完璧な贈り物

更新日 Magic Story on 2013年 10月 25日

By Nik Davidson

Nik Davidson makes games, writes stories, solves problems, and plays Magic. He's almost certainly doing one of those things right now.

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 バートロッティ伯爵の大舞踏会が行われる黄金のドームはその音響的特質が完璧なことで有名だった。その下では高層都市の多くの下級貴族達がくるくると踊っていた。貴族階級の末端にいる彼らにとって、その伯爵主催の春の祝祭は一年で最大の催しだった――同盟が組まれては破棄され、内密な取引が行われ、婚姻と情事が手配され、そしてワインよりも自由に噂話が流れる。

 だがその喜ばしい饗宴の最中、ザンガーリ卿は興奮し、酔っ払い、怒りで煮えくりかえっていた。

 よくもまあ!

 ザンガーリの婚姻は決して幸せなものではなかった。だが今、彼の美しい妻が都市の上流階級の中に馴染み、噂話をしては笑うさまを見て彼は怒りに拳を握りしめた。ティレーリ婦人によれば、妻アリベールはザンガーリ卿の商売に最近起こった災難について誰彼かまわず言いふらしているのだと。オーケストラの音色が優しいワルツに変わると、アリベールは混みあった広間から彼へと眉根を上げた。彼は唾を吐く所だった。お断りだ。彼はこの夜、妻と踊る気はなかった。


 物憂げに続くその夕に、ザンガーリは最小限の礼儀的社交辞令をどうにか保った。彼は些細な会話に少々の慰みを見出した――彼は熟練の魅力でこの夕の間を通して戯れ、微笑み、自慢話をすることができた。最初に退出するのは自分ではないことを確かめ、群衆がほんの少し減り始めるとすぐに彼は出口へと向かった。彼とその妻が別々に去る事について口に出すのは賢明ではないと皆知っており、彼らの乗り物は夜の中、別々の方向へと去った。


 ザンガーリは都市の東の外れに、家具付きの快適な部屋を持っていた。もし尋ねる者がいたなら、彼がしばしばその部屋を必要とするのは商売が多忙の際に夜を過ごすためだと答えるだろう。――だがそれは彼とその情婦のための別宅だというのは公然の秘密だった。イオラーニは25歳の未亡人で、先の夫の死を巡る怪しい状況によって危険な世評にあり、そして再婚の機会を失っていた。夫の死そのものが彼女へと人生の数回分に値する富を残していたとはいえ。

「おやめなさいな、あなた」 イオラーニは言った。「そんな怒りは見苦しいわ」 常に閉じられた赤いベルベットのカーテンの内側で、彼女は長椅子にもたれかかった。

「あれは私の評判を地に落とした! もし私が破滅したなら私よりも良い事にはならないと、あの性悪女はわからないのか! 断言しよう、あれの唯一の喜びは私の苦悩なのだと」 ザンガーリは乱暴な足音を立てて部屋の中を歩き回った。

「皮肉よね、夫を妻の寝台から遠ざける女が、あなたは完璧な夫じゃないのよって気付かせないといけないなんて」 彼女は夜色の黒髪を無為に弄ぶと、ワインを一口飲んだ。

「時々そうだ、君も妻と同じなのだな」

「あら、私は奥様よりもっと悪い女の時の方が多いわよ」 彼女は笑みを大きくした。「でも私が言いたいのは――そう単純じゃないってこと。私が望むのは、今はそれを全部脇にやって欲しいってこと。怒りは男を破滅させるか、もしくはひどい事に駆り立てる。むしろ両方かしらね。だから貴方がするべき質問は、『これからどうなるんだ?』よ」

