埋葬 その2

更新日 Magic Story on 2013年 3月 15日

By Adam Lee

原文を読む

「古き神々へと近づくためには、大地の下へと行かねばならぬ。そこでお前は神々の声を聞き、その力を感じるだろう。聖句をささやく神もいれば、幻視を与えて下さる神もおられる。怖れで満たす神もおられるだろう。だがそれこそが、お前を全きものにするための神々のやり方だ。自身の心を知り、真の人物にするためのやり方だ。恐れることはない」

――グルールのシャーマン、サバスト



その1はこちら


 ドムリ・ラーデは大地の中に納められていた。

 ドムリを魔法的シンボルと動物の皮で覆った後、シャーマンのサバストは彼を儀式のための墓所に横たえた。ドムリは自身の上に土が乗せられるのを感じながら、サバストが保護の詠唱を始めるのを聞いた。それはドムリの身体に生気をくれたが、彼の心は無防備で、むき出しで、孤独だった。

 土の一すくいごとに、音は鈍くなっていった。ドムリの身体にゆっくりと冷気がしみ込んでいった。土の重さで動くのは困難だった。そして彼は全くの暗闇と沈黙の中に置かれた。始めのうちは若者の虚勢が彼を繋ぎ止めていた。そして彼は知っていた、この夜を耐えさえすればいいと、そして朝にはサバストが彼を掘り出してくれるために現れるだろうと。

スカルグのギルド魔道士》 アート:Aleksi Briclot

 彼はただ、耐えさえすればよかった。

 だが時間の経過を推し量るあらゆる手段が徐々にドムリから消え去っていった。彼の心がその防護を一つまた一つと順々に使い果たしていく中、永遠とも思える時が過ぎたように思えた。やがて、彼の思考を占める物事は尽きた。

 そして思考の深層が表層へと浮かび上がり始めた。暗い層が。

 何分経ったんだ? 何時間? サバストが宿営地に戻る途中にマーカに襲われて、誰も俺のいる場所を知らないとかいう事態になったら? 防護の呪文がすり減ったら? 俺は息が詰まって死ぬのか? もしかしたらラクドスの大規模な襲撃があって、部族が全滅したりするかもしれない。

 もしかしたら、俺はいつも一人だったのかもしれない。

 もしかしたら、俺はここで死ぬのかもしれない。

 ドムリは古き神々は――長老達が信じるものは――神話上の存在でしかないと知っていた。だが不安というひび割れが彼の心の鎧に生じ始めた今、彼は自身の心がそれにすがりつこうとするのを感じた。自身の存在を確かにするために、この恐怖からの救いを求めて神々を頼った。彼の思考と感情は罠にかかった鼠のように焦り、共食いを始めた。彼が心を閉ざして盲目の本能に支配させるまで。ドムリは溺れたようにもがいた、だが彼の身体は大地に繋ぎ止められていた。凍りつき、動けなかった。

 圧倒的な恐慌が訪れ......そして何かが取って替わった。内からの圧力が身体を揺すり、ドムリの心を貫いてラッパの合奏にも似た音を送り出した。彼はそれに引き裂かれてしまうかのように思えた。脊髄は流れる炎と化したように感じ、脳内が稲妻で満たされ、そして......それは起こった。彼は多元宇宙へと飛び、久遠の闇、無限の虚空を目にした。理解できないほどの広大さに、彼はその新たな目を閉じることなど決してできなかった。多元宇宙の全ての次元が、きらめく宝石の面のように彼の目の前にあった。



 ドムリはグルールの蒸気テントの中にいるような気分で目を覚ました。葉が敷かれた柔らかな地面から身体を起こした。何かが違った匂いがした。彼は立ち上がって目をこすり、グルールの者がかつて見たことのない世界を目にした。

 ドムリの心は、眼前に建物が何もないことをどうにか処理した。足元がふらついた――そこには石も、瓦礫も、何もなかった。彼は瞬きをして首を横に振ったが、景色は変わらなかった。建物が魔法的に出現したりはしなかった。彼は原初の雨林、その奥深くにいた。瑞々しい苔に覆われた巨木、シダ、そして熱帯の果物が彼を囲んでいた。かつて見たこともない植物が彼の周りではち切れんばかりに繁茂していた。彼は呆然と森へ分け入り、眼下の広大なジャングル、果てしなく広がる緑の梢が敷き詰められた深い谷を目にした。視界には一つの建造物も廃墟も無かった。

》 アート:Zoltan Boros amp; Gabor Szikszai

「マジかよ」 手つかずの自然が地平線一杯に広がっている。心の底からの驚きとともに目を見開いて、その言葉が彼の口から洩れた。ある感情が彼の内から沸き起こった、まるで彼のグルールの祖先が歓喜の詠唱を謳うかのような。ドムリは彼らの希望と夢の大地を目にしていた――壁も建築物も、忌々しいアゾリウスも彼らの書きつけもない。ここには究極の自由を体現する手つかずの生命があり、そして彼はその只中にいる。彼の祖先の歓喜に応え、ドムリの内なる原初の心が咆哮を爆発させた。

