでいるようだった。彼は私の名前を知っている。つまり、彼は私が知っている誰かなのだ。私がその男に焦点を合わせるのに、数秒かかった。そこにいたのは――私、だった。若い頃の私だったのだ。多分30代半ばといったところか。彼はしばらく苦戦しながら、ベッドに座った。

「お前は誰だ?」

「今、私のことをマークと呼んだろう」

「ただの推測だ。実際のところは誰なんだ?」

「私はお前だ。同時に、私でもある」

「自分が自分だと証明できるか?」

「推測してみよう。質問をしてくれたまえ」

「お前の娘が生まれたのはいったいいつだ?」

「どっちの娘だ?」

「娘が2人いるのか」

「ああ。長女の下に、男女の双子がいる」

「双子!? それはすごい。大変そうだな」

「大変だとも。特に赤ん坊の時は大変だった」

「赤ん坊の時……今は何歳なんだ?」

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「これで身分証明はできたと言えそうだな」

「うむ。レイチェルはいつ生まれた?正確にだ」

「4月6日。午後の早い時間だったな。2時から3時の間だ。夜中に病院に行ったんだ」

「レイチェルが生まれたのは何時だった?」

「2時31分だったかな。正確には覚えていない。もう14年前のことだ」

「レイチェルは14歳か」

「ああ。高校1年生だ」

「私のレイチェルは生まれたばかりだ」

「なるほど、それで時刻を覚えているのか。生まれたときの体重が3800グラムだったことは覚えているよ。手術室でレイチェルを抱き上げたとき、血を見ないようにしようと必死だったことも覚えている。さて、私は自分が何者か示した。では、お前が私であることはどうやって示してくれる?」

「何か質問してくれ」

「そうだな、どこでローラにプロポーズした?」

「リオ・デ・ジャネイロの海で。2回目のインビテーショナルのために行っていたんだ」

「記事で書いたことがある話だ。もっと詳しく言えるか? ローラの水着は何色だった?」

「黒」

「わかった、間違いなく我々は私自身だ。レイチェルが生まれたところだというなら、お前は32歳だな」

「33歳だ。ちょうどこの間、私の誕生日だった。ああ、私たちの誕生日だな。私より14歳年上ということは、お前は47歳か?」

「そうとも」

「我々の未来についての話を聞いた方がいいのかね? 時間旅行もののお約束では、未来の情報を手に入れてもろくなことはないものだが」

「どっちでもいいだろう。私は、33歳のときにここに来た覚えはない。つまり、ここでのことは思い出せなくなるということだ。ここがどこだったとしても」

「まだ周りを充分に観察していないようだな」

「ああ、まだ目眩が解けていないんだ。ベッドが大量に並んでいるのはわかるが」

「まずは見てみたらどうだ」

 身体を起こすと、軽い目眩が襲ってきた。倒れるのを手を突いてこらえ、私は部屋を見回した。ベッドの数は15個ほどで、そのすべてに私がいるようだった。もちろん、それぞれ異なる年齢の私が。一体何が起こっているのだろう。


 私は、パズルが大好きだ。「私は」というのはこの場合「我々は」と同じ意味である。つまり、17人の私が、興味を持って何が起こっているのかを考えているのだった。もっとも若い私は29歳で、もっとも年老いているのは63歳。これがパズルの最初のピースだった。子供の頃、あるいは10代、20代前半の私がいないのはなぜだろうか? 一番若いのが29歳なのはなぜだ? 他方、63歳が寿命ということはないだろう。それなら、なぜ最年長が63歳なのか?