 ザンガーリは脚を止めた。「私はそうなるつもりはない」

 イオラーニは座ったまま前を向いた。「シドリっていう女性がいるの。素晴らしい技術を持った工匠。あの人は上流階級の問題について、特別な解決方法の達人なのよ」

 ザンガーリはあざ笑った。「私は黒薔薇団のポケットに入るつもりはない!」


「大丈夫、シドリ女史は完全に無関係よ。それと言ってもいいかしら、面白いのは、貴方が最初に心配したのは政治的なことで、道徳的なことじゃないってことなのよね? 彼女の仕事はその効果もだけど、足のつきにくさも私が保証するわよ。貴方は彼女の所に行くのがいいと私は思うの」

 ザンガーリの表情が穏やかになり、彼はしばし考えた。「殺しか? 君は彼女の友人だ、そうだろう? 私にそうしろと言うのか?」

「ええ、以前からの友人よ。だけど私は提案しただけ、考えたのは貴方。彼女と結婚した男はどうなった? 私は自分がこのちっぽけな思考実験をした曲者だなんてまず思えないわよ」

 ザンガーリは情婦の隣に座り、頭を抱えた。「違う、多分違う。私はこの件について考えなきゃならないだろう」

「そう」 イオラーニは言った。「だけど多分、今夜じゃない時にね」

 彼女は明りを消した。目が暗闇に慣れる頃には、ザンガーリ卿は既に心を決めていた。


 ザンガーリがその工匠の店の扉を開けた時、予想していなかった抵抗が少々あった。扉を押し開けることで一連の歯車が動き、ショールームに生命を呼び起こした。操り人形達がくるくると回り、小さな機械仕掛けの犬が尻尾を振り、様々な複雑な装置が動き回転し始める。低い、漠然と人を不安にさせるような女性の声が奥の部屋から聞こえてきた。


「すぐに参ります。光っているものには触らないで下さい」

 ザンガーリはその間に部屋の様子を理解しようとした。三方の壁にはそれぞれに四つの棚があり、それぞれが様々な玩具、ガラクタ、よくわからない機械仕掛け、そして自動人形で一杯だった。一見その部屋は激しいお祭り騒ぎのようだったが、近づいて見ると、ザンガーリはその機械仕掛けの犬の歯は剃刀の鋭さで、操り人形達はそのガラスの瞳に知的とも言える光を宿していることを理解した。彼は決して何にも触れなかった。

 一人の女性が奥の部屋から出てきた。ザンガーリは最初、彼女は極めて若いと思ったが、眼を合わせると彼女の年齢はわからなくなった。美しい、彼はそう思った、彼女がそう見える努力をしていないとしても。彼はしばしその考えにふけっていた。

「いらっしゃいませ、私がシドリです。本日はどういったご用件でしょうか? お客様を驚かせたい、それとも贈り物をご希望でしょうか?」

 ザンガーリはにやりとした。「そう、贈り物だ。最も衝撃的な贈り物を。いつまでも続く印象を残すような。もし私の言っている意味がおわかりなら」 彼は自身の当てこすりをとても気に入り、にやにやと笑った。だがその女性が理解していたとしても、彼女は全くその様子を見せなかった。

「ええ、辺りをご覧ください。高層都市の何処でもここよりも素晴らしい職人技はお目にかかれないでしょう。そして私の道具と魔法に並ぶものはありません。お客様のお目にとまったものをお知らせ下さい」

 ザンガーリは顔をしかめた。「いや、違うんだ。これらの作品は本当に素晴らしい、だけど私はこう、あつらえ品が必要かもしれないんだ。何か特別なものを。妻に贈る、これまでにない最後の贈り物を」

 シドリは手をカウンターに置き、ザンガーリをじっと見た。「お客様が求めるものはどんな物でもお作りできます。どんな物でも。ですが、その際は言葉を濁さないで下さい。もし私に求めるものがありましたら、言葉にして頂きたいのです」

 ザンガーリは喉に引っ掛かるものを感じ、だがそれをぐっと飲み込んだ。「私は……妻を殺すためのものが必要なんだ」 彼の声はとてもか細く聞こえた。

 シドリは手をカウンターに置き、ザンガーリをじっと見た。「お客様が求めるものはどんな物でもお作りできます。どんな物でも。ですが、その際は言葉を濁さないで下さい。もし私に求めるものがありましたら、言葉にして頂きたいのです」

