「スケープ」の囚人/または私は如何にしてスリヴァー達と遭遇し生還したか

更新日 Magic Story on 2013年 7月 5日

By Jennifer Clarke Wilkes

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「一体が奇妙なカチカチした音をしばらく鳴らして、しわがれた声で号令をかけたと思うと、全員から爪の生えた腕が生えてきた。あいつらは無数に尖腕を生やせるのか?」

――テューンの斥候、ハストリック


 あらゆる文明国家に対する火急の脅威についての報告

アルデスタン所属の斥候、ハストリック

 荒々しい未開の地を通過しようという、永遠にも思える奮闘の末、遂に私は長いこと追い求めていた国境地帯へとやって来ました。私は疲れ果て、空腹で、ありとあらゆる種の吸血性の害虫に追い立てられ、広大な荒野に栄光と富を求めて旅に出た大胆な冒険家の面影はもはやありません。その時何よりも私が必要としていたのは、避難所と食糧でした。

 私は周囲を観察しました。私はついに東方海の海岸へと辿り着いていました。過去の時代、多くの紛争のあった不幸な領域です。古の魔道士戦争のこだまは今もこの地に鳴り響き、不自然な石が今も奇妙に並び、波に打たれる断崖からは琥珀が何か不浄な森のように芽生えています。あらゆる岩は見たところ、原初の混沌にて生まれた古の怪物の姿を保持しており、ねじ曲げられた大地に今は永遠の影を投げかけています。

 奇妙な跡が石と、薄っぺらい酸性土に刻まれていました。それらは獣が縄張りを主張する傷跡に似ていました、熊類が爪で樹にそうするような。ですがそれらは私が多くの探検にて遭遇してきたどんな跡とも似ていませんでした。そして私は恐怖を感じてきました、全く知らぬ存在の只中にいるのではと。その痕跡は持ち主が移動する途中で変化しているように見えました。より大型化し、枝分かれし、洗練されて小型化し、そしてほぼ消滅しました。私は更に近くで一連の痕跡を調査すべく断崖の傍にかがみ、できる限り精密に記録しようと手を伸ばして手帳と筆記具を取り出そうとしました。その時、上空からの音が私に危険を告げました。私は見上げようとしました。

 遅すぎました。

 私は襲撃者の棍棒か何かに全力で殴られ、しばし意識を失いました。

 ひどい頭痛と奇妙な金切り声が響く最中に、私は意識を取り戻しました。目をわずかに開くと、私は半地下の洞窟の底、緩い土と頁岩の破片やその他の岩の中に半分埋まっているのがわかりました。頭上高く、僅かな隙間から淡い光が差しており、見たところそこから土が落ちてきていました。私の小さな剣、旅に持ち出していた唯一の武器は見当たらず、そして私は落石の下にほとんど埋まってしまっていました。

 私は見たところ、獣の巣か何かに転落したようでした。その表面を埋め尽くすのは悪夢にさえ見たことのない大群。宝石のようにかすかに光る瞳、クラゲか多足虫の悶える触手のような「髪」。多くは獣のような姿でしたが、何体かは大まかに人型生物であると考えられました。個体は全てキチン質の殻に覆われ、油まみれの機械部品のようにぎらついて滑らかでした。その生物は互いに、終わりのない騒音でさえずり合い、見たところ明確な目的のない機械的な務めを遂行していました。

 意識がはっきりすると、私は疑問に思い始めました。自分はどうやってこの厄介な到着を生き延びたのだろうか? 身体の状態に少しだけ気を配ると、数か所の擦り傷と後頭部にできた卵大のこぶ以外に深刻な傷はないことがわかりました。土に半分刺さったままの腕を試しに引き抜こうとして、そして見ました。恐ろしいことに、意識を失っていた間に、私の生来の気質が自分の身体を変化させていました。その奇妙な仲間達と同じものへと――先に鉤爪のついた肢と継ぎ目のある手足。本能的に、私は最も標準的な姿へと戻り始めました。私がそうすると、さえずりは大きくなり、より興奮したものとなり、そして近くの生物の上腕が波打ち、形を変え始めました。まさに私の目の前でそれらは触手となり、そして五本指の手で宙を掴んだのです。