 もう1つ興味深いヒントが、若いほうにメンバーが偏っていることだった。29歳と63歳の間を取ると46歳になるが、我々の中でそれ以上の歳はわずか6人だった。これは何かを示唆しているはずだ。それから、さっき我々に声をかけた老人は、我々がベッドから起きる前に姿を消していた。それきり戻ってきておらず、ドアも施錠されたままだった。

 この部屋には、何もないと言ってよかった。部屋と言うより、一度空っぽにしてからベッドを詰め込んだ倉庫、というのがふさわしい感じだ。その一例として、ここには窓がない。床は、コンクリート複合材か何かでできているように見える。壁の色はベージュ。誰かが時間を過ごすために準備された部屋という感じではない。

 我々は閉ざされたドアを相手に30分ほど過ごしたが、見ても触れても施錠の仕組みはわからなかった。天井には小さな丸いものがある。おそらく、カメラか何かなのだろう。つまり、我々は観察されているのだ。

 口を開いたのは、たまたま私だった。「答えはわかるはずだ。手がかりはたくさんある。29歳の私、多分お前が鍵だ」

「ふむ。私の知識の中に、何か有用なものはあるかね」

「ああ。覚えている最後のことは何だ?」

「仲間とポートランドに行って、新しいセットのデザインをしていたところだ。リチャードの家に行ったんだ」

 私は29歳の自分を見つめた。記憶の中に、当てはまるものがあった。数日分の髭が伸びている。「そうか、『テンペスト』のデザイン中だな!」

「え?」

「ああ、えーと、そうだ。コードネームは何だったか。そう、『Bogavhati』だ。『Bogavhati』のデザイン中だな」

「そうとも!」

「なるほど、『Bogavhati』は私……我々が最初にリード・デザイナーを務めたセットだ。リード・デザイナーどころか、デザイン・チーム入りも初めてだった。63歳の私、今でもマジックのデザインを続けているのかね?」

「直接デザインを手がけることは昔ほどはなくなったが、とはいえ、今でもマジックの仕事を続けているとも」

「それだ! それだ、間違いない! マジックのデザインだ! 我々は、それぞれが取り組んでいるマジックのデザインの代表に違いない」

 この新しい情報に基づいて、我々はそれぞれが手がけていることを調べていった。奇妙なことがわかった。我々が手がけたセットすべての代表がいるわけではなく、我々の中にはデザイン・チームではなくデベロップ・チームから来た者もいたのだ。34歳の私は、『オンスロート』に協力していたが、デザイン・チームにもデベロップ・チームにも属していなかった。話を楽にするために、我々はそれぞれの呼び名を決める必要があると判断した。17人全ての私が、それぞれマジックのいずれかのセットを手がけているとわかったので、我々はコードネームで呼び合うことにした。セットに取り組んでいる間に正式名称を知ることは(まず)なく、なじみのない名前で呼ばれても困るということで、正式名称ではなくコードネームを使うことにしたのだ。

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 我々は、次の工程として(『オンスロート』を手がけている34歳の)Mannyから話を聞くことにした。デザイン・チームにもデベロップ・チームにも所属していないのにここにいる、例外だからである。誰かが代表して質問するほうが簡単だということで、言い出しっぺである私が質問を続けることになった。「オーケー、Manny、最後に手がけていたことを言ってくれ」

「私が取り組んでいるセットには、多くの変更がなされている。そのセットのデザイナーであるマイク・エリオット/Mike Elliotがクリーチャー・タイプ・テーマを増やそうとするのを助けていたんだ。まだやらなければならないメカニズムがいくつかある。ルール・チームには、《Illusionary Mask》の裏向きのクリーチャーの特性を定義するために作られた裁定に基づいたメカニズムの、クールなアイデアがあった。マイクとビル・ローズ/Bill Roseは全然興味を持っていなかったが、私はクールだと思ったのだ。私はルール・チームとともにいくつかのことを調整していくらかのカードを作り、それを2つのデッキに入れた。その後、そのデッキで開発部のいろいろなメンバーとプレイしていった。プレイするたび、このメカニズムが楽しいものだという味方が増えていったのだ」

「それから?」

「プレイテストからのフィードバックを元にデッキを微調整していた、までで、次の記憶はさっきここで目覚めたことだ」


「わかった。Doughnut。今度はお前に話を聞きたい。」

 Doughnutは42歳で、『イーヴンタイド』を手がけていた。

「最後の記憶は何だ?」

「『モーニングタイド』の社員プレリリースに参加した。楽しいセットだったが、カジュアルなプレイヤーにとっては詰め込みすぎだったようだ。1ゲームだけでプレイをやめて片付けて帰った社員がたくさんいたのだ。それどころか、決着が付いているのに8ターンほども気付かないで続けていた相手もいた」


