第九地区の戦い

更新日 Magic Story on 2013年 6月 28日

By Adam Lee

Adam Lee had a long freelance career as a writer and artist in the greeting card industry before coming to Magic's creative team. He grew up in the commune-laden wilds of Northern California in the 70s and his Guild Quiz result was Selesnya. "Be groovy, people."

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 ギデオンは顔についた泥と埃を拭い、笑みを浮かべた。

「奴ら、食い付きました」 頭上に建物の破片が降り注ぐ中、アンザが興奮して言った。壊れた煉瓦が彼らの周囲に散らばっていた。空気中には埃が舞い、かろうじて互いの姿が見える程度だった。

「グルールに関して、期待できることは一つだけだ」 ギデオンが言った。巨大な棍棒がもう一振りされ、近くの壁をへこませた。辺り一面に瓦礫が撒き散らされ、更に支梁が三本へし折られた。建物の上階が彼らの周囲へと雪崩のように落下し、椅子、机、そして陶磁器類が音を立てて流れ落ちてきた。外から、戦に猛る巨人の吼え声が聞こえてきた。奴は近づいてきていた。


「ちっ!」 土埃を吐き出してギデオンは言った。「奴が私達を嗅ぎつけるのは時間の問題だ。広場に戻ってダースへと伝えてくれ、すぐに来て配置に着くと。危ない!」 ギデオンはアンザを突き飛ばした。巨人が棍棒をもう一振りして残った壁を破壊し、ギデオンは地面へと無様に転がった。彼は見上げ、アンザがヴィーアシーノよりも素早く動き出し、埃の雲と瓦礫の間を急ぎ飛び越えて裏通りへと向かう姿を確認した。巨人が棍棒を豪快に振り続ける中、ギデオンは急ぎ立ち上がった。建物の破片の塊が街路へと、球技試合のコルク球のように飛んでいった。巨人の背後に、ギデオンはグルールの大部隊の声を聞いた。彼らは大地を打ちならし、戦歌を詠唱していた。

 いいだろう、ギデオンは全力で駆け出しつつ思った。全員連れて行ってやる。


 ダース・ゴストクは第九地区の狭い道に混沌が反響するのを聞いた。あらゆる類の地獄が解き放たれたが、ジュラの姿はまだ見えなかった。

 ギデオンはダースへと、「火拳」の軍勢を広場周囲の建物に隠して集結させていた。多くの者が第九地区の覇権を得ようと試みてきたが、誰も成功しなかった。ギルド無所属の市民達が、閉ざした扉や窓の鎧戸の背後から火拳の者達を見ていた。ギルドが武力に出る時は、ただ扉を閉ざして待つべきだと市民達は学んでいた。

 破壊の騒音が通りから広場へと響き、奴らがいよいよ接近してきたことを告げた。軍団兵らは緊張し、剣へと手を伸ばした。時が来た。


「準備はできています、隊長」 ダース配下の伍長、ジャゼクが先手を打って彼を見た。

「よし。ジュラ殿が奴らを引き連れてくるまで待て」

 丁度その時、アンザが通りへと現れて広場へと走ってきた。ダースは石造りのアーチの下で彼女と合流した。「来ます」 アンザは荒い息をつきながら言った。「ジュラ司令官も、間もなくです」

「あの人は間違いなく、グルールのお仲間どもと一緒に来るだろう」 ダースは言った。「十分に引きつけてくるだろうか?」

「瘡蓋族は大物を二体よこしました、隊長」 アンザはそう言って、水筒の水を飲んだ。「そしてその後ろに、血を流したがっている者達が大勢構えていました。ジュラ司令官はきっと、第九地区のグルール全てをこの場所へと連れて来て下さるでしょう」

「いい作戦だ」 ダースは微笑んだ。彼は剣を抜き、広場へと進み出ると配下の軍勢へと声を上げた。「火拳よ、持ち場につけ! ラクドスの野郎どもが罠にかかる所だ。本物のパーティーを見せてやれ!」


 ギデオンは狂乱したように大きな広場へと駆けこんだ。グルールの大部隊が彼の背後に、嵐のように迫っていた。

「まだだ!」 広場の中央に並ぶボロス軍の前線へと駆けながら、ギデオンは叫んだ。大乱闘を求めるグルールが広場の向こう側からなだれ込んできた。グルールが広場の中央を通過するや否や、ギデオンは叫んだ。「今だ!」

 ダースが命令した。「撃て!」 屋根と上階から、ボロスの魔法の猛火が広場を照らし、炎の奔流はグルールに直撃した。グルールの戦士達が炎に弾け、巨大な獣達が折り重なって倒れた。だが倒れた死体を踏みつけながら、情け容赦のない大群がボロスの前線へと迫った。


「突撃!」 ギデオンとボロス軍はその持ち場から、グルールとの白兵戦に突入した。彼らの後ろには早太刀と反攻者、特殊部隊がオルドルーンと彼らの聖なる誓いを称える鬨の声を上げた。ゴーア族と瘡蓋族からなるグルールの戦士と獣達が殺到し、彼らは激突した。

