こぼれ話:『イニストラードを覆う影』 その2

更新日 Making Magic on 2016年 4月 18日

By Mark Rosewater

Working in R&D since '95, Mark became Magic head designer in '03. His hobbies: spending time with family, writing about Magic in all mediums, and creating short bios.

 先週、私は最新セットに関する諸君からの質問に答える一問一答記事を始めた。届いた質問があまりにも多かったので、2部作にすることにしたのだ。質問をどう集めたのか、また質問に答えない理由について知りたい諸君はその1を読んでみてくれたまえ。今回は早速質問に入ることにしよう。

 両面カードのデザインは他のカードよりどれぐらい難しいのでしょうか?

 両面カードのデザインに関する唯一の問題は、どの1枚をとってもホームラン(つまりは大成功)にしなければならないというかなりの重圧があることだ。一般的に言って、両面カードのデザインは難しくはない。2つの状態が必要だが、マジックのカードで2つの状態を必要とするものは多いのだ。実際、物理的な問題がなければ両面カードになっていたであろうカードはいくらも存在する(例えば、『テーロス』の怪物化メカニズムはクールな両面カードにするのに最適だっただろう)。

 両面カードを作る上で難しいところは、カード1枚のデザインではなく、むしろ必要な要素を全て揃えなければならないというところである。特別な印刷シートが必要で、それによってレアリティやセットの枚数も変わる。チェックリスト・カードや追加のアートも必要になる。表示する上での問題や、組織化プレイでの扱いを定めるルールの問題もある。確かに両面カードは複雑だが、それは両面カードの振る舞いが難しいからではないのだ。

 なぜ両面カードに戻ったんですか? 私は嫌いです。

 両面カードは旧『イニストラード』ブロックで最も(しかも圧倒的に)人気があった「メカニズム」なのだ。実際、イニストラードへの再訪を決めた時に最初に決まっていた唯一のことが、両面カードを作らなければならないだろう、ということだったのだ。

 開発部はどうやって、マッドネスのような、能力そのものとそれを使えるようにする手段が必要な、リミテッドで強くてバランスの取れているメカニズムを作るのですか?

 マッドネスは開発部で「A/Bメカニズム/A/B mechanic」と呼ばれている、何かを扱うカード(A)と、そのものであるカード(B)が必要なメカニズムである。例えばマッドネスの場合、カードを捨てるカードが必要である。マッドネス・カードがAで、捨てさせるカードがBにあたる。

 特にリミテッドでこれを成立させるための鍵は、開封比を適切に設定することである。開封比は開発部語で、特定の種類のカードがどの程度出てくるかを示している。無作為のブースターを開封した時に、そこからその種類のカードが何枚程度出てくると期待できるのかを数字で表すのだ。例えば、開封比が2といえば、ブースター1個には平均して2枚のその種類のカードが入っているということになる。AとBを適切に設定することで、それぞれを必要なだけ存在させることができる。AとBの比率はそのメカニズムによって大きく異なる。リミテッドで成立させるために重要なのは、開封比とその比率を正しくすることなのだ。

 《苦渋の破棄》のような物語上重要なカードをプレビューする今よりもいい方法は本当にないんでしょうか?

 マジックには何人もの責任者がいて、《苦渋の破棄》はそれぞれの意見が対立した一例だ。セットにはプロモカードというものがある。我々は、プロモカードをプレイヤーが興奮するようなカードにして、イベントの参加者を増やす助けにしたいと考えている。プロモカードを店舗に送るとき、我々はまずそのカードについてネット上で広く知らせ、誰もがそのカードの綺麗な画像を見ることができるようにしている。そうせずにただ送るだけにすると、それをどこで誰に見せるのか、その見せ方も制御できなくなる。カードのお披露目が、スマホで撮った荒い画像であって欲しくはないのだ。

 《苦渋の破棄》はプロモカードなので、いつ公開するかは送付の日程に関係していた。このカードをプロモカードにした理由は、これが強力でフレイバーに優れ、構築でも使われるようないいプロモカードになると考えたからである。プロモカードを選ぶにあたっては、通常以上の制約が課せられるものなのだ。

 ストーリー・チームはこの問題に対する解決策を話し合っているが、簡単に解決できるものではない。

 既存の部族を、友好色ではなく敵対色にすることは検討しましたか?