 彼は息を限りに叫んだ。「イエエエェェェェェェェェェェッ!」

 それはもしかしたら、良くない予感だったかもしれない。

 骨の隅々まで震わせる、馴染みのない吠え声を彼は聞いた。一風変わった服装のエルフが三人、彼へと駆けてきた。三人ともドムリへと向かってきながら、むしろ驚き当惑しているように見えた。

アニマの賢者》 アート:Kev Walker

 一人目のエルフが彼を睨みつけた。「馬鹿!」

 二人目のエルフが走り過ぎていった。「馬鹿が!」

 駆け抜けざまに、三人目のエルフが言った。「逃げるのよ、この馬鹿!」

 彼は足元で地面が震えるのを感じた。何か巨大なものが木々を破壊してやって来る、そして木々の幹や根が折られてうめき声を上げている。ドムリは直ちに行動に移った。彼は頭を低くして、ぶら下がった蔓と落ちた大枝で塞がれた道をくぐり抜けて駆けるエルフの少女の、驚異的な早足を追った。

 彼の全周囲で木々が砕け、シダと葉の果てしない海をやみくもに駆ける中、彼はすぐにエルフ達の姿を見失ってしまった。蔦の壁を過ぎようとした時、二本の腕が飛び出して彼を掴み、暗い洞窟の中に引きずり込んだ。ドムリはエルフ達の息遣いを聞くことができた。

「喋るな」 エルフの一人がささやいた。

「馬鹿」 もう一人が言った。



「俺は帰るつもりなんてねえ」 ドムリは彼を当惑と熱狂の混じった視線で見ている同行者、三人のエルフへと言った。「ここはすげえよ」

 三人のエルフは座して、泥と灰と黄土と何処か知らない部族のシンボルで覆われたこの小汚い少年を見ていた。彼は、別の世界から物凄い虚空を越えてきたという戯言を喋っていた。年少のエルフ二人が遠巻きに彼を興味津津で見る中、年長者であるハサルが謎の少年と話していた。

「狂ってるんだ」 マクロはエリシュタへとささやいた。

「彼には力がある、それを感じる。もしかしたら、ガルガンチュアンを追うためにシーリアが私たちに遣わしてくださったのかもしれないわ」

「あいつはただの森で迷った斥候で、スピンベリーを食べ過ぎただけじゃないのか」

 その人間は彼の知っている近隣のどの部族の者でもないとハサルにはわかっていた。ほとんどの人間の旅行者は――鼓声狩人であったり単純に交易商人であったりする――一団となってジャングルを通過する、そしてここまで遠くへと一人でやって来た者はいない。彼ら自身のようなシーリアの神追いでさえ、森のここまで奥深くでは散り散りにならぬよう用心するものだ。この人間は、ハサルが判断するに、常識の範囲外だった。

 ハサルは少年の奇妙な主張の意味を理解しようと、そっと質問をした。だが尋ねるほどに、ドムリは彼がラヴニカと呼ぶ世界の活き活きとした詳細を語るのだった。

 ドムリは当惑と喜びの中に座っていた。エルフ達が話し合う間、彼は瑞々しく果てしない森をじっと見ていた。しばしの囁きと肩越しの一瞥の後にハサルは言った。「我らがアニマはお前と話したいとの事だ。お前がいた場所についてもう一度話してくれないか。言っていたな、建物に......全てが覆われた世界?」

「そうだ。俺がいた所は、誰もが自然を壊し、そこから建物を作っていた。俺の部族はそいつらの作ったものを壊し、それを自然に帰すんだ」

踏み鳴らされる地》 アート:David Palumbo

 マクロは疑わしげだった。エシリュタは興味津々だった。

 ハサルはただ見た。この子供は幻覚を見ているんだ。

 ドムリは喋った、次元渡りと「神のみぞ知るもの」の追跡の興奮が彼の身体を流れていた。エルフ達へと話しながら、彼の瞳は皿のように開かれていた。「つまり、ここの木が全部建物とかそういうのになってるのを想像してくれ、それとその間には玉石の道がある。それがラヴニカだ。凄まじい混雑で、俺達グルール一族はただそれをブッ壊してやりたいと思ってる。だけどアゾリウスや他のギルドが俺達に逆らってる。あいつら等全員、慣例と法令に縛られてる、だけど俺達には瓦礫帯がある。俺の家だ。そこの生き物も俺は大好きなんだ」

 ドムリは当惑するエルフ達へとまくし立てながら、瓦礫帯と破壊された廃墟、洞窟、戦場に残された塹壕、獣達、そして他の惨状を思い描き始めた。それに引き寄せられるように、彼は力強い魔力が炉の炎のように湧き上がり始めるのを感じた。ドムリがその地を想うほどに、魔力は彼の内で高まっていった。やがて堰が壊れてマナの途方もない流れが、怒れる獣のように彼へと襲いかかった。混沌そのものだった。それは木々と蔓がもつれた土の渦のようだった。この新たな幻視に圧倒され、ドムリは不安になってきた。まるで再び土に埋められたようだった。土深く、木々の根が彼の身体に絡みつき、骨だけを残して彼の肉体を溶かす。そしてそれらは虚空へと押し込まれた。彼はハサルが名を呼ぶ声を微かに聞いた、そして自分の肉体が誰かに揺さぶられるのを感じた。だがドムリの意識はどこか他の場所にあった。

