祝福されし人生

更新日 Magic Story on 2013年 8月 1日

By Nik Davidson

Nik Davidson makes games, writes stories, solves problems, and plays Magic. He's almost certainly doing one of those things right now.

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 審問官は冷静で確固たる表情のブレノルトを見下ろして言った。「兵士よ。いかにして生き延びたのかを説明しなさい」 彼女の声には重く容赦のない脅しがあった。もし彼の語る話が審問官を納得させられなかったら、ブレノルトは病院の寝台から二度と起き上がることはできないだろう。

 その若き兵士の傷は深刻だった――深い切り傷とえぐられた傷が幾つか、肋骨は二本折れ、手の甲の骨も砕けていた。だがその痛みと明らかな人生の危機にもかかわらず、ブレノルトは平静で、心穏やかでさえあるように見えた。「信じてもらえるとは思えません、審問官様。僕自身、全く信じられないんです」

 審問官はあざ笑った。「私が思うのはこうです。お前の隊は不死者の群れに蹂躙された。お前の仲間は皆、義務を果たして死んだ。だがお前は違う。お前一人だけが戻ってきた、その哀れな生命は無事なままで。お前は助かるために取引をし、そして今やお前の中には暗黒の種があるのだと私は信じています。告白しなさい、そうすれば私はお前に慈悲深き死を与えましょう」

 ブレノルトは弱々しく笑った。「半分は合っています、審問官様。僕は取引をしました、でも悪魔とではありません」



 ブレノルトは腐った扉に全体重をあずけると、それは音を響かせて閉じた。この聖堂が不死者の戦列の背後にあった期間の長さにしては、この見捨てられた寺院は驚くほど破壊されていなかった。壁は少しの間はもってくれるだろう。熟考し、息を整え、嘆くくらいの時間は。トマス、エドリック、スタントンの三人は死んだ。親友だった。四人は少年の頃から離れることのない友達だった。そして今、ブレノルトは初めて一人になった。ひびが入り砕けた彫像の足元にマティアスが倒れていた。あの傷では今夜を越えられないだろう。彼の隊の残りがどうなったのかは想像もつかなかった。これは単純な偵察任務のはずだった、抵抗は些細なものだろうと。こんなはずではなかった。

「水が……飲みたい」 マティアスの声はかすれて軋んでいた。ブレノルトの水袋はほとんど空だったが、彼は快く最後の数滴をマティアスの口へと与えた。マティアスは苦しげに咳込んだ。「多分水の無駄だろうけど、ありがとう。ブレン、逃げてくれ。できる限り逃げてくれ。君の傷はまだ軽い方だ、だから逃げられるかもしれない。僕の家族に伝えてくれ」 マティアスは咳込み、呻き声を上げ、昏睡に陥って倒れた。

 マティアスの目が閉じられ、再び開かれることはなかった。

 外では風が鳴り、屋根板の隙間で音を立てていた。ブレノルトは聖堂の周囲を見て、何か扉を押さえるもの、もしくは隠れて休むことのできる場所がないかと探した。ほとんど何も残されていなかった。聖像や彫像は何もかもばらばらにされ、かつての聖なる場所は怪物達に穢されたことを示すように、石細工には深い彫り跡が刻まれていた。だが祭壇だけはほぼ無傷で残されていた。月光の帯がそれを照らしていた。ブレノルトは足を引きずって祭壇へと向かい、ひざまずいた。彼の祈りに言葉はなかった――それは単純な怖れと希望と、必要の現れだった。

 風が変わった。

 ブレノルトは一人ではなかった。目を開けると、彼は暖かな光に包まれていた。その全ての中心には彼女がいた。その存在と美しさに、彼は心臓が押し潰されるように感じた。ありふれた感覚での美ではなかった――それは間違いなく、人間らしからぬ美しさだった。異なる世界からやって来た生物、その姿は知っているものであっても、思考と精神は異質の存在。彼女の表情は穏やかで、全てを受け入れるようで、目の前にひざまずく若者の姿を楽しんでいるようだった。

