ゴルゴンとギルドパクト

更新日 Magic Story on 2014年 3月 21日

By Doug Beyer

Senior creative designer on Magic's creative team and lover of writing and worldbuilding. Doug blogs about Magic flavor and story at http://dougbeyermtg.tumblr.com/

原文はこちら

 急使が彼の到着を知った速度から判断して、ジェイスがラヴニカへと姿を現した時には既に遅く、その伝言には「至急」という言葉が三度使用されていた。アゾリウスの迷路走者であったラヴィニアが現在ギルドパクト庁舎にてジェイスの側近兼代理人の地位に就いており、彼が職務に遅れた際には補佐官達を配備して貢献していた。

 建造されて間もないギルドパクト庁舎の廊下には、紛れもなく蹄の音が響いていた。それはジェイスが通常、生けるギルドパクトの公的な聖域から連想する音ではない。彼が第一受付事務室へと急ぐと、回廊の先にボロス軍の官服と鋼をまとい、うなり声を上げるミノタウルスの群れが現れた。ラヴィニアは原告達に囲まれて立っており、うなることも、蹄も鳴らすこともない唯一の人物であった。彼女がまとうアゾリウスの鎧は法の権威の光に輝いていた。

「オルゾフが我々との領域協定を破ったのです!」 先頭のミノタウルスが声を上げた。「奴ら、軍の土地で税を徴収しております!」 他のミノタウルスも足を踏み鳴らし、低く重いうなり声で同意を示した。

「貴方がたのギルドはこの事務所に正式な申し立てを提出していません」 ラヴィニアは騒音に埋もれながらも平然と言った。彼女はまるで武器のように、一枚の紙を宙にひらりと振りかざした。「こちらを記入して頂きましたら、貴方がたの申し立てはこの議会にて順を追って取り扱われます」

「何事かな?」 ジェイスが部屋に現れ、尋ねた。

 ミノタウルス達は直ちにそのうなり声をジェイスへと向けた。

ボロスの布陣者》 アート:Zoltan Boros

「ギルドパクト殿!」 ミノタウルス達が吼えた。「オルゾフ組は我々の同意協定を反故にしたのであります!」 「不公平です! 奴らは俺達の頂上会談を邪魔するつもりです!」

 ジェイスはラヴィニアの思考へと言葉をかけた。(すまない、遅くなった。俺を呼んだのはこの件でか?)

(いいえ) ラヴィニアの思考が返答した。(些細な喧嘩です。私が収拾できます。別件で、貴方の耳に入れたいことがあります)

 ジェイスはミノタウルス達へと歓迎の意を示すべく、微笑みかけようとした。(殺人事件か?)

(何故そう思われました?)

(君がそういう顔をしている。『殺人事件がありました』という顔を)

(それも、一人ではありません。私は『殺人事件が一件ありました』という顔をしていました?)

(彼らが言っている頂上会談とは?)

(ボロス軍のギルドマスター、オレリアが今夜サンホームに他の三ギルドの指導者達を招きます。ボロス軍は警備体制を心配していますが、オルゾフ組は特に気にかけていないようです)

「ギルドパクト殿、貴方の裁定は?」 ミノタウルス達が主張した。

 ジェイスは先頭のミノタウルスの前に立った。彼の背は頭一つ分低く、角は二本少なかった。 「君達は正式な申し立てをラヴィニア議員へと提出してくれ」 彼は不服の大合唱へと言った。 「サンホームへと戻ってくれ。議事手続きに則って議員が対処するだろう」

 ジェイスは息を押し殺した。彼はラヴニカのギルド間の調和の体現、安定の顕現である。だが彼はまた生きており、死すべき臓器の塊でもある。ギルドパクトとして力を行使するたびに彼は壮大で神秘的な権威を感じ、同時にラヴニカの全住人がまさに彼の胃腸や顔面を繰り返し踏みつけようとするような、そう神秘的でもない感覚を覚えるのだった。

