アクロスの壁

更新日 Magic Story on 2014年 3月 7日

By Kelly Digges

Kelly Digges has had many roles at Wizards over the years, including creative text writer, R&D editor, website copyeditor, lead website editor, Serious Fun column author, and design/development team member on multiple sets.

 楽しさで一杯のラヴニカとテーロス、そして奇妙で不思議に満ちた沢山の世界ツアーを終え……

 驚くべき英雄達や歪んだ顔の悪漢達との出会いを体験し……

 数えきれない神秘と未だ明かされぬ邪悪な計画を見届けながら……

 私は休息を取るよ。

流浪》 アート:Jonas De Ro

 Uncharted Realmsは私の専業の中でも最上位の専業であり続けた。舵を握ってきたこの輝かしき数ヶ月間、毎週毎週、君達へとフレイバーの精髄を届けることに興奮し、またそれは誇らしかった。とても多くの素晴らしい物語がマジックのウェブサイトを飾り、何人もの偉大な執筆者を(そして何人かの帰還せし英雄も)ウィザーズの壁の内側から舞台へと上がらせることにぞくぞくした――ストッダード、クロー、ニクル、レーヴィック、イスガー、カワカミ、タバック、トループ、クラーク=ウィルクス、ダヴィッドソン、そしてディゲス。

 待て、最後の奴だ。ディゲス。彼は幾つも素晴らしい記事を書いてくれた。その上、実は彼は熟練の編集者でありウェブサイトの導師だ。うーむむむむ…

 彼をここからショーへ出さない理由がどこにある?

 そう、これ以上の面倒事は抜きにして、私はケリー・ディゲスへとバトンを渡そう!

 彼は素晴らしいアイデアを誇る一流の執筆者だ。クリエイティブ・チームの新顔として彼は熱心に働き、Uncharted Realmsで語られるマジックの物語の発展に努めてきた。私達はそこにいる君達ヴォーソス全員が興奮できるものを幾つも手にしている。そしてケリーは君の、フレイバーのアイアン・シェフになるだろう。

 これは素晴らしいことだ。応援と素晴らしいメール全てに感謝している。これからも送り続けて欲しい、そして更なるUncharted Realmsにチャンネルはそのまま!

――アダム・リー


「両角」として知られる二本の石柱の間に十人の兵士が立っていた。彼らの肌は汗にぎらついていた。ヘリオッドの陽光が彼らを打ち、両角の落とす影は彼らが気を張り詰めて並び立つ前と後ろにあった。前方に伸びる影は彼らが待つ中、じりじりとにじり寄ってきていたが、それはまだ剣が届く範囲の外に留まっていた。

 レアンドロスは影の中に入り、昼寝することを切望していた。そう、彼が求めているのは入浴や喜ばしい集まりのためにアクロスへと戻ること、だが彼は喜んで影を――もしくは戦いを手にするだろう、もしそれがやって来るのであれば。何にせよ、待つよりはましだった。

 キュリロス隊長が列から進み出た。彼は他の兵達と同じように汗だくだった。

「遅すぎる」 キュリロスは言った。彼は兵のうち三人を指差した。「その三人は私と来い。バーダス、ボリアス――両角に登って何が見えるかを確認しろ。他の者は休憩を取るように」

 バーダスとボリアスはニヤリと笑い、鎧を脱ぎながら両角へと駆け寄った。その男達は兄弟ではなく、レアンドロスが見た所、恋人でもなかった。だが彼らは紛れもなく連れで、何よりも互いに競い合うことを好んでいた。うめきながら、汗をかきながら、様々な挑発を交わしながら、彼らは巨大な立柱へと飛び付くと登っていった。