「Argon、今手がけているセットについて話してくれるか」

 Argonが取り組んでいるのは『オデッセイ』。私が3つ目にリード・デザイナーを務めたセットだ。当時、私は、つまりArgonは33歳だった。

「いまやっているのは、墓地のセットだ。カード・アドバンテージの概念を覆すのが目標なのだ。今、取り組んでいる。戦略上、手札をすべて使い切るのが正解なことが多いのだが、おそらく何かを忘れていると思う」


「Live、お前が手がけているセットについて教えてくれ」

 Liveは41歳、旧『ゼンディカー』の作業中だ。

「土地テーマのセットを作らせてくれと周りを説得したんだ。彼らは懐疑的だったが、私は充分なデザイン空間があることを確信していた。最初のデザインは、雑なものだった。色々試したがどれもうまく行かず、このままだと諦めるしかないところだった。しかし、上陸が見つかって、セット全体がまとまりを見せ始めたんだ。上陸はまさに瓶の中の稲妻にも例えられるほどの成功だった。私はそれがなぜそれほど強力なメカニズムになったのか研究を始めたのだ」


「Wacky(頭のおかしい)、頭のおかしいセット、じゃなくWackyで呼んでもいいかね?」

 『Wacky Set』は、私が30歳のときに手がけたセット『Unglued』のコードネームである。

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「かまわんよ。私は、まだデザインの初期なのだ。ビルとジョエル・ミック/Joel Mickが、私にイベントで使えない特別な枠のセットをデザインするように言ってきたのだ。指示はそれだけで、何をするかはすべて私に任された。山のような狂った発想を考えまわったが、最終的には、私が子供の頃に手品を楽しんでいたころに使っていた奇妙なデッキを思い出していた。手品のトリック用のカード・デッキが市販されていたのだ。デッキの裏面はどれも一緒だった。その中の1つが「Wacky Deck(頭のおかしいデッキ)」と呼ばれるもので、1枚1枚単位で奇妙なカードが大量に仕込まれていたのだ。クローバーの3.5、黒のハートのエース、半分はクイーンで、半分はキングのカード。このデッキは、手品のタネに使えるような奇妙なカードが詰め込まれただけのものだったのだ。それが脳裏をよぎった。『Wacky Set』を、マジックにおけるそういうセットにするというのはどうだろうか?」


「Control、何を話せばいいかわかるだろう?」

 Control(旧『ラヴニカ』のコードネーム)は37歳だ。

「私は多色のセットに取り組んでいる。前回の多色ブロック『インベイジョン』と違うようにする必要があったので、4色や5色を推すのではなく2色の組み合わせに集中することにしたのだ。また、もう1つ『インベイジョン』ブロックとの差別化のため、2色の組み合わせ10種すべてを均等に推すことにした。このブロックでは、友好色と敵対色は同等なのだ。この発想をクリエイティブ・チームに伝えたところ、この10組を都市に存在するギルドに当てはめるというイカした発想をブレイディ・ドマーマス/Brady Dommermuthがもたらしてくれたのだ。私はその発想を気に入ったので、それを軸にブロック全体の規格を作り上げることにした。各組み合わせが登場するセットは1つだけという、4-3-3の分散にした。これは奇妙だが、こうすることで各ギルドに光を当て、ブロックの各セットに独自性をもたらすことができるはずだ」


「次はお前の番だ、Laurel」

 『Laurel』は私よりも未来のセットのコードネームなので、正式名称は知らない。彼は59歳だ。

「両面カードを永遠に扱っていたが、印刷上の問題は常につきまとっていた。そこで、最終的にプリンターの1つを変更し、毎セット両面カードを入れられるようになり、他のカードと対にして入れることでチェックリストを使う必要がなくなったのだ。エキサイティングなことだ。『Laurel』の目標は、この印刷技術でできることを活かすことで、つまり――」

 ぽん!