 彼は先頭のミノタウルスが斧をおさめると、ようやく息をついた。

 陽光が、地平線のすぐ上から庁舎へと差し込んだ。ジェイスは犯罪現場を記録したページを調べていた。死因は全て同じだった。「石化」。

 彼はラヴィニアへと顔を上げた。「彼らは本当に犠牲者なのか? 誰かが……本当に素早く、生きているような彫像を彫ったのではないのか?」

 ラヴィニアは首を横に振った。「ありえません。この市民達は行方不明になっていることを確認済みです。そして石化した死体は全て、ロズラッド広場にて発見されました」

「ゴルガリの縄張りか。石載りの地下道近くの」

「ですが、その内部ではありません。彫像は外に公然と陳列されていました。それともう一つ」

「言わなくてもわかっているよ、犯人は死体をゴルガリ団のシンボルの形に配置している」 ジェイスは指を鳴らした。「違う! その怖えた犠牲者の姿が、犯人自身の名前を記している」

「よく見て下さい」

「ん?」

「記されているのは、貴方のお名前です」

「……なんてことだ」

 ラヴィニアは頷いた。

「うーん」 ジェイスは苦しそうな声を出した。彼は時折、突っ伏すことができる机と、こういう時に座り込むことができる革張りの大きな椅子がどうしても必要になるのだった。「ああ、うん」

第10管区のラヴィニア》 アート:Willian Murai

「貴方との繋がりはまだ公衆には知られていないと私達は考えています。士官の何人かに、犠牲者を隠して死体を別の場所へと移動させました。また犠牲者の家族にはこの伝言について話してはいません」

「賢明な判断だと思うよ」

「それはともかく、彼らが記していた文字は明らかなものです。損なうことなく彼らの四肢を動かすことなど、私達には絶対にできません」

「その現場には他に何かあったか? 何か他の伝言は?」

「どのような?」

「時間とか、場所とか」

「そのようなものは何も」

「犠牲者の間に繋がりは? 何か共通点は?」

「居住地区は様々です。犯人は複数の地区から犠牲者を運んできたに違いありません」

 ジェイスは詳細の一覧をつぶさに追った。何を見つけようとしているのかも定かでないまま。繋がりになりそうなものは何も見つからなかった。だがページをめくる瞬間彼の瞳がひらめき、ぞっとするような予感が胃袋に沁み渡った。「この名前は正しいのか?」

「犠牲者のですか? 私達が知る限りでは正確です」

「リンナ・ストラーデック。シャーン・ダイラーラ。ハジン・ディーカー」

「どうしました? お知り合いですか?」

「そうではないけど。ラヴィニア、俺は今すぐ現場に行かないといけない」

 彼女は頷いて、扉へと向かった。「随員の法魔道士を何人か呼んで参ります」

 ジェイスは彼女を止めた。「いや、今回はいらない。君の士官と魔道士達を全員、ロズラッド広場から下がらせてくれ。俺一人で行く」

 ラヴィニアはその両眼の上、眉をひそめた。「犯人の罠へ? それは容認するわけにはいきません。一理もありませんよ」

「逆らわないでくれ。俺が言うまで、その場に誰も近づけるな。サンホームへ行って、ボロス軍を安心させてくれないか」

 彼女は自分の顔を指差した。「私、何て顔してるかわかりますか? 新作ですよ。『あなたを殺人事件の容疑者として考えています』 の顔です」

「知ってるよ、実際ね。でも本当、俺を信じてくれ。そこに誰も近づけないで、頂上会談に向かってくれ。頼むよ」

 その犠牲者達の名前はジェイスにとってある意味を持っていた。ラヴィニアには、もしくはラヴニカ次元に縛られているあらゆる者にはわからない意味を。リンナ・ストラーデック。シャーン・ダイラーラ。ハジン・ディーカー。

 イニストラード。シャンダラー。ゼンディカー。

 ロズラッド広場は陰鬱で静まりかえっており、その壁は菌類と苔で覆われていた。ラヴィニアの士官達はいなかったが、無人ではなかった。広場の中央には翡翠色の外套をまとった人影が立っていた。その顔はフードに隠されていたが、姿形から恐らくは人間だろう。そして彼女は明らかに、ジェイスに会うためにそこにいた。

