ギルドパクトの赦し

更新日 Magic Story on 2013年 1月 25日

By Adam Lee

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 ゴレフ・ハザックは椅子にもたれて顎の白い無精髭をこすりながら、列をなして入ってくる人々が舞台の前に席を確保する様子を見ていた。ゴレフはあらゆる意味で白髪混じりだった――その顔も、衣服も、物腰も。彼はウォジェクであったし、引退して長い年月が経ちながらも、彼は今もまだウォジェクだと言うだろう。ボロスの魔法によってウォジェクの経歴は平均的な人々よりも遥かに長く続くため、ゴレフの正確な年齢を知る者は誰もいない。その年齢、白髪混じりの髪、そして衰えたにもかかわらず、ゴレフは今も酒場の外で酔っ払ったオーガと取っ組み合えるような、もしくはラクドスの刺撃ちをノックアウトできるような姿に見えた。彼の手首は大抵の男のふくらはぎ程も太く、腕は傷跡に覆われていた。彼の顔は木の厚板を叩きつけても跡さえ付かないような……そう、少なくとも新しい跡は付かないように見えた。その上、ゴレフの顔は板よりももっとずっと堅いものを叩き付けられてきたのだった。

アート:Tyler Jacobson

 ゴレフの隣には彼の甥、軍学校を卒業したばかりの新人ウォジェクであるペール・ジャヴァが座っていた。彼は髭を綺麗に剃り、常に注意を配っていた。その制服には皺一つなく、高い光沢のあるブーツ、ボタン、真鍮製の装具は磨き上げられており、それら全てが陽光を受けて輝いていた。ペールは賢く、ウォジェクの部隊に入るために勤勉に働き、模範的な調査官となった。彼は最近相棒を与えられ、第十地区での巡回を始めた。ひっくり返ったリンゴの荷車から酔っ払いの殴り合いまで、若々しい熱意をもってペールはあらゆる事件を伯父ゴレフへと詳細に話した。同意の頷きや賢明な助言を、もしくは昔日の物語を望んで。

 今日は、一万年に渡ってラヴニカの十のギルドが守ってきた魔法的協定、ギルドパクトが終わった記念日であり、演劇はギルドパクトの終焉へと繋がる出来事の簡約版を表現していた。ゴレフはその日々をよく覚えていた。物語は英雄アグルス・コスが現れる場面から始まり、彼は喝采の叫びと拍手を受けながら舞台へと進み出た。そして少々の魔法と良質の舞台装置によって背景が変化し、屋上を模すとアグルスが殺人を調査する場面となった。あの動乱の出来事へと繋がる謎をいかにしてアグルス・コスが解明し始めるのか、観衆は引き込まれた。

アート:John Avon

 しばらくして、ペールが伯父へと寄った。「昔のギルドはどんな働きをしていたんですか? ギルドパクトがあった頃はどんな風だったんですか?」

「昔のラヴニカはずっと違った。ギルドが支配していた。ギルドこそが法、誰もがそう知っていた。ギルドの管轄地域に住んでいるなら、その法に従う。もし俺の親類みたいにギルド無しだったなら、街外れに住んで生きるだけで精一杯だったろうな。だがほとんどのラヴニカ人は何処か一つに所属したがった。ほとんどの者は組織や保護を、何かに属することを求めた。だから俺もウォジェクに入った。あの頃のボロスが俺は好きだった」

 ゴレフは椅子に寄りかかった。彼の肉体的な目は劇を見ていたが、内面では昔日の、ラジアとサンホームの天使達との日々の記憶を追体験していた。ウォジェクの軍勢、速太刀、空騎士達が巨大な広間に集い、陽光に鋼を輝かせ、彼らを統べる天使の導き手――彼らのギルド創設者への死せざる忠誠を表明する。ゴレフはその中の一人であり、彼の天使の司令官を凝視しながら、彼女の獰猛で崇高な視線に浸っていた。

ボロスの大天使、ラジア》 アート:Donato Giancola

「昔のボロスの役割は何だったんですか?」 その質問はゴレフを思い出から引き戻した。

 一瞬の後、ゴレフは言った。「ギルドパクトのためだ。ボロスは一万年もの間、ラヴニカの秩序を守っていた」

 しばしの間彼らは劇を見ていたが、ゴレフの言葉はペールの心に留まっていた。ペールは夜遅く、暖炉の傍でその話を聞いたことがあった。父親の友人達が遅くまで滞在し、昔日について語っていたものだった。そして時々の家族の集まりで、年老いた親戚二人がラジアの死、プラーフの崩壊、ギルドパクトの破壊の伝説を語っていたのをペールはよく耳にしたものだった。だがボロス軍、ウォジェクに所属していた彼の伯父は、ペールが思い出せる限り、その事について語ったことはなかった。

 舞台上ではアグルス・コスがディミーアの前ギルドマスター、ザデックと対峙していた。観衆は吸血鬼へと向けてブーイングと野次を飛ばし始めた。演者は観衆へと野次を返し、観衆からはくすくす笑いと更なるブーイングが浴びせられた。

 ゴレフは再びペールへと寄った。「だからこそ今、ボロスはかつてよりもずっと重要な存在だ。今や法を維持し、あいつのような者が力を持つのを止めるギルドパクトは無い。今のディミーアの表向きの姿に興味はないが、奴らは常に厄介事を持ってくる。お前はとらえがたい手がかりを追い、違った考え方をしなければならん。そして本や手引きにない魔法を学ぶようにしろ。ディミーアがいるのは深い層――本には載っていない所だ」

アート:David Palumbo

 ペールは頷いた。ディミーアについてのボロスの手引き書は徹底的なものだが、その情報は時代遅れだと学校では感じた。奴らは常に三歩後ろにいるように、もしくはただ森の中で見失ったように思えるのだった。

 劇はクライマックスを迎えていたが、ゴレフの関心は甥へと向けられていた。彼は義務感と切迫感を持ってペールを見た。「考えてみろ、ペール。ザデックとアゾリウスのあの人格崩壊者が法を壊した。奴らは一万年の間ラヴニカに平衡をもたらしていた全てを破壊した。お前はその後に育ったから他の状況を知らないが、その時代に生きていた俺達にとっては、世界の終わりのように思えた……本当に、あれは世界の終わりだった。ギルドがかつてのように協調しているのは驚きだ」

 ゴレフはペールの肩に手を置いた。「今の時代は、お前次第だ。お前の気配り、お前の情熱が、奴らが求める破壊と支配よりも勝らなければならん。だからこそこの劇は悲劇になった――コスとボロスの、ザデックとアウグスティンへの勝利ではない――悲劇だ。かつて紙に記された最も偉大な創造の破壊だ。かつて唱えられた最も偉大な魔法の破壊だ」

 ゴレフの言葉は小さくかき消えたが、彼の瞳が最後のメッセージを告げていた。ペールはわかっていた、ラヴニカのための本当の戦いは地底街の全域に散らばっていると、そこはディミーアが視界の外に潜み、次の攻撃の準備のためにその見えざる操り糸を引いていると。彼はわかっていた、彼はラヴニカの問題の根本を真に討つために、表向きの義務から配置を転換されたことを。

「ギルドパクトの赦し」はもう少し続くかもしれないが、観衆の中にいる一人のウォジェクにとって、そこには人生を賭けた仕事を定めるかもしれないようなメッセージがあった。


(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)

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