「あ……どうも」 その天使の表情は変わらなかった。「助けて欲しいんです。貴女が……見ていてくれたのか、ここで何が起こっていたかを知っているかどうかはわかりません。ですが僕達は戦い、敗れました。僕の部隊は壊滅しました、そして僕も家に帰れるとは思っていません。でも、帰りたいんです。沢山の人が諦めています、だけど僕はそうじゃないんです。僕は戦い続けます。できる事は何でもします、でも……僕一人でそうする力はありません」

 その天使はにっこりとほほ笑み、一度だけ頷いた。胸の奥のどこかに、ブレノルトは力が湧き上がるのを感じた。契約が届いたのだ。



 審問官は目を閉じた。彼女の表情は和らぎ、しばしの間彼の言葉を検討した後、口を開いた。

「兵士よ、お前の言葉を信じましょう。何十年も、天使の来訪を示す記録はないのですが……信じましょう。私は間違っているかもしれません。お前が嘘を言い、私達全員に死をもたらそうとしているのかもしれません。ですが、信じなければならないと思うのです」

 審問官は黙って、若き兵士の手をしばらくの間握っていた。


「ブレノルト将軍、策はもう尽きた。数で勝られてしまったなら、我らの最も明白な勝利さえ失われる。死者のほとんどは縫合されて戻って来るだけだ、我らが失ったあらゆる男女を伴ってな。我々は前線に司祭達を展開した。もし彼らを失い、そして我らも敗北したなら、司祭達はかつての姿をねじ曲げられて立ち上がる」

 ブレノルトは階級を駆けあがっていった――彼は職務に戻って数週間のうちに、部隊長に昇進していた。そしてそれに続く数々のありえない勝利の後、ここ四年の間昇進に昇進を重ねてきた。戦争の進捗がそれほど陰気でなければ、彼の昇進は思いがけないものだったろう。依然として、将校達は定期的な補充を必要としていた。

 彼と共に戦った者は男も女も皆、彼は祝福されているのだと知っていた。彼自身がその事を口にすることはなかったが、噂は飛ぶように宿営地に広がった。ブレノルト将軍は天使達に祝福されている、そしてどれほど戦局が悪化しようと、ブレノルトは勝利をもたらしてくれるのだと。

 しかしながら、それらの勝利は相対的なものだった。死者の群れに次ぐ群れを倒してきたが、彼らの数に終わりは見えなかった。戦争が始まって以来、不死者達の中に指揮者の類がいるという報告はなかった。不死者達を背後から駆り立てる、屍術士や悪魔の存在が仮定されていたが、そのような敵が存在したとしてもそれは姿を見せたことはなかった。全人類の文明の終焉が目前となり、生き残った将軍達と政治的指導者達の議会が召集された。

「ブレノルト殿、天使達はどうなんです? 貴方に何と言っているんですか? なぜ私達を助けてくれないんですか?」 あの頃の彼よりも若い別の将軍が言った。自分が希望を宿した目で見られていることを、ブレノルトも知っていた。

「彼女らは私に語りかけません。なぜそうするのか、そうしないのかは、一切わかりません。私は長老達と、聖職者達と話してきました、そして私が確かに言える全ては、彼女らは我々ととても、とても違う存在だということです。私達は彼女らを美しいと思いますが、彼女らの姿が美しいのだとは私は思いません。もしかしたらそれらは、単に彼女らが私達の前に姿を現す時の姿に過ぎないのかもしれません。私達が理解できる姿に。私達は輝く微笑みを見て、それが何かを意味すると考えます。ですが彼女らは私達とは違う存在なのです、私達と猟犬とが違う存在であるのと同じように。もしかしたら、私達の崇拝は猟犬が尻尾を振ることと大差ないのかもしれません。ですが私は天使の存在下に立ち、彼女の慈愛を感じてきました。彼女らが力ある存在であることは、私が疑問の余地なく確かに知っています。天使達はかつて私の呼びかけに答えてくれました。そして彼女らが何者であろうと、私は今も信じています、彼女らは私達を助けにやって来てくれると。ですが私達は頼ることはできません、期待さえも抱くことはできません」

