ズービットの日

更新日 Magic Story on 2013年 8月 9日

By Adam Lee

Adam Lee had a long freelance career as a writer and artist in the greeting card industry before coming to Magic's creative team. He grew up in the commune-laden wilds of Northern California in the 70s and his Guild Quiz result was Selesnya. "Be groovy, people."

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「資金が必要なんです」

 レルノは神経質に床を見て、いらいらと杖をもてあそんだ。不安と自信喪失の水たまりに溶けてしまわないでいるには、それしかなかった。レルノには彼女の後援が必要だったが、金を無心したくはなかった。彼女が自分を見る視線がその理由だった。彼女の視線は「萎縮させる」という表現がちょうどいいだろう。萎縮させる視線。


 だが彼女こそ自分を必要としているのだ。自分こそが、頭脳を持つ者だった。自分こそが、彼女の一家を裕福かつ強力にした者だった。自分がいなければ彼女らは愚かな悪党か、ごろつきか……穴居人だったろう。

 レルノは背筋を伸ばして気を引き締めた。落ちつかなければ。

「まだ足りないのです」 彼のその口調には一片の「たじろぎ」さえもなかった。

 エミーナは、下位の者を操り従属させるために育てられた高貴な者だけの溜息をついた――とらえがたく、失望して、嫌気に満ちた。レルノはそれが自分へと、失敗した実験の悪臭のように浴びせられるのを感じた。彼は本能的に鼻へと皺を寄せたが、たじろがなかった。これこそが彼女ら、上等な衣服を纏う人々の仕事で、レルノは彼女らとの遊戯に勝利することを固く誓っていた。

 長い沈黙があり、そしてエミーナは瞳を動かした。

「お幾らですの、レルノ?」 憤激に彼女は「ノ」の音を強く発した。普段の彼女の、退屈そうな物腰とは違っていた。

 レルノは内心ほくそ笑んだ。彼女の鉄の核にひびを入れたのだ。

「五千もあれば」

「良いでしょう。お行きなさい」


 レルノは商船の甲板に座っていた。風と海が彼の感覚を満たしていた。美しい日だった。帆は頭上に広がり、背後から時折顔を出す空高い太陽を遮ってくれていた。船は波のリズムに、優しく前後に揺れていた。

 彼は工房に戻るのを待ち切れなかった。彼の心はアイデアを高速で回転させていた。ついに、最も偉大な作品を完成させるために必要な資金を手に入れた――輝かしいものになるだろう。彼は可能な限りの速さでメモを走り書きした。マーティーンから彼の島の研究室へとその作品達を運ぶには大金がかかるだろうが、彼は今必要な金を全て手に入れていた。海岸に着いたらすぐに、船積みを手配する伝書鳥を飛ばせばいい。

 次に、その作品を正しい場所に配置するために必要なエレメンタルを創造する。それには時間と個人的な魔力がかかるだろう。だが今や彼に取りついている興奮のうねりに圧倒され、そのようなエレメンタルを千体ほども作れるような気がした。

 彼は塔の階段を上って仕事を始めるのが楽しみだった。彼は忠実なホムンクルスのズービットへと与える仕事の一覧を書き始めた。それはとても沢山あるのだ。


 ズービットは自分の目を疑った。

 本棚は空で、そこかしこに紙が散乱し、フラスコとビーカーは床に落ちて割れており、床が海水で水浸しだった。これは全くもって、災害だった。


 ズービットは息を飲んだ。マーフォークだ。どうやってここに入ったのだろう? 彼は常に扉に鍵とかんぬきを――

 窓が一つ割られていた。窓を開ける取っ手ごと窓枠が曲げられていた。ズービットは窓へと走った。一体どこのどいつがどうやって、塔の外壁を上ってきたのだろう? 眼下の岩からは数百フィートもあるというのに。

 彼はレルノお気に入りの橙縞模様の猫、ピップのいる敷居へとよじ登った。彼は侵入者達が残した塩と魚の味を舐めていた。ズービットは外を見たが、ただ高い塔があるだけだった。縄も、梯子も、手がかりのために削られた様子もなかった。奴らはどうやって来たのだろう? 空中浮遊の魔法薬か? それはズービットが先月、確かに鍵をかけていた。