 ザンガーリは喉に引っ掛かるものを感じ、だがそれをぐっと飲み込んだ。「私は……妻を殺すためのものが必要なんだ」 彼の声はとてもか細く聞こえた。

 シドリの表情が和らぎ、わずかな笑みになった。「それはそう難しくはありません、いかがいたしましょう? 慎重に持ち込まれた毒は最も簡単かつ最も苦しみのない方法ですが、私はあらゆる致死的な魔法を仕組むことができます。肝不全、精神異常、心臓発作……」

「心臓発作がいい。妻がもたらす苦しみは全て私の心に来ている。相応しいのはそれだ」 ザンガーリの虚勢がゆっくりと戻ってきた。「あれはオルゴールが好きだ。ばかげた収集に多分二万クラウンも費やしている――ほとんどは、けばけばしいがらくただ」

 シドリは頷き、呟き始めた。ほとんどは独り言だった。「精神的音響格子魔法は十分簡単、ゆっくりと重ねて、特定の人物のエネルギーに合わせて……時間と材料……あつらえの設計……」 彼女は紙片に幾つか殴り書きをして、顔を上げた。「百五十万ですね」

 ザンガーリは息が詰まるかと思った。「何? それは私の全財産に近い……正気じゃない!」

 シドリはすっと目を細くした。「お望みでしたら、お財布をお持ちになって何処かみずぼらしい居酒屋へ赴き、売剣を見つけて仕事をさせれば良いのです。ですがお客様はそんな事は望んでいらっしゃらない。品格と確実性がある方法を、そして決して我が手を汚さず、金輪際我が身に跳ね返ってこない保証をお望みです。私はそれを売り、お客様はそれを購入される。奥様の髪の毛を一切れ、奥様のお気に入りのオルゴール、そして必要金額の半分を持ってまたいらして下さい。お取引をありがとうございます、閣下」

 ザンガーリは怒って言い返そうとしたが、できなかった。彼は睨みつけ、頷き、そして去った。


 三日後、ザンガーリは戻ってきた。扉から店に入ると、輝く腹部を持つ機械仕掛けの蜘蛛が銀の糸にぶら下がって、彼の目の前に落ちてきた。その八つの目が彼を深く見つめているようで、恐れるよりも好奇心から彼はいっとき魅惑された。


「哨兵四号、作動を停止して戻りなさい!」 蜘蛛の脚が身体の周りに畳まれ、それは糸を滑って戻っていった。「申し訳ありません、警備の装置なんです。とても多芸なので。さて、例のものをお持ちになって頂けたようですね」

 ザンガーリは頭に靄がかかったようだった。彼は集中しようとした。「ああ、ああ。オルゴールに、髪の毛に、金だ。受け取れ」 彼は間違えようのない音を立てて、重い鞄をカウンターに置いた。

 シドリは中を一瞥してオルゴールと小さなベルベット製の小袋を取り出した。「これを調べる必要があります。数分だけお待ち下さい」

 シドリはそれらを持って工房へと戻った。店頭にザンガーリだけが残された。彼はシドリが作業している間、周囲を見ていた。彼の目が一つのブローチにとまった。入り組んだ金銀の針金の留め具に、猪の頭の紋章がついていた。

「このブローチは? 前に来た時には無かったが?」

「どうされました?」

「猪の頭のブローチだ。とても素晴らしい。我が一族の紋章が猪の頭を模しているというのは知っているかね? 森で最も危険な獣だと言われている。そしてまた強い。強靭さと決断力の象徴だ」

「それはお売りできないんです」 奥の部屋からシドリが現れた。「申し訳ありません、別のお客様からの特別注文でして。お持ち頂いた材料は良好です。製作を終えるまでに二週間かかるでしょう。次にご来店頂く時にお支払いの半額をお持ち下さい。それでは、ごきげんよう」