 それにはいくつもの問題がある。

イニストラードらしくない

 赤の吸血鬼、青のゾンビ、赤の狼男、これはプレイヤーが『イニストラード』から連想するものだ。これを変えてしまうと、望んだものと手にしたものの間に大きな齟齬が生じる。

旧『イニストラード』と組み合わせてプレイしにくくなる

 再訪の際に考慮することの1つが、諸君が古いデッキを掘り出して新しい要素を加えることができるようにすることだ。色をずらしてしまうと、これが難しくなる。『シャドウムーア』で、部族セットで色が確立した後で色をずらすというまさに同じことをしたのだが、その結果は望ましいものではなかった。あのブロック最大の失敗の1つである。

フレイバー上の多くの問題が生じる

 『イニストラード』で、クリーチャーを諸君が想像する色に置き、その後でフレイバーに富んだ2色目を探したのだ。フレイバーに富んだ3色目があるとは限らない(ある部族もあるだろう)し、あったとしてもそれらで敵対色の組み合わせ5つを埋められるということはまず考えられない。

 したがって、我々はその検討はしていない。

 このセットで注目されていない部族を追加できるとしたら、何を追加しますか? 私はぜひスケルトンを取り上げてほしいです。

 旧『イニストラード』で、私はアーティファクトの部族を作りたかったので、カカシを部族として取り上げる計画があった。やり過ぎだということがわかったので、そのほとんどを取り除いたのだ。『イニストラードを覆う影』で新しい部族を取り上げるとしたら、おそらくホラーを取り上げていたことだろう。

 ストーリーやフレイバーを強調するという新しい流れが、ゲームプレイに悪影響を及ぼす恐れはありませんか?

 むしろその逆になっていると信じている。ゲームプレイは、ゲームプレイと望んだ形の感情的反響に深いつながりがあるときにもっとも輝くのだ。フレイバー的側面を強く持つことで、これを達成することはむしろ簡単になる。つまり、意識すべきことなのだ。読んで魅力的に見えてもゲームプレイに何も得るものがないようなルール文を増やさないように注意しなければならない。多少ならいいが、多すぎれば複雑さの問題を引き起こすことになるのだ。

 ブースター1つに2枚以上の両面カードが入っていることがありえますか、それとも『イニストラード』のように1枚だけですか?

 奇妙なエラーがなければ(印刷時に起こることはある)、各ブースター・パックには少なくとも1枚のコモンまたはアンコモンの両面カードが入っている。そして、さらに約8パックに1つ、レアや神話レアの両面カードが1枚入っている。コモンとアンコモン、レアと神話レアの比率は、通常のレアリティの比率と同じである。

 なぜスレッショルドでなく昂揚を使ったんですか?

 スレッショルドは、自分の墓地にあるカードが何かを考慮せず、単に枚数だけを考慮していた。つまり、大量のパーマネントを生け贄に捧げ、大量のカードを捨てることを良しとしていたのだ。一方、昂揚は、自分のカードにどのカード・タイプがあるかを参照するので、例えばクリーチャーが1体死亡したら、もう自分のクリーチャーを死亡させることには意味がない。すなわち、より良いゲームプレイと、より興味深いデッキ作成上の選択がもたらされることになる。また、デベロップが昂揚のバランスを取るのも簡単になるのだ。

 セットに4人のプレインズウォーカーを入れるという決定の理由は何ですか?

 ジェイスは主役なので、彼のプレインズウォーカー・カードが必要だった。ソリンは物語上で重要な役割を果たすので、彼もプレインズウォーカー・カードにすることにした。ナヒリも重要な役割をはたすので、彼女にもプレインズウォーカー・カードが欲しかった。問題は、色で見た時に白には2人のプレインズウォーカーがいて、緑には1人もいないという不均衡が生じていたのだ。クリエイティブ・チームは狼男のプレインズウォーカーというクールなアイデアを持っていて、それで色の不均衡を解消することができるので、我々は必ずデフォルトを守らなければならないわけではないと判断したのである。

 プレイテスト中に《十三恐怖症》で何回負けました?

 私は《十三恐怖症》相手には一度も負けていない。オーケー、公正に言おう。私は《十三恐怖症》と対戦していないのだ。デザイン中に作られたカードだが、私は《十三恐怖症》を開封して手にしたこともないし、プレイテスト中に対戦したこともない。

 カード・タイプの「部族」を復活させようという誘惑はありましたか?