〈捕食スリヴァー〉 アート:Mathias Kollros


 どうやら彼らは私を群れの一体だと考えているらしく、私を放っていました。彼らは明らかにある種の変身能力を持っているようですが、あまりに素早く極端に自分を変化させてしまっては、私は脅威だと思われるかもしれないと感じました。私は再び他の者と同じ姿へと落ち着き、静かに一息つきました。間断のない鳴き声は通常の低いものへと戻り、その生物達は再び絶え間のない仕事に集中しました。私は把握し始めました、この状況は比類のない機会を提供するものであると。私が好ましくない注目を避け続けられる限り、この奇妙な群体について更に調査し学ぶことができると。

 より注意深く周囲を観察すると、私は何か違うものに気が付きました。そこかしこに、洞窟を形成する頁岩の板に、生物の化石が無数にありました。鱗を持つもの、殻を持つもの、蟹のようなハサミを持つもの、長い尾を持つもの、長く伸びた鼻を持つもの等がありました。その幾つかは紛れもなく馴染みのあるものでした。そして一瞬のひらめきで私はわかりました。化石として保存されたそれらの種は、私をとりまく仲間達の同類に違いないと。何が彼らをここまで根本的に変化させてしまったのでしょう?

 もしかしたら、私の研究は彼らの歴史と起源を明らかにできるかもしれません。幸運なことに私の日誌は手の届く所にあり、折れた羽根ペンはまだそのページの間にありました。もし姿勢を曲げて、他の個体から身体を少し離しておけるなら、私は密かに体験を記録できるかもしれません。

 私は瓦礫からの脱出を開始しました。注意深く、周囲で動く異生物に擬態しようと努めながら。ですが彼らの気味の悪いかき鳴らし音は私の擬態能力を越えていました。洞窟には幾つかの出入り口があり、私はそのうちの一つに向かってゆっくりと移動し始めました。その時、群れは大混乱に陥りました。彼らの仲間の、怪物のような種が突然登場したのです。それは群れへと傲慢そうに吼え、そして小型の者達はその足元に慌てて並び従いました。私が一人優柔不断に残っていると、その巨人は忌まわしい顔を私へと向け、恐ろしい命令を繰り返しました。私は疑念を抱かれる危険よりも、全体の動きに加わることを決意しました。

〈先制スリヴァー〉 アート:Maciej Kuciara


 その巨体は目的を持って穴へと入っていき、より小さいもの達の群れと私が後に続きました。多くの曲がりくねった道を曲がり角と別れ道が続き、私はただちに来た道がわからなくなってしまいました。私達はやがて別の部屋へとやって来ました。私は眩しさに目を細めました。弱々しいけれども前の場所よりは明るい所でした。私の周囲では、どうやら琥珀の厚板でできた棚が段々に、曲線の壁から突き出ていました。それらの板の中からは弱々しい黄色の光がほのかに見え、中には人でないものの形が浮かんでいました。部屋からは無数の穴が、上下左右のあらゆる方向に曲がりくねって続いていました。

 目が慣れてくると、私は別の生物がこの場所を埋め尽くしているのが見えました。周囲の生物の多くは雄蜂に似ていました(私は彼らを「スラーム」という名で呼び始めていました)。他は、いくぶん大型のものは壁を背にしてうずくまり、柔らかい石を引っかいていました。ですが多くのものは軋むように鳴き、その声は詠唱のような音となっていました。向こうにあるものを見て、私の目はその姿形に困惑しました。膿疱のような半透明の球体が壁から突き出ており、悪夢のような形がその薄膜の中でよじれていました。それらは卵以外の何物でもなさそうでしたが、一体何の胚が孵化するのでしょう? 他のスラーム達は鞘の上や間を腹這いに歩き、明らかにハチの巣の中の働きバチのようにそれらを世話していました。