》 アート:Steven Belledin

 キュリロスは若きヘイモン、整った顔立ちのニカシオス、そして頑健なザントスを周囲の警戒へと連れ出した。レアンドロスはありがたく石柱の一本の影に腰を下ろし、手の届く範囲に剣を置いて水袋からごくごくと飲んだ。ムネソスは石に寄りかかって座り、ペリソフィアの「論理についての試み」の使い古した写しを既に手にしていた。白髭のディオクレスは兜を脱いでそれを岩の上に置き、薄くなりつつある髪を撫でていた。そして粗暴なパラスは柔軟運動を始めた。彼はニカシオスを除く誰よりも背が高く筋肉質で、それを見せつけるのを好んでいた。

「あいつらは来ねえよ」 身体を二つに曲げて地面に掌をつけながら彼は言った。

「黙れ」 ディオクレスが言った。「ユーマロスは優秀な隊長だ。集合に遅れるような人物ではない。もし現れないのであれば、彼らはもう死んでいるということだ。お前に軽々しくそんなことを言う資格はない」

 彼らやユーマロスの部隊はともにアラモンに所属していた。都市国家アクロスの防衛にとって、城壁のごとく極めて重要な放浪の兵士達。アラモンの多くの小隊が情報と物資を交換するために定期的に落ち合う。会合に現れないことは全くもって良い兆候ではない。

「はっ!」 バーダスかボリアスか、競争に勝った方が叫んだ。

「どう思いますかね、優秀なる学者様?」 今や再び直立し、背後のムネソスを見るほどにぐるりと身体をねじってパラスが尋ねた。

「世界に存在する問題には多くの可能な解決策があると私は考えます、理想的形態理論は唯一のものです」 ムネソスは顔を上げずに言った。

 ふん、とパラスは鼻を鳴らした。

「サイクロプスだ!」 ボリアスかバーダスかが叫んだ。「サイクロプスだ、北東から来るぞ! 武器を取れ!」

 レアンドロスは剣を手に立ち上がった。

 他の者が武装する中、バーダスとボリアスは両角の脇から駆けてきた、ムネソスは本の代わりに投石帯を手にとった。ディオクレスは瞬時に兜をかぶり、パラスは槍を手にすると侵略者へと向かう体勢を整えた。

 同時に斥候隊が戻ってきて、十人の兵士が隊列を形成した。そして一体のサイクロプスの巨体が北東方向から視界に入ってきた。

不機嫌なサイクロプス》 アート:Peter Mohrbacher

 そのサイクロプスは既に傷を負っていた。片脚を引きずり、後ろに血痕を残していた。それは叫びを上げた、咆哮というよりは泣くように、そして彼らを避けようと背を向けて大股で駆けた。

 最初に接敵したのはパラスで、彼の槍はサイクロプスの無傷の方の脚、その大腿に深く突き刺さった。サイクロプスは再び泣くような叫びを上げて彼を逆手で攻撃し、パラスは無様に叩き飛ばされた。ボリアスは注意を引きつけるために走り、その隙にバーダスがその腹部を切りつけるために突撃した――そこには傷があったが、深いものではなかった。サイクロプスはよろめきながら逃げようとした。

 レアンドロスの隣、盾の壁の背後でニカシオスが槍を投げるべく持ち上げていた。もしサイクロプスが戦いに応じるのであれば、彼は槍を放つだろう。だがそれは今も彼らを迂回しようとしている。サイクロプスを倒すのは、傷を負っているものであっても、その目を抉らないことには長く血みどろの仕事になる。

「ムネソス!」 レアンドロスが言った。「奴の気を引け! ニカシオス、準備しろ」

 ニカシオスは頷いた。

 学者は一団の後ろへ下がり、投石帯に石を込め、頭の上で石を振り回し始めた。

 ムネソスの石がサイクロプスの頭蓋に命中する音がして、その怪物は咆哮を上げた。サイクロプスはきょろきょろと攻撃者を探したが、代わりにその目にニカシオスの槍先が命中した。サイクロプスは絶叫し、顔面に血を流しながら槍を掴んだ。そして部隊は前方へと突撃した。

