取引のギルド

更新日 Magic Story on 2013年 2月 22日

By Adam Lee

Adam Lee had a long freelance career as a writer and artist in the greeting card industry before coming to Magic's creative team. He grew up in the commune-laden wilds of Northern California in the 70s and his Guild Quiz result was Selesnya. "Be groovy, people."

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オルゾフのギルド門》 アート:John Avon

 ボスコは外壁から邸宅の敷地内へと通じる通用口の、小さいながらも分厚い木製扉の鍵を開けた。彼は門番や管理人へと割り当てられた建物へ向かうべく、二人組の衛兵それぞれにコインを払って通過した。彼は古い木製扉を押し開け、石壁の冷たさを感じて両手を勢いよくこすり合わせた。ボスコは背の低い、薄い唇の男で、その黒い髪は彼の青白い肌とあいまっていっそう暗く見えた。彼は二十代前半であったが、既に数年間オルゾフに仕えていた。階段を掃除し、真鍮を磨き、床を拭いてきた。だがボスコには計画があった。彼はこのまま掃除人でいるつもりはなかった。彼はコネを手にしており、すぐに頭角を現すだろう。

聖堂の護衛》 アート:Dan Scott

 彼がモップとバケツを手にとろうとした時、ジョジカのスラルがのろのろと現れた。ジョジカはこの邸宅の主に雇われた執行人だった。ボスコは彼女を怖れていた。スラルは、嫌いだった。

「こいん、みっつ」 スラルは黄金の仮面の下から鼻を鳴らした。「もっぷのおかね」 甲高く感情的にそう言った、ボスコの勤務初日にそうしたように。その満足げで卑劣なにやけ顔と厚かましい哀れな声から、そのスラルはいつも生者の敵だった。

 刹那、ボスコはそのスラルを部屋の向こう側まで蹴り飛ばし、モップの柄をその金ぴかの仮面に叩きつけたくなったが、すぐに思い直した。それはジョジカ個人所有のスラルであり、彼女が極めて可愛がっているものだった。

 一回のしくじりでも、彼は彼女へと長いこと負債を――もしくはもっと悪いものを背負うだろう。

従順なスラル》 アート:Daarken

 ボスコが鍵のかかった献金箱へと三枚のコインを入れると、そのスラルはたじろいで鼻を鳴らした。ボスコの内にある、その骨を叩き潰してやりたいという欲求を、どうしてかその本能で知ったかのようだった。コインが音を立てるとすぐに、そのスラルは献金箱をその弾性のある灰色の腕でしっかりと掴んだ。そしてまるで最も独創的な強盗をやり遂げたかのようにいななきながら足音を立てて走り去った。ボスコはそいつを追いかけて倒し、献金箱を食わせてやりたいという衝動を飲み込んだ。代わりに、彼はモップとバケツを掴むと邸宅玄関の広大な石造りの床へと進んだ。叩きつけるようなスラルの足音が遠くで響いていた。

 機会を待て、ボスコ。彼は自身に言い聞かせた。すぐにお前の時が来る。


「五世紀分だ」 バムバットの杯の向こうからボスコは言った。

「は?」 ドロヴォは鼻からバムバットを吹き出しかけた。

「俺のギルドへの借金だ。全部返すのに五世紀かかる」

「とんでもねえな。何でそんな事になったんだ?」

「ああ、俺はオルゾフに入ったばかりの――新入りだった。保護、利得、安定した暮らし、それにチャンスのために、結構な額が要ったんだ。俺はオルゾフの生まれじゃないから、俺のために働いて借金を返してくれる先祖はいない。だから俺はちょいと罰金を負うことになっちまった」

「馬鹿か。何だってそんな事をしようと決めたんだ?」

「『門なし』ってのがどんなのかわかってるだろ。どいつもこいつも俺達を蹴っ飛ばして、尊敬しちゃくれない。だけどオルゾフの奴等は王様みたいに道を歩く。俺が言いたいのはな、見ろよ!」 ボスコは椅子を引き、金糸と銀のボタンにカフス、全てがオルゾフのギルドシンボルで飾られた新品の、白黒の掃除人衣装を友人へと披露した。「俺はただの掃除人だけどな、この服を貰えた。皆が俺を尊敬するし、オルゾフの鋳造人からサービスを一年分多く受けられるっていう特典がずっとある」 ボスコは重い財布をテーブルへと投げた。

 申し分のないボスコのオルゾフ衣装とコインの袋に、ドロヴォは苦い嫉妬を覚えた。

 だが、五世紀?