 そして、信じがたい魔力に吐き気のするよろめきを覚え、彼は今一度久遠の闇へと投げだされた。



 真夜中のラヴニカの街路は迷いやすい場所だろう、特に都市のこれほど深くへと足を踏み入れたことのないグルールの者にとっては。ドムリはやみくもに、何マイルにも思える路地と街路をうろついた。見慣れた尖塔や地区の壁の見慣れた穴、瓦礫帯と彼の部族の宿営地へと続く見慣れた小道を探し求めて。

》 アート:Yeong-hao Han

 彼がやつれて消耗しきって、下水のシャンブラーか何かのような姿でゴルガリの排水管からよろめき這い出たのは深夜遅くになってからだった。

「アイィィィィー!」 その刹那、グルールの戦士四人がドムリの喉に槍先をつきつけた。

「俺だ、ドムリだ。槍を離してくれ、マーグル」

「ありえねー」 マーグルは言った。「お前、まだ埋められてるはず」

「やっべ、そうだった」

「サバストが戻るまでここにいろ」 マーグルは怒鳴るとドムリを槍で突いた。

 ナスリはドムリの髪についた泥片を弾いた。「こいつ、ゴルガリみてえになってるぞ」

「自分が何者かくらいわかるぞ、ナスリ」 ドムリは苛立って言った。「腹が減って死にそうだ」



 サバストは夜明けに到着し、戦士達を宥めた後、ドムリを彼のテントへと引き入れた。初めて、ドムリはサバストがまったく物が言えないほど驚いている様子を見た。

「どうやってここに来た? 墓所で土を取り除いたらお前の姿はなかった。一体どんな呪文を唱えた? どうやって試練から逃れた?」

ドムリ・ラーデ》 アート:Tyler Jacobson

 ドムリは難しい状況にあった。彼は知っていた、サバストは古の伝説を信じるグルールの伝統を重んじていると、そしてドムリはまさにそれを粉々にしたのだと。試練の全てを通過していないとわかれば、ドムリはギルド内での居場所を失うことになる。だがもし彼がサバストに真実を語ったとしても、せいぜい狂人か山師、もしくはその両方として追い出されるのが関の山だろう。どちらにせよ、それはよろしくない。ドムリは常々、自分は部族の皆と違うと感じていた。そして腹立たしいことに、今や真に驚くべき何かが起こってそのことが証明され、だが彼にも、自分が異質であるという以外にそれが何であるかを説明できないことだった。そのためドムリはマーカのように腹を立てた。

 彼は年長のシャーマンの、当惑しつつも答えを期待する顔を見た。どう答えるかは問題ではない、ドムリはそう悟った。全ては変わってしまった。

「何が起こったかは言えない」 ドムリはうつむいて言った。

「何だと?」

「言えない、どのみち信じてもらえないから」 ドムリは怒りがこみ上げてくるのを感じた。「したいようにすればいい、俺を追放しろよ、どうだっていいよ。誰も俺を信じちゃくれない」 ドムリはそこから去ろうと背を向けた。

「お前を追放する気などないよ」 サバストはドムリの腕を掴んで言った。「座るがよい。部族の誰にも話していないことを伝えよう。グルールに存在する法は自然の法のみだ。お前には何かが起こったのだろう、それこそが『埋葬』の真の力だ。私の役目は、他のギルドのように自然の混沌の力の善し悪しを判断することではない。私がすべきはグルールを導くこと、我々とそれらの力との接触を保ち、それらの力を我らが内に生かし続けることにある。お前がお前の魂を持ち続けている限り、ドムリよ、お前はグルールだ。真中の炎の側にお前の居場所はあるのだよ」

 滅多にない感情の洪水に、ドムリはその老人を抱きしめた。重荷が取り去られたように感じた。宿営地へと戻る長い道程の間に、ドムリを苦しめていた悩みは無くなっていた。部族の者達がどう反応するか――特にサバストがどう反応するだろうかという悩みが。彼はテントを出て、部族の者達が見つめる中を歩いて、自身の表情に笑みが浮かぶのを感じた。ついに、取るに足らない者であった年月の後、ラヴニカの野生の獣と心を通わせる少年ドムリは今や、グルールの他の誰もその手の届かない何かを知っていると感じていた。サバストも、ニーキャも、腹音鳴らしさえも――誰も知らない。彼は別の領域を、こことは完全に切り離された別の世界を知っている。グルールが夢見ることしかできない世界を。ドムリは今一度、その野生への――真の野生への旅への衝動にかられた。素晴らしいジャングルの世界への旅を思うだけで、興奮が彼の内に湧き上がった。

 ドムリを待つ偉大な冒険、そしてそこに何があろうとも、突き進む覚悟はできていた。


(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)

境界なき領土》 アート:Cliff Childs


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