 Laurelは消滅した。彼が自分のチームの最新の発見について興奮して語り始めた瞬間、彼は文字通り消えたのだ。おそらく彼自身の時間に戻ったのだろうが、困惑することではあった。普通はあり得ないことだからだ。

 我々は質問を続けようとしたが、その瞬間にLightsが消えた。さらにBeijingが、Spaghetti、Controlと次々消えていった。なぜ我々がここにいるのかもわからないまま、我々は消え始めたのだ。

 ここまで聞いたことで明らかなことが1つあった。全員、強いテーマを持っていたのだ。我々はそれぞれ、何か大発見をするところだったのだ。Doughnutは新世界秩序を見つけようとしている。Controlはデザインの第4世代を始めた。Mannyはデザインの掘り下げにおける「見せるよりも語る」方法の変革中だった。誰もが、何か大きなことをしているところなのだ。私はそうでもない。私のデザインは順調で、私はそれに満足している。だが、何も革命的なことはしていない。マジックのデザインを改革していないのだ。なぜ私がここにいるのか、まったくわからなかった。


 Simonが消えると、残ったのは5人となった。Argon、Shake、Salt、Chimichanga、そして私。

「これに何か意味があるのか?」

 Shakeが問いかける。

「それぞれの時間に戻ったら、ここの記憶はなくなるということはわかっている。それなら、それを解き明かしたところで何の意味もないだろう」

「自分同士がお互いに出会えたんだ」

 Saltが答えた。

「謎から逃げることはできない。ここにいる限り、挑むしかない」

「3つ。大きな謎は3つ残っている。1つ目が、なぜ我々17人が呼ばれたのか。2つ目が、『ここ』はどこなのか。3つ目が、誰がこれを仕組んだのか。このうち、2つ目と3つ目にについてはもうわかっている気がする」

 私はそう言い、カメラに向き直った。

「ここはどこなのか、というのは正しい質問ではない。正しくは、今がいつなのか、だ。我々は未来にいる。2060年か、2070年か、そのあたりだろう。時を超えて集められたのは明らかで、我々の中で一番年かさの者よりも後の時代、つまり2030年より後だ。また、もう1つ大きな手掛かりがある。次の疑問である、誰が我々をここに連れてきたのか、という疑問にも繋がるのだが、おそらくその答えは今我々を監視しているあの人物だろう。我々が最初に到着したときに応対した人物、つまり――私だ!」

 誰も驚かなかったのは、我々全員が同じ結論に達していたからだろう。しかし、その次の瞬間のことは驚きだった。

 ドアが開かれ、中からあの老人が姿を見せたのだ。

「その通りだ、諸君。今年は2067年。私は今100歳ちょうどである。まあ、誕生日はご承知の通り。1つめの謎の答えはわかったかね?」

「いや」

 Saltが答えたが、その瞬間に彼は消滅した。

「時間が有り余っているわけではない。さっさと始めよう」


 老人は我々をその部屋から連れ出し、コントロールセンターのようなところに案内した。その設備を見ると、我々が未来にいるということを疑う余地はなかった。我々は、自分でも関知できないほどのデータを記録されていた。おそらく、手首につけられたバンドがあらゆる情報を記録しているのだろう。

「座ってくれ。時間がない」

 Chimichangaが消滅すると、老人は頭を抱えた。

 Shake、Argon、それに私は勧められるままに腰を下ろす。

「最近、私はアルバート・アインシュタインに傾倒している。彼の業績について研究し、彼の人生の全てを学んだのだ。彼が4歳の時、彼は病気で床に伏していた。彼の父親は彼の気分を紛らすために小さなおもちゃを与えた。小さな方位磁石だ。アインシュタインはそれに魅了されたのだ。針を常に北に向くようにする力が存在するのではないかという発想に深い印象を受けたのだ。後に、彼は彼の科学的発見の多くがこの方位磁石を見たときの考えに由来していると言っている。これがテーマだ。人間の考え方を形作る、一連のパターンなのだ」