「わかってんのか、お前……死んだら、どうなるのか」 ドロヴォは少しの不安とともに尋ねた。

不死の隷従》 アート:Seb McKinnon

「気にしちゃいないさ」 少々出し抜けに、ボスコは言った。「ドロヴォ、大切なのは、生きてる間に何を手に入れるかだ。俺の死後なんて誰も気にしねえよ。オルゾフじゃ野心を持つのはいいことだし、成り上がりたいと思う奴はそうするのさ」 ボスコは強調するように拳を握りしめた。「俺は、手に入れられる機会は何でも手に入れてやる。あいつらに見せてやるんだ、俺なしではやっていけないって。死後の負債だっていくらか買い戻してやる。カードを上手くプレイできれば、豪奢な死後だって過ごせるかもしれないんだ」

「やれやれ。お前は本当にオルゾフになっちまったんだな。前に会った時にそんな話を聞いてはいたが、本当にやるとは思ってなかった。お前は門なしか何かに加わるんだと思ってた」

「門なしか。俺はもっと強いものになりたいんだ。ラヴニカはオルゾフのものだ。あいつらは他のギルドから振り回されてはいない」 ボスコは近寄った。「俺はここで成り上がってやるよ、ドロヴォ。オルゾフは野心に報いる方法をわかってる、そして俺は、力を持つ奴は俺にとりなしてくれるってわかってる……それと、お前もその気があるのなら、どうだ」


「座りなさい、ボスコ」 ジョジカが言った。オルゾフの執行者の傍に寄るのは未だ居心地が悪く、嫌いだった。まるで彼女がもたらしてきた死の重みを、そして彼女がいかに容易くそれを行えるかが感じられるかのようだった。ボスコは彼女を見ないように努めた。

 高司祭は黒色粘板岩製の机の背後、贅沢な刺繍が施されたクッションに覆われオルゾフのシンボルが彫られた黄金の椅子に座していた。一体のスラルがボスコに向けてその椅子を押すと、速やかに分厚いベルベットのカーテンの後ろに隠れ、高司祭の肘掛け部分へと再び現れた。そして葡萄の皿を掲げて喉を鳴らした。

贖罪の高僧》 アート:Mark Zug

 ボスコは腰を下ろした。高司祭は命なき人間だった。嘘と詐欺の人生、そして不正利得からその姿は無関心と厭わしさで固まった無表情のメレンゲと成り果てていた。高司祭は遠くを見つめているようだった。その老人はもしかしたら今そこにはいないのではないか、ボスコはそう感じ始めた。ボスコがジョジカを見るとすぐ、彼は高司祭の目が動いて自分へと固定されるのを見た。心をかき乱すような、爬虫類的な様子だった。彼の顔にぶら下がっている何重もの肉の中に今も隠れ潜む、鋭い精神があった。肉屋が牛の肋肉を値踏みするように、ボスコを値踏みする精神が。

 ボスコは息を呑んだ。

 ジョジカは契約書を提示し、ボスコへと付き出した。高司祭は指輪が散りばめられたその太った指を、机の半ばに音を立てて置いた。

「これはお前を、言葉と行いで魔法的に縛る」 高司祭は皺がれた声を出した。彼のスピーチはわざとらしい息切れに中断された。「お前はこれに署名し、仕事をこなせば、合意の条件のもとにお前の負債は大いに減じられるだろう」 高司祭は次にその文書をボスコへと突き出した。それはかさかさと苛立たしい音を立てた。ボスコが契約書へと手を伸ばすと、高司祭はボスコをその湿った、木炭のような目で見た。「お前に与えてやれるもっと多くの仕事があるかもしれぬ」

 ボスコは慌ただしくその契約書に署名し、好機のスリルとともにオルゾフの魔法が絡みつくのを感じた。


「そこだ」 ボスコは囁き、壁から突き出た燭台を指した。「それを引っ張れ」

「本当に警報は鳴らないんだろうな?」 ドロヴォが尋ねた。

「ああ。言っただろう、警備兵を過ぎちまえば何でも盗み放題だって」

「頼むぜ本当に」 ドロヴォは背伸びをすると、いくらか力を込め、燭台を引いた。摩擦音に続いて機械的なスイッチ音があり、羽目板の一部分が弾けるように開いた。

「よし」 ボスコは興奮を隠せずに呟いた。彼は蝋燭で照らされた広間を見下ろし、誰も彼らを目撃していないことを確認した――特にジョジカのスラルに。「ここから入るぞ」

 ドロヴォがオーク材の板を引き上げると、暗闇へと降りてゆく小さな階段が現れた。

ならず者の道》 アート:Christine Choi

「急げ」 ボスコは囁き、ドロヴォを追って階段を下りながら前後を見ると、背後の板を閉じて火打石の欠片と鋼で小さな松明を点した。

「進むんだ」 ボスコは言い、松明が音を立てて弾けた。「階段の底にある」

 二人は階段を下り、底に近づくにつれて空気が冷たくなるのを感じた。一人がかろうじて通れるだけの長く狭い廊下が、松明の灯りに伸びていた。ドロヴォは神経質に振り返った。