統率の取れた突撃》 アート:John Severin Brassell

 レアンドロスは前方へ駆け、振り回される腕の下をくぐり、過ぎざまにサイクロプスの無事な脚の腱を切り裂いた。そのサイクロプスは膝をつき、部隊は止めを刺すために包囲した。誰が最後の一撃を与えたのかをレアンドロスは見なかった、だが誰の手柄かと聞かれたらそれはニカシオスのものだった。

「怪我をした者は?」 隊長が尋ねた。

「打ち身だ」 パラスが喘いで言った。「いい拳を貰っちまった」

「英雄になろうなどと思わないことだ」 キュリロスが言った。「ムネソス、彼を診てやれ」

 パラスは不平をこぼしたが、重傷を確かめるムネソスに従った。

 最年少のヘイモンがサイクロプスをじっと見つめる中、ニカシオスとザントスは周囲の様子を確認すべく駆けていった。

「腹が減ったか?」 ヘイモンの背を叩いてバーダスが尋ねた。

「サイクロプスを……食べるんですか?」 ヘイモンは尋ねた。

「食えるものは何でも食うんだよ」 ボリアスが言った。

 ヘイモンは青くなった。

「サイクロプスなぞ食っちゃいかん」 バーダスとボリアスをにらみつけてディオクレスが言った。「飢え死にしそうな時でもないならな。それだって食えば死ぬかもしれん。毒があるからな」

 ザントスが辺りの警戒から戻ってきた。

「その一体だけだ」 彼は言った。「追っているものもいない。こいつははるばる一つ目峠から来たようだ」

「ならば、ここで何をしていたんだ?」 レアンドロスが尋ねた。「あのサイクロプスどもは縄張り意識が強い、そうだろう?」

「ええ、とても」 パラスへと頷きながらムネソスが言った。「それに、傷を負ったサイクロプスは普通、身を隠します」

「それがどうした?」 パラスは立ち、身体を伸ばして言った。「サイクロプスに変わりはねえ」

「この傷はアクロス軍が負わせたものとは思えない」 ニカシオスが言った。彼は槍を手に、サイクロプスの死体を詳細に観察しようと移動した。「この片脚の傷は打撲だ、切られたのではない」

「別のサイクロプスか?」 レアンドロスは尋ねた。

「違うな」 ディオクレスは言った。「もっと小さい。別のサイクロプスなら岩で頭を叩き割るだろう」

「お喋りは終わりだ」 キュリロスが言った。兵団は黙った。「ユーマロス隊は会合に現れず、一つ目峠から我々の兵達にサイクロプスをけしかける何かがあった。それを確認しに行かねばならない」

 ニカシオスは頷いた。パラスは顔をしかめた。ディオクレスは眉をひそめた。誰も口を開かなかった。

「ムネソス、印を残しておけ」 キュリロスが言った。「そうしたら移動するぞ」

 学者は木炭を取り出し、「両角」の片方の側面にその申し分のない筆跡で時と日付を書きとめた。この道を通過したアラモンの次の部隊へと、彼らがここにいたことを知らせるために。

 そして十人の兵士達は隊列を成し、サイクロプスの死骸を残して去った。


 小隊は岩がちの露頭で野営をしたが、落ち着かないものだった。彼らの頭上、かつては神々の物語が繰り広げられていた輝く星座の在処には、ただ星々があるだけだった。

 ムネソスは一団から離れて座り、空を見上げていた。レアンドロスがやって来て彼の隣に座り、しばしの間無言でいた。


「何故神々は俺達を見捨てたのだ?」 レアンドロスが尋ねた。

「その点においては」 ムネソスが言った。「誰も意見の一致に至っていません。神々自身の理由によるものであることは疑いありません」

「神々は戻って来られるのだろうか?」

「歴史学者達によれば、神々がニクスから去られたのはこれが初めてではないそうです」 ムネソスは言った。「これが最後だとは私は思いません」

 レアンドロスは頷いた。

「俺はまだ祈りを捧げるべきだろうか?」 彼は尋ねた。

「難しい問題です」 ムネソスは言った。彼は身体をレアンドロスへと向けた。「ですが、私は祈ります」


 彼らはサイクロプスの足跡を追って丘を上った。それはうねる小路から狭い枯れ谷へ、そして曲がりくねった峡谷へと続いていた。血の痕跡は乾き、吹きさらしの石に足跡は残っておらず、彼らは一つ目峠へと進軍した。