 プレインズウォーカーだけがそれらの世界の名前を知っている。そしてジェイスがプレインズウォーカーだと知っているプレインズウォーカーだけが、それらの世界を思い起こさせる名前の犠牲者を選ぶことによって、彼個人を標的にできるだろう。この者達の身体を石化した犯人はジェイス・ベレレンについて多くを知っている、彼が分厚く覆い隠すその下を。

「伝言を受け取ってくれて嬉しいよ」 その女は言った。

「君は俺の注意をひいた」 ジェイスは言った。 「俺は独りだ。だから、他のラヴニカ人を巻き込むな」

「あら、私は仲間は遠ざけていたのだけど」 その女性はフードを片手で脱ぎ、もう片手には長いダガーを持って見せた。人間の女、痩せ衰えて瞳は黒く、外套の下には刺のある首輪をつけていた。 「私達二人だけよ。さ、近くにいらっしゃいな」

暗殺者・トークン アート:Svetlin Velinov

 ジェイスは顔をしかめたが、足を踏み出して近づいた。「俺は武器を持っていない、それに誰も傷つけたくはない。ただ話がしたいんだ。けれど君がそう望むとは思っていない。君の心を読んだら怒るかい?」

 ジェイスは精神を集中させ、目の前の女性の思考へと入る呪文を準備した。だがジェイスがその心を覗き見るよりも早く、彼女は身体を硬直させた。叫びが喉まで出かかるよりも早く、石が彼女の表面に広がっていき、その姿を覆い尽くした。彼女はジェイスの目の前で石の彫像に、命なき物体になった。

「もう私のことは読んでいるのかな、ジェイス・ベレレン?」 背後から、別の女性の声がした。

 ジェイスは素早く振り返って見ようとし、そして素早く眼をそらした。目の前にいるのは一人のゴルゴンだった。蛇に似た触手からなる長い髪が、彼女の頭の周囲にうねっていた。その眼窩は暗闇の中の灯籠のように輝き、だがそれらはジェイスへと狙いをつけているようではなかった。彼はまだ動くことも、息をすることもできると気がついた。

「ヴラスカ」 彼は言った。「いや、読んではいない」

「けれど私のことを知っていたじゃない」

「プレインズウォーカーだとは知らなかった。だがお前の名は聞いたことがあった」

「なら、ジェイス・ベレレンの方に情報的不利があったわけだね。どんな感じだい?」 彼女はジェイスの周りを正方形に歩きながら尋ねた。 「おまえがどうしてここにいるのか、わかってるのかい?」

「俺に何か見せたいものがあるから、ここに呼び出した。違うか?」 ジェイスは言った、下を向いて瞬きをしつつ、彼女を眼で追いたいという衝動に抵抗しながら。 「それが、君の視線じゃないことを願うだけだ」

「違う、違う、ぜんぜん違う。見せたかったのは私自身だよ、ベレレン。私がこの訪問を整えた、おまえの内にあるものを示してほしかったから。私達に見せておくれよ、おまえが仲間だってことを。ラヴニカの一員である証を」

「ラヴニカ人を殺すことでラヴニカの仲間だと証明するのか? 奇妙な方法だ」 ジェイスは敷石に向かって言った。

「ギルドパクトの支配を奪ったくせに!」 ヴラスカが言い放った。彼女の触手がくねり、半狂乱にもつれ、そしてゆっくりと再び静まった。 「ここはお前の次元じゃない。お前は今も、強い興味を持っているようだけどね」

ジェイス vs ヴラスカ アート:Igor Kieryluk

「俺はただギルドが殺し合うのを押し留めようとしているだけだ。この責任は俺に振りかかった、そして俺は真面目に受け止めている。君は助力を申し出るために俺をここに連れてきたんじゃない、そうだな?」

「なら、私は何を望んでいると?」

 ジェイスは熟考した。「俺を殺すこと」

「どうして私がそれを望むと思う?」

「俺の……地位を奪うために」 誰かが自分の跡を継いで生けるギルドパクトになれるのかどうか、彼にはわからなかった。だがギルドパクトがいなくなれば、野心的なゴルゴンへとその扉は確実に開かれるとわかっていた。「違う、お前はラヴニカを支配したいと思っている」