「進むんだ。ここを下った先にあるはずだ」 ボスコは友人を前へと突いた。

 彼らは凍える通路を降りていった。空気からは土とカビの匂いがした。そして松明の灯りは彼らの影を死霊のように踊らせた。やがて廊下の前方に、円形の大霊廟が開けているのが見えた。縞瑪瑙と象牙のタイルからなる、オルゾフの巨大なギルドシンボルが床に飾られていた。ギルドシンボルの各先端は重い、鉄張りの扉を指し示していた。二人は霊廟の中央へと進み出て、それらの扉を眺めた。

「どれだ?」 ドロヴォが尋ねた。

 ボスコは入口から対角線上にある一つを指した。「あそこにあるやつだ」

 彼らはその大きな扉へと進んだ。「鍵がかかってんぞ。あるのか?」

 ボスコは微笑み、鉄製の重い鍵を掲げた。「準備できてるって言っただろ」

 ボスコは脇に立つドロヴォへと松明を渡し、鍵穴へと鍵を差し込んだ。それを回すと、金具が少々きしんで掛金が横に外れた。

 ボスコは扉を引いて開けると、背負い袋から別の松明を取り出した。「見に行ってくれ。俺は尾けられてないか確かめてくる」

 ドロヴォは墓所の内部へと足を踏み入れた、石棺が二つ彼の前に鎮座していた、それらの蓋にはオルゾフ貴族特有の紋様があった。これらの墓の中には二人で分けても十分に豊富な財宝があるはずだ。あまり音を立てずに蓋を動かすのは慎重な仕事になるが、できるだろう。ドロヴォは荷物を下ろした。「ボスコ、この蓋を静かに動かす方法を見つけなきゃならん。俺はバール二本とロープをいくらか持ってきてるから、これを天井の飾りに通すことができるかもしれん。おい、何して……?」 ドロヴォが振り返ると扉が閉じられた。そして鍵がかかる音が響いた。

 彼は扉へと走った。「おい! ボスコ、この馬鹿野郎、ふざけてんのか?」

 扉の反対側で、ドロヴォは友人の声の鈍い音を聞くことができた。「すまん、ドロヴォ。お前が正しかった、五世紀は長すぎる」

 ドロヴォの背後から蒸気音がした。振り返ると、石棺の蓋の下から黒い煙が噴出しているのが見えた。煙は透明な水に落とされたインクのように渦を巻いて部屋の空気に混ざり、第六地区の繁茂地帯にある湿地の強烈な臭いで満たした。まるで、黒い煙はあの汚い沼から直接抜かれたものであるかのように。

 黒い煙は、仮面がその周囲を巡る、ぼろぼろの衣服を長くぶら下げた巨大な骸骨の姿をとり始めた。ドロヴォはその悪臭に嘔吐しそうになり、狂乱しながら荷物をかきむしるように漁ってバールの一本を探し求めた。彼がそれをどうにか取り出すと、荷物の一部が破れて道具が石の床に散らばった。残忍な骸骨の顔が現れる中、仮面は煙の周囲を素早く回転し、悲しげな音を立てた。それは悪臭のする水を滴らせながら、目のない眼窩をドロヴォに合わせた。彼は檻に入れられた獣のように扉を叩いていた。

「コレハ何ダ?」 墓所の怪異は嘆きの仮面が鳴らす音の中で囁いた。ドロヴォの手から血が流れていた。バールが彼の手から滑り落ち、床に音を立てた。

「血ダ」 ドロヴォがその血に濡れた手をバールへと伸ばすと、幽霊は喘いだ。そこには明らかに喜びがあった。「血ダ」

墓所の怪異》 アート:Chris Rahn


「あれは食事を与えられているかね?」 高司祭は尋ねた。

「指示して頂きました通りに、高司祭様」 ボスコは答えた。

 高司祭はボスコに向けて、コインの入った小さな革製の袋を石板の机に滑らせた。「お前は自身が極めて有用であると証明した。今後、お前にはより多くの仕事が来るだろう」

「ありがたき幸せにございます、高司祭様」

 ボスコはコインの袋を受け取った。それは彼がかつて持ったこともないほど重かった。彼は去る時、思い切ってジョジカを見た、彼女は高司祭の横に無表情に立っていた。ボスコ自身が驚いたことに、彼は怖れを一切感じなかった。彼は振り返ると背後の巨大な扉を閉めた、顔に笑みを浮かべながら。

「私は、あの者にできるとは思えません」 ジョジカが言った。

「時が経てば、私はあの者の魂の内なる嘘を知ることになるだろう。あの小僧には顔に出るほどの野望があるのだからな」


(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)

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