》 アート:Adam Paquette

 その午後、峠の入り口を示す険しい岩壁の影の中に、彼らは大虐殺の現場を見た。九人のアクロス人が地面に横たわり、熱気から彼らの死体は既に腐って膨れていた。血と腐敗の臭いは重苦しいほどだった。

 死体は酷い有様で、叩き潰された鎧が峠じゅうに散らばっていた。彼らの頭部は全て失われていた。

 ムネソスは口と鼻を布で覆った。ヘイモンは卒倒しそうな様子だった。レアンドロスは憤怒で気分が悪くなった。

「これはユーマロスだ」 ディオクレスが死体の一つを指して静かに言った。「彼の剣だ」

「足跡があるぞ」 ザントスが死体の先を指差して言った。血が攻撃者の通り道を印していた。「ミノタウルスだ」

 混乱の遠端には晩餐の皿ほどの大きさの、もつれた血の足跡が残されていた。

「行くぞ」 キュリロスが言った。「前哨地に着かねばならない」

「ですが、し、死体を――」 ヘイモンがどもりながら言った。

「彼らはこれ以上死ぬことはない」 キュリロスは言った。「来い」

 部隊は列を整えた。レンドロスはエイスリオス、死の国へと魂を運ぶ神へと祈りを呟いた。そして今も河の渡し守がそれを聞いてくれることを願った。

「復讐は追憶に勝る」 ムネソスが言った。何かの引用のようだったが、レアンドロスはそれが何なのかはわからなかった。

 ヘイモンはユーマロス隊長の死体から離れなかった。ニカシオスが彼の肩に手を置いた。

「戻ってこよう、彼らのために」 彼は言った。

 ヘイモンは頷き、そして十人の生ける兵士は進み続けた。

 峠の中も、サイクロプスとミノタウルスの死体が散らばってぞっとするような飾り付けとなっていた。ミノタウルス達は岩に叩き潰されるか石の壁に叩きつけられており、数体は仲間に襲われたように見えた。サイクロプスの死体は更にひどかった。

 彼らの背後で、岩が音を立てた。レアンドロスが急ぎ振り返ると、大岩が彼らの背後に崩れ落ちてきて、彼らの出口を塞いだ。

落岩》 アート:Ralph Horsley

 前方から、獰猛な叫び声と轟くようなひづめの音が響いてきた。そして最初のミノタウルスが角を曲がって現れた。

 軍勢の先頭のミノタウルスは不格好なけだもので、剣を手に持っていた。それは低くうなりながら、他のもの達を前へと駆り立てていた。

「突撃用意!」 キュリロスが声を上げた。

 隊は既に盾を掲げ槍を構え、彼を囲んで隊形を整えつつあった。この密集隊形はいくらか時間を稼いでくれるだろうが、彼らはひどく数で劣っていた。

「俺達をはめやがった!」 バーダスが言った。

「ミノタウルスは策略を用いません」 ムネソスが言った。

「てめえそれは本で読んだだけだろう?」 パラスが鋭く言った。

アクロスの密集軍》 アート:Steve Prescott

 ニカシオスとバーダスは迫ってきた最初のミノタウルスを串刺しにした。別の一体が槍をすり抜けたが、ヘイモンが剣を上げるとその怪物は自ら刺されに行った。そして軍勢が彼らに迫り、戦術は放り出されてしまった。