 軽装鎧の斥候が戦争議会に飛び込んでくると、ひざまずいて伝言を告げた。「将軍方、戦況報告です。第四軍団は敗北しました。死者達は緑平原と大河峡谷の両方を蹂躙しています。緑平原の住人達は避難しましたが、大河は突然攻撃を受けました。多くの者が避難できた可能性は低いと思われます」

 エリーゼ将軍は首を横に振った。「第四軍団は師団に縮小されて、かろうじて補給を保てていた。緑平原からの避難民は東塔でかなりの困窮に瀕していると想像される。私達はまず、いくらかの物資をそちらへと向けるべきだ、彼らを助けられるのであれば。大河峡谷についてはひどく残念だが、そこは戦略的に重要ではない」

 ブレノルトは机の上にうなだれた。彼は両手で頭を抱えた。

「そんな。そこは私の故郷なんだ」


 ブレノルトは尾根の頂上をよろめき歩いて、かつては小麦とライ麦の黄金の平原だったものを眺めた。今や、それは死者達の大群が跋扈し、何もかも略奪されていた。彼はもはや馬に乗ることはできなかった。彼は乗るための馬を持っていなかった――彼の片脚は数ヶ月前の戦いで砕けてしまっていた。軍隊はもう存在しなかった。彼は最近新たに昇進して身につけた鎧と勲章のいくらかを今も認めていた。眼下の軍隊は、かつては偉大な戦団であったものの、わずかに残された全てだった。

 ブレノルトには命令も、彼を支える戦士達もなかった。土地が次々と陥落し、彼は労働者と農夫の一団を安全な場所へと先導してきた。彼が知る限り、彼とこの数十人の人々が、最後に生き残った人間だった。

 彼は眼下の谷に、何十体もの骸骨の下僕にかしずかれた、絹の衣服を纏うやつれた男の姿を見た。この距離からでさえ、ブレノルトはその力を感じることができた。やはり、屍術士は実在したのだ。ブレノルトは疑問に思った、彼が今前線に姿を見せたのは、人類最後の痕跡が砕かれるさまを見物するためなのだろうかと。彼らが地に倒れ、屍術士の勝利を形作る最後の一片、その瞬間を惚れ惚れと眺めるためだろうかと。

 ブレノルトの絶望は怒りへと変わった。彼は天を見上げ、叫んだ。

「何故なのですか! 私は全てを捧げました! 私は愛してきたものを全て忘れ去ってきました、そしてこの八年間、一日たりとも休むことなく戦ってきました! 私は貴女の光と愛を広めてきました、そしてその偽りの希望が、何千人もを死に追いやったのです! 休みなき死へと!! 今、ついに、私は最後に残された人々ともに死ぬでしょう。戦って死ぬでしょう。貴女への約束を誇りに死ぬでしょう。笑われますか? 悲しきちっぽけな定命の者達が、一瞥の希望を握りしめるのを? 私達が踊るのを見守るのですか? 私達が苦しむのを見守るのですか? わかりました、もう気にしません。これは私達にとっての最後の日の出となるでしょう。それが沈むのを見るつもりはありません」

 彼は肩越しに振り返って、尾根まで彼について来た少数の避難民達を見た。皆、祈りに頭を下げていた。

 ブレノルトの怒りが消え去り、その顔には悲しい微笑みが浮かんだ。それが嘲りか尊敬かはたまた絶望から出たものかどうかはともかく、彼も皆とともに頭を下げた。

 彼はその杖を敵へと掲げ、最期の突撃の構えとした。

 風が変わった。


(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)

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