 なかった。実際、「部族」を廃する必要があると認識したのが旧『イニストラード』のときなのだ。部族セットだったので、私は部族というカード・タイプをたっぷり使った。しかし、その結果わかったのは、まったく役に立たないということだったのだ。クリーチャーに影響するものは、他のカード・タイプでは意味が無いことが多い。結局、部族は単に文字数を増やすだけでゲームプレイにはほとんど影響を与えなかったので、私は部族を取り除いたのだ。部族テーマのセットでさえそうだとわかってから、開発部は部族というカード・タイプをマジックから取り除くことにした。(なお、今もルールでは扱われていて、単に部族というカード・タイプのカードをもう作らない、というだけである)

 両面カードにおいて、色のバランスをどうやって取っているんですか?

 正確にバランスを取っているわけではない。どの色にも存在するようにはしているが、全ての色の枚数が同じになるようにはしていない。例えば、狼男は全て両面カードなので、充分な量の狼男が存在できるよう、赤と緑には数枚両面カードが多くなっている。

 なぜ、手掛かりに関連する勝利条件カードがないんですか? 謎を解いてみたいです!

 一般論として、我々はセットに複数枚の勝利条件カードは作らないことにしている(『オデッセイ』ブロックには勝利条件カードのサイクルがあったので、ときどきこのルールを破ることはあるが、そう頻繁ではない)。《十三恐怖症》が最初にデザインされ(このセットの調査メカニズムはデベロップ中に作られたのだということを思い出してもらいたい)、そして我々は非常に気に入っていたのだ。さて、なぜ手掛かりに関連する勝利条件カードがないのか、だが、我々が《十三恐怖症》に惚れ込んでいたからである。

 『イニストラードを覆う影』は初めて100%成功した次元への再訪になるかもしれません。次への教訓は何かありましたか?

 『イニストラードを覆う影』から私が得たものには、次のようなものがある。

その次元を最初に訪れた時に愛されたものが何かを理解し、それを再現すること

 旧『イニストラード』をあれだけの大人気にしたものが何なのかを正確に理解することに時間を費やし、そして『イニストラードを覆う影』がその同じ方向性を奏でられるように尽力した。プレビュー記事の中でも語ったとおり、このセットを『アヴァシンの帰還』ではなく『イニストラード』に近づけるということもその一環である。

その世界の精神にふさわしい形での新しいひねりを見つけること

 我々は、イニストラードを再訪するためにイニストラードを再訪するわけではない。イニストラードを舞台にしなければ語れない、クールな物語があるのだ。ただのコピーにはせず、もとのブロックに、物語にふさわしいひねりや雰囲気を加えるのだ。

 高レアリティの天使(赤にも)がたくさんいるから、ドラゴンが登場しないのですか?

 その通り。初期に、天使が狂気に堕ちたことを表す最善の方法は色を変えることで、フレイバー的に理想の選択は赤だった。赤の大型飛行クリーチャーをいくつも作ったので、ドラゴンを入れる場所がないのはすぐに明らかになったのだ。

 ティボルトはまだその辺にいますか、それともどこか遠くで氷漬けになっていますか?

 ティボルトがその辺にいるとは思わない。このブロックに関する物語のどこにも彼の姿はなかった。彼はプレインズウォーカーなので、おそらく多元宇宙を旅しているのだろう。

 直接的にホラーらしい要素のカード化が減ったのは、物語に焦点が当たったからか、ホラー要素を減らしたからかどちらですか?

 トップダウンのホラー要素が減っているのは、旧『イニストラード』でかなり使ったからである。また、我々は異なるタイプのホラー物語に向かっており、その変化によって新しい要素を活用しているのだ。

 金・アーティファクト・トークンに続いて、今回は手掛かり・アーティファクト・トークンが登場しました。今後もクリーチャーでないトークンは出るのですか?

 うむ。クリーチャーでないトークンは、必要に応じて使える道具として準備されている。クリーチャー・トークンのように頻繁に登場するものではないだろうが、ときおり登場することは間違いない。

 このセットには伝説のクリーチャーが少ないように思います。これは物語上プレインズウォーカーの役割が大きくなったからでしょうか?

 そうではない。セットのどの一面にも盛衰があり、伝説のクリーチャーもその例外ではないのだ。去年の『タルキール覇王譚』ブロックは少し重くなっていたので、我々は振り子を多少揺り戻すことにしたのだ。

 大量のフレイバー、大量の回収、《十三恐怖症》と色々ありましたが、普通のセットよりも作業量は多かったのでしょうか?