 よだれを垂らした片腕のミノタウルスがレアンドロスへと肉薄し、その残った手で掴みかかった。レアンドロスはその顔面に盾を叩きつけ、ミノタウルスの片方の脚を切り裂くと、それはひづめの音とともに転げた。

 キュリロスはレアンドロスの背後で命令を叫びながら、戦況を把握するよう努めつつ戦っていた。バーダスとボリアスは背中合わせになり、互いを守りながら周りのミノタウルスとやり合っていた。だが二人は取り囲まれており、一団から孤立してしまっていた。

 ムネソスはレアンドロスの隣で、ミノタウルスとその戦略について、そして彼らの知性が欠如しているという仮定について自身に呟きながら戦っていた。パラスは次から次へと危険に立ち向かい、好機を見るやいなや素早く争いへと飛び込み、そして生き延びていた。ザントスとディオクレスはヘイモンを挟んで、あらゆる失敗を補っていた。そしてニカシオスは必要とされる所どこにでも現れ、素早い槍の一閃がそこかしこで仲間のために重要な時間を稼いでいた。

 ミノタウルスの一体が石の大鎚を振り上げ、レアンドロスを打ち砕こうとした。ディオクレスが盾を掲げるも、彼の腕めがけて大鎚ではなく斧が振り下ろされ、砕ける音を立てた。ディオクレスは絶叫したが立ったままで倒れはせず、そしてニカシオスはそのミノタウルスの胸に槍を突き刺した。

 ヘイモンは止めを刺すために前に進み出たが、別のミノタウルスが巨大な斧を掲げて迫った。そしてザントスが剣を手にしてそこに現れた。彼はミノタウルスへと突進したが、遅すぎた。斧が振り下ろされ、彼は肩から大腿までを裂かれた。

 パラスは吼えて駆け、ミノタウルスの鈍い逆手の攻撃をいなすとその内臓を露わにした。ディオクレスは剣を落とし、無事な方の手でヘイモンを引き下がらせた。レアンドロスは防御の姿勢をとり、彼らの撤退を援護した。

 別の叫びが上がり、彼の左でムネソスがミノタウルスの鉤爪の手で二つに折られていた。レアンドロスがその手を切り落とし、そのミノタウルスは苦痛にうめいた。ニカシオスの素早く、ぎこちない一撃は乱暴すぎて当たらなかったが、怪物は一歩下がった。ムネソスはうめいて地面に倒れ、その腹部から血がしみ出ていた。

 視界の外で、バーダスとボリアスが怒りの叫びを上げていた。

 彼らは何十体ものミノタウルスを殺したが、彼らは押されており、落石の壁に追い詰められた。レアンドロスはムネソスを引きずって下がろうとしたが、屈むたびにミノタウルスの一撃を防御すべく立たねばならなかった。学者はもつれた毛皮と打ち鳴らされるひづめの壁の向こうに消えた。

 ヘイモンは恥じもせず泣き叫び、逃げようと機会をうかがっていた。ニカシオスの万能なる防御はついに圧倒された。キュリロスは命令を下すのを止め、手元の戦いに集中していた。パラスは息を切らし血にまみれて、彼の動きは次第に遅くなっていった。

 レアンドロスの両腕が悲鳴を上げた。彼はムネソスのことを考えないように努めた。


 峡谷へと軍勢を率いてきたけだものがついに戦いへと加わった。それは軽く身長十フィートはあり、挑戦的にうなっていた。そして刃を振り上げ、攻撃してきた。

 ニカシオスの槍がその胸を滑るも、皮膚をわずかに剥いだだけで、その刃は彼へと振り下ろされた。ニカシオスは横によろめき避けたが、ミノタウルスは彼の脚をとらえ、それを切断した。ニカシオスは絶叫した。ヘイモンが飛び出したがその怪物は彼の頭部を掴み、峡谷の壁へと投げつけた。胸の悪くなるような砕ける音がした。