「おまえが死ねば、都合のいいことに私の手は自由になる。おまえ自身とおまえの途方もない詐欺で、私は造りものの限界を負わせられた。そう、その通り」 彼女は何でもないように言った。「私はおまえを今ここで殺すつもり」

 ヴラスカは素早く飛びかかるようにジェイスと顔を合わせた。彼女の触手が宙にうごめき、瞳が閃いてジェイスの姿を照らし、彼の周囲を明るく照らし出した。

 石へと変わるのではなく、ジェイスは無へと溶けて消えた。もしくは少なくとも彼のイメージが。

「幻影はなしにしない?」 ヴラスカは周囲の大気へ大声を上げた。

 ジェイスは柱の背後から姿を表した。「お前は現にミラーダ、コブレフ、ズデニア、ディボーを送り込んでいるじゃないか」

 ヴラスカはにやりと笑った。

「暗殺者四人、それと先程お前自身が殺した一人か」 ジェイスは言った。「高く評価してくれてありがとう。だけど俺は思うよ、お前一人だけでも優に俺を殺せると」

 ヴラスカは広場の角へと合図を送った。壁の傍で影が動き、隠れていた人影が動いて離れた。ジェイスは彼らの心が遠くへと去っていくのを感じた。

「感謝する。今すぐ俺を殺すつもりか?」 ジェイスは尋ねた、今や真に視線をそらしながら。

 ヴラスカは非難するように首を横に振った。「考えてもみなさいな、今すぐって。それは私にとって理想的な筋書きじゃない。そうだろう?」

「違うだろうね。ギルドパクトの魔法的強制力はお前にとって好都合だ。特に、そのギルドパクトが一人の人物だというなら」

「その通り」

「つまりお前は俺をギルドパクトの役職に就けたまま、俺を操りたいと思っている。お前の好みに合わせて俺の判決を揺さぶりたがっている。俺の弱みを握っているとでも言うのか? 俺を動かせると?」

 ヴラスカの触手が彼女の顔の周囲に小さくうねった。ジェイスは牙をむいた笑みを垣間見た。「教えなさいな。おまえには判っているのかしら、イマーラ・タンドリスの家を今包囲している暗殺者、全員の名前を」

 ジェイスは表情を暗くした。「イマーラの家にいると見せかけた人物は俺の幻影の一体だ」 彼は言葉を選んで言った。「イマーラには厳重に隠れてもらった。彼女の家そのものが精巧な罠だ。お前の暗殺者達は攻撃に移り次第逮捕されるだろう」

イマーラ・タンドリス》 アート:Mark Winters

「はったりでしょ」 ヴラスカは言った。彼女はジェイスを観察しながら半円を描いて歩き、彼の背後に立った。「けど十分よ。そっちはどうでもいいの。これから本当に起こることを教えてあげる。私はおまえが大切にする沢山の、とても沢山のものを危険にさらす。そして、おまえは私のために働くってわけ」

「お前の思い通りにはならない」

「ふうん、でも私はおまえを凄く困らせてやれる。こんな見出しを考えてみなよ、『生けるギルドパクト、石化殺人を防げず!』『ギルドパクト庁舎の階段に更に十体の彫像が!』 怒り狂うギルドの代表者どもをおまえの職場になだれ込ませるのは言うまでもなく、ね」

「諦めろ。地下に帰れ。もしお前が出しゃばらないでいるなら、俺はこの事件を表立てないでいてやる。ラヴィニアにもそうさせる」

「私の手下におなり、そしてあの女とはもう付き合わないことよ。私の邪魔をする者は皆、その報いを受けるのだから」

「断る。ラヴニカは俺の保護下にある」

 ヴラスカは不満げに鋭く息を吐き、不意にジェイスの背後へと迫った。ジェイスは触手が一本、耳に触れるのを感じた。「ラヴニカは幸せだこと」 彼女は罵るように言った。「カリストのように守るつもりなのかい? それとも、カヴィンみたいに?」 彼女は確かに、ジェイスの過去を深く掘り下げていた。彼は疑問に思った。この女は自分の人生について他には何を知っているのだろう、そしてその情報源は何処なのだろうと。「それと、野生語りのガラクはどうかしら?」