 彼は小声で悪態をつくと床に飛び降りて、その小さな手を揉みながら主人の塔の徹底的な略奪状況を見渡した。奴らは多くのものを持ち去っていった。

 レルノが戻ってきたら、殺されてしまうだろう。ズービットは全てを取り戻さなければならない。

 それも、直ちに。

 ズービットはこんなことをするようなマーフォークを知っていた。沖合の小さな環礁に住む小さな一団、カプショ海沿岸の地上人から盗む者達。ズービットが関わったヒレ持ちと言えば、みな泥棒で人殺しであった――侮れない相手だ。

 彼はしばらく研究室を徘徊した。陽光が差す中、ピップは埃が舞う様子を物憂げに見ていた。

 そして、ひらめいた。

 彼はフラスコを一つと、羊皮紙を一枚、ペン、インクを手にした。そして小さな木製の箱から、泡立つ緑の液体の入った細い瓶を取り出した。彼はそれら全てを袋に詰めると、肩に背負った。そして彼はピップを拾い上げると塔の遥か下、船着き場へと続く長い石の階段を下りていった。


 ズービットは小さなボートで波間へと漕ぎ出した。その後ろにはもう一つ、小型のボートが牽引されていた。ピップは両脇を見て、水面下に現れては逃げる、きらめく魚へと肉球を構えていた。ズービットは海岸ドレイクや波の下にいる何か危険なものに見つからないよう祈りながら、確固たる目的をもって進んだ。


 彼らはその環礁へと到着した。ズービットは小さな錨を水中に投げ、サンゴに鉤が留まるのを確かめた。彼はペンとインクと羊皮紙を手にすると、呟きながら急ぎ伝言を殴り書きした。

 泥棒マーフォークへ

 私達のものを返せ、でなければ痛い目に遭うことになるぞ。

 ズービット

 彼はその伝言をフラスコに詰め、確実に読めるようにした。そしてそれに栓をして、周りに釣り糸を巻き、重りをつけ、素早く位置を確認すると海へと投げた。

 次は待つ番だった。


 一体のマーフォークが浮上してきてズービットを見た。そいつは「ンーーアーーー」といった感じのうなり声を出した。そのマーフォークの目は冷淡で気取っており、軽蔑の囁きとともに波の下へと沈んだ。

 ピップは水面下にきらめく銀の鱗を見つめていた。彼はヒゲをなめた。

「よし。それなら魚面の泥棒ども」 ズービットは小さなボート二つを繋いでいる縄を引き、無人のボートを横付けした。そして彼は泡立つ緑の液体の瓶の栓を抜くと、ピップの耳の間を軽く掻いた。「さあ友よ。君の夢が叶う時が来たぞ」

 ズービットは液体を数滴、ピップの鼻先に差し出すと、猫は即座にそれらを舐めとった。「いい子だ」 ズービットは緑の瓶からピップの舌へと更に注いでそう言った。

 ピップは美味しいごちそうをもっと求めてズービットを見た。だがズービットはピップを持ち上げると彼を小型のボートに乗せ、二隻を繋ぐ縄を緩めるとピップの乗るボートを押し、彼を環礁の上へと進めた。

「何をするべきか、わかるよね」 ズービットは漂流するピップへと言った。そしてピップが小型の鯨ほどの大きさになる中、全力でその横へと漕ぎ進んだ。「やりたいことをやっていいんだよ!」 ズービットの笑い声が荒れ狂う波間に響いた。



 レルノは塔の扉を開けた。「ズービット! 凄い知らせがあるぞ! やる事も沢山あるぞ!」

 彼は外套を脱ぐと机へと急いだ。そして本棚から本を取り出し始めるとそれはかすかに……海水? の匂いがした。レルノは周囲を見た。何かが違う。ピップは開いた本の上に座り、毛づくろいをしながらレルノを無関心に見た。巻物は机の上に広げられ、本も床の上に開かれている。強い風が部屋を通り抜けて、ページや紙が舞っていた。

「一体全体、何があったんだ?」 レルノは立ち尽くした。

「何でもありません、ご主人様」 ズービットはこともなげに言った。そして彼は満足そうな笑みを浮かべた。「ちょっと海風を入れようと思いまして」


( Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)

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