こぼれ話:『異界月』 その3

更新日 Making Magic on 2016年 8月 8日

By Mark Rosewater

Working in R&D since '95, Mark became Magic head designer in '03. His hobbies: spending time with family, writing about Magic in all mediums, and creating short bios.

 先週先々週と2回を費やして『異界月』に関する諸君からの質問に答えてきたが、まだ質問が尽きないので続けるとしよう。

 ハルとアレイナはなぜカードになっていないんですか? プレイヤーは本当に望んでいるんです。

 この回答は専門的なものになるが、重要なものだ。カード・セットは、ウェブサイトに掲載されている短い物語とは違う時期に作られている。全体の流れはカードが作られるのと同時期に作られるが、脇役などの細かい部分の多くは物語が書かれるときに初めて設定されるのだ。ハルやアレイナは、セットが作られた時点では人物として存在していなかったのだ。キンバリー・クレイン/Kimberly Kreinesが「銀の月の下で」を書いたときに、ハルとアレイナを作り上げたのである。

 さて、なぜ彼らがカードになっていないのか、への答えだが、キンバリーが彼らを作ったとき、カード・セットはとっくに完成し、確定していたからである。同じようなことが旧『イニストラード』でも起こっている。ゲラルフとギサだ。彼らはフレイバー・テキストの執筆中に作られていたが、カードのアートやルール・テキストが確定した後で作られたという点では同じである。ゲラルフやギサがそうなったように、ハルとアレイナもユーザーに好評だったので、我々は将来彼女らをカードにできる機会を望んでいる。

 多様性は非常に重要で、我々は常に多様性を物語に織り込む方法を探している。ここで強調しておきたいのは、彼らがカードになっていないのは単に時間の都合であって、我々が彼らをカードにしたくないというわけではない、ということである。

 《非実体化》が特例なんですか、それとも「呪文1つを対象とする。それをオーナーの手札に戻す」は複雑さ的に低いレアリティで許容されるようになったんですか?

 これは特別な例外であり、低いレアリティでよくやるようになるとは考えていない。

 神話レアが13枚でなく14枚あるのはなぜですか?

 レアリティごとのカード枚数は、我々にとっては重要でも諸君にとっては非常につまらない些事である印刷上の選択の結果である。13枚でなく14枚神話レアが存在する最大の理由は、我々が《悪夢の声、ブリセラ》(の半分)と《爪の群れのウルリッチ》の2種の両面カードが神話レアにするのが当然だと感じたからだろう。

 エルドラージの巨人すべてを連続したセットで登場させる必要はあったんですか? 全部一度に出したことで謎っぽさが薄れている気がします。

 『マジック・オリジン』以降、我々はストーリーの描き方を新しいものにした。ストーリーをより連続したものにするというのもその一環である。『テーロス』のストーリーと『タルキール覇王譚』のストーリーにはほとんど関連はなかった。今回の新方式では、ブロック同士を繋げるようにしていく。同じ人物を続けて登場させるのもその一つだ(そのためにゲートウォッチがあるのだ)。そして、あるブロックでの伏線を他のブロックで拾うということもそのひとつである。いずれ、どこかのブロックで登場したものが数ブロック後に再登場するということもあるだろう。

 しかし、この新方式を採用した直後なので、関連性があるということを強く主張しておく必要があった。そのため、我々はエルドラージを連続して登場させることにしたのだ。プレイヤーに、あるブロックでの出来事が将来のブロックに影響することがあると理解してほしかったのだ。これは過去との相違点なので、我々は非常にはっきりとそれを打ち出す必要があった。常にこれほど明確で早いというわけではないが、プレイヤーのストーリーに関する考え方を変えたかったのである。

 それによって謎っぽさが薄れた、と言われれば、そのとおりだ。しかし、より大きな目標のほうが大切だったのだ。

 (特に低いレアリティの)クリーチャー・トークンはだいたいいつもパワーとタフネスが同じですが、なぜ『異界月』のエルドラージ・ホラーは3/2になったんですか?

 エルドラージ・ホラー・トークンに、パワーとタフネスが同じでは持たないような特徴を持たせたいと思ったのだ。1/1、2/2、3/3のトークンは大量に存在しているので、特別なものとは感じさせにくい。エルドラージ・トークンの時間経過による変遷(0/1から1/1、そして3/2へ)というアイデアが気に入ったので、1/1よりも大きくしたかった。3/2になったのは、対処はできるが無視はできないと感じるようにするためだと思われる。

 イニストラードにいるエルドラージに関わる『異界月』の物語にはどれぐらいの時間をかけましたか?