 ギデオンはボロス軍兵士達の間をくぐり抜け、ダースへと向かった。「ラクドスが現れる様子は?」

「いえ」 ダースは言った。「全くありません」

「ちっ!」 ギデオンは罵った。「グルールを永遠に押し留めてはおけない、だが行かせるわけにもいかない。歯をむいたドローマッドが欲しい所だ、ラクドスを連れて来てくれる」

 突然、広場の反対側から、戦いの騒音を越えて気の狂った咆哮が聞こえた。オリーブ色の肌、輝く鎧を纏ったボロスの騎士が、デーモンと逸脱者達のもつれて混沌とした群れを引き連れて走ってきた。騎士はギデオンを見ると、白い歯が光る笑みをこぼした。

 ギデオンは叫んだ。「タージク! 来るぞ!」

 悪魔的な魔法の雷鳴が砲丸のようにタージクを撃ち、彼を炎と硫黄の雲で包んだ。ギデオンは立ち止まったが、タージクは笑みを浮かべたまま煙の中から傷一つなく出現した。ボロスの戦士達がラクドスを迎撃すべく向かった。タージクはギデオンの前で立ち止まった。

「我が友ジュラ! 約束通り戻って参りましたぞ!」 タージクは埃を払いながら、目を輝かせて笑った。そしてギデオンの表情に気が付いた。「心配は不要ですぞ、ジュラ。大したことのない、ただの煙です」


「心配だったんです、ここに来た時に」 ギデオンはボロス軍の迷路走者へと言った。「貴方のような方が彼らの注意を引くというのが」

「簡単なものです」 タージクが言った。「貴方は知るべきですな、侮辱というものの使い方を」

 ギデオンは火拳の隊長を見た。「ダース、ラクドスの到着だ!」

 ダースは一人の騎士へとトランペットを鳴らすように命令した。ラクドス教徒達がごた混ぜの狂気の渦となって広場になだれ込むと、ボロス軍はグルールから下がり、槍と剣を密集させた壁を形成した。教団員達らは熱狂と享楽とともに、グルールへと直ちに突入した。戦いに怒り狂い熱狂していたボロス軍のミノタウルス達は正気に返り、規律を思い出して戦いから退却した。

「包囲しろ!」 ギデオン、ダース、タージクの三人は大混乱に負けまいと叫んだ。彼らは崩れる兆しを見せている火拳の前線を維持すべく走った。

「なんとしてでも広場に留めるのだ!」


 混沌を食い止めるべく、火拳はあらゆる努力を費やした。血と怒りの狂乱に我を失い、ラクドスとグルールは広場の中央で殺し合いを始めた。ボロスは戦場の外れに兵士を集め、足罠の紐を引くようにその包囲網をゆっくりと閉じていった。

 火拳の主力部隊が乱闘を掌握し、ギデオンとタージクは反攻者と特殊部隊を率いて残りの地域を偵察すべく向かった。

 タージクは数人のオルゾフの執行者や騎士と手を組んでいた。第九地区を拠点とするディミーアの人形使いやラクドスのリングマスターへと根回しをするためだった。テイサ・カルロフはオルゾフの諜報活動のため、数人のお気に入りを利用していた。勿論、オブゼダートとの取引もあった。ボロス軍とオルゾフ組は第九地区を保護する義務を共有していくことになっていた。だがテイサは彼らへと保証していた、彼女こそがこの地区の繁栄を支配する者になるだろうと。オレリアにとっては納得しがたい取引だったが、地区を取り戻すためにはディミーアの潜伏工作員達の支部を根絶し、彼らを第九地区から殲滅することが不可欠だと、天使の戦導者は誰よりも理解していた。

 勿論、ディミーアについては、誰一人として確かなことは言えないのだが。



 皆が去り、ギデオンは戦導者の隣に立っていた。彼女は大きな中央テーブルに広げられた第九地区の模型から小さな建物をつまみ上げ、それをしばしの間見ていた。

「ジュラ、貴方はボロス軍と私に、素晴らしい奉仕をしてくれました」 オレリアはその指で模型をもてあそびながら言った。そしてギデオンを見上げた。「貴方はラヴニカ市民にとって、偉大な存在となりました。本当に心は確かなのですか、我々の軍に加わり、ラヴニカ市民へと仕えることは望まないのですか?」

 ギデオンは微笑んだ。「貴女とボロス軍の力になる、それ以上の喜びはありません、戦導者様。これほど優れた兵士達と共に戦ったことは今までにありませんでした。ですが私はここではない地で必要とされています。行かねばならない、別の戦いがあります」

 オレリアは彼をその目で見た、ただの人間には計り知れない視線で。この天使はラヴニカの外の存在をどれほど知っているのだろうか、それとも何もかも知っているのかもしれないとギデオンは思った。彼は手を差し出した。オレリアは彼の上腕を固く握り締めた。熱と魔力が彼の身体を震わせた。

「感謝致します、ジュラ」 彼女はギデオンの腕を解放した。彼はまだ骨格にエネルギーが走るのを感じていた。

 ギデオンは頭を下げた。「光栄に存じます、戦導者様」

 不意に、オレリアは彼へと笑いかけた。魔力がその顔から放散され、ギデオンは後ろによろめきかけた。即ち美しく圧倒的、そして同じように不意に、彼女は背を向けると歩いて部屋を出ていった。

 去り際に彼女は言った。「ジュラ、サンホームはいつでも貴方を歓迎致します」


(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)


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