 私の足元には石がありましたが、その中にはまた別の、古の怪異が口を開けていました。石化したビヒモスは明らかに壁を埋め尽くしているものたちと同類でしたが、私が先に見た化石よりも更に昆虫に似ており、異質でした。同時にそれは巨大で、ドラゴンにさえ勝っていました。そして当面、より重要なものは、鎧と衣服の断片や骨の破片が積み重なった小山でした。それは無言で語っていました、私よりも先にこの怪物の巣穴に入り込んでしまった者達の運命を。

 私は頁岩の壁に付けられた奇妙な跡に気が付きました。古い時代からずっと存在し続ける化石の中、ある種の雑な彫り。私は一心に周囲を観察しようとしていたために最初はわかっていませんでしたが、先導者は群れへと再び「演説している」のでした。その合図で、スラーム達は小部屋じゅうに広がり、詠唱しながら身体を揺すり始めました。私はできる限りその動きを真似しました、この集まりが務める目的は何だろうと疑問に思いながらも。

 音が静まりました。新たな個体が小部屋に入ってきました。私達をここへと導いたものほど大きくはありませんでしたが、それは明らかに権力を発散していました。私がこれまでに見てきたものよりも人間に近い姿でした。それがカチカチ音で流れるような演説を始めると、全ての個体がそれに注目しました。その野蛮な音を私は理解できませんでしたが、そこには少なくとも何か高度な知能を思わせるような(私はこの個体を「プライム」と、より獣に似たものを「プレデター」と名付けました)、社会的なものが明らかに存在しました。それは喋りながら何度も回転を繰り返し、聴衆や壁や石の床の怪物へと、身ぶり手ぶりをしました。その姿はよじれ、常に変化し続けていました。ある時には琥珀の中にぼんやりと見える保存された種の姿に似て、またある時は私の周囲の様々な個体に似て。ある時は太り、ある時は重武装になり、巨大な鉤爪と牙を持ち、蛇のように伸び、そして元の姿へと戻りました。

〈鋼体スリヴァー〉 アート:Chase StoneChase Stone


 私はそれが、呼びかけと応答を先導しているのだと理解しました。見物客達は正確なパターンで動き、儀式的な様式の鳴き声で答えていました。一つの特別な、鳴き声とざわめきの連続が何度も何度も繰り返されていました。これは宗教的儀式の一種なのでしょうか? もしかしたらその奇妙なパフォーマンスはその生物の起源、もしくはこの世界へと辿り着いた伝説を語っているのかもしれません。もしくは、もしかしたら、出陣の踊りか!

 私の中の最優先事項は逃げることでしたが、この薄気味悪い脅威を文明世界へと警告する義務があるということも判っていました。彼らの歴史と性質を学ぶほどに、彼らに対する力を集めることができるのです。そして、彼らが巣に篭っている間に私は最善を尽くし、その秘密を探究できるかもしれません。私が再び陽の光を探し求めるのは、全てを学んだ後です。

 できる限り群れの中で身体を揺らしながら、彼らの出す野蛮な音を私の喉では再現できませんでしたが、私はゆっくりと一つの出口を目指して移動を始めました。そして見たところ気付かれることなく、穴へと滑りこみました。私は手探りで手帳を取り出し、急ぎ私が見たものの幾つかを写生しました。渇いたインクが筆記具の先にまだ残っており、私はそれを舌で湿らせました――少なくとも大まかな記録には十分な量でした。もし必要とあらば、私は自分の血で書くつもりでした。

 私は歌の響く広間から離れて遠くへ向かい、すぐに果てしない暗闇に飛び込みました。手さぐりだけで前へと進み、何か鎧をまとったような怪物を触るのではないかと絶えず怯えながら。私の耳は何でもない物音に張りつめ、良さそうな道には常に背を向けて先に進みました。私は頭上の岩の重さを感じ、そして空気が濃くなるのを感じ、下降していることがわかりました。次第に私は下方へを向かう道を選びました。群れの異質な匂いがとても長い間、私の意識を満たしていました。そのため私はそれが薄くなり始めていたことに気付けなくなっていました。その場所に来ると、新たな匂いがしました。塩水、海の漂着物。どこか近くに出口があるに違いありません。私は感覚に任せて先に進みました、近くにいるかもしれない怪物達にまだ怯えながらも。