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「それが何と関係があるんだ」

 Argonが尋ねた。

「すべてだ」

 老人は答える。

「私は、諸君の議論を見ていた。わかったことは?」

「我々は、発見の瞬間から選ばれている」

 そう答えたのはShakeだった。

「よろしい。その意味は?」

「ああ、我々自身がテーマなのか。マジックのデザインにおいて、重大な発見をした瞬間の自分自身を集めたというわけだ。しかし、その理由まではわからない」

 そう私が言うと、老人は小さく頷いた。

「マジックは困難に直面している。来年、マジックは75周年にして終わりを迎えようとしている。我々、かつてデザインに関わっていた年老いた人間たちが、何とかして問題を解決しようとしているのだ。AIはどれも諦め、解決不能だと返答してきたのだ」

「なぜ我々が必要だったのか」

 Shakeが尋ねる。

「我々は年老いており、ここ何十年もマジックのデザインをしていない。我々自身には問題を解決する能力がないということは認めざるを得なかった。しかし、もしかしたら我々の中の誰かの過去には可能な人材がいるかもしれないと気付いたのだ。マジックを救うための秘密が、我々がかつて作り上げた中にあるかもしれない。そこで我々は記憶走査装置を使い、我々の発見、マジックを変化させる上で重要な飛躍を作り出すに到った心理パターンを分析していった。それから、長年のマジック・プレイヤーである科学者の協力を得て、我々の過去をここに呼び集めたのだ」

「それが何の役に立つのか、わからん」

 私の言葉に、老人が少し考えてから口を開く。

「少し複雑な話なのだ。我々は我々の問題への解決策を見つけようと、コンピュータに諸君の、うむ、諸君のその時点での心理の足跡とでも言うべきものを処理させた。コンピュータの答えは、諸君の心理状態と求める解決策には高い相関があるというものだったが、その答えそのものは出せなかったのだ。言い換えると、コンピュータは、誰が解決できるかは導けたが、どう解決できるかは導けなかったのだ」

「消滅する理由は?」

 Shakeが尋ねる。

「ああ、諸君をこの時間に存在させておくために、かなりのエネルギーを消費するのだ。答えを導いてくれる人物を見つけられる可能性を高めるため、相関が低いとコンピュータが判断した時点でその人物を元の時間に戻してエネルギーの消費を抑え、成功の確率が高い人物を残すエネルギーを確保している」

 その老人の答えに、私は問い返した。

「つまり、最高の解決策を見つけるまで我々は消えていく、ということかね」

「その通り。そして諸君ら3人が最後の機会なのだ。マジックに最も長く関わってきている私に一番可能性があるとコンピュータが判断し、私が選ばれたのだ」


 我々3人は座ったまま、老人と話していた。Argonは(『オデッセイ』で)デザイナーのためでなくプレイヤーのためにデザインすることの重要性を学んだことについて語った。変更のための変更は、プレイヤーに望まぬことを強要するようなゲームプレイに繋がる、悪いことだ、と。Shakeは(『イニストラード』で)メカニズムとフレイバーの正しいバランスを見つけることの重要性を学んだことについて語った。それぞれの環境にはそれぞれの雰囲気があり、過去のセットをデザインした手法だからといってそれまでの構造をただ当てはめてはいけない、と。

 私は『Lock』のデザインについて語ろうとしたが、私はそれに心底満足しているし、プレイヤーも愛してくれるような非常に楽しいセットを作っている。セットのデザインに何か変革をもたらしたようなことは思いつかないのだ。今回発見したことは何もない。それなのにまだ残っているのはなぜか、と考えているうちにArgonが消滅したのには驚かされた。

「我々をここに留めるエネルギーは有限だと言っていたが、それならShakeがいられる時間を延ばすために私を帰すべきだろう」

「まだお前が必要な人物でないということは確信されていないのだ」

「私自身が確信している。脳内をひっくり返しても、なぜここに呼ばれたのかすらわからない。私が発見したものが何かすらわからないのに、どうやって協力しろというのだ」

 その刹那、Shakeが消滅した。

「それが間違っていると思いたい。もはやお前が最後の希望なのだ」


 私は老人に言って、外に出させてもらった。頭をクリーンにするため、深呼吸をしたかったのだ。私は広がる海を見つめた。

「思い出せればいいのだが」

 老人が言う。私は、隣にいる老人に向き直った。

「50年以上も前のことで、お前が学んだことは、私にとっては遠い過去の歴史なのだ」

「時間はあとどれぐらいある?」

「そう多くはないな」

「助けが必要だ。私はマジックに多大な借りがある。マジックのおかげで人生のすばらしいことがいろいろとあった。マジックが死ぬのは見たくないが、私の知っていることの一体何がお前の助けになるのか、見当も付かない」