 いいや。むしろその逆だ。デザインを始めるときに色々なものがあれば、デザインする上でむしろ助けになる。私が常々言うように、制限は想像の母なのだ。そして、『イニストラードを覆う影』には楽しい制限が大量にあったのだ。

 昂揚があるので、『イニストラードを覆う影』に《タルモゴイフ》を検討しましたか?

 そもそもデベロップは《タルモゴイフ》をスタンダード環境に戻したくはないだろうが、そのカードの働きとシナジーがあって通常よりもさらに強くするような状況は決して許さないだろう。

 あなた方は一度使った世界をもう一度訪れることのエキスパートになりつつありますが、3回目、4回目はどうでしょうか? 私は贅沢なのです。

 マジックが進化するにつれ、世界はさらに象徴的な部分になっていく。従って、私は人気のある世界に何度も訪れることになるだろうと思う。どの世界を再訪してほしいか、どの世界をさらに再訪してほしいか、諸君の意見が聞きたいと思う。

 新しいカードを作るのと、《逸脱した研究者》のようにカードを「改革」するのと、どちらが簡単ですか? どちらが好きですか?

 それぞれに簡単な部分と難しい部分がある。新しいカードの場合は何もないところから構想を生まなければならない。改革する場合は超えるべきハードルが多いが、最初の構想は既に存在する。私は、セットに両方があるのが楽しいと思う。

 これほど早くイニストラードに戻ることを決意させたのは何ですか?

 世界を再訪できるようになるまでの時間は、我々がかなりの時間を費やして議論するような複雑な問題である。ミラディンで、我々はすぐに再訪しないように時間をかけた(それまでに再訪した世界は、何度も再訪したドミナリアだけである)。ラヴニカで、その限界を少し広げた。ゼンディカーとイニストラードでもやはり限界を少し推し進め、プレイヤーの反響を見た。旧来の3セット・ブロック構造から現在の2セット・ブロック構造への変化のせいで、イニストラードはさらに早まったのだ。

 限界を探る理由の1つは、どれほど早く再訪できるかの感覚をつかむことである。常に可能な限り早く再訪しようとは思っていないが、その条件がどれだけかは理解したいのだ。イニストラードへの反響を見る限り、我々は再訪を早めすぎてはいないようだ。

 このセットで伝説の蜘蛛は検討されましたか?

 それは議論した。伝説の蜘蛛はイニストラードにいてもおかしくないが、不幸にしてカードの枠が足りなかったのだ。

 グリセルブランドは再登場しますか?

 残念な報せがある。前回、『アヴァシンの帰還』で《グリセルブランド》が登場した時、リリアナに永遠の若さを与える契約を結んだ4体の悪魔の1体である彼はリリアナとの決戦に挑んだ。その決戦は彼にとって不利に進み、そして彼は契約からの自由を求めるリリアナの戦いの前に屈した2体目の悪魔となったのだ。

 なぜ緑の2/2と言ったら熊で、緑の2/2トークンと言ったら狼なんでしょうか?

 開発部語で「熊」というと、『アルファ版』の《灰色熊》に由来する緑の2/2クリーチャーのことだ。我々は緑の2/2クリーチャーに様々なクリエイティブ的方向性を与えてきたし、熊の大きささえも変えてきている。

 なぜこのセット全体を物語の謎という一面に寄せたのですか?

 興味深いことに、我々が最初にこのセットをデザインした時、謎ではなく狂気に注目していた。しかし、ストーリー・チームがストーリーを仕上げ、ブランドがマーケティング戦略を考え始めると、我々はこのセットには謎という要素が必要だと認識することになった。そうして、我々は調査メカニズムを作りはじめたのだ(デザイン版は最終的に印刷されたものとは違っている。これについて詳しく知りたい諸君は、私のプレビュー記事を読んでみてくれたまえ)。

まだ話し足りないが

 大量の回答をしてきたが、これで今回の「こぼれ話」は終わりである。諸君からの『イニストラードを覆う影』に関する多くの質問に答えられていれば幸いである。いつもの通り、諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、新しい世界を作るときに、どのように、そしてなぜ未踏の地を探るのかを語る日にお会いしよう。

 その日まで、あなたの質問に答えがありますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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