 以前、エムラクールがイニストラードにいることは、ゼンディカーへの再訪よりも前からの話だ、という話をしたときにネット上で騒動になった。そこで、時系列順に説明していこう。以前クリエイティブ・チームの一員で、今は『ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ』を手がけているアダム・リー/Adam Leeが、イニストラードへの再訪というアイデアを開発部の集会で発表したのだ。その提案は、イニストラードを再訪して、既に最初の『イニストラード』ブロックでほぼネタを使い切ったゴシックホラーではなく、コズミックホラーに寄せるというものだった。その狂気と変質(コズミックホラーは人々が狂気に陥り変質していくものだからだ)の元はエムラクールだと。ナヒリもソリンも、物語の大部分もその提案には含まれていなかった。エムラクールによって引き起こされるコズミックホラーだ、というものだったのだ。

 それから1年か2年が経って、我々は次の舞台となる世界を決めることになり、ゼンディカーにしようということになった。確か、ラヴニカに再訪した直後で、それが大成功だったので、再訪する世界を探していたのだ。旧『ゼンディカー』は旧『イニストラード』よりも2年前だったので、先に再訪するのは筋が通っていた。我々はイニストラードへの再訪を計画したが、具体的にいつのことだったかは覚えていない。最初は、ゼンディカーへの再訪の直後ではなかった。その後、私の関わらない何かの理由により、ブロックを入れ替えることになり、イニストラードがゼンディカーの直後になったのだ。

 私が『戦乱のゼンディカー』のデザインを始めたとき、まだ2ブロック制への移行も、ストーリー描写法の変化も決まっておらず、『マジック・オリジン』は敵役を中心とした基本セットだった。最初の計画では、ゼンディカーを再訪する3セット・ブロックは各セットでそれぞれのエルドラージに焦点を当てようと思っていた。まだ『戦乱のゼンディカー』のストーリーはできていなかった(当時と今とでは手順は大きく異なっている。今はずっと早くストーリーを決め、世界がどうなるかに影響をおよぼすことができるようになっている)。

 最終的にエムラクールがイニストラードにいるようになることは決めていたが、それは『戦乱のゼンディカー』のストーリーの後になるだろうと考えていたのだ。ここでも、何がどのように起こるかの詳細はまだ決まっていなかった。そして、デザインの初期に、すべてが変わった。2ブロック制に移行し、ストーリーの語り方を変え、ストーリーを決めるのを手順の上で早くした。全ては大きく(そして良い方に)変わったのだ。

 これが、ゼンディカーへの帰還よりも前からエムラクールがイニストラードにいたという話である。

 なんで帽子が減ってるんですか?

 イニストラードで起こった最大の変化の話をするときが来たようだ。私の推理では、エムラクールは帽子が嫌いなのだ。実のところ、ナヒリも帽子が嫌いで、同じく帽子が嫌いなエムラクールをイニストラードに呼び込んだのだろう。狂気の兆しは帽子を拒絶することだと言えるかもしれない。触手が頭から生えてきたら帽子は似合わなくなることも考えられる。あるいは、帽子が体の一部へと変質していったこともあり得る。正確な答えはわからないままだが、これこそが『イニストラードを覆う影』ブロック最大の謎だと言えるだろう。

 エムラクールが月に封印されたことで、エルドラージ問題は解決したんですか?

 エルドラージ問題は解決した。少なくとも、今のところは。今後のセットにも様々な脅威が登場するが、それはエルドラージ以外の存在になる予定だ。今後数年にわたって、諸君が知っているものも知らないものも含め、様々な敵役が登場することになる。一体何者かを知ったときの諸君の反応が楽しみである。

 シガルダは『アヴァシンの帰還』と同じ色だったのに、ギセラとブルーナは違いました。なぜブリセラになる2体は赤や青でなくなったんですか?

 完全にメカニズム上の問題である。ギセラが赤白、ブルーナが白青のままだったとしたら、ブリセラをデッキで使うためには3色(青赤白)のデッキを組まなければならなくなる。セット内の合体カードは少ないことが決まっていた。合体カードを使うデッキは可能な限り多くしたかった。つまり、単色にすることが必要だったのだ。天使ということになれば、選ぶのは白だ。2体が共通して持っているし、そもそも天使の色といえば白なのだから。

 あなたもタバック/Tabakも、『異界月』にある潜伏を再録メカニズムとして挙げていませんでした。常盤木になったんですか?

 潜伏を作ったとき、私は、間違いなく青と黒で共有される常盤木メカニズムを作ろうとしていた。我々は、強い相互作用性を持ち、デッキによって有効か無効かがはっきりするようなものでない回避メカニズムを探しているのだ(「緑を使っているから、このクリーチャーは止められないな」)。

 新しい常盤木メカニズムの探し方は、常盤木メカニズムとして作るのではない。セットで有用なセット・メカニズムを作り、そのメカニズムを常盤木として使える可能性があれば、そのメカニズムを扱い、どんなデザインの助けになるかを見てから決定するのだ。果敢はこの新しい手法の最高の例だと言えるだろう。

 では、潜伏はどうだったのか。潜伏は、常盤木にするにはいくつかの問題があることがわかった。1つ目に、潜伏関連のデザインをして、デザイン空間が最初の想定よりもずっと小さいということがわかってきた。2つ目に、プレイして、最初に想定したよりも複雑で把握しにくいということがわかった。この2つの理由から、潜伏は常盤木にはならなかったのだ。

 では、なぜタバックも私も再録に挙げなかったのかというと、ただ忘れていただけである。このブロックで一番目立たないメカニズムであり、思い出さなかったのだ。

 ブロックにプレインズウォーカーが6人いるのは、今後の標準ですか、それともストーリー上の必要からの変化ですか?