「ここに呼ばれているということは、何か発見をしたということだ。まだ実践に移していなくても、何か発見に繋がるために必要なことをしているはずだ。それが何なのか、見つけなければならない」

「オーケー。どうすればいい?」

「『Lock』の話とは限らない。詳細は覚えていないが、当時は大量の仕事をしていたはずだ。他に手がけていることは?」

「『Tears』と『Sweat』のデザイン・チームに属している。『Barrel』の先行デザインもしている。マジックの映画を監修するチームにも参加している。様々な宣伝も担当している。記事、ポッドキャスト、ブログ、コミック、その他のソーシャルメディアもある。それら全てのことを思い返してみたが、何もないのだ」

「終わっていて、まだ発売されていないプロジェクトはどうだ」

「6月に『Blood』を提出した。ゼンディカーへの再訪だ。今はデベロップ中だ」

「それについては何かないか?」

「それほど深く関わっていたわけじゃない。時々エリック/Erikの仕事を確認している」

「それで?」

「彼はすばらしい仕事をしてくれている。彼に渡したのは本当に素案レベルのデザイン・ファイルだ。デザイン中に2セット構造への変化があり、数知れない頭痛の種になったのだ」

「その発見は比較的最近のことと言えそうだ。エリックと先週あたり何か議論したかね」

「月曜にプレイテストをしたぞ」

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「何があった?」

「うまく行った。エリックはエルドラージの新メカニズムを弄っていたんだ。追放領域のものを食べるというものだ」

「気に入ったのかね?」

「うまくプレイできた。問題は、エリックは『食べた』追放されていたカードを、ゲームから取り除くのではなくオーナーの墓地に置こうとしているということだ」

「問題とは?」

「追放領域を第2の墓地にしないため、私はかなり努力してきたのだ。追放されたカードを、追放したもの以外の手でゲームに戻すということはそうそう認められるものではない。追放したカード以外の手で追放領域にあるカードを戻すことはあってはならない、というのが私の立場だ」

「それで、エリックにはどう言ったのだね」

「エリックは、追放領域から取り除かれたカードを置くためだけに新しい領域を作る必要があるのかと懐疑的で、墓地に置くことが実際上明瞭にしてくれると言うのだ。それで、私は考え直してみた。なぜ追放領域のものを戻すことをこれほどに忌み嫌っているのかを再検証したのだ。その結果、実際に重要なのは、何かを追放するということがそう簡単に取り戻せないコストであるようにしなければならない、ということだった。自分の何かが追放されたら、それを簡単に戻せてはならないということだ。対戦相手の追放されたカードを戻すだけなら、問題はない。そう、カードを戻すことはできるが、それは対戦相手が検討の結果認めたものになる。しかも戻る先は墓地であり、利用するのは簡単ではないのだ」

「つまり、自分で決めた、守らなければならない規則を見直した、と」

「マジックは新たな発見のゲームであり、我々の目標が新しいデザイン空間を掘り進め続けることであるなら、過去の決定を再検証する必要があるということがわかったのだ。絶対などというものは存在しない。良いデザインとは、過去のデザイン規則を再検証することをタブーにしないということなのだ」

 私は老人と顔を見合わせて笑った。

「それだ。コンピュータが回答できなかった理由はそれだ。コンピュータが過去の規則を破ることはあり得ないのだ。これまでにタブーにしてきた過去のデザイン空間のどこかに、新しいデザイン空間を掘り出す余地があるはずだ。我々は、マジックが規則を破るゲームだということを忘れていたのだ」

 50年後の自分とハグした経験のある諸君がいるかどうかは知らないが、あり得ないほど心地よいものだった。まもなく自分の時間に帰る時がやってきて、全てを忘れてしまうということはわかっていた。だからこそ、私はこの瞬間を楽しんだのだ。

 最後に見えたのは、老人が目に涙を浮かべて私を見つめる顔だった。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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