 原初の暗黒の手触りが変化していることに、私は次第に気が付きました。海の匂いは強まり、周囲のぼんやりとした形がわかり始めました。私は一歩また一歩とじりじりと前進し、やがて新たな洞窟へと続く入り口に到着しました。それまで私が見てきた所とは明らかに異なり、そしてどうやら無人のようでした。どういうわけか、そこは更に古いもののようでした。青みがかった光が洞窟の向こう側、小さな入り口からかすかに差しこんでいました。そして私は耳にしました、暗く狭い中に響く、岸に打ち付ける波音を。

 私が立っていたのは、紛れもなく化石でできた道でした。琥珀の中に漂っていたそれらと似たもの、白骨化して久しい骨と殻の山には、私を捕えたもの達と蝙蝠、魚、昆虫達の両方がありました。壁には古くからの化石とともに、昆虫や小さな飛行動物と思しき姿が塗り付けられていました。石の板に、屈服するような姿で描かれていました。長い空白があり、そして顔料を使った幾つかの不器用なひっかき跡が、上で群れていたもの達を描いていました。その一続きの最初の絵は小さく、四本脚で、ですがあの生物達が皆共有していた、間違えようのない触手がありました。そして次第に様々な種類とサイズのもの、その群体の活動を指揮すると思しき二足歩行の種が現れました。蝙蝠の翼で飛行するもの、大きな角を持つもの、さらに蛙のような水かきのある足を持つものまでいました。そこには、無数の適応形があるように思えました。

 何がその祖となった種を変化させたのか、ともかく彼らは明らかにこの海岸の洞窟の中に存在していました――そして私が知る限り、他の多くもこの洞窟を好んでいました。明らかに、それらの古の捕食者達は小型の種を食していました。ですがそれが、いかにして彼らの異様な進化へと繋がったのでしょう? 私が観察した奇妙な踊りはその出来事を、何らかの方法で再現していたのかもしれません。もしかしたら奇妙な病気が、それとも一種の魔法的な呪いが、食糧となった動物によって運ばれたのでしょうか? それとも殻をまとった怪物達、彼らそのものが他の世界からここへとやって来たのかもしれません――もしかしたら、霊気の嵐に運ばれて――そして、この地へと到着したことによって、戻れないほどに変化したのかもしれません。

 私の全てがその考えに反発しました、ですが冷静な、筋の通った推論が私を逃れ難い結論へと導きました。この巨大な巣は発見されたのではなく造られたのです、今やそれに住まう、暴力的な姿をしたもの達によって――もしくは少なくとも彼らの先祖によって。彼らは洗練された知性は明らかに持ち合せてはいませんが、賢く、組織されています。十分に恐ろしい脅威となりうるほどに。

 私の夢想は背後からの耳触りな叫び声に打ち砕かれました。怪物達が何体も、私が通ってきた穴から溢れ出てきました。その神秘を研究する時間はもうありませんでした。私は海へと飛び込みました――水中での逃亡により適した姿となって、洞窟の出口へと。怪物の何体かが、身体から伸びる様々な殻や棘をハリネズミのように逆立て、それらを危険な矢弾のように放ちました。私が水へと飛び込むや否や矢弾が雨あられと私に飛び、一本が私の脚を貫きました。ですが私は変化に守られました。そしてもはや怪物達のさえずりと叫び声の聞こえない、有難い波の下へと滑りこみました。

〈茨投スリヴァー〉 アート:Trevor Claxton


 啓発のため、私はここに付記します。私が遭遇したその生物の特質と姿形の概要、そして私に怪我を負わせた外殻。これは神秘的な流動性が今も残っていますが、もし凝固していれば。また貴方がたは見つけるかと思います、彼らの騒々しい発音によればスケープと呼ばれる巨大な棲家や巣孔の詳細なスケッチも。私はその奇妙な生物を「スリヴァー」と称することにしました。彼らは無骨な存在かもしれませんが、彼らはありとあらゆる場所で、文明の深刻な脅威となる性質があります。彼らとその長所短所を学べば学ぶほど、彼らを根絶する備えができるでしょう。進歩のために。


( Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)


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