 ザンガーリが三度目にシドリの店を訪れた時、陳列品は全て小さな木枠に収められており、壁は完全に露出していた。

「良かった、お客様が最後でした。オルゴールは完成しております」

「何があった? 店を畳むのか?」

「いえ。ですが時々店を移動させるんです。理由はおわかり頂けるかと思います。さて、このオルゴールをお渡しする前に、動かし方を説明させて下さい。よくお聞き下さい。私は旋律そのものに魔法を編み込みました――最初に奥方様がこれを聞く時には、その音に柔らかに魅惑されるでしょう。それによって調律の魔法が作動します。次に聞く時には、穏やかな内省状態を引き起こします。もし奥方様が一般的な人々と同じであれば、人生における未解決の問題を解決したい、終わっていない仕事が気になる、そういったようなという穏やかな衝動を感じます。それはまた心を穏やかにし、くつろがせてくれます。三度目に聞く時には、共鳴する和音は神経物理的に続けさまに起こる反応のきっかけとなります。奥方様の心臓は停止し、それでおしまいです。その時点で魔法も同様に自壊します。完璧に美しいオルゴールへと戻り、追跡は完全に不可能です」

 ザンガーリは感心した。「君はその評判を培ってきた。説明してくれた通りに動くだろう」

「きっと。ですが、これはお客様にとっても引き返す最後の機会です。正直に申します、ほとんどの方が引き返されます。遠くまで来て来られた方も。私はお支払い頂いた半額をお返しし、お客様は扉から出て行くことができます。私は決して何も言いません、そしてお客様も、何よりも重要なのは、殺人者にはなりません」

 ザンガーリの顔は紅潮した。「私を臆病者呼ばわりするのか? 貴女が心配するべきは、約束した通りにこれが動くかだけだ。もしそうでなければ、私は貴女を破滅させるだろう。聞いているのか? 早くその忌まわしい箱を渡せ!」 彼はカウンターに重い財布を叩きつけた。

 シドリは困惑の表情を浮かべて彼を見ると、奥の部屋へと消えた。彼女は二つの、光沢のある線で飾られた贈り物の箱を取り出した。一つはもう一つより小さかった。

「こちらになります。もしお気を害されましたらお許し下さい、ですが確かに必要なのです。小さいほうの箱はお客様へのものです――別のお客様はこのブローチをお受け取りなさいませんでした。オルゴールに必要な材料は見積もりより安く済みましたので、これが埋め合わせになるかと思います」


 ザンガーリはその顔に強欲な笑みを浮かべることを耐え、箱をひったくって店を出た。


 ザンガーリが身支度を終える頃には、音楽家達は既に階下で演奏を始めていた。妻の誕生日の祝いで、少々遅れることは彼は気にしていなかった。これが終わった後、彼はオルゴールを贈り、そして数日すれば、新しい人生が始まる。

 彼は鏡に映った自身の姿に、自身世界を完璧に支配している男を見た。彼は肩に軽いマントを羽織った――夏の最中には良い重さだったが、少々細いといつも感じていた。自惚れとともに少しの間その位置を調整した後、彼は新しいブローチがそれを完璧に留めてくれるのではと思った。

 彼はそれを贈り物の箱から慎重に摘み上げた、繊細な針金細工に傷をつけないよう気をつけながら。彼はその留め具を開き、それをマントに通して留めた。一瞬、痛みが走った。

 彼はブローチで自分の親指を刺していた。そして何故か、それは大笑いを誘った。彼はここ何年もなかったほど熱狂的に笑い、彼の心は純粋な喜びに満たされた。少し気分が軽くなり、彼寝台に腰かけた。頭が少々ふらつき、彼は寝台へと仰向けに倒れた。これもまた、とびきり可笑しかった。

 ザンガーリは単調な寝室を見上げて、笑いは少し治まった。もしかしたら階下へ行く前に休むべきかもしれない。寝台は快適で、ここにいて彼は幸せだった。だが目を閉じながら思った、この暖かな夏の夜に何故こんなに寒さを感じるのだろうかと。


(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)



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