「俺は過ちを犯した。だが俺は自分の地位を、罪滅ぼしのために――待て、ガラクがどうした?」

 ヴラスカはふん、と鼻を鳴らした。「彼に何があったのか、知らないのねえ?」

「何故だ? 何があった?」

「気にすることないわよ。今までと同じように、おまえは確実に彼も失うってこと。おまえは疫病なのよ、ベレレン。守ろうとした相手を苦しめてしまう。私に忠誠を誓いなさい、そうすればおまえは初めて、この世界を愛することができる」

 触手が一本、ジェイスの首に巻き付いた。ジェイスはそれを掴んで引きはがそうとしたがヴラスカの力は強く、彼女の髪は彼の顔を飲みこんだ。触手が滑るように更にきつく絡むごとに、彼は喉が締めつけられるのを感じた。

 ジェイスは彼女の精神へと攻撃をしかけ、そして直ちに後悔した。ヴラスカの思考には彼を殺す、もしくは苦しめる何百もの方法が渦巻いていた。彼は窒息死させられる自分自身を見た。袋詰めにされ、橋から投げ落とされた。汚らしい鉤爪の手で地底街のトンネルの泥中に沈められた。麻痺させられて、蛇が彼の衣服に滑りこむのを見せられながら、その針のような牙が沈みこむのを感じていた。彼女の創造性は計りしれなかった。

 彼はヴラスカの思考のより深くへと進まねばならなかった、だが息をする必要もあった。彼は呪文を紡いだ。

 別のジェイスの幻影がヴラスカへと突撃したが、彼女はその最初の一体には動じなかった。打ち飛ばされ、それはただちに消失した。だが次のジェイスが素早く迫り、その手はダガーのように彼女の頬を切り裂けるほど鋭かった。彼女は不快そうに息を吐きそのイメージを爪で切り裂いた。だが次の幻影は更に素早く、その次は正反対の方向から彼女へと突進してきた。

 自身のイメージを彼女へと続けざまに繰り出すうち、ジェイスはゴルゴンの圧迫が緩むのを感じた。ジェイスが攻撃するごとに、彼らは変化した。彼らの手は鉤爪となった。髪は蛇となった。眼は悪意の光にぎらついていた。彼らはあらゆる方向から、影の中から現れ出でると蛇のように囁き、悪夢のような軍勢となってヴラスカを囲んだ。

 ヴラスカは全てと戦うことはできず、その視線で彼らを始末し始めた。ジェイス達が彼女へと迫るも、彼女は石化能力でそれらをあしらい、一体また一体と石に変化させていった。

 石の彫像が増えると、それらは檻となった。彼女は十体を越えるジェイスの彫像に囲いこまれた。少しの間だけでも、彼女が罠にかかったと感じられるほどにそれが現実的であればと彼は願った。

 ヴラスカは真のジェイスをその鉤爪で掴み、彼の首を再び握り締めた。「こいつらを退けなさい」 ヴラスカは囁き、彼の呼吸は寸断された。

 そして彫像の唇が動きだした。

「お前の勝ちだ」 彼らは一斉に、ジェイスの声で言った。

ジェイスの創意》 アート:Igor Kieryluk

「こいつらを下がらせなさい」 彼女は罵るように言ったが、その声にはかすかな躊躇があった。

 彫像達はわずかに後退したが、彼女はまだ彼らの石像に閉じ込められていた。「ジェイスはお前に力を貸すだろう」 彼らは言った。「だがまず、お前の計画を知る必要がある」

「私が言ったことを、私が言った時にやりなさい、ベレレン」

「彼を殺せば、彼がお前のためにギルドに働きかけることはできない」 彫像達は詠唱するように言った。「彼は知らねばならない、お前が協力者に値するかどうか、そして十分に賢いかどうかを。我らに言え。お前はこの都市をどのように手にするのだ?」

 ヴラスカは一瞬手を握りしめ、ジェイスの頭部から血を全て絞り出した。だが彼女の掌握は再び緩んだ。「おまえの力を使って、私はギルド魔道士全員を無能にしてやる。奴らの力を奪ってやる。おまえに奴らの管轄区域を書き直させて、マナの繋がりを絶ち切らせて。魔法使いどもを奪って、ギルドの牙を抜いてやる。そして、一人ずつ、ギルドの指導者どもを暗殺してやる」