 標準は5人である。「標準」と言っている通り、5人でない場合もありうる。しかし、最終的にはまた5人に戻ることになっているのだ。他のブロックでも5人を超えることがあるか、と言われれば、おそらくはあるだろうが、それが大勢を占めることはないだろう。

 旧『イニストラード』からの魅力的な再録がなかったのはなぜですか?

 このブロックには結構な量の再録があったので、「魅力的な」というのは強力なという意味だと思う。スタンダードで使えるセットで強力なカードを再録すると、環境を歪めるという問題があるのだ。旧『イニストラード』からの再録に限れば、『イニストラード』当時にスタンダード環境を歪めたカードは存在する。再訪するというのは、前回と違う形で以前のテーマを取り上げるということなのだ。

 デベロップは、《思考囲い》や《変わり谷》といった強力な再録も実験していたが、どちらの場合にも、満足できる結果にはならなかった。また、デベロップはセット全体に割り当てる強さを決めているので、昔の強力なカードを再録すれば、全体として新カードは弱いものになり、セットの評価も悪いものになってしまうのだ。

 リリアナが5番目の誓いになったのはなぜですか? ソリンのほうが良くありませんか? ソリンのほうが正しい動機を持っていて、リリアナはただ復讐したいだけですよね。

 リリアナは彼女の動機を明らかにするタイプではないので、なぜ彼女が参加することに決めたのかを見ていく必要がある。もちろん、彼女とジェイスの縁は影響している。現時点で私が言えるのは、ストーリー・チームが本当に尽力してクールで魅力的な物語を作っていたということ、そしてリリアナがチームの一員として選ばれたのには非常にいい理由があるということである。

 青がクリーチャーをタップダウンするような形で赤が土地をタップダウンするのは実験ですか、それとも軽度の土地破壊の新形式ですか?

 その両方だ。対戦相手があなたの土地を全て破壊するようなマジックは楽しくないので、赤の持つ土地破壊というテーマは常に問題になっていた。そのため、我々は土地破壊呪文のパワーレベルを落としていた。「土地をタップし、1ターンアンタップさせない」というメカニズムは、軽度の土地破壊を行う可能性を探るものとして生まれたのだ。これによって、赤は、長期的な不利益にならない形で土地を妨害することができる。これは実験であり、今後も赤で使いたいものだと確信しているわけではないが、試してみてプレイヤーの反応を知りたいのだ。諸君の感想を聞かせてほしい。今後も赤で使ってほしいと思っただろうか?

 なぜイニストラードはゴシックホラーからコズミックホラーに変わったのですか? ウィザーズは一貫した世界が好きだと思っていました。

 ホラーを元にした世界、というのは一貫した世界である。狭く定めすぎると、再訪し続けるために必要な深みがなくなってしまう。再訪世界を舞台にしたときに見えるのは、その世界のテーマの一部だということに注意してほしい。1回目に見ることができるのは一部分だけであり、その世界の全てではないのだ。

 不死、陰鬱、フラッシュバックがないのはなぜですか? パウパー・プレイヤーは悲しんでいます。

 セットの空間は限られており、プレイヤーは新しいものを望んでいるので、メカニズムを再録できる量には限りがある。我々はメカニズムを1つを再録することにした。そして、あらゆる選択肢の中から、イニストラードを最も象徴するメカニズムである変身が選ばれるのは当然のことだ。今挙げてくれた3つについては議論には上った。その3つの中で、一番再録の可能性が高かったのはフラッシュバックである。

 「普通の」狼男がいない『異界月』にはウルリッチは不似合いに見えます。なぜ『イニストラードを覆う影』でなかったのですか? 伝説の狼男を入れられる最後のタイミングなのですか?

 ウルリッチは本来は『イニストラードを覆う影』に入る予定だったが、ウルリッチと《アーリン・コード》という赤緑の両面狼男の神話レアを両方入れる場所はなかったので、どちらかが抜けなければならなかった。どちらを選んだとしても、どちらも『異界月』の両面カードの変質というテーマにはそぐわなかったので、例外を作るか、伝説の狼男でなくするかを選ばなければならなかったのだ(色のバランスの面から、このプレインズウォーカーは必須だった)。伝説の狼男は多くのプレイヤーに望まれているのがわかっていたので、両面カードに例外を作ることにした。神話レアなので、『異界月』を開封するプレイヤーが目にすることはそう多くない。

おしまい

 素晴らしい質問を大量に頂いた。時間をかけて投稿してくれた諸君に感謝したい。いつもの通り、今回の記事や『異界月』についての諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『コンスピラシー:王位争奪』のプレビューをする日にお会いしよう。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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