 そのミノタウルスはパラスへと剣を振るうも彼は避けた。だが平衡を失い、腕を大きくふらつかせた。レアンドロスとパラスはその剣を握った手を叩き斬ろうとしたが、分厚い皮と間に合わせの鎧が二人の攻撃を防いだ。ディオクレスはニカシオスを引っ張り、踏みつけるひづめから遠ざけた。

 キュリロスは好機と見て突入した。彼は前に踏み出すとその剣をミノタウルスの腹部に、柄まで深く突き立てた。

 そのミノタウルスは吼え、キュリロスを片方の巨大な拳で地面へと殴り倒した。そして片方のひづめで彼の胸を踏みつけた。それは彼を見下ろし、よだれを垂らしていた。

英雄の破滅》 アート:Ryan Pancoast

 レアンドロスがミノタウルスの脚の腱を切り裂くと、それは膝をついた。パラスの剣が大きく弧を描いてミノタウルスの首を切り落とした。その身体は血をほとばしらせながら、倒れた隊長の上に崩れ落ちた。

 更なるミノタウルスが、最後のはぐれた者達がやって来た。だが彼らは団の頭が倒れたのを見て散り散りになった。ニカシオスは脚を止血し、ディオクレスは片腕でミノタウルスの巨体を隊長の身体から退かそうとした。

 パラスは怒号を上げながら、逃走するミノタウルスに追いうちをかけた。レアンドロスは我慢しようと努めた。すぐに彼らは血にまみれて残されたが、うなり声とひづめの踏みつける音が近くにまだミノタウルスがいることを語っていた。

 レアンドロスはムネソスの死体を発見した。それは踏み潰されてかろうじて認識できるという有様だった。彼は学者の背負い袋に手を伸ばし、それだけでも守れないかと「論理についての試み」を取り出した。本には血がしみて使いものにならなくなっていた。彼はそれをムネソスの死体の上に置いた。

 パラスはディオクレスを手伝い、ミノタウルスの先導者の死骸を隊長の身体から退かした。キュリロスは死んでおり、彼の瞳は濁って兜はゆがみ、太陽をじっと見つめていた。

 レアンドロスは次にボリアスが、バーダスの動かない身体の隣に座りこんでいるのを見た。彼は自分の槍に肩を貫かれ、両脚は砕けていた。レアンドロスは彼の隣にかがんだ。

「賭け、だ」 ボリアスが、バーダスの死体を見下ろしながら言った。「賭け、ようぜ。誰がい、一番、長く、生き残れるか。金なら一杯ある、俺のへ、部屋にな。誰か死ぬ、ごとに、足していくんだ。多分……多分、俺が勝つぜ」

 彼はレアンドロスを見上げた。

「お前が勝つよ」 彼はぼそりと言った。「金、俺は……使えるとは思わない」

 彼は身震いし、その瞳が濁った。彼の耳障りな呼吸が遅くなり、そして止まった。

 レアンドロスは立ち上がった。

 生き残ったのは四人だった。ニカシオスは今も意識を保ちながら、岩に寄りかかって青白い拳で槍を握りしめていた。ディオクレスの顎髭は赤く染まり、砕けた盾は外されており左腕は使いものにならずに身体の脇にぶら下がっていた。パラスはまだ立っていたが、彼は息を整えることもできないようだった。レアンドロス自身は何という幸運か、無傷だった。

「ミノタウルスはこんな行動をするはずがない」 ディオクレスが言った、その声は腹立たしいというよりも弱々しく聞こえた。「何かが違う。奴等は我々をおびき寄せ、罠にかけた」

 彼は隊長を見下ろし、はっと何かに気付いた。

「アクロスに警告せねば」 彼は言った。「ミノタウルス達がアラモンを狩っている、計画的に。奴等がそれを企てているというなら、都市への攻撃を企てているだろう。まだ走れる者はいるか?」

 ニカシオスは彼の残された脚を見下ろした。

「俺が」 レアンドロスは言った。

「ちっ」 パラスは言った、彼の息は荒く、浅くなった。「すぐには無理だ」

「どうした?」 レアンドロスは尋ねた。「攻撃を受けたように見えないが」

「受けちゃいない」 パラスは言った。「戦ってる時に、何かが弾ける音がした。右脚の、昨日サイクロプスにやられた所だ。俺は一マイルも行けそうにねえ」

 だが彼は不敵な笑いをしぼり出した。

「けどお前に時間を稼いでやるよ」 彼は言った。

 轟く声とひづめが石を削る音が次第に大きくなってきた。

「ここに皆を置いては行けない」 レアンドロスは言った。

「行け」 ディオクレスが言った。「誰が残ろうと、死ぬ。だがアクロスへ警告するにはまだ遅くないはずだ。ここを登って、走れ」

 ニカシオスは勢いをつけて岩の上に登った。彼はレアンドロスへと頷き、槍を構えた。

「さっさと行け」 パラスが言った。

 彼は顔を峡谷の遠端へと向け、そして背を向けた。

「かならず」 レアンドロスは答えた。

 そして更なるミノタウルスが峡谷へとなだれ込んできた。レアンドロスは背を向け、落石を登った。

アート:Michael Komarck

 彼の背後で、ニカシオスが槍で盾を叩いていた。パラスはミノタウルスを挑発する声を上げ、やがてひづめの音がそれを飲み込んだ。

 レアンドロスは頂上へと到達し、そして振り向かずに走った。


 彼は一日じゅう、そしてそれ以上走り続けた。ミノタウルスの略奪隊を避け、懸命に目を見開き続けながら。時折彼は倒れたアラモンの部隊に遭遇し、そしてミノタウルスの大部隊がその道を通った痕跡があった。

 アクロスを視界にとらえた頃には、二度目の夜が訪れていた。暗闇の中、何かがおかしいことを実感するのに一瞬を要した。彼の歩みは遅くなり、止まった。巨大な黒色が、都市の眺めであろうものを汚していた。

 壁。何者かが――ミノタウルスが――アクロスを囲む壁を築いていた。奴等が都市を包囲する間、アラモンを閉め出しておくために。それは今にも崩れそうなもので、醜く、恐らくは薄っぺらだ。だがアラモンの武装は軽く、包囲攻撃のための装備は所持していなかった。もし荒野での猛攻撃を生き延びた者がいたとしても、彼らは包囲する必要があるだろう、包囲の陣営そのものを。

 突然、アクロス直上の夜空に星々が燃えさかり、鮮烈な生命を得て色と動きを取り戻した。数週間ぶりのことだった。ゆっくりと、二つの姿が形を成した。勇ましきイロアスと獰猛なるモーギス、戦の双子神。アクロス人とミノタウルス達それぞれの守護神。二柱は夜空に掴み合い、その永く厳しい争いにおいて新たな戦いを始めた。


 だが、神々はテーロスへと戻って来たのだ。双子神の目に入るのは定命の者ではなく互いだけだった。彼らからの助けは望めそうになかった。

 レアンドロスは膝をついた。

 彼は遅すぎた。神々でさえ、この災害を止められないだろう。

 アクロスの包囲が始まった。

アート:Peter Mohrbacher


 アクロスの包囲と更なる、世界を揺るがす事件はジェンナ・ヘランド著の電子書籍「Godsend」にて語られる。4月22日に発売される第一部は予約可能となっている(KindleとNook Bookにて)。そして第二部は5月13日に発売される(KindleとNook Bookにて)。(編訳注:英語版のみの提供となります。原文のリンクをご参照ください。)


 そしてミノタウルスの猛攻撃を君自身で経験することができる。最寄りの店舗この土日に行われる『神々の軍勢』ゲームデー、「大群との戦い」だ。(訳注:元記事はゲームデー前に掲載されたものです)


(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)

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