「ヴラスカ、お前は、ギルドマスター全員を暗殺するつもりなのか?」

「私は殺すために生まれた」 彼女は言った。「私に答えるものは沢山、影の中にいる」

「ありがとう」 彫像達が言った。そして皆、頭を下げた。「それで全部か?」 彼らは詠唱した。

 ヴラスカは自分を囲む彼らを見た。「何だ?」

 その瞬間、彫像達の眼がひらめき、ヴラスカを眩しい光で浸した。彼女は手を掲げてその輝きから顔をかばった。

「今夜サンホームにて、多くのギルドの指導者達が集う頂上会談が開かれている」 ジェイスの彫像達が無感情に言った。「お前の声明は参加者全員へと公開されていた」

 ヴラスカは罵るように言った。「取引は終わりだ、ベレレン。今ここで死ね」 彼女はジェイスの首をずっと掴んでいた鉤爪の手で、それを握り潰した。

 彼は岩の破片となって砕けた。

 彼女が見下ろすと、そこにジェイスの死体はなく、そこに見たのはいままで掴んでいた彼女が放った暗殺者の石像だった――先程殺した女性。ジェイスはどこかで、彼女と入れ替わっていたのだ。

 ヴラスカは怒りに吼えた。彼女は素早く振り返り、ジェイス達の檻を切り裂いた。破片とはならず空気に消えもせず、彼らはヴラスカへと迫った。彼らはその頭部に、目に、指に更に多くの蛇を生やし、彼女を圧迫するように囲いこんだ。彼らはヴラスカの手首を掴み、彼女と触手を絡み合わせた。

 金切り声とともに、ヴラスカは彼ら全てを吹き飛ばした。そして彼女は深呼吸し、目を閉じ、プレインズウォークして去った。

「貴方がどうやったのかは知りませんが」 ギルドパクト庁舎に戻ってきて、ラヴィニアは言った。「そこで彼女はサンホームの只中に浮かび、頂上会談の参加者全員へとその計画を語っていました。遠隔性の自白です。けれど彼女は戻らないというのですか?」

「少しの間は身を潜めるだろうね」 首筋に細長くできた赤い腫れ跡を撫でながら、ジェイスは言った。「しばらく時間を稼げるはずだ、そう願うよ」

「彼女をただ始末することはできなかったのですか? 止めるように命令することも?」

 ジェイスは首を横に振った。「俺にできたのはせいぜい彼女を撹乱して、知覚を歪めたことくらいさ。精神を破壊する隙はくれなかったよ――彼女は最初から最後まで俺と戦った」

「少なくとも、今やギルドは彼女を認識しています」 ラヴィニアは言った。「ボロス軍は地底街をひっくり返す勢いで捜索したがっています。目がくらんでいるのではないかと思えるほどに」

 彼は窓の外を見た。街灯が敷石へと明りを投げかけ、また都市の尖塔を照らし出している。都市の地平線はゼンディカーの、ぼんやりと見える山脈のようだった。「君とイスペリアが、彼らを導いてくれると信じているよ」

》 アート:Adam Paquette

 ラヴィニアは彼を窺った。「『少しの間留守にする、何処へ行くかは聞かないでくれ』という顔をしていますよ」

「数日で戻るよ」

「ここにいて下さい。やるべき調停があります。人々を安心させて下さい」

 彼は外套を引き寄せた。「ギルドパクトは人々に安全を与え、守るためのものだ」 彼は呟いた。「だけど、俺はただ皆を更に危険にさらしてるだけだ。それに、ガラクに何かあったらしい」

「どなたです?」

「多分、俺がまだ失っていない人物だ」

 2014年3月14日金曜日発売の『デュエルデッキ:ジェイス vs ヴラスカ』で、ジェイスとヴラスカの戦いを体験しよう!

 ジェイスが生けるギルドパクトとなった経緯と、彼のラヴニカにおける他の活躍は三部作小説「The Secretist」にて読むことができる。三つの特集記事にAmazonとNookへのリンクがある。その1その2その3(リンク先および「The Secretist」三部作は全